惑星状星雲(PN)の形状と膨張速度について 大塚 雅昭 (国立天文台岡山)
概要 惑星状星雲(PN)の形状分類は主に撮像観測により天球に投影された2次元の 像によってなされている。しかし、撮像観測では奥行きの広がりを区別でき ないため、形状を見誤る可能性がある。PNに関する課題は形状にかかわるも のが大部分を占める故、形状を正しく認識することは重要である。 形状分類の問題を解決するには、従来の撮像による分類ではなく、膨張速度場 を利用した形状の分類が最適である。なぜなら、膨張速度場によって撮像では 得られなかった奥行きの情報を補うことができるからである。 これまでに、形状と膨張速度場についての関係や、膨張速度場と運動学的年齢 との関係についての研究が数多くなされてきたが、どれもが視線方向に平行な膨張 速度のみしか扱っておらず、膨張速度場の非球対称性の有無に関しては全く考慮し ていない。そこでわれわれは、既存のGeometrical Modelを観測結果に適応し、 得られた2方向の膨張速度と運動学的年齢をもとに、 膨張速度場の非球対称性の有無、 2方向の膨張速度場と運動学的年齢との関係、 3) 膨張速度場の経年変化 に関して調査したいと考えている。さらに、円盤型などの球対称な形状をなすPN においては、その膨張速度も球対称(等方)なのか、それとも非球対称(非等方) ということもあるのかを確認することにより、PNにおける膨張速度場と形状の 関係について理解を深めたい。
Introduction PNの一般的特徴 ・中心に高温の白色矮星 が存在 (T* = 10^6 K程度) ・白色矮星を取り囲むように 星雲殻 (Nebular Shell) が存在 ・電離ポテンシャルの異なる様々 な元素の輝線(Emission Line) ・様々な形状 - Round、Elliptical、Bipolar、 Point-Symmetric、Irregular NGC 7027 Nebular Shell 中心星(白色矮星)
Round ⇒ Elliptical ⇒ Bipolar Point-Symmetric ⇒ Multiple Shell of PN Bipolar Point-Symmetric Manchado et al. 2003 Irregular Gonry et al. 1997 23% 53% 13% 3% 3% Round ⇒ Elliptical ⇒ Bipolar Point-Symmetric ⇒ Irregular 5%
PS I B R B B PS E NGC 7027 IC 2149 NGC 7009 IC 418 Hb 12 M 2-9 BD+30°3639 NGC 6543
PN の形状分類 Imaging による(主流) 観測者 2 Round ? 観測者2はRoundとして 取り違えている。 Bipolar ⇒ 形状を取り違える可能性がある Round ? 観測者 2 観測者2はRoundとして 取り違えている。 Bipolar 観測者 1
形状を取り違えてしまった原因 ・Imagingが奥行きを見通せていないことが原因 ・PNの研究課題のほとんどが形状に関わっている、 という現状をふまえると、このような取り違いは 見過ごせない問題 (少なくとも形状分類が Imageによってのみなされているのは問題) ・この問題を解決するための有力な手法 ⇒ 奥行きの情報を膨張速度場で補う ⇒ 3-DとしてのPNをより正確に理解できる
PN の分類(補足) - Physical Parameterによる分類 ・銀河面からの位置、速度 ・元素組成比(下図 ) によって Type I (低位置・低速度、metal rich、数多い)~ IV(高位置・高速度、metal poor、数少ない )の4 Typeに分類 Peimbert (1978)
研究の目的 3-DとしてのPNを膨張速度場を利用した上で、次のことが知りたい ・膨張速度場と形状の関係 そうでないのか? - 球対称な形状をしているPNにおいては膨張速度場も球対称なのか、 ・膨張速度場の時間変化 - 膨張速度場はPNの進化とともにどのように変わっていくのか? 観測で得られた Position-Velocity Map (PV-Map)に Geometrical Model を 適用することで得られる2方向の膨張速度成分を用いて調査
Previous Work 形状とExpansion Velocityの関係 (Phillips 2002) ・視線方向に平行な膨張速度成分のみで議論 ・膨張速度場の非等方性については考慮していない 形状とExpansion Velocityの関係 (Phillips 2002) [OIII]4959+5007
Age とExpansion Velocityの関係 (Acker 1992) T* ∝ Age Diameter ∝ Age
Observation 岡山 HIDESを利用 ・Long-Slit Mode + Image Rotator での観測 - Slit length : ~78” - Slit width : 0.76” (R = 61,000) - Narrow Band Filters ([OIII], H-alpha, [NII]) - S/N = 10 ~ 50 - Sample : HIDESで取得可能な明るいPN ・Reduction - IRAF noao.twodspec - my developed task
Sample Spectra – NGC 7009 [N II]6583 at P.A.79°(Major Axis) ansae Spatial Distribution (arcsec) ansae continuum Heliocentric Velocity (km/s)
・観測により得られたPV-Mapは形状によらず再現できる Geometrical Model (Solf & Ulrich 1985) をPosition-Velocity Map (PV-Map) に適用し、2成分の膨張速度を抽出 Model Assumption ・(PNの) 形状は軸対称 ・膨張速度は定常 ・観測により得られたPV-Mapは形状によらず再現できる Model Fitting ・inclination angle θ ・expansion velocity Vp(polar)、Ve(equatorial) ・Kinematical Age t We can deduce ・膨張速度場と形状の関係 ・膨張速度場の時間変化 を Vp、Ve、t をもちいて調査
Simple Geometrical Model Vp Ve Vexp(φ) [km /s] : PV-Map上での横軸の座標に相当。 Y [arcsec] : PV-Map上での縦軸の座標に相当。 α : Shape Parameter t : Kinematical Age [yr] D : Distance [pc] IRASの4band fluxはNebular envelope 内にあるdust particleによる thermal emissionによるものと仮定し、distance dependentなscaling factorと dustの温度の関数をフリーパラメータとしたblack body fittingによるもの。 α は3.5で固定 t はPrevious workに依る D はTajitsu & Tamura (1998)によるもので統一 Vp、Veを求める際の制限 Solf & Ulrich 1985
Model Fitting の例 [N II]6583 at P.A.25° Green Line : Inner Shell Blue Line : Outer Shell - Inner Shell Vp = 37+/-1 , Ve = 20+/-1, t = 1000 +/-260 - Outer Shell Vp = 53+/-1 , Ve = 31+/-1, t= 1300 +/-100 P.A.25°
NGC7662 Guerrero et al. (2004)
Result 視線に平行な膨張速度と恒星風の関係
中心星の温度と膨張速度の関係
年齢とVp/Veの比の関係 negative correlation
年齢とVp/Veとの関係 negative correlationがみられる ・youngなほど、Vp > Ve - young:materialがequatorial plane面に集中し、 その結果、polar方向にexpandしていく ⇒ Asymmetryな形状になりやすい Proto PNe (PPNe)がAsymmetryな形状をしている ことが多いという観測事実と合う Meixner et al. (1998) 30% of 65PPNe in the mid infrared imaging (λ= 8 – 20 micron) 70% of 26PPNe in the optical imaging - old : equatorial planeに集中していたmaterialも拡散し、Vp≒Veに
年齢とVp/Veとの関係 今後の課題 IC 418 Round (IC 418): Vp > Ve ⇒ 膨張速度が非等方であっても球対称な形状になりうる? IC 418が特殊な例なのか? 今後の課題 Round PNのSampleを増やし、膨張速度の非等方性の有無を調べる La Palmaの4.2m WHT + UES (Utrecht Echelle Spectrograph)で取得され たアーカイブデータを取得し、現在解析中