授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 授業計画は、 A.水素原子 B.エネルギー準位 C.熱平衡 D.線吸収 E.連続吸収 F.光のインテンシティ G.黒体輻射 H.等級 I.色等級図 J.光の伝達式 I K.光の伝達式 II L.星のスペクトル という順で進めます。 最後まで行くと、星のスペクトルがどんな仕組みで決まっているかが判る、 というのが目標です。 AからEまでは光の吸収に関係する物理の話です。Fでは光の強さをきちん と定義します。GからIは光の強さを天文学でどう使うかを示します。JからLは 光がガス中を伝わる様子を式に表わし、その式を解いて星のスペクトルを導き ます。それでは、始めましょう。 A: 原子のエネルギー準位
C: 化学平衡 授業の内容は下のHPに掲載されます。 C: 化学平衡 今回の内容 (C.1) 化学平衡 分子から原子への解離、原子がプラズマとなる電離、原子の中の励起状態 などは全て化学熱平衡の概念で統一的に理解されます。 その際に使われ「質量作用の法則」を説明します。 (C.2) サハの式。 原子の電離状態の決定は天文学では特に重要です。電離度を決める サハの式を質量作用の法則の一例として扱います。 (C.4) 解離平衡 低温の星では様々な分子が形成されます。どんな分子がどのくらいできるか はやはり質量作用の法則で決められます。惑星の大気も星の大気の低温 側への延長として扱うことができます。 (C.4) 補足 それぞれの節に関する補足説明や、他の話題について述べています。 授業の内容は下のHPに掲載されます。 http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html C: 線吸収係数
熱平衡にある物質の組成をこの式が決めています。 (2) サハの式 (1)の応用で、プラズマの電離度を決める式です。星の大気中の原子 今回の授業で、大事なポイントは、 (1) 質量作用の法則 熱平衡にある物質の組成をこの式が決めています。 (2) サハの式 (1)の応用で、プラズマの電離度を決める式です。星の大気中の原子 がどのくらいイオン化しているかが計算できます。 (3) 解離平衡 これも(1)の応用ですが、低温の星の大気で形成される分子の組成を 決める式です。さらに低温では惑星大気の組成もこの式で扱われます。 授業中はこの3点にしぼって講義します。 C: 線吸収係数
C.1.化学平衡 宇宙では物質が色々な形を取っています。 例えば水素は、水素分子、水素原子、水素イオンとして混在しています。 あるいは、もっと細かく見ると、水素原子は基底状態にあったり、第1励起状態にあったりしています。 B: 化学平衡
これら様々な形、状態と言ってもよいですが、の間は反応式でつながれています。 例えば、水素原子が2つ集ると水素分子になり、逆に水素分子が分解して水素原子に戻る反応は、 H+H⇔H2 という式で表されます。ここでは下のように書き直しておきましょう。 2H-H2=0 同じように考えると、水素原子がイオン化して陽子と電子に分かれる反応は、 H-H+-e=0 です。 この授業では反応の意味を広く考え、原子の i‐番 準位と j‐番 準位の間の遷移も反応と考え、 Hi-Hj=0 と表しておきます。 上のような反応を、一般的な書き方で a1A1+a2A2H+a3A3+...=Σ aiAi=0 と表します。aiを化学では化学量数 stoichiometric coefficient と呼びます。 B: 化学平衡
上のような反応がdR回起きると、A1,A2,A3,...粒子の数 N1, N2,N3....の変化は dNi=ai dR です。 反応式の例 H2-2H=0 水素の解離 H-H+-e=0 水素の電離 CO-C-O=0 一酸化炭素の形成 上のような反応がdR回起きると、A1,A2,A3,...粒子の数 N1, N2,N3....の変化は dNi=ai dR です。 熱平衡状態を式で書くと。 体積一定で、エネルギーのやり取りのない箱(孤立系)を考えます。この箱の中で反応が進行すると、ついには反応と逆反応の数が同じになります。このような状態を熱平衡状態と呼びます。 孤立系では熱平衡状態の時に、エントロピーが極大になります。それを式で表わすと、 dS=- (1/T) ΣμjdNj =0 (μj = j 粒子の化学ポテンシャル) ここで、dNi=ai dR を思い出すと、 dS= - (1/T) Σμj dNj =-(dR/T) (Σμj aj )=0 したがって熱平衡の条件は以下の式で表されます。 a1μ1+a2μ2+ a3μ3+ ….= Σμj aj =0 B: 化学平衡
すると、熱平衡状態ではそれらの粒子の化学ポテンシャル μ1、μ2 、μ3 ...の間に、次の関係が成立します。 もう一度繰り返すと、 A1、A2 、A3 の間で下のような反応が起きているとします。ここで、A1、A2 、A3 などは水素原子、電子など反応に関与する粒子を表します。 a1A1+a2A2+ a3A3+ ….= ΣajAj=0 すると、熱平衡状態ではそれらの粒子の化学ポテンシャル μ1、μ2 、μ3 ...の間に、次の関係が成立します。 a1μ1+a2μ2+ a3μ3+ ….= Σajμj=0 例: (1) 水素分子と水素原子が熱平衡にあると、 H2-2H=0 から、 μ(H2)-2μ(H)=0 (2) 水素原子の基底状態(主量子数n=1)と第1励起状態(主量子数n=2) とが熱平衡にあると、 H(n=1)ーH(n=2)=0 から、 μ(Hn=1)ーμ(Hn=2)=0 化学ポテンシャル μ が熱平衡での各粒子の数を決めているのです。 B: 化学平衡
前頁の式を実際に使うためには、化学ポテンシャルがどんな式なのかを 知る必要があります。天文学では大抵の場合理想気体粒子を扱います。 質量作用の法則 前頁の式を実際に使うためには、化学ポテンシャルがどんな式なのかを 知る必要があります。天文学では大抵の場合理想気体粒子を扱います。 理想気体の化学ポテンシャルは、 ここに、n=N/V= 数密度(個/cm3)、 nQ=(2πmkT/h2)3/2 =量子密度(個/cm3)、 Z=Σ exp (-E/kT) = 内部状態分配関数 です。 この式を前頁の熱平衡の式 に代入します。 (jはj-番目の種類の粒子の意味。) この式の両辺をそれぞれ次ページのように整理します。 B: 化学平衡
前頁を見直すと、量子密度 nQ も、内部分配関数 Z も、温度 T のみの関数であることが判ります。そこで、上式右辺をK(T)と書くと、 上の2式の右辺同士を等しいと置いて、 ln を外すと、 前頁を見直すと、量子密度 nQ も、内部分配関数 Z も、温度 T のみの関数であることが判ります。そこで、上式右辺をK(T)と書くと、 これが、熱平衡にある粒子の数密度質量 nj 間の関係で、「質量作用の法則」と呼ばれます。 K(T)は平衡定数と呼ばれます。 この式の左辺は数密度、右辺は温度の関数となっていることに注意して下さい。 B: 化学平衡
nQ=(2πm kT/h2)3/2 =でしたから、 nQ1 と nQ0 は打ち消されます。 水素の(第1励起/基底)比 水素原子の第1励起準位 A1 の数 n1 と基底準位 A0 の数 n0 の比を求めましょう。 A1 と A0 の間の遷移は、A1 - A0 =0 と書かれます。したがって、それに対する質量作用の法則は、 と表わされます。 nQ=(2πm kT/h2)3/2 =でしたから、 nQ1 と nQ0 は打ち消されます。 次に、Z=Σ exp (-E/kT) = 内部状態分配関数 を計算しましょう。 まず、Z0 から。 基底状態 は主量子数 n=1で基底状態を0で表わすのは混乱を招く表記ですが、習慣でそうなっています。 「A.水素原子」で水素原子の基底エネルギー準位を E0=-13.58eV と求めました。 水素のエネルギー準位 自由電子状態 第1励起状態 - 3.39eV g1=8 基底状態 -13.58eV g0=2 B: 化学平衡
水素の基底状態 には1sでスピンが上向きと下向きの二つの状態が属します。 ですから、以下のようになります。 水素の基底状態 には1sでスピンが上向きと下向きの二つの状態が属します。 ですから、以下のようになります。 Z0=Σ exp (-E/kT) = 2 exp (-E0/kT) 次に、Z1=Σ exp (-E1/kT) を計算しましょう。第1励起状態は主量子数n=2ですから、2s と 2p が属します。2s は 1s と同じで2つ、 2p には ml=-1,0,1 でスピンの上向き、下向きの6つの状態が属しますから、 Z1=Σ exp (-E/kT) = 8 exp (-E1 /kT) です。これで、質量作用の法則を計算する用意が整いました。 全部書くと、 B: 化学平衡
exp[(E0 -E1)/kT] =exp[-10.19/(8.617・10-5 T)] =10-( 5040 / T )・10.19 あとは数値を入れるだけです。 ボルツマン定数 k=8.617・10-5 eV/K 第1励起状態エネルギー E1=-3.39 eV 基底状態エネルギー E0=-13.58 eV を代入し、 exp[(E0 -E1)/kT] =exp[-10.19/(8.617・10-5 T)] =10-( 5040 / T )・10.19 最終的に、 となります。 一般に、下の準位の数nLと上の準位の数nUの比はそれぞれに属する状態の数(縮退度と言います)をgL,gUとし、エネルギー差をΔEとすると、 B: 化学平衡
右の図は(51360 /T)とlog(n1/no) をプロットしたものです。 -2 -4 -6 0 1 2 3 4 5 log(n1/no) T=30000 B0型 T=10000 A0型 T=42000 O5型 右の図は(51360 /T)とlog(n1/no) をプロットしたものです。 温度が下がると (n1/no) が急に低下して行くことが判ります。 (51360/T) n1/ n0 =1 になるのは 何度ですか? (2) 太陽の表面温度5800Kで n1/ n0はいくつですか? (3) T→∞で n1/ n0 は? B: 化学平衡
C.2.サハの式 (Saha equation) C.2.サハの式 (Saha equation) 水素原子の電離 H++e-H=0 (I=inization energy) 水素原子が電子と陽子に分かれることを電離と言います。一般には温度が上がると、電子と陽子の割合が増えますがその比率がどうなるかを決めてみましょう。 水素原子を電子と陽子に分けるには I=電離エネルギー =13.6eVが必要です。自由電子と陽子には内部構造がないので、内部エネルギーを0とします。水素原子の内部エネルギーはそれより電離エネルギー分だけ低いー13.6eVとなります。 H(HI) H + (HII) e 水素原子の数密度=nI、陽子の数密度=nII、電子の数密度=ne とします。 同じように、量子密度を nQI、nQII、nQe、分配関数を ZI、ZII、Ze、とします。 水素原子と陽子の質量は殆ど同じなのでどちらも mH、電子は me とします。 電離平衡に対する質量作用の法則を 「形式的に」 書いて下さい。 B: 化学平衡
前と同じように、各項の表式を順に検討して行きましょう。 量子密度 nQI、nQII、nQe を書いて下さい。 前に述べたように、自由電子はスピンがアップとダウンの二つの状態を持ちます。どちらもエネルギーはゼロです。 ここでは陽子のスピンは考えないので、陽子の状態は一つ、そのエネルギーはゼロです。 今回は簡単のため、水素原子の励起状態を無視します。ですから、水素原子の基底状態のみを考えるのです。すると、基底状態 2S1/2 は束縛された電子のスピンのため、状態は二つ、そのエネルギーは -I です。 B: 化学平衡
水素原子、陽子、電子の分配関数 ZI、ZII、Ze、を書いて下さい。 質量作用の法則 を「具体的」に書いて下さい。 次ページの解答と同じになりましたか? B: 化学平衡
(質量作用の法則)を前頁の電離に適用します。 H(中性水素原子)を I 、 H+(水素イオン)を II と表すると、 1・HII+1・e-1・HI=0 aII=1, a(e)=1, aI=‐1 だから、質量作用の法則は、 : サハの電離式 (Saha equation) B: 化学平衡
水素のみから成る星の大気 星を構成する主な元素は水素です。水素は数の比で言うと9割、重量比では7割を占めています。そこで、計算を簡単に行うためガスが全て水素からなる星の大気がどのくらい電離しているかを調べましょう。 大気のガス圧として、log Pg(erg/cm3) = 3.5 と仮定します。 勿論、一つの星で大気の圧力は殆どセロから内部に下るに連れて上昇して行きますから、一定の圧力はかなりラフな仮定です。この値は比較的温度の高い恒星大気での典型的な値と考えて下さい。 ガス圧はP=nkTという単原子理想気体圧力で与えられます。サハの式の両辺にkTを掛けて、数密度表式から圧力表式に書き直します。 B: 化学平衡
第2、第3式からPe,PI,をPIIで表わして、第1式に代入すると、 サハの式には3つの変数 Pe,PI,PIIが含まれていますからあと二つの式が必要です。それらは、総ガス圧 Pg が log Pg(erg/cm3) = 3.5 で与えられること、およびガス成分が全て水素であることから来る Pe = PII という条件です。 結局、解くべき式は、 第2、第3式からPe,PI,をPIIで表わして、第1式に代入すると、 ですから、右辺に数値を代入して、 B: 化学平衡
表の一番上は星のスペクトル型を、次のTはそれらの星の大気の典型的な温度を示しています。太陽はG2型ですから、G0よりやや低温です。 恒星の表面温度Tを与えると、この式はPII に関する二次方程式になるので簡単に解けます。PI =Pg -2PII を使い、次ページの表が計算されます。 スペクトル型 B0 A0 F0 G0 K0 T 30500 9500 7500 6300 5350 PII2 / (Pg – 2PII) 3.0E8 177.5 1.17 0.0137 1.07E-4 PII (erg/cm3) 1600 590 60 6.6 0.58 PI (erg/cm3) 0.0083 1980 3040 3150 3160 nII/nI 1.9×105 0.30 0.020 0.0021 1.8×10-4 nII/(nI+nII) 1 0.23 0.02 0.0021 1.8×10-4 表の一番上は星のスペクトル型を、次のTはそれらの星の大気の典型的な温度を示しています。太陽はG2型ですから、G0よりやや低温です。 水素の中性原子とイオンの和は (nI+nII) です。 ですから最後の行の nII/(nI+nII) が電離度を表わしています。 B: 化学平衡
log T 4.0 4.5 3.5 -1 -2 -3 -4 B0 A0 K0 恒星の表面温度が13,000Kを越えると殆ど完全に電離すること、一方太陽(log T =3.76)では大部分が中性水素原子であることが判ります。 B: 化学平衡
C.3.解離平衡 分子雲や晩期型星大気では分子が形成されその組成が天体の性質を決める重要な要因となります。 A + B ⇔ C という分子形成を考えましょう。 注意すべきは、この反応式は実際には起きていなくても構わないということです。 平衡を考える際には A, B, C の持つエネルギーの高さだけが問題となるからです。 化学平衡での A, B, C の数密度 nA, nB, nC は質量作用の法則で決まります。 数密度 n から圧力 P =nkTの表示に変えると、 B: 化学平衡
G-K-M型星の大気組成 星の大気では、H,C,Oを全て原子にした時の仮想圧力を、 P0H=1000,P0C=0.5, P0O=1 (erg/cm3) とします。 P0HO、P0C、P0O と T に対し、 PH、PC、PO、PH2、……PH2O を決めてみましょう。 考慮する分子種は、H, O, C, H2,O2,C2, OH, CH, CO, H2O, CH4の 11種とします。 すると、温度Tでの平衡を求める問題は、温度のみの関数KH2 、... KCH4 と、 与えられた、P0HO、P0C、P0O に対して PH、PO、PC、PH2 、PO2 、PC2 、POH、PCO、PCH、PH2O、PCH4の11個を求めることです。 T=6000Kでは分子の形成量は非常に少なく、殆ど原子状態と考えられますから PH=P0H、PC=P0C、PO=P0Oです。その状態でのPH2 を計算してみましょう。 (1) H原子とH2分子とが解離平衡にあるときの質量作用の式を書いて下さい。 (2) T=6000Kでの KH2 、はいくつですか? (3) PH2 はいくつですか? B: 化学平衡
解くべき方程式は、未知数の数と同じ11個あり、それらは以下の通りです。 (1) PH2=PH2/KH2 (2) PO2=PO2/KO2 (3) PC2=PC2/KC2 (4) POH=POPH/KOH (5) PCH=PCPH/KCH (6)PCO=PCPO/KCO (7) PH2O=POHPH/KH2O (8) PCH4=PCHPH3/KCH4 (9) P0H=PH+2PH2 +POH+PCH+2PH2+4PcH4 (10) P0O=PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O (11) P0C=PC+2PC2 +PCH+PCO+PCH4 log10Kp(T) を下の表に載せます。Kp(T)はcgs単位表示です T=1000 1500 2000 2500 3000 4000 5000 6000 -11.09 -3.56 0.42 2.82 4.40 6.36 7.70 8.48 ! H-H -13.32 -4.79 -0.13 2.35 4.11 6.27 7.71 8.59 ! O-O -18.54 -8.48 -2.87 -0.04 2.04 4.61 6.31 7.29 ! C-C -11.05 -3.65 0.21 2.61 3.95 5.94 6.44 8.16 ! O-H -6.53 -0.67 2.26 4.31 5.55 7.06 8.14 8.76 ! C-H -42.98 -24.74 -14.33 -9.43 -5.67 -0.89 2.12 3.92 ! C-O -13.61 -5.05 -0.53 2.17 3.95 6.13 7.62 8.46 ! OH-H -31.52 -8.74 4.50 10.58 14.90 20.98 24.70 26.85 ! CH-3H B: 化学平衡
解離エネルギー=11eVと大きいCOのラインに注目して下さい。 log10Kp(T) をグラフで示す。Kp(T)の単位はCH-3H以外はdyn/cm2です。KCH-3Hの単位はdyn3/cm6であるが、cgs系での数値として同じグラフに描いてあります。 解離エネルギー=11eVと大きいCOのラインに注目して下さい。 B: 化学平衡
11変数の非線形連立方程式なので、逐次近似による解法が必要となります。 下に解法の1例を紹介しましょう。 A: (1)-(8)式を使うと、PH、PO、PC から残りの分子分圧PH2、PO2、、、PH4 が決まります。独立変数としては他の組み合わせも可です。 B: (9)-(11)の右辺からH,O,Cに対する仮想圧力PH,PO,PCを計算します。 PH(PH,PO,PC)=(PH+2PH2 +POH+PCH+2PH2+4PcH4 ) PO(PH,PO,PC)=(PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O) PC(PH,PO,PC)=POCー(PC+2PC2 +PCH+PCO+PCH4) C: Y1(PH,PO,PC)=POHーPH(PH, PO, Pc ) Y2(PH,PO,PC)=POOーPO(PH, PO, ) Y3(PH,PO,PC)=POCーPC(PH, PO, PC) が全てゼロになれば終了。 D: 普通はゼロでないので、Y1,Y2,Y30になるようPH,PO,PCを少し動かす。 こうして決めた新しいPH,PO,PCで A: へ戻ります。 B: 化学平衡
PoH=103dyn/cm2、PoO=1dyn/cm2、PoC=2dyn/cm2 赤色巨星の中に炭素星という星があります。炭素星大気では炭素の組成が酸素より多いのが特徴です。炭素星大気の仮想圧力として PoH=103dyn/cm2、PoO=1dyn/cm2、PoC=2dyn/cm2 を考える。 PH、PO、PC、PH2、PO2、PC2、POH、PCH、PCO、PH2O、PCH4 をT=6000,5000,4000,3000、2500,2000、1500、 1000K に対し計算した結果が以下のグラフです。 先に計算した炭素が少ない星の大気と較べて下さい。 (1) どちらの低温大気にも共通して大量に存在する分子は何ですか? (2) 酸素リッチな大気では2番目に多くできる分子は何でしょう? (3) 炭素リッチでは?
B: 化学平衡
C.4.補足 この先は C1.- C3.に付随した例や関係するテーマの解説が集めてあります。前節までの内容をさらに深く理解したい人はここを進んで下さい。 その内容は、 C.1.関係 ボルツマンの式、水素分子の解離 C.2.関係 サハの式の一般化、電子の供給源、 C.3.関係 分子平衡の式の解法 です。 B: 化学平衡
i-準位 j-準位 例1: 励起準位にある原子の数 原子の j‐準位と i‐準位の間の遷移を反応の一つと見なします。 例1: 励起準位にある原子の数 原子の j‐準位と i‐準位の間の遷移を反応の一つと見なします。 i-準位 gi =i-準位の縮退度 E i j-準位 gj =j-準位の縮退度 E j 基底準位 go =基底準位の縮退度 すると、j‐準位と i‐準位の間の遷移は、 Ai-Aj=0 という式で表わされます。 この時、質量作用の法則 は n i nj-1 =nQi nQj-1 Zi Zj-1 と書けます。 nQ=(2πm kT/h2)3/2はi-準位とj-準位で共通なので、nQ i nQ j-1 =1 次にZi と Zj に行きましょう。 基底準位のエネルギー=0 ととり、各励起準位のエネルギーをそこから測って Ei, Ej とします。 i-準位には gi 個の量子力学的状態が属し、 j-準位には gj 個 の量子力学的状態が属しています。 B: 化学平衡
ここで、Σは i-準位にある gi 個の量子力学的状態全てについてとります。 基底準位をエネルギー=0ととると、 Zi=Σ exp(-E/kT) ここで、Σは i-準位にある gi 個の量子力学的状態全てについてとります。 i-準位のエネルギーは全て Ei なので、 Σは単に gi 倍するのと同じです。 Zi=Σexp(-Ei/kT)=gi exp(-Ei/kT) 同様に、 Zj=gj exp(-Ej/kT) こうして、n i 、nj 、nQi 、nQj 、Zi、 Zj が判ったので、質量作用の法則は下のように書き下されます。 特にj=0(基底状態)の時、 B: 化学平衡
例2:ボルツマンの式 (Boltzmann’s formula) ある原子の総数密度を n とし、うち基底状態にno、第1励起状態にn1、第2励起状態にn2,...あるとします。 n=no+n1 +n2 +...です。 前節の例1で示したように なので とおくと、 したがって、 g2 E2 g1 E1 go E=0 B: 化学平衡
nQ : (2πmHkT/h2)3/2 (2π2mHkT/h2)3/2 例3: 水素分子の解離 2H-H2=0 電離の時とは違って、今度は水素原子の内部エネルギーを0とします。すると、水素分子基底状態の内部エネルギーは-Dです。Dは解離エネルギー (Disociation Energy)で、水素ではD=4.47eV。 2 H ー H2 = 0 E : 0 -D(-4.476eV) g : 2 4(S=0 ortho,1 para) Z : 2 4 exp(D/kT) nQ : (2πmHkT/h2)3/2 (2π2mHkT/h2)3/2 B: 化学平衡
サハの式 (Saha equation) の一般化 サハの式 (Saha equation) の一般化 例4は水素原子の電離でした。他の原子ではどうなるのでしょう?。 ni,0= i 回電離イオン基底状態の数密度 ni+1,0= (i+1) 回電離イオン基底状態の数密度 ne= 電子の数密度 Ii,0 = i 回電離イオン基底状態からの電離エネルギー とすると、 A0i+1+e-A0i=0 ni+1,0 ne/ni,0=[nQ(A0i+1 )nQ(e)/nQ(A0i)][Z(A0i+1 )Z(e)/Z(A0i)] 天文ではPe(電子圧)を与えて計算する例が多いので、Pe=n(e)kTを使い、 log[ni+1,0/ni,0 ] =log[gi+1,0/gi,0 ]+log 2 +(5/2) log T -log Pe-Ⅰ(eV)(5040/T)-0.48 (Peの単位は erg/cm3) B: 化学平衡
ni= i 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態) ni+1= (i+1) 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態) ni= i 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態) ni+1= (i+1) 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態) に対しては、上式を少し変えた以下の式が成立します。 Zi=Σ g・exp(-E/kT)(=i回電離イオンの分配関数) は前出のZと同じです。 B: 化学平衡
n(e)が全てHの電離によるとは限りません。 実際、低温環境では電子はアルカリ金属(Na,K)の電離が主な供給源です。 水素原子の電離に関しては、 n(e)が全てHの電離によるとは限りません。 実際、低温環境では電子はアルカリ金属(Na,K)の電離が主な供給源です。 しかし、高温になると水素の電離で作られる電子が圧倒的となります。 すべての電子が水素から供給されている場合、n( H+)=n(e)なので、 exp(‐I/2kT)の因子がボルツマン型のexp(‐I/kT)と異なることに注意しましよう。 B: 化学平衡
電子の供給源 恒星大気の温度が高い時には、大量に存在する水素の電離が自由電子の供給源です。しかし、低温になると水素の電離度が下がり、電子を供給できなくなります。そうすると、存在比は水素より小さいが電離エネルギーが小さくて電離しやすいアルカリ金属が電子供給の役割を担うようになってきます。 ただし、種族IIの星のように低金属量の星では、アルカリ金属も少ないので低温でも依然として水素の役割が大きいのです。 高温大気 水素 (多い) アルカリ金属 (少ない) 水素原子 水素イオン 電子 アルカリ金属イオン 低温大気 これが重要 B: 化学平衡
存在比は小さいが、電離しやすいので、Te < 5000 K (K型より晩期 ) ではKとNa が電子の主な供給源です。 アルカリ金属、Li, Na, K, Sc,..、 電離エネルギーが低い。 存在比は小さいが、電離しやすいので、Te < 5000 K (K型より晩期 ) ではKとNa が電子の主な供給源です。 He Ne Ar H B Li Al Na K B: 化学平衡
そこで、簡単なモデルで大気中の電子がどのくらい存在するかを調べてみましょう。下図の実線は主系列星大気の典型的な(τ≒0.6)ガス圧です。 電子供給源として、水素HとナトリウムNaのみを考え、それぞれが独立に電子を出した時どこで役割が入れ替わるかを計算してみます。元素組成は、NH:NHe:NNa=1:0.1:2×10-6 とします。主系列大気のガス圧Pgも前の例よりは詳しく、下の図のようにリアルな値を用います。 5 主系列星大気のガス圧 Pg の表面温度 Te による変化 log10Pg (erg/cm3) 4 3 3.6 3.8 4.0 4.2 4.4 log10Te(K) B: 化学平衡
PH=PHII+PHI とおくと、 PHe=0.1PH Pe=PHII なので、 Pg=Pe+1.1PH (A) 水素のみが電子供給源の場合 PH=PHII+PHI とおくと、 PHe=0.1PH Pe=PHII なので、 Pg=Pe+1.1PH したがって、 PHI=PH-Pe=(Pg-Pe)/1.1-Pe=(Pg-2.1Pe)/1.1 圧力で書いたサハの式は、Pg=Pe+PHII+PHI+PHe を用いると、 前ページのグラフとPg=Pe+PHII+PHI+PHe から上の式を解くと、 温度 Pg(erg/cm3) A Pe (erg/cm3) 4000 100000 2.450×10-9 0.015 5000 85000 1.144×10-5 0.94 6000 62000 3.478×10-3 14.0 7500 17000 1.170 134.4 10000 1300 462.4 419.6 25000 1900 5.929×107 904.7 B: 化学平衡
PNa=Pg×2×10-6/1.1 PNaII=Pe PNaI=PNa-Pe に注意して、サハの電離平衡の式をNaに対して書くと、 (B) 電子がNaから供給されるとき Naの電離エネルギーは5.14 eV と低い。Na存在比が低いので、PgへのPeの影響は考えなくてよい。したがって、PNa=PNaI+PNaIIとし、 PNa=Pg×2×10-6/1.1 PNaII=Pe PNaI=PNa-Pe に注意して、サハの電離平衡の式をNaに対して書くと、 T Pg(erg/cm3) B PNa (erg/cm3) Pe (erg/cm3) 4000 100000 111.9 0.182 0.182 5000 85000 3858 0.155 0.155 6000 62000 44450 0.113 0.113 7500 17000 567100 0.031 0.031 10000 1300 8.501×106 0.0023 0.0023 25000 1900 3.011×109 0.0034 0.0034 B: 化学平衡
(A)と(B)の仮定で計算したPeを下の図に描きました。 図を見ると、T<4500KではNa、T>4500KではHが電子の供給源となっていることが分かります。 2 1 log10Pe (erg/cm3) 0 -1 H起源の電子圧 -2 Na起源の電子圧 -3 3.6 3.8 4.0 4.2 4.4 log10Te(K) B: 化学平衡
解離平衡の計算法 この解法では、D: の「PH,PO,PCを少し動かす」部分がポイントです。 以下にPH,PO,PCの増分をどう求めるかの方法を説明しましょう。 説明の都合上、X1=PH, X2=PO, X3=PC とおきます。すると、 Y1(X1+ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ΔX1) =Y1(X1,X2,X3)+(∂Y1/∂X1) ・ΔX1 +(∂Y1/∂X2) ・ΔX2 +(∂Y1/∂X3) ・ΔX3 Y2(X1+ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ΔX1) =Y2(X1,X2,X3)+(∂Y2/∂X1) ・ΔX1 +(∂Y2/∂X2) ・ΔX2 +(∂Y2/∂X3) ・ΔX3 Y3(X1+ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ΔX1) =Y3(X1,X2,X3)+(∂Y3/∂X1) ・ΔX1 +(∂Y3/∂X2) ・ΔX2 +(∂Y3/∂X3) ・ΔX3 と1次の展開式が書けます。 Y1(X1+ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ΔX1)=0 Y2(X1+ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ΔX1)=0 Y3(X1+ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ΔX1)=0 はΔX1, ΔX2, ΔX3に対する1次の連立方程式なのですぐに解けます。
次の問題は、 (∂Y1/∂X1)、 (∂Y1/∂X2)、... (∂Y3/∂X3)をどう計算する かです。 (1)-(8)式を使えば、 ∂Yi/∂Xj (I,j=1,2,3) を直接書き下すこともできますし、 適当にとった小さなΔXに対し、 [Y1(X1+ΔX1,X2,X3)ーY1(X1,X2,X3)]/ΔX1≒ (∂Y1/∂X1)等を数値的に 計算しても構いません。 こうして、任意の温度での分子平衡を解く準備ができました。 温度が高い場合は分子の数は少なくPH=PoH、PO=PoO、PC=PoC とみなして 他の分子の圧力を計算して構わないません。 低温度での計算では初期値の取り方が悪いと逐次近似がうまくいかない場合が ありますが、高温度から出発して、その収束値を次の温度での初期値とし、 徐々に温度を下げていく手法が有効です。
こうして、求めた分子圧 logP (dyn/cm2)を下の表に示します。 T H2 O2 C2 OH CH CO H2O CH4 H O C 6000 -2.48 -8.59 -7.89 -5.16 -6.06 -4.22 -10.62 -23.91 3.00 0.00 -0.30 5000 -1.70 -7.71 -6.91 -3.44 -5.44 -2.42 -8.06 -21.14 3.00 -0.00 -0.30 4000 -0.36 -6.73 -6.70 -3.17 -5.10 -0.38 -6.30 -17.08 2.99 -0.23 -1.04 3000 1.53 -4.80 -13.28 -1.33 -8.20 -0.30 -2.31 -14.19 2.96 -0.34 -5.62 2500 2.45 -4.38 -17.38 -0.98 -10.38 -0.30 -0.52 -13.05 2.63 -1.01 -8.71 2000 2.68 -7.32 -18.93 -2.38 -11.61 -0.30 -0.30 -11.45 1.55 -3.72 -10.90 1500 2.69 -11.49 -25.31 -4.92 -16.66 -0.30 -0.30 -9.21 -0.43 -8.14 -16.89 1000 2.69 -19.82 -34.87 -9.71 -24.37 -0.29 -0.30 -5.44 -4.19 -16.57 -26.70 この表には次のような著しい特徴があります。 (1) T=6000,5000Kでは殆ど原子状態にある。 (2) T=4000KではC原子の90%、O原子の45%がCO分子に使われる。 (3) T=3000K以下ではCのほぼ100%、Oの50%がCOに使われる。 Oの残りはH2Oになる。 (4) T=2500K以下ではHはH2分子になる。 B: 化学平衡
では、同様の作業をナトリウムについてやってみましょう。 (1)原子番号は幾つですか? (2)電子配列を書いて下さい。 (3)最外殻の名前は何殻ですか? (4)最外殻にある電子の数とその(l,s) を書いて下さい。 (5)ナトリウム基底状態の (L, S) を書いて下さい。 (6)ナトリウム基底状態の項を書いて下さい。 11 (1s) 2(2s) (2p) 6(3s) M殻 1個 (0, 1/2) (0, 1/2) 2S リチウム ナトリウム A: 原子のエネルギー準位
ナトリウム D線 s型の原子Naの基底状態での電子配列は(1s)2(2s)2(2p) 6 (3s) です。 (1) Na基底状態のL と S はいくつですか? (2) Na基底状態の項(term) を書いて下さい。 (3) Na基底状態のJはいくつですか? (4) Na基底状態の準位(level) を書いて下さい。 (5) Na最外殻の3s電子が励起され、3p電子になった場合、その電子配列、 L、Sを書いて下さい。 (6) Na励起状態(3p)の項を書いて下さい。 (7) Na励起状態(3p)のJはいくつですか? (8) Na励起状態(3p)の準位(level) を書いて下さい。 (9) Naの基底状態と励起状態(3p)のエネルギーダイアグラムを描いて下さい。 (10) 各準位に属する状態(state)の数をダイアグラムに記入して下さい。 L=0, S=1/2 (2) 2S (3) J = 1/2 (4) 2S1/2 (1s)2 (2s) 2 (2p) 6 3p L=1, S=1/2 (6) 2P (7) J=1/2, 3/2 2P1/2, , 2P3/2, (9) 略 (10) g ( 2P1/2 )=2, g(, 2P3/2, ) = 4 A: 原子のエネルギー準位