第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第15章 費用分担問題 2008/07/02(水) ゲーム理論合宿
内容 費用配分ゲーム 費用配分方式 協力ゲームの公準と解の選択 神奈川県の水資源共同開発における費用配分 逐次分担法と規模の決定 費用分担問題とゲーム理論 費用配分方式 協力ゲームの公準と解の選択 神奈川県の水資源共同開発における費用配分 逐次分担法と規模の決定 逐次分担法 需要量の決定のシナリオ
1.費用配分ゲーム 自治体を越える広域事業 ある企業における複数部門における費用 競争的関係にある企業間におけるインフラ 費用の分担 競争的関係にある企業間におけるインフラ 費用の分担 公共財の価格決定の問題 このような問題は一般に費用分担問題と 呼ばれる
1.費用配分ゲーム 例 3つの町での共同水資源事業の費用分担 プレイヤー集合 N={1,2,3} プレイヤーiの分担額xiとし、 例 3つの町での共同水資源事業の費用分担 プレイヤー集合 N={1,2,3} プレイヤーiの分担額xiとし、 x=(x1,x2,x3)を費用分担ベクトルとよぶ 全体としての全費用C({1,2,3})は決まっていて どう分担するかが問題である
1.費用配分ゲーム 費用分担ベクトルは全体合理的 プレイヤーiは単独で開発した場合の費用C({i})を念頭において、 それより少なくなるような分担額を考えるはず さらにプレイヤー1はプレイヤー1と2で提携したとき{1,2}の費用C({1,2})を計算し、 プレイヤー3に対して、提携{1,2}から提携{1,2,3}に拡大したことによる追加費用は プレイヤー3が負担すべきと主張するかもしれない こういう追加費用を分離費用と呼ぶ
1.費用分担ゲーム 結局、3つの町の会議には次のような費用がリストアップされる しかし、実際問題として、全体提携以外の部分提携は行わないので、このような部分提携を考えるのはおかしい!という批判がある。 でも、分担額を交渉する際に、仮にそういう提携をしたらこういう費用になるよ、というのを提示して費用を議論することは可能である。 こういう議論はアメリカでのTVAの費用分担でも同様の考え方がみられた。 よって、費用分担の問題は提携形ゲームとして表し、協力ゲームの枠組みの中で いかに総費用を分担するか、という問題として考えることが出来る。
2.費用配分方式 (1)総費用均等配分 総費用C(N)を均等に分担する方式。個人合理性の公準を満足させないので揉める。 (2)総節約額均等配分法 総節約額v(N)を均等に配分する方式 (3)残余均等配分法(分離費用と非分離費用)
2.費用配分方式 (3)残余均等配分法の続き さっきの3つのまちの数値例だと この例を節約ゲームとして表現すると ここで残余均等配分法によって得られた利益配分y=(30,40,50)は このゲームの仁であり、かつ、τ値である
2.費用配分方式 (4)代替的回避費用法・残余比例配分法 NSCを単独費用と分離費用の差に比例して分担する方式 (5)シャープレイ値による方式 シャープレイ値は均等配分eと残余均等配分解zを端点にもつ線分の中点である(実は) (6)仁と残余均等配分解 例1では残余均等配分解と仁とτ値が一致している。これは中山の定理により、 N-1人未満の提携の値v(S)が比較的小さいときに成立する。詳しくは教科書。
2.費用配分方式 1 2 3 例1において、これまで配分方式をまとめてみると C(i) 残余均等 比例配分 Φ(v) 仁 相対仁 τ値 160 130 128 125 2 180 140 3 200 150 152 155 ゲーム理論の解とTVAの費用分担方式はまったく独立に考えられたものなのに ある条件の下では仁と均等配分方式が一致し、 ある条件の下では相対仁と比例分担方式が一致するのは 感動的ですという話。(まったく理論的に生み出されたものが事実と同様になる点が)
3.協力ゲームの公準と解の選択 【まとめ】配分が満たすべき10の公準の整理【難解】 均等配分 残余均等配分 シャープレイ値 仁 相対仁 τ値 個人合理性 × ○ 全体合理性 ダミプレイヤー排除性 よ 利得の測定法からの独立性 く 対称性と無名性 わ 整合性、縮小ゲーム性 か 総体的単調性 っ 提携の戦略上同等性 て 順序保存性 不明 な 安定性 △ い
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる ●快適な研究室問題(ゲーム天国への道) Wみほ:わたし、DSほしい~! \15,000 Yかわ:じゃあ、Wiiもいるでしょ。 \25,000 Sや:PS3もあるとサイコー! \50,000 Kし:じゃあ、炊飯器もついでに。 \110,000
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる ヨ●バシカメラの店員に 1点のみの買物なら定価 2点同時に買うと10%オフ、 3点同時なら20%オフ、 4点同時であれば、なんと、すべて25%オフ といわれました。 (これは規模の経済性が働くので凸ゲーム的)
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる W Y S K 次のように定式化できるので、時間があれば計算してみる C(i) Φ(v) 仁 相対仁 総費用 均等配分 総節約額均等配分 残余 均等配分 残余 比例配分 Φ(v) 仁 相対仁 τ値 W Y S K
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる (1)総費用均等配分 (2)総節約額均等配分 (3)残余均等配分
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる (4)残余比例配分
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる Φ=(6, 15, 37.5, 91.5) この24通りより、Wのシャープレイ値は6 (5)シャープレイ値 Wについて WYSK=15 WKSY=15 WSYK=15 WSKY=15 WKYS=15 YWSK=11 YWKS=11 YSWK=4.5 YSKW=2 YKWS=-1.5 YKSW=2 SWYK=8.5 SWKY=8.5 SYWK=4.5 SYKW=2 SKWY=-4 SKYW=2 KWYS=2.5 KWSY=2.5 KYWS=-1.5 KYSW=2 KSWY=-4 KSYW=2 この24通りより、Wのシャープレイ値は6 同様にY,S,Kも計算すると Φ=(6, 15, 37.5, 91.5)
4.具体的な例で手を動かして眠気をとる W Y S K 次のように定式化できるので、計算してみたところ、 C(i) Φ(v) 仁 相対仁 総費用 均等配分 総節約額均等配分 残余 均等配分 残余 比例配分 Φ(v) 仁 相対仁 τ値 W 15 37.5 2.5 9.5 6.875 6 Y 25 12.5 17.5 15.625 S 50 K 110 97.5 85.5 90 91.5 調子にのって、 4人ゲームにしたら、 解けなくなりました
5.逐次分担法と規模の決定 これまでは費用分担問題が提携形ゲームとして定式化される場合を考えてきた つまり、全体提携がなされて、部分提携の値をもとに、個人ごとの費用の分担を考えた しかし、全体提携が不適切とか、すべての許容提携の費用関数を求めることが無意味とかのため、状況が協力ゲームと考えることが不適切で非協力ゲームの方が適切な場合も存在している
5.逐次分担法と規模の決定 たとえば、規模の経済性をもつようなもの、ネットワークとか、電話回線、共同利用施設など、そもそも単独で建設するとか、部分提携するといった仮定は意味がない。 規模が大きければ大きいほど効果は大きい しかし、規模が大きければ費用は増加する そこで、それぞれの利用者が独自に需要量を決定した後に、全体としての規模がその和として決定されることが多い。
5.逐次分担法と規模の決定 ●逐次分担法 n人プレイヤーの共同システムを考える プレイヤーの集合をN={1, 2, ….., n}とする サービスに対するプレイヤーiの需要量をdiとし、 プレイヤー番号を需要量diの小さい順につける。すなわち、 供給されるサービスの量をq(非負の実数)とする。 生産量qを生産する費用関数はC(q)である。 生産量は に定まる すべてのプレイヤーは参加者数nと費用関数C(q)について共通認識をもっているとする。
5.逐次分担法と規模の決定 ●逐次分担法 ここで、最も需要量の小さいプレイヤーであるプレイヤー1の分担額は すなわち、プレイヤー1は他のすべてのプレイヤーが自分と同じ量だけ需要すると考えた場合の総費用の均等分割額を分担する。 次にプレイヤー2はまず、プレイヤー1の分担額と同じ額を負担し、 次にプレイヤー3以下が自分と同じ量だけ需要すると考えた場合の総費用の 均等分割額を負担する。 プレイヤー3以下も同様である。
5.逐次分担法と規模の決定 ●逐次分担法 すると、N={1, 2, 3}の場合の分担額は次の図のようにかける。
5.逐次分担法と規模の決定 ●逐次分担法 このようにして決定した逐次分担法は次の6つの公準を満たしている。 (1)全体合理性…全員の分担額の合計は総費用と等しい (2)単調性…自分の需要量が増えれば、自分の分担額が増える (3)クロス単調性…自分がiのときi<jのプレイヤーjの需要量が増加しても影響ない i>jのプレイヤーjの需要量が増加すると、分担額は増加する (4)順序保存性…需要量が多い人の方が分担額は大きい (5)プレイヤーによるインプット(供給)がない場合の非負性…分担額は0以上 (6)最大限度条件…各プレイヤーの分担額は最大でも総費用/n以下
5.逐次分担法と規模の決定 一方、これまでよく用いられてきた分担方式は 「平均費用価格法」と「限界費用価格法」 ●平均費用価格法 ●限界費用価格法・・・・・・限界費用関数をMC(q)とすると 生産量がすべてのプレイヤーの需要量をみたしているときの限界価格を価格と 考えて、その価格で各プレイヤーがまず自分の需要量を支払い、不足分を均等に分割して支払う方式
5.逐次分担法と規模の決定 ○ × 「平均費用価格法」「限界費用価格法」「逐次分担法」と公準の関係を示すと 平均 限界 逐次 単調性 ○ × クロス単調性 順序保存性 非負性 最大限度額条件 逐次分担法はどの公準も満たし、かつ需要量の小さいプレイヤーに比較的寛容 であり、平均費用法や限界費用法に比べて、優れた方式であるといえる
5.逐次分担法と規模の決定 さて、共同システムの費用分担について、逐次分担法によることが決定していて、それを利用するプレイヤーに呼びかけようとしている。 しかし、各プレイヤーがどの程度利用するかはその分担額に依存するから、 分担額が決まらないと需要量が決まらない。各自の需要量が決まらないと システムの規模が決まらず、総費用が決まらない。ということもありうる。 このように、全体提携が形成されて、全体のプレイヤーの合意の下で需要量や 分担額を決めるような提携形ゲームの定式化ではこの問題に十分答えられない。 そこで、需要量を決定するような非協力ゲームとして定義する。
5.逐次分担法と規模の決定 ●需要量決定のシナリオ この場合の利得yはサービスを利用することで得られる便益と分担額の差で表す (1)プレイヤーの数、費用関数、費用分担方式としての逐次分担法をもちいることを全員に知らせる (2)すべてのプレイヤーが自分が最小量の需要量であると仮定して、 費用分担額と需要量を計算する。つまり、 したがって、利得を最大化する各自の需要量 を求められる
5.逐次分担法と規模の決定 (3)需要量 が公開される。それによって最小値が求まる。 たとえば、プレイヤーAが最小値であるとすると、qA=q1*, xA=x1*となる。 そのことは全員に知らされる。 (4)プレイヤー1とされたA以外のプレイヤーは自分が2番目に少ないプレイヤーとして分担額と需要量を計算する。それらの値をまた比較し、最小のプレイヤーを プレイヤー2とする。そのことは全員に知らされる。 (5)プレイヤー1と2が定まるので、残りのプレイヤーが自分の需要量と 分担額を求めることができ、それによってプレイヤー3が決定される。 たとえば利得関数の係数がそれぞれ aA=10, aB=11, aC=12とすると、各プレイヤーの需要量、分担額、利得は次になる。
5.逐次分担法と規模の決定 (6)すべてのプレイヤーの需要量が決定されることによって、共同システムの規模は、総需要量 をみたす規模に決定される。 このように求められた需要量の組、すなわち戦略の組は需要量決定の 非協力ゲームのナッシュ均衡点である。 したがって、どのプレイヤーも自分の需要量を変更する動機を持たない。したがって、各プレイヤーの均衡戦略の和によって、総需要量を確定することができる。 このような逐次分担法は現実の話し合い過程によく似ており、理解しやすい方法 でもあるので、公共財の費用分担をはじめ、広い分野で用いられることになると 思われる。