惑星状星雲(PN)の形状と膨張速度について

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 銀河系力学構造の 構築について 上田晴彦 ( 秋田大学 ) 郷田直輝, 矢野太平 ( 国立天文台 ) 竹原理論物理学研究会 2011年6月7日 ホテル大広苑.
Advertisements

初期に複数のピークを示す古典新星 のスペクトルの変化 1 田中淳平、野上大作 ( 京都大学 ) 藤井貢 ( 藤井美星観測所 ) 、綾仁一哉 ( 美星天文台 ) 大島修 ( 水島工業高校 ) 、川端哲也 ( 名古屋大学 )
SSA22 領域の過大な Lyα 輝線の EW を示す LAEs 大塚 拓也 1 山田 亨 1 、松田 有一 2 、林野 友紀 1 1 東北大学、 2 国立天文台.
COBE/DIRBE による近赤外線 宇宙背景放射の再測定 東京大学, JAXA/ISAS D1 佐野 圭 コービー ダービー.
「あすか」による 超大光度赤外線銀河(ULIRG)のX線観測 II
2.2.1 Transport along a ray The radiation transport equation
岡山 ISLE による NGC 1068 の近赤外線分光観測
W31A領域に付随する 水蒸気メーザーによる3次元的速度構造
(Fri) Astrophysics Laboratory MATSUO Kei
X線による超新星残骸の観測の現状 平賀純子(ISAS) SN1006 CasA Tycho RXJ1713 子Vela Vela SNR.
衝撃波によって星形成が誘発される場合に 原始星の進化が受ける影響
Collision tomography: physical properties of possible progenitors for
iPP分子の分子内ポテンシャルエネルギーの最も低い分子構造(コンフォメーション)
上田晴彦(秋田大学), 郷田直輝, 矢野太平(国立天文台), 小山博子 (名古屋大学),
Non-Spherical Mass Models for Dwarf Satellites
X線天文衛星用CCDカメラの 放射線バックグランドの評価
○山口 弘悦、小山 勝二、中嶋 大(京大)、 馬場 彩、平賀 純子(理研)、 他 すざくSWGチーム
電離領域の遠赤外輻射 (物理的取り扱い)      Hiroyuki Hirashita    (Nagoya University, Japan)
トランジット法による低温度星まわりの地球型惑星探索と大気調査
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
宇宙物理II(9) Planetary Formation
銀河物理学特論 I: 講義1-1:近傍宇宙の銀河の 統計的性質 Kauffmann et al
速度勾配依存 変動エディントン因子 Velocity-Gradient-Dependent Relativistic Variable Eddington Factor Plane-Parallel Case 福江 純@大阪教育大学.
すざく衛星による、2005年9月の太陽活動に起因する太陽風と地球大気の荷電交換反応の観測
銀河物理学特論 I: 講義1-2:銀河の輝線診断 Tremonti et al. 2004, ApJ, 613, 898
東京大学理学系研究科 天文センター M2 江草 芙実
WISHでの高赤方偏移z >6 QSO 探査
平成26年度(後期) 総合研究大学院大学 宇宙科学専攻
Photometric properties of Lyα emitters at z = 4
アストロメトリデータによる力学構造の構築方法
銀河物理学特論 I: 講義3-4:銀河の化学進化 Erb et al. 2006, ApJ, 644, 813
SFN 282 No 担当 内山.
Wan Kyu Park et al. cond-mat/ (2005)
Optical spectroscopy of flares from the black hole X-ray transient A in quiescence T. Shahbaz, et al., 2004, MNRAS, 354, /10/13(Wed) Wednesday.
村岡和幸 (大阪府立大学) & ASTE 近傍銀河 プロジェクトチーム
坂本強(日本スペースガード協会)松永典之(東大)、 長谷川隆(ぐんま天文台)、 三戸洋之(東大木曽観測所)、 中田好一(東大木曽観測所)
UMiわい小銀河の赤色巨星 すばるHDSによる観測 (2001-2004) 定金晃三(大阪教育大)
X-ray Study of Gravitational Lensing Clusters of Galaxies
銀河・銀河系天文学 星間物理学 鹿児島大学宇宙コース 祖父江義明 .
C2 天体撮像 担当:冨田 良雄 4号館5階516号室 内線:3899、
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
大離心率トランジット惑星HD17156bの ロシター効果の観測結果
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
星形成時間の観測的測定 東大天文センター M2 江草芙実 第4回 銀河shop 2004/10/19.
星間物理学 講義1: 銀河系の星間空間の世界 太陽系近傍から銀河系全体への概観 星間空間の構成要素
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
論文紹介 Type IIn supernovae at redshift Z ≒ 2 from archival data (Cooke et al. 2009) 九州大学  坂根 悠介.
CTA報告19: CTA時代におけるSNR研究
金属欠乏星の亜鉛組成 ~亜鉛組成の中間報告~
星間物理学 講義4資料: 星間ダストによる散乱・吸収と放射 2 銀河スケールのダスト、ダストの温度、PAH ほか
M33高密度分子ガス観測にむけて Dense Cloud Formation & Global Star Formation in M33
銀河物理学特論 I: 講義3-5:銀河の力学構造の進化 Vogt et al
セイファート銀河中心核におけるAGNとスターバーストの結び付き
下降流(Downflow)の観測と磁気リコネクション
浮上磁場はこれからだ 茨城大学 野澤恵 2006/6/15 13:30-14:00 東大地球惑星
星間物理学 講義1の図など資料: 空間スケールを把握する。 太陽系近傍から 銀河系全体への概観、 観測事実に基づいて太陽系の周りの様子、銀河系全体の様子を概観する。それぞれの観測事実についての理解はこれ以降の講義で深める。 2010/10/05.
「すざく」でみた天の川銀河系の中心 多数の輝線を過去最高のエネルギー精度 、統計、S/Nで検出、発見した。 Energy 6 7 8
星間物理学 講義6資料: 衝撃波1 超新星残骸などに見られる衝撃波の物理過程について
星間物理学 講義 3: 輝線放射過程 I 水素の光電離と再結合
MOIRCSサイエンスゼミ 銀河団銀河のMorphology-Density Relation
惑星と太陽風 の相互作用 惑星物理学研究室 4年 深田 佳成 The Interaction of The Solar
スターバースト銀河NGC253の 電波スーパーバブルとX線放射の関係
MOAデータベースを使った セファイド変光星の周期光度関係と 距離測定
すばる /HDSによる系外惑星 HD209458bの精密分光観測
地上分光観測による金星下層大気におけるH2Oの半球分布の導出
銀河中心鉄輝線(6.4/6.7 keV Line)の起源
CHANDRA衛星の観測結果による、 球状星団M4(NGC6121)のスペクトル解析
ブラックボックスとしてモデルをみると、本質を見逃す。
COSMOS天域における 高赤方偏移低光度クェーサー探査
Z=0.24 の Hα輝線天体でみるSFR(UV), SFR(Hα), SFR(MIR) 相互の関係
Presentation transcript:

惑星状星雲(PN)の形状と膨張速度について 大塚 雅昭 (国立天文台岡山)

概要 惑星状星雲(PN)の形状分類は主に撮像観測により天球に投影された2次元の 像によってなされている。しかし、撮像観測では奥行きの広がりを区別でき ないため、形状を見誤る可能性がある。PNに関する課題は形状にかかわるも のが大部分を占める故、形状を正しく認識することは重要である。  形状分類の問題を解決するには、従来の撮像による分類ではなく、膨張速度場 を利用した形状の分類が最適である。なぜなら、膨張速度場によって撮像では 得られなかった奥行きの情報を補うことができるからである。  これまでに、形状と膨張速度場についての関係や、膨張速度場と運動学的年齢 との関係についての研究が数多くなされてきたが、どれもが視線方向に平行な膨張 速度のみしか扱っておらず、膨張速度場の非球対称性の有無に関しては全く考慮し ていない。そこでわれわれは、既存のGeometrical Modelを観測結果に適応し、 得られた2方向の膨張速度と運動学的年齢をもとに、 膨張速度場の非球対称性の有無、 2方向の膨張速度場と運動学的年齢との関係、 3) 膨張速度場の経年変化 に関して調査したいと考えている。さらに、円盤型などの球対称な形状をなすPN においては、その膨張速度も球対称(等方)なのか、それとも非球対称(非等方) ということもあるのかを確認することにより、PNにおける膨張速度場と形状の 関係について理解を深めたい。

Introduction PNの一般的特徴 ・中心に高温の白色矮星 が存在 (T* = 10^6 K程度) ・白色矮星を取り囲むように 星雲殻 (Nebular Shell) が存在 ・電離ポテンシャルの異なる様々 な元素の輝線(Emission Line) ・様々な形状 - Round、Elliptical、Bipolar、 Point-Symmetric、Irregular NGC 7027 Nebular Shell 中心星(白色矮星)

Round ⇒ Elliptical ⇒ Bipolar Point-Symmetric ⇒ Multiple Shell of PN Bipolar Point-Symmetric Manchado et al. 2003 Irregular Gonry et al. 1997 23% 53% 13% 3% 3% Round ⇒ Elliptical ⇒ Bipolar Point-Symmetric ⇒ Irregular 5%

PS I B R B B PS E NGC 7027 IC 2149 NGC 7009 IC 418 Hb 12 M 2-9 BD+30°3639 NGC 6543

PN の形状分類 Imaging による(主流) 観測者 2 Round ? 観測者2はRoundとして 取り違えている。 Bipolar ⇒ 形状を取り違える可能性がある Round ? 観測者 2 観測者2はRoundとして 取り違えている。 Bipolar 観測者 1

形状を取り違えてしまった原因 ・Imagingが奥行きを見通せていないことが原因 ・PNの研究課題のほとんどが形状に関わっている、  という現状をふまえると、このような取り違いは  見過ごせない問題  (少なくとも形状分類が Imageによってのみなされているのは問題) ・この問題を解決するための有力な手法  ⇒ 奥行きの情報を膨張速度場で補う  ⇒ 3-DとしてのPNをより正確に理解できる

PN の分類(補足) - Physical Parameterによる分類 ・銀河面からの位置、速度 ・元素組成比(下図 ) によって Type I (低位置・低速度、metal rich、数多い)~ IV(高位置・高速度、metal poor、数少ない )の4 Typeに分類 Peimbert (1978)

研究の目的 3-DとしてのPNを膨張速度場を利用した上で、次のことが知りたい ・膨張速度場と形状の関係  そうでないのか? - 球対称な形状をしているPNにおいては膨張速度場も球対称なのか、 ・膨張速度場の時間変化 - 膨張速度場はPNの進化とともにどのように変わっていくのか? 観測で得られた Position-Velocity Map (PV-Map)に Geometrical Model を 適用することで得られる2方向の膨張速度成分を用いて調査

Previous Work 形状とExpansion Velocityの関係 (Phillips 2002) ・視線方向に平行な膨張速度成分のみで議論 ・膨張速度場の非等方性については考慮していない 形状とExpansion Velocityの関係 (Phillips 2002) [OIII]4959+5007

Age とExpansion Velocityの関係 (Acker 1992) T* ∝ Age Diameter ∝ Age

Observation 岡山 HIDESを利用 ・Long-Slit Mode + Image Rotator での観測 - Slit length : ~78” - Slit width : 0.76” (R = 61,000) - Narrow Band Filters ([OIII], H-alpha, [NII]) - S/N = 10 ~ 50  - Sample : HIDESで取得可能な明るいPN ・Reduction - IRAF noao.twodspec - my developed task

Sample Spectra – NGC 7009 [N II]6583 at P.A.79°(Major Axis) ansae Spatial Distribution (arcsec) ansae continuum Heliocentric Velocity (km/s)

・観測により得られたPV-Mapは形状によらず再現できる Geometrical Model (Solf & Ulrich 1985) をPosition-Velocity Map (PV-Map) に適用し、2成分の膨張速度を抽出 Model Assumption ・(PNの) 形状は軸対称 ・膨張速度は定常 ・観測により得られたPV-Mapは形状によらず再現できる Model Fitting ・inclination angle θ ・expansion velocity Vp(polar)、Ve(equatorial) ・Kinematical Age t We can deduce ・膨張速度場と形状の関係 ・膨張速度場の時間変化 を Vp、Ve、t をもちいて調査

Simple Geometrical Model Vp Ve Vexp(φ) [km /s] : PV-Map上での横軸の座標に相当。 Y [arcsec] : PV-Map上での縦軸の座標に相当。 α : Shape Parameter t  : Kinematical Age [yr] D  : Distance [pc] IRASの4band fluxはNebular envelope 内にあるdust particleによる thermal emissionによるものと仮定し、distance dependentなscaling factorと dustの温度の関数をフリーパラメータとしたblack body fittingによるもの。 α は3.5で固定 t はPrevious workに依る D はTajitsu & Tamura (1998)によるもので統一 Vp、Veを求める際の制限 Solf & Ulrich 1985

Model Fitting の例 [N II]6583 at P.A.25° Green Line : Inner Shell Blue Line : Outer Shell - Inner Shell Vp = 37+/-1 , Ve = 20+/-1, t = 1000 +/-260 - Outer Shell Vp = 53+/-1 , Ve = 31+/-1, t= 1300 +/-100 P.A.25°

NGC7662 Guerrero et al. (2004)

Result 視線に平行な膨張速度と恒星風の関係

中心星の温度と膨張速度の関係

年齢とVp/Veの比の関係 negative correlation

年齢とVp/Veとの関係 negative correlationがみられる ・youngなほど、Vp > Ve - young:materialがequatorial plane面に集中し、       その結果、polar方向にexpandしていく ⇒ Asymmetryな形状になりやすい      Proto PNe (PPNe)がAsymmetryな形状をしている ことが多いという観測事実と合う Meixner et al. (1998) 30% of 65PPNe in the mid infrared imaging (λ= 8 – 20 micron) 70% of 26PPNe in the optical imaging  - old : equatorial planeに集中していたmaterialも拡散し、Vp≒Veに

年齢とVp/Veとの関係 今後の課題 IC 418 Round (IC 418): Vp > Ve ⇒ 膨張速度が非等方であっても球対称な形状になりうる?  IC 418が特殊な例なのか? 今後の課題 Round PNのSampleを増やし、膨張速度の非等方性の有無を調べる La Palmaの4.2m WHT + UES (Utrecht Echelle Spectrograph)で取得され たアーカイブデータを取得し、現在解析中