第8課: 電離平衡と解離平衡 平成16年12月6日 講義のファイルは

Slides:



Advertisements
Similar presentations
物理化学 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛. 物理化学: 1 章原子の内部 (メニュー) 1-1. 光の性質と原子のスペクトル 1-2. ボーアの水素原子モデル 1-3. 電子の二重性:波動力学 1-4. 水素原子の構造 1-5. 多電子原子の構造 1-6.
Advertisements

無機化学 I 後期 木曜日 2 限目 10 時半〜 12 時 化学専攻 固体物性化学分科 北川 宏 301 号室.
宇宙ジェット形成シミュレー ションの 可視化 宇宙物理学研究室 木村佳史 03S2015Z. 発表の流れ 1. 本研究の概要・目的・動機 2. モデルの仮定・設定と基礎方程式 3. シンクロトロン放射 1. 放射係数 2. 吸収係数 4. 輻射輸送方程式 5. 結果 6. まとめと今後の発展.
プラズマからのX線放射 X-ray Radiation from Plasmas 高杉 恵一 量子科学フロンティア 2002年10月17日.
1 今後の予定 8 日目 11 月 17 日(金) 1 回目口頭報告課題答あわせ, 第 5 章 9 日目 12 月 1 日(金) 第 5 章の続き,第 6 章 10 日目 12 月 8 日(金) 第 6 章の続き 11 日目 12 月 15 日(金), 16 日(土) 2 回目口頭報告 12 日目 12.
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
1.ボイルの法則・シャルルの法則 2.ボイル・シャルルの法則 3.気体の状態方程式・実在気体
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
第5回 分子雲から星・惑星系へ 平成24年度新潟大学理学部物理学科  集中講義 松原英雄(JAXA宇宙研)
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
星間物理学 講義3資料: 星間ガスの熱的安定性 星間ガスの力学的・熱的な不安定性についてまとめる。星形成や銀河形成を考える上での基礎。
医薬品素材学 I 3 熱力学 3-1 エネルギー 3-2 熱化学 3-3 エントロピー 3-4 ギブズエネルギー 平成28年5月13日.
第5回 黒体放射とその応用 東京大学教養学部前期課程 2013年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
物理化学(メニュー) 0-1. 有効数字 0-2. 物理量と単位 0-3. 原子と原子量 0-4. 元素の周期表 0-5.
第5回 黒体放射とその応用 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
金箔にα線を照射して 通過するα線の軌跡を調べた ラザフォードの実験 ほとんどのα線は通過 小さい確率ながら跳ね返ったり、
山崎祐司(神戸大) 粒子の物質中でのふるまい.
第7課 原子、分子のエネルギー準位 平成16年11月29日 講義のファイルは
第2課 黒体輻射とカラー 2.1. 黒体輻射の式 熱平衡にある振動数νの輻射を考える。 フォトンの個数は常に揺らいでいる
第4回 放射輸送の基礎 東京大学教養学部前期課程 2015年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
第4回 放射輸送の基礎 東京大学教養学部前期課程 2014年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
放射線 物質を電離するエネルギーを 持つ微粒子または電磁波 放射能 放射線を出す能力 放射性物質 放射線を出す物質
H: 化学平衡 2006年11月27日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
Ⅰ 孤立イオンの磁気的性質 1.電子の磁気モーメント 2.イオン(原子)の磁気モーメント 反磁性磁化率、Hund結合、スピン・軌道相互作用
授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 授業計画は、
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
第6課: 平衡 2005年11月28日 授業の内容は下のHPに掲載されます。
すざく衛星による、2005年9月の太陽活動に起因する太陽風と地球大気の荷電交換反応の観測
授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 授業計画は、
Dissociative Recombination of HeH+ at Large Center-of-Mass Energies
黒体輻射とプランクの輻射式 1. プランクの輻射式  2. エネルギー量子 プランクの定数(作用量子)h 3. 光量子 4. 固体の比熱.
前期量子論 1.電子の理解 電子の電荷、比電荷の測定 2.原子模型 長岡モデルとラザフォードの実験 3.ボーアの理論 量子化条件と対応原理
HERMES実験における偏極水素気体標的の制御
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陽イオン 奥野 恒久.
黒体輻射 1. 黒体輻射 2. StefanのT4法則、 Wienの変位測 3. Rayleigh-Jeansの式
第9課: 恒星のスペクトル 2005年12月19日 授業の内容は下のHPに掲載されます。
前回の講義で水素原子からのスペクトルは飛び飛びの「線スペクトル」
電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
J: 連続吸収 2006年12月18日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
B: 黒体輻射 2006年10月16日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
2.4 Continuum transitions Inelastic processes
星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか
福井工業大学 原 道寛 学籍番号____ 氏名________
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
第6回講義 前回の復習 ☆三次元井戸型ポテンシャル c a b 直交座標→極座標 運動エネルギーの演算子.
低温物体が得た熱 高温物体が失った熱 = 得熱量=失熱量 これもエネルギー保存の法則.
Numerical solution of the time-dependent Schrödinger equation (TDSE)
第9課:吸収係数 平成16年1月19日 講義のファイルは
第4課 輻射の方程式 I 平成16年11月1日 講義のファイルは、
今後の予定 (日程変更あり!) 5日目 10月21日(木) 小テスト 4日目までの内容 小テスト答え合わせ 質問への回答・前回の復習
近代化学の始まり ダルトンの原子論 ゲイリュサックの気体反応の法則 アボガドロの分子論 原子の実在証明.
これらの原稿は、原子物理学の講義を受講している
今後の予定 8日目 11月13日 口頭報告答あわせ,講義(5章) 9日目 11月27日 3・4章についての小テスト,講義(5章続き)
今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
K: 恒星スペクトル 2007年1月22日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
第5課 輻射の方程式 II 平成16年11月8日 講義のファイルは
α decay of nucleus and Gamow penetration factor ~原子核のα崩壊とGamowの透過因子~
2・1・2水素のスペクトル線 ボーアの振動数条件の導入 ライマン系列、バルマー系列、パッシェン系列.
原子核物理学 第6講 原子核の殻構造.
COSMOS天域における赤方偏移0.24のHα輝線銀河の性質
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
Presentation transcript:

第8課: 電離平衡と解離平衡 平成16年12月6日 講義のファイルは 第8課: 電離平衡と解離平衡 平成16年12月6日 講義のファイルは http//www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html に置いてあります。質問は nakada@kiso.ioa.s.u-tokyo.ac.jp レポート提出は出題の次の授業が原則ですが、それ以降でも構いません。単位が欲しい人は5つ以上のレポートを提出して下さい。とにかく全部のレポートを頑張って出した人には良い点が与えられます。 M2、B4で単位認定を急ぐ人は申し出て下さい。

8.1.化学平衡 反応 a1A1+a2A2+ a3A3+ ….= ΣajAj=0 (1) 例 H2-2H=0 水素の解離 例   H2-2H=0             水素の解離      HーH+-e=0           水素の電離      CO-C-O=0          一酸化炭素の形成 化学平衡は熱平衡の一種である。 孤立系(エネルギーU、体積V、粒子数Nが一定)ではエントロピー極大が平衡に対応する。 温度T,圧力Pが一定の環境では、     ギブスの自由エネルギー G=U-TS+PV =ΣμjNj が 極値をとる。(μjは j-種粒子の化学ポテンシャル) 上の(1)式の反応では、1回の反応でΔNj=ajの変化が起きるから、dR回では、 dNj=ajdR。そこで、T,P一定下での化学反応(Niが変化)を考えると、      dG=-SdT+VdP+ΣμjdNj= ΣμjdNj= (Σμjaj)dR=0  したがって、 Σμjaj=0 が化学平衡の条件となる。

8.2.質量作用の法則 一般に、化学ポテンシャルμは、 と書ける。 ここに、   一般に、化学ポテンシャルμは、    と書ける。  ここに、   n=N/V= 数密度(個/cm3)、 nQ=(2πmkT/h2)3/2=量子密度(個/cm3)、   Zin=Σexp (-Ein/kT)= 気体原子内部状態の分配関数     である。  前節の平衡条件、     を書き換えると、  (質量作用の法則)   粒子の内部自由エネルギー Fin は、内部分配関数 Zin  と   Fin=-kT ln Zin =-kT ln[Σexp (-Ein/kT)] で結ばれているから、   Πnjaj=Π[nQjνj exp(-aj Finj/kT)]  と書く場合もある。

下図のような、j 準位と i 準位の間の遷移を反応の一つと見なす。 例1 2つの準位  Ai-Aj=0 下図のような、j 準位と i 準位の間の遷移を反応の一つと見なす。  a i =1, Zi=gi exp(-Ei/kT),  aj =-1,  Zj=gj exp(-Ej/kT) この場合、 Zi ,、 Zj の表式に∑記号がないことに注意。 さらに、 nQ=(2πmkT/h2)3/2=共通なので、質量作用の法則を書き下すと、  Πnjaj= ni1nj-1 Π[nQjaj Zinjaj ]= [nQi1 Zini1 ] [nQj-1 Zinj-1 ] = Zini1 Zinj-1 ] 統計重み gi E i gj   特にj=0(基底状態)の時、   ni=no (gi/go)exp(‐Ei / kT)     =励起原子の数密度 (ボルツマン分布) E j go

例2 水素原子の電離 H++e-H=0 (I=inization energy) 内部エネルギーの相対的な値の決め方には注意がいる。    自由電子と陽子の内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、中性水素   原子の内部エネルギーは ‐Ⅰ となる(基底状態のみ考えている)。Ⅰは電離   エネルギーで水素では13.6eVである。   電子のスピン上向き、下向きの2状態を考えるので、(原子核の方は無視)   電子とH原子のZinには2が入ってくる。        H +    + e ー    H  = 0   E : 0 0 -I g : 1          2  2 Zin :  1 2         2 exp(I/kT) nQ : (2πmHkT/h2)3/2  (2πmekT/h2)3/2   (2πmHkT/h2)3/2  

  a(H+)=1, a(e)=1, a(H)=‐1 だから、質量作用の法則は、   n( H+)n(e)/n(H)  =[nQ(H+)nQ(e)/nQ(H)][Zin(H+)Zin(e)/Zin(H)]  =[(2πmHkT/h2)3/2 ・(2πmekT/h2)3/2 / (2πmHkT/h2)3/2][2 / 2 exp(I/kT)] =(2πmekT/h2)3/2 exp(‐I/kT) この関係は、   サハの電離式  (Saha equation)と呼ばれる。

nQ : (2πmHkT/h2)3/2 (2π2mHkT/h2)3/2 例3 水素分子の解離 2H-H2=0 電離の時とは違って、今度は水素原子の内部エネルギーを0とする。すると、水素分子基底状態の内部エネルギーは-Dである。Dは解離エネルギー    (Disociation Energy)で、水素ではD=4.47eVである。       2 H     ー    H  = 0   E : 0 -D(-4.476eV) g :       2  4(S=0 ortho,1 para) Zin :  2          4 exp(D/kT) nQ : (2πmHkT/h2)3/2      (2π2mHkT/h2)3/2   a(H)=2、  a(H2)=-1 であるから、質量作用の法則は、   n(H)2/n(H2)= [(2πmHkT/h2)3 /(2π2mHkT/h2)3/2][ 22 / 4exp(D/kT)] = (πmHkT/h2)3/2 exp(‐D/kT)

8.3.ボルツマンの式 (Boltzmann’s formula) ある原子の総数密度を n とし、うち基底状態にno、第1励起状態にn1、第2励起状態にn2,...あるとする。 n=no+n1 +n2 +...である。 前節の例1で示したように なので とすると、 したがって、 g2 E2 g1 E1 go E=0

 例1 水素の(第1励起/基底)比 n1 g1=8 E1=10.15eV n0 g0=2 log(n1/no) 0 T=10000 A0型 T<10000K(A0より晩期型星)では、(n1/no)<-5で大変小さいことが分かる。 T=85000Kで n1=no となり、 T∞では n1/no=4 に接近する。 -2 T=42000 O5型 T=30000 B0型 -4 -6 0 1 2 3 4 5 (51156/T)

例2 バルマー線 (Balmer lines) 強度    バルマー線は水素原子主量子数 n=2 i への吸収線である。 したがって、星のバルマー線強度はn1が大きくなるほど強くなる。混乱しやすい慣用法なので注意しておくが、n1の1は第1励起状態の1で、主量子数はn=2である。基底状態の数密度は no 主量子数n=1である。 例1の結果は、最大の数密度を占める基底状態noに対して、第1励起状態の数n1が高温の星ほど高くなることを示している。例えば、B0型のn1/noはA0型の1000倍も高い。 Hα線 Hβ線 n0 n1 n2 n3 では、バルマー線は高温度星ほど強いであろうか? 次ページに示すスペクトルの例から、B0型のバルマー線強度が本当にA0型の1000倍になるか調べてみよう。

Hβ Hα Hβ Hα

8.4.サハの式 (Saha equation) 8.4.サハの式  (Saha equation) 原子の電離度はサハの式によって決まる。  ni,0= i 回電離イオン基底状態の数密度  ni+1,0= (i+1) 回電離イオン基底状態の数密度  ne= 電子の数密度    Ii,0  = i 回電離イオン基底状態からの電離エネルギー とすると、  ni= i 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態)  ni+1= (i+1) 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態)  に対しては、上式を少し変えた以下の式が成立する。 Zi=Σgi・exp(-E/kT)(=i回電離イオンの分配関数) は前出のZinと同じ

水素原子の電離に関しては、 n( H+)n(e)/n(H) =(2πmekT/h2)3/2 exp(‐I/kT)    n(e)が全てHから供給されている必要はない。    実際、低温環境では電子はアルカリ金属(Na,K)の電離が主な    供給源である。    しかし、高温になると水素の電離で作られる電子が圧倒的となる。 すべての電子が水素から供給されている場合、n( H+)=n(e)なので、    n(e)=n(H)1/2(2πmekT/h2)3/4 exp(‐I/2kT)    exp(‐I/2kT)の因子がボルツマン型のexp(‐I/kT)と異なることに注意。

例3 水素のみから成る星の大気 早期型星大気でのガス圧として、 log Pg(erg/cm3)=3.5 と仮定する。  Saha eq. をガス圧 P=nkT で表して、 PII Pe / PI = [(2πme)3/2 (kT)5/2 / h3] [2 ZII(T) / ZI(T)] exp (-E / kT ) (励起状態を無視) Pe=PII、Pg=PI+PII+Pe を代入すると、  log10(PII2 / PI) = -13.6(5040/T) + 2.5 logT-0.48 + log [2 ×1 /2]

B0       B0 A0 F0 G0 K0 T  30500 9500 7500 6300 5350 PII2 / (Pg – 2×PII) 3.0E8  177.5 1.17  0.0137  1.07E-4 PII (erg/cm3) 1600 590 60 6.6 0.58 PI 0.0083 1980 3040 3150 3160 NII/NI 1.9×105 0.30 0.020 0.0021 1.8×10-4 NII/(NI+NII)   1 0.23 0.02 0.0021 1.8×10-4 B0 -1 A0 A0 -2 K0 -3 -4 4.5 4.0 3.5 log T

一般の原子の電離 A++e-A=0  (I=inization energy) 質量作用の法則まで戻ると、 a1=1   a2=1   a3=-1 n(A+)n(e)/n(A)=[nQ(A+)nQ(e)/nQ(A)][Z(A+)Z(e)/Z(A)]   イオンと原子の質量はほぼ等しいので、nQ(A+)=nQ(A)  電子のスピン上向き、下向きの2状態を考えるので、Z(e)=2。   自由電子とイオンの内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、中性原子   の内部エネルギーは ‐Ⅰ となる(基底状態のみ考えている)。Ⅰは電離   エネルギー。 Z(A+)=u(A+)、Z(A)=u(A)exp(I/kT)      u(A+)=g0+g1 exp(-E1/kT)+g2 exp(-E2/kT)+…. 

結局、 n( A+)n(e)/n(A) =[u(A+)2/u(A)](2πmekT/h2)3/2 exp(‐I/kT)  天文ではPe(電子圧)を与えて計算する例が多い。 Pe=n(e)kTを使い、数値を入れて log[n( A+)/n(A) ] =log[ u(A+)/u(A) ]+log 2 +(5/2) log T -log Pe-Ⅰ(eV)(5040/T)-0.48                                (Peの単位は erg/cm3)

Negative Hydrogen H‐(水素負イオン)   H+e - H-=0  Wildt 1939. ApJ, 89, 295.”Electron affinity in Astrophysics”   水素負イオンはⅠ=0.754eVという非常に浅い準位を持つ。したがって、   高温の星の大気には存在しない。G型より晩期の星では非常に重要な   光の吸収源である。   水素負イオンの束縛状態は、二つの電子がスピン上向き、下向きの両方を   占めるので、総スピン=0であり、統計重みg=1である。   自由電子と中性水素の内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、Negative   Hydrogen H- (陰性水素とは言わない)イオンの内部エネルギーは ‐Ⅰ となる   (基底状態のみ考えている)。

問題8-A 出題平成16年12月6日 8.3例1と8.4例3を合わせて、バルマー線強度変化を考えてみることにしよう。  水素のみからなる大気を仮定する。       NI0=基底状態(n=1)水素原子の数密度       NI1=第1励起状態(n=2)水素原子の数密度         NI = NI0 + NI1 + NI2 + ...= 水素原子の数密度   NII= 水素イオンの数密度     Ne=電子の数密度      NH= NI + NII = 水素(原子+イオン)の数密度   Pg=PI+PII+Pe= NI kT+ NII kT+ Ne kT=総ガス圧(erg/cm3)   バルマー線は n=2 から n= 3, 4,… へのジャンプで生じる吸収線である。し  たがって、( NI1/ NH ) が バルマー線強度の指標として適当である。 (1)主系列星大気の総ガス圧を、log10Pg(erg/cm3)=3.5 と仮定し、星の有効温度を log10T(K) =3.5、3.6、...、4.5と変化させる。この時に、log10(NI1/NI )、  log10(NI/NH)、 log10( NI1/NH) がどう変わるか表とグラフに示せ。 (2) 8.3例2に見るように、バルマー線の強度がA型星で最強となる理由を     定性的に説明せよ。

問題8-B ビッグバン宇宙の初期には水素は完全電離の状態にあった。その時期、輻射と物質とは自由電子の散乱を介して強い結合状態にあった。しかし、その後温度が低下するにつれて、自由電子と陽子が水素原子になる反応が優勢となり、電離ガスの中性化が急速に進行した。これを水素の再結合と呼ぶ。 問題8-Aと同様に、      NI = NI0 + NI1 + NI2 + ...= 水素原子の数密度   NII= 水素イオンの数密度     Ne=電子の数密度      NH= NI + NII = 水素(原子+イオン)の数密度  とする。 NHと温度Tは、現在の宇宙背景輻射の温度To, 水素原子数密度Noを、      To=2.7K,     No=5×10-7cm-3 として、T=To/a、 NH = No /a3 と表される。 宇宙の物質が水素のみで電子は全て水素原子の電離から供給されると仮定する。サハの式を解いて電離度X= NII /( NI + NII )がX=0.99、0.9、0.5、0.1、 0.001となる赤方偏移Zを求めよ。a=1/(1+Z)である。