創造性検査と数学に対する意識との関連性に関する縦断調査 一関工業高等専門学校 梅 野 善 雄 平成22年3月27日 数学教育学会春季年会 慶応大学矢上キャンパス
目次 [1]はじめに [2]調査の方法 [3]調査の結果 [4]相互の関連性 [5]まとめ
[1]はじめに 高専は15~20歳までの高等教育機関 創造性を持った実践的工業技術者の育成 実験や実習を重視した教育が特徴 即戦力として企業からの評価も高い すでに、47高専がJABEE認定校 創造性と関わるのは、どのような能力か 学年進行による創造性の変化の様子 数学教育での創造性との関わりの様子
[2]調査の方法 S-A創造性検査(東京心理) 第1学年で、A版を調査 第3学年で、C版を調査 性格検査:主要五因子性格検査 S-A創造性検査(東京心理) 第1学年で、A版を調査 第3学年で、C版を調査 性格検査:主要五因子性格検査 数学に対する意識 2003年PISA調査の項目を利用 数学の成績:1・3年の数学成績を偏差値変換 数学に対するイメージ調査 グラフアート 出来栄えを数学担当教員5名で評価
■S-A創造性検査 理科的思考に関する創造性の検査 3領域 応用力:新しい用途の考案 生産力:新しい装置の考案 空想力:ありそうもない事態が起こった時 4つの思考特性 思考の速さ:どの程度速く考えられるか 思考の広さ:いろいろな角度からの考察 思考の独自さ:他の人が考えつかない非凡さ 思考の深さ:どれだけ具体的に記述できるか 創造性偏差値 速さ+2×(広さ+独自さ)+深さ
■主要五因子性格検査 人の性格特性を5つの特性によって記述 質問項目数70項目、検査時間10分 五因子 Neuroticism:情緒不安定性 Extraversion:外向性 Openness to Experience:知性 Agreeableness:協調性 Conscentiousness:勤勉性 偏差値と、40未満・60以上を分離
■数学の学習に対する意識 2003年PISA調査と同じ質問項目を用いて、数学の学習に対する意識調査 ・興味・関心や楽しみ(4項目) ・道具的動機付け(4項目) ・自己概念(5項目) ・不安感(5項目) ・学習における制御方略(5項目) ・学習における精緻化方略(5項目) ・学習における記憶方略(5項目) 同じ質問項目で、毎年調査した。
○質問項目の例 道具的動機づけ ・将来就きたい仕事に役立ちそう だから、数学は頑張る価値がある 自己概念 ・数学は得意科目の一つだと思う 道具的動機づけ ・将来就きたい仕事に役立ちそう だから、数学は頑張る価値がある 自己概念 ・数学は得意科目の一つだと思う 精緻化方略 ・数学の問題を解くときは、他にも 解き方がないか、よく考える 制御方略 ・数学の試験勉強をする時は、一番大事な 部分を押さえるようにしている
■数学に対するイメージ調査 「数学」に対して、どのようなイメージを持っているか。 20組に形容詞対を与えて5件法で調査 与えた形容詞対は 上品・下品、はげしい・おだやか のんびり・せわしない、動的・静的 明るい・暗い、美しい・みにくい etc・・・
■高専における数学教育 1年:基礎数学Ⅰ、基礎数学Ⅱ 6単位 2年:微分積分Ⅰ、線形代数 6単位 1年:基礎数学Ⅰ、基礎数学Ⅱ 6単位 2年:微分積分Ⅰ、線形代数 6単位 3年:微分積分Ⅱ、解析学 5単位 (含:級数展開・微分方程式・2変数) 1年の成績は、2科目の平均 3年の成績は、微積Ⅱの前期の成績 いずれも、学年全体で偏差値変換
■グラフ・アート グラフ電卓 (TI-89) を1年次から貸与 3年では、媒介変数表示を学ぶ 媒介変数表示を利用したグラフ・アートの作成を冬季課題とする 自分の描きたい絵を実現するには、どんな関数の、どの範囲のグラフを利用すべきかを自分で考える必要がある ある程度の数学知識が必要。試行錯誤しながらの理解が得られ、作成後の達成感 グラフへの総合理解を得させるのに有効である
■分析対象 平成19年度の入学生161名 機械、電気情報、制御情報、物質化学 創造性検査 1年の6月上旬、3年の1月下旬 平成19年度の入学生161名 機械、電気情報、制御情報、物質化学 創造性検査 1年の6月上旬、3年の1月下旬 五因子性格検査:1年の6月上旬 数学に対する意識調査・イメージ調査 1年の6月上旬、3年の6月上旬 グラフ・アート 1年の11月中旬、3年の1月下旬 全データが揃う114名を分析対象
[3]調査結果: ■創造性検査
□創造性の各思考特性の変化
■数学に対する意識
□数学学習における学習方略
■グラフ・アートの評価 3年の冬季休業の課題として、媒介変数 を利用したグラフアートを作成させる。 提出された作品を、数学担当教員5名で 「良好」「普通」の2段階で評価した。 3名以上が良好と評価した作品をA、 1~2名が良好と評価した作品をB、 他の提出作品をCと判定した。 A判定21名、B判定25名、そして C判定は49名、未提出19名である。
○A評価の作品例
[4]相互の関連性 (1)成績別にみた創造性偏差値(3年) 創造性偏差値(3年) 23名 68名 23名 3年の成績区分
□成績別にみた各思考特性3年 思考特性の段階点(十段階) 3年の 成績 思考の特性
□相関係数 1年創造性と1年数学:r=-0.042 3年創造性と3年数学:r=-0.039 1年創造性と3年創造性:r=0.625
(2)性格別にみた1年創造性 思考特性の段階点(十段階) 性格 思考の特性
(3)学習に対する意識と成績 3年成績
□学習に対する意識と成績ー2 3年成績
(4)創造性変化と成績変化 低下 維持 上昇 計 減少 7 13 4 24 微増 8 39 19 66 増加 14 6 29 114 成績の変化 低下 維持 上昇 計 減少 7 13 4 24 微増 8 39 19 66 増加 14 6 29 114 創造性の変化 (人数)
(5)創造性と数学への意識1年 1年創造性
□創造性と数学への意識3年 3年創造性
(6)創造性とグラフアート評価 創造性偏差値(3年) 19名 49名 25名 21名 グラフアートの評価(3年)
□各思考特性とグラフアート3年 思考特性の段階点(十段階) グラフアートの評価 思考の特性
□各思考特性とグラフアート1年 思考特性の段階点(十段階) グラフアートの評価 思考の特性
[5]まとめ 創造性と数学への意識について継続調査した 創造性偏差値を比較すると、1年<3年 特に、「思考の深さ」が大きく増加 創造性偏差値と数学の成績は、無相関 数学に対する意識変化をみると 道具的動機付けは減少し 数学に対する自己概念は増加している グラフアートの評価との関連をみると 未提出者の創造性は低く、 好評価の者の創造性は高い 専門科目の実験・実習等の評価との関わりについても、引き続き調査予定である