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常染色体優性多発性嚢胞腎に合併した 原発性アルドステロン症の一例 近畿大学医学部附属病院 腎臓内科 山本 祥代、松岡 稔明、高見 勝弘、大西 佐代子、兵頭 俊武、 中野 志仁、井上 裕紀、清水 和幸、谷山 佳弘、有馬 秀二 よろしくお願いします。常染色体優性多発性嚢胞腎に合併した原発性アルドステロン症の一例です。
【症例】 71歳 女性 【主訴】 食思不振、全身浮腫、全身倦怠感 症例は71歳 女性。主訴は食思不振、全身浮腫、全身倦怠感です。
【現病歴】 1992年頃から高血圧症のため近医に通院していた。2008年7月に右乳癌 のため当院外科を受診した際に、両腎に多発する嚢胞を指摘されている。 2009年8月に腎機能低下のため、近医より当科へ紹介された。家族歴と腎 嚢胞から常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と診断し、ADPKDによる腎 機能低下と考えられ、以後当科外来に通院していた。 2014年6月にはCr 5.64 mg/dlまで上昇し、7月14日にバスキュラーアクセス を作成している。2015年2月より家庭血圧が上昇し始め、全身浮腫、食思不 振なども出現するようになったため、3月16日に血液透析導入目的で入院し た。 現病歴ですが、1992年頃から高血圧症のため近医に通院していました。2008年7月に右乳癌のため当院外科を受診した際に、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)を指摘されており、2009年08月に腎機能低下のため、近医より当科へ紹介されました。ADPKDによる腎機能低下と考えられ、以後当科外来に通院していました。2014年06月にはCr 5.64 mg/dlまで上昇し、7月14日にブラッドアクセスを作成していました。2015年2月より家庭血圧が上昇し始め、全身浮腫、食思不振なども出現するようになったため、3月16日に血液透析導入目的で入院しました。
【入院時現症】 意識清明,身長 142 cm,体重 42.2 kg,体温 36.7℃, 血圧 144/72 mmHg,脈拍 96 回/分・整,SAT 96 % (Room Air), 眼瞼結膜 貧血様,眼球結膜 黄染なし, 心音 純,心雑音なし,呼吸音 清,ラ音聴取せず, 腹部 平坦,軟,圧痛なし,両腎触知する,腹水なし,腸音正常, 表在リンパ節 触知せず,神経学的異常なし, 全身に圧痕を伴う浮腫を中等度認める 入院時現症ですが、血圧144/72mmHg、脈拍数96回/分。圧痕を伴う浮腫を中等度認めました。その他特記すべき異常所見を認めませんでした。
【家族歴】 母:透析歴あり 兄:透析歴あり 【既往歴】 右乳癌術後 薬剤性脳梗塞 甲状腺機能低下症 【家族歴】 母:透析歴あり 兄:透析歴あり 【既往歴】 右乳癌術後 薬剤性脳梗塞 甲状腺機能低下症 家族歴は、母、兄に腎嚢胞と透析歴があります。本症例ではADPKDの遺伝子検査はされておりませんが、後に示すCT画像には多発する腎嚢胞、肝嚢胞を認めていることと、このような家族歴からADPKDと診断されています。既往歴は、右乳癌術後、薬剤性脳梗塞、甲状腺機能低下症です。
【内服薬】 ニフェジピン40㎎/日 ベニジピン8㎎/日 アジルサルタン20㎎/日 フロセミド40㎎/日 シロスタゾール100㎎/日 フェブキソスタット10㎎/日 ランソプラゾール15㎎/日 レボチロキシンナトリウム50㎎/日 沈降炭酸カルシウム1,500㎎/日 内服薬に関しては、入院時はここにお示しする薬物を内服されていました。透析導入1カ月前より家庭血圧の上昇を認めていたため、ニフェジピンが20㎎/日から40㎎/日に増量され、フロセミドを追加投与されていました。
【入院時検査所見 1 】 【血算】 【生化学検査】 WBC 5,700 /μl eGFR 6 ml/分/1.73m2 Lymph 11.3 % CRP 0.073 mg/dl LDH 287 IU/l Mono 7.5 Na 144 mEq/l TC 197 Eosino 2.7 K 3.6 TG 101 Baso 0.1 Cl 105 HDL-C 52 Neutro 78.4 Ca 8.0 LDL-C 125 RBC 361 万/μl Pi 5.4 血清鉄 68 μg/dl Hb 10.7 g/dl BUN 80 TIBC 303 Ht 32.9 Cr 6.11 フェリチン 20 ng/dl MCV 91.0 Glu 102 TSAT 22 % 網赤血球 31 ‰ TP 6.7 Plt 18.0 Alb 4.2 GOT 17 GPT 12 入院時検査所見ですが、ここにお示しするように貧血と、高リン血症とBUN/クレアチニン値の上昇を認め、末期腎不全に矛盾しない検査所見でした。
【入院時検査所見 2】 【随時尿定性】 【随時尿検査】 【内分泌検査】 【静脈血液ガス検査】 【感染症】 【凝固機能検査】 pH 7.5 U Na 85 mEq/l TSH 8.09 μIU/ml 尿比重 1.009 U K 9 FT4 1.3 ng/dl 蛋白 (2+) U Cl 71 BNP 112.9 pg/ml 血尿 (-) U UN 264 mg/dl 糖 (±) U Cr 33 mg/dl 白血球数 5-9 /HPF U TP 142 【静脈血液ガス検査】 赤血球数 <1 U GLU 72 7.366 赤血球形態 不明 NAG 3.9 U/l pCO2 41.2 mmHg 硝子円柱 β2-MG 36,852 µg/l pO2 56.6 【感染症】 HCO3- 23.1 HBs抗原 【凝固機能検査】 ABE -2.1 HCV抗体 PT INR 0.93 RPR APTT 25.3 秒 TPAb 尿検査では4.3g/gCrのたんぱく尿を認めました。静脈血液ガス検査ではHCO3-は正常範囲内でした。また、BNPの上昇を認めています。
【入院経過1】 Nifedipine 40㎎ Benidipine 8㎎ Azilsartan 20㎎ 透析導入 病日 入院経過1です。降圧薬は上のラベルにお示しするように、ベニジピン8㎎、アジルサルタン20㎎、ニフェジピン40㎎を内服しており、収縮期血圧140-160mmHg台で経過していました。当初は透析導入前からの血圧の上昇は、体液量過剰によるものと考えていましたが、血液透析で除水をすすめることで、このように体重が42㎏から37㎏までの減少と、BNPの減少を認めましたが、血圧の低下を認めませんでした。 病日
【内分泌検査】 血漿レニン活性: ≦0.1 ng/ml/時 血漿アルドステロン濃度: 453 pg/ml ARR > 4,530 血漿レニン活性: ≦0.1 ng/ml/時 血漿アルドステロン濃度: 453 pg/ml ARR > 4,530 ACTH:26.1 pg/ml コルチゾール:15.6 µg/dl カテコールアミン分画(血中) アドレナリン:3.2 ng/ml ノルアドレナリン:103.8 ng/ml ドーパミン:309.6 ng/ml メタネフリン分画(蓄尿) メタネフリン:0.04 mg/day ノルメタネフリン:0.15 mg/day VMA(蓄尿):2.5 mg/day そこで二次性高血圧を呈する内分泌検査を施行したところ、ACTH、コルチゾール、甲状腺ホルモンは正常でしたが、血漿レニン活性が0.1ng/ml/H以下と、血漿アルドステロン濃度が453pg/mlと高値であり、ARR4530以上との結果となり、原発性アルドステロン症を疑い、CT検査を施行しました。
【画像所見】 左の画像では両腎に多発する嚢胞を認め、右の画像では肝臓に多発する嚢胞と左副腎の腺腫を認めました。
【原発性アルドステロン症(PA)】 機能確認検査 ・カプトプリル試験 ・フロセミド立位試験 ・生理食塩水負荷試験 ・経口食塩水負荷試験 ・カプトプリル試験 ・フロセミド立位試験 ・生理食塩水負荷試験 ・経口食塩水負荷試験 高血圧治療ガイドライン2014によると、原発性アルドステロン症の診断には、高血圧を呈する患者においてARRが200以上であった場合、ここに示す4種類の機能確認検査のうち1種類が陽性であることが必要です 高血圧治療ガイドライン2014 より引用
PAC/F=21.5 (負荷30分後)(基準値:8.5未満) 【迅速ACTH負荷試験】 0分 30分 60分 90分 ACTH (pg/ml) 26.1 19.1 19.8 14 コルチゾール(F) 15.6 29.3 31.7 アルドステロン濃度(PAC)(ng/dl) 237 562 559 509 今回の症例はアジルサルタンを内服されており、2週間の休薬期間をとれないという理由から、迅速ACTH負荷試験を施行しました。迅速ACTH負荷試験の結果は、血漿アルドステロン濃度がピーク時の負荷30分後の結果で、PAC/Fが21.5と、基準値の8.5を上回り、アルドステロンの自律性の分泌が考えられました。 PAC/F=21.5 (負荷30分後)(基準値:8.5未満)
【入院経過2】 Spironolactone 12.5㎎ Nifedipine 40㎎ Benidipine 8㎎ Azilsartan 20㎎ 透析導入 負荷試験 副腎サンプリングなど侵襲的な検査や治療は、本人の意向により施行せず、入院経過②にあるように負荷試験後よりスピロノラクトンによる薬物療法を開始しました。数日後よりグラフでは変化がわかりにくいですが、収縮期血圧140台で経過するようになりました。 病日
【考察】 Age Sex Delayed diagnosis BP Serum Potassium Creatinine PRA (years) BP (mmHg) Serum Potassium (mEq/L) Creatinine PRA (ng/ml/h) PAC(pg/ml) ARR Kao CC ら 23 F 5 210/100 2.8 0.8 NA 310 1030 24 12 240/130 1.7 0.9 400 519 44 10 205/105 2.0 0.59 560 5600 Bobrie G ら 26 M 3 224/128 2.1 1.13 <0.1 264 >2640 40 4 220/130 3.3 1.06 154 >1540 47 2 172/116 >4 1.40 0.72 315 618 Saeki,S ら 36 166/100 0.81 373 Geiyo F ら 30 180/100 2.7 normal 700 3500 Rajasoorya ら 6 110/90 1.9 1.27 666 2220 Liou HH ら 19 180/120 570 >1900 Hoorn EJ ら 37 20 150/90 530 3530 ADPKDとPAの併発は珍しく、過去の報告では計11症例併発例を認めました。女性2名、男性9名で、PAと診断された年齢は平均40歳です。血圧が160-240mmHgで経過しており、ほとんどの症例で低カリウム血症をきたしています。また、血漿アルドステロン濃度、ARRは高値となっています。 Kao CC et al. J Renin Angiotensin Aldosterone Syst. 2013 Jun;14(2):167-73. より改変 より改変
【考察】 ADPKDの大半で高血圧を呈し、その原因はレニン‐ア ンジオテンシン‐アルドステロン系の活性化と考えられて いる。 ADPKD、PAともに高血圧と低K血症をきたしうる。 ADPKDでは多発する腎嚢胞により、PAのような腫瘤 性病変をきたす二次性高血圧症を見逃してしまう可能 性がある。 ADPKDにおいても、管理困難な高血圧症を認めた場 合には、他の二次性高血圧症を鑑別する必要がある。 ADPKDの大半で高血圧を呈し、その原因はレニン‐アンギオテンシン‐アルドステロン系の活性化と考えられており、ADPKD、PAともに高血圧と低K血症をきたしうる疾患です。ADPKDでは多発する腎嚢胞のせいで、PAのような腫瘤性病変をきたす二次性高血圧症を見逃してしまう可能性があるため、ADPKDにおいても、管理困難な高血圧症を認めた場合には、レニン、アルドステロンを測定する必要があると考えられます。
【結語】 常染色体優性多発性嚢胞腎に合併した原発性ア ルドステロン症の一例を経験した。 結語です。 副腎皮質ステロイドが著効した,微小変化型ネフローゼ症候群の一例を経験した。以上です。