台湾成年後見/補助制度の実務的課題 台湾台北市地方裁判所家事部裁判官 李莉苓 2016.12.3
概要 精神鑑定 保護者の選定 裁判所による後見 人身管理 精神衛生法と提審法
精神鑑定(一) 精神障害や心の病によって、意思表明や認識、見分 けることに関する能力に影響が与えられている期間 中、「できない」と「著しく不足している」、およ び「著しく不足している」と「不足」について、ど のように区別して判定するのか。裁判官は精神科専 門医の鑑定結果をどう捉えるのか。 精神科専門医の料金は鑑定項目や評価報告の質との 間の差
精神鑑定(二) 後見申し立てのあるケースの場合、裁判官 が常に鑑定人の前で被後見人を尋問する必 要があるのか、あるいは、被後見人の前で 鑑定人に対して尋問する必要があるのか。 尋問は診断証明書に代替されることができるのか。 裁判所の尋問の代わりに、司法事務官や家事調査 官が行うことはできるのか。
精神鑑定(三) 家族(介護者)が被後見人の鑑定を受けてもら いたくない場合 最高裁判所によると、法律はその職権によって必要となる 調査を行うと明文の規定があり、また、裁判所は鑑定人の 前で被後見人に対する尋問を行う義務がある。直接審理を 通して被後見人の精神状況が正常であるかどうかを観察す ることができる。そのため、裁判所は鑑定人の前で被後見 人に対する尋問を行うまで、後見申し立ての結果を拒否す ることはできない。(2010年台抗字第238号) 下級裁判所は家族が協力してくれないという理由で鑑定結 果を却下してはいけないならば、下級裁判所としてどう対 処すべきか。
精神鑑定(四) 被補助人が台湾以外の場所にいて、鑑定を受けるために台湾 に戻りたくない場合 最高裁判所によると、他の利害関係者が鑑定に抵抗するこ とを防ぎ、被補助人の人権および社会公益を考慮するため に、裁判所が鑑定困難を理由にして補助申し立てを却下す ることをしてはいけない。(2016年台簡抗字第23号) 裁判所によって選定された台湾あるいは台湾以外の専門医 師や機関が、台湾以外のところで鑑定を行うことができる。 (2016年台簡抗字第23号)。 裁判所が台湾以外の病院へお知らせし、人為的診断や治療 を実施する医師や他の関係者に対して質問をしなければな らない。(2009年台抗字第79号)。
保護者の選定(一) 実務レベルでは、保護者(財産台帳の作成に立ち会 いした人を含む)の選定は、コストの節約のため、 親族を優先する 保護者を数人か指定する。お互いに監督してもらう のがその狙いである
保護者の選定(二) 親族がいない、あるいは親族が後見人になれない、 後見人になりたくない親族の場合、さらに、専門的 な後見人へ支払う財産が不足する時、裁判所によっ て社会局が後見人として選ばれた時、その財産およ び人身に対して適切に管理することができるかにつ いて懸念する。 非営利組織の後見人という選択肢が欠如している 社会局の人事および経費の限界
保護者の選定(三) 親族が後見人になる場合の課題 親族後見人は、扶養義務の範囲内のため、報酬を 求めることはできないのか。 親族による人身や財産管理は家族であるため、専 門性が低い。 親族後見人の場合、後見人による財産横領のリス クはないとは言えない。
裁判所による後見(一) 裁判所による後見の状況 事後賠償ー成年後見人が義務を違反した場合、 裁判所が介入する 事前予防ー成年後見人が裁判所へ申し立て・報告 する 事後賠償ー成年後見人が義務を違反した場合、 裁判所が介入する
裁判所による後見(二) 事前予防 注意を払う義務 財産管理 財産を受け取ることが禁止 職務執行の配慮 後見人は善良な管理人であることに注意を払い、後見職務を行う べきである。 (1100) 財産管理 被後見人の利益のためではない場合、後見人は被後見人の財産を 使用したり、財産処分の代行や同意をしたりすることはしてはい けない。(1101I) 財産を受け取ることが禁止 後見人は被後見人の財産を受け取ることをしてはいけない。(1102II) 職務執行の配慮 被後見人の意思を尊重し、その心身状態と生活状況を考慮すべき である。 (1112)
裁判所による後見(三) 事後賠償 成年後見人の義務 裁判所の介入 注意を払う義務、財産管理 財産を受け取ることが禁止、職務執行の配慮 財産報告の提出を後見人に命じる 申し立てに応じて後見人を変更する 要求に応じて、損害賠償を命じる
裁判所による後見(四) 実務では、後見人に損害賠償を請求するケースは非常に少 ないが、後見人を変更する申し立てが割と多く、裁判所に よる不動産処分を許可してほしいとの申し立てが一般的で ある。 事前の監督において裁判所が役割を果たしている。事後に は、後見監督人を設置されていないため、利害関係者(将 来の相続人またはその他の親族)による訴訟を起こさない 場合、介入は難しい。 事後監督の損害賠償は、訴訟費用が高く、挙証が難しく、 さらに、損害がすでに発生して、とりわけ人身管理の損害 では、原状復帰は困難である。
人身管理(一) 後見や補助事務について、現行の民法では、財産管 理に偏っている規定であり、人身管理について、後 見の部分では、「養護治療」という言葉でまとめら れている。その他の人身管理に関しては個別法には 散見できる。例えば、精神衛生法、医療法、優生保 健法、安寧緩和医療条例、患者自主権利法等、それ ぞれの規定となっている。
人身管理(二) 侵襲的検査や治療の同意書について、「患者は未成 年者、あるいは自ら署名することのできない人の場 合、その法定代理人、配偶者、親族、あるいは関係 者によって署名しなければならない」(医療法第64 条)。被補助人が単独で同意書に署名することは適 切かどうか。 「被後見人や被補助人は、結紮手術の際、法定代理 人や補助人の同意を受けなければならない」(優生 保健法第10条第3項)。被補助人の意見は補助人の 意見と異なる場合、どうするのか。
人身管理(三) 「保護者による重病患者への緊急処置」(精神衛生法第20条)、保 護者と補助人の意見が一致しない場合はどうなるのか。また、被補 助人との意見が一致しない場合はどうなるのか。 成年して完全に行為能力をもつ末期患者の緩和ケアや延命治療にお いて、意向書を用いて選択することができる(安寧緩和医療条例第 4条)。被補助人が末期患者である場合、単独で意向書を書くのは 適切かどうか。 完全に行為能力をもつ人は、医療決定を事前に立てることができる (病人自主権利法第8条)。被補助人が単独で事前に特定臨床条件 について、延命治療、人工栄養、流動食、または他のヘルスケア、 ホスピスを受け入れるか拒否するかを決定することができるのか。
人身管理(四) 被補助人は完全に行為能力をもつ人であるが、重要 な個人的な行為(侵襲的治療、結紮手術、緩和ケア、 延命治療を含む)において、本人の識別意思を表す 効果は著しく不足している時、単独で決定すること が適切かどうか。 重要な個人的な行為を行う際、補助人の同意が必要 な場合、被補助人と補助人の意見が一致しない時に はどうなるのか。類推して、被補助人が民法第15-2 条第4項の規定に適応し、裁判所へ申し立てること はできるか。
人身管理(五) 被後見人は行為能力をもたない人である場合、後見人が その法定代理人となり、本人の意思表明を代わりに表し たりすることになる。重要な財産行為に限って、後見人 が法律によって裁判所の許可を得て、事前監督を行う仕 組みとなる(民1113準用1101)。重要な個人的な行為に ついて、裁判所が事前に介入する余地はない。 法律において、重要な個人的行為に対して後見人が事前 (裁判所)監督を行う仕組みを補充し、回復困難な損害 を予防させるべきである。故意や過失、因果関係や損害 の挙証においては、個人的行為は財産管理行為と比べ、 さらに困難である。
精神衛生法(一) 緊急措置の期間は5日間を超えないが、10日間以内の抗 告ができる。実際には抗告はめったにない。なぜならば、 退院していないうちに、強制入院の段階に入るため、不 服申し立ての機会はほとんどない。 緊急措置停止の申し立て、あるいは強制入院許可への抗 告 手続きの費用? 締め切りは補正せずに却下? 司法事務官が行うのか。
精神衛生法(二) 実務上、強制入院の停止を許可する判定は珍しい。 強制入院の許可は少なくとも1名の精神科専門医に よる鑑定が必要であり、さらに、医療従事者からな る審査会の許可が必要であるから。 裁判官は精神医学の専門家ではなく、形式上の審査 ができるが、強制入院の必要性の有無について、 「他人や自身に危害や損害を与える重い病気を持つ 人」を予見するような、精神科専門医より優れた判 断をくだすことを裁判官に期待するのは難しい。
精神衛生法(三) 提審法と精神衛生法の審査は重複しているかどうか 裁判所の審査基準には違いはないのか