国民経済計算研究会 2005年12月3日 東アジアにおける国際資金循環の構図 張 南 広島修道大学経済科学部.

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国民経済計算研究会 2005年12月3日 東アジアにおける国際資金循環の構図 張 南 広島修道大学経済科学部

目次 分析の枠組み 1990年代における国際資金循環のパターン 東アジアの国際資金循環の特徴と問題点 中国の対外資金循環の特徴と問題点 まとめ:問題と展望

国際資金循環分析の先行研究 H.Chenery & M.Strout,1966 (Two-Gap model) Mundell-Fleming model, 1968 K. Marwah & L. R. Klein model,1983 松浦宏,1993(資金循環統計と海外勘定) 石田定夫,1993(『日本経済の資金循環』) 山本栄治,2002 (『国際通貨と国際資金循環』 )

国際資金循環とは 石田(1993) pp.170-171 national flow of funds → global flow of funds international capital movements → global flow of funds 山本(2002) p39 各国の経常収支不均衡がどのよう国際資本移動によってファイナンスされているかを表したものであり、また国際資本取引における各国の相互依存関係の特徴を単純化したものである。 張(2005)p32    国内の貯蓄投資バランスと資金過不足に結び付けて、経常収支不均衡をファイナンスするなどの対外金融資産調達と運用のために引起された国際資金の流れであり、また国内と国際の面から経常収支と資本収支における各国の相互依存関係の特徴を表したものである。

国際資金循環分析の枠組み ①貯蓄投資差額、経常収支及資金過不足 ②国際資金フローのバランス ③海外資金純フロー

国際資金循環分析の理論モデル

国際資金循環分析の理論モデル

使用可能なデータ Flow of Funds Account, FOF; Balance of Payments, BOP; International Financial Statistics, IFS ; World Economic Outlook, WEC; Bank for International Settlements, BIS;    (Quarterly Locational International Banking Statistics)    (Semi-annual Consolidated International Banking Statistics) Global Development Finance, GDF ; The Institute of International Finance, IIF; Treasury International Capital, TIC);

1990年以来の国際資金循環のパターン 米国を中心とした国際資金循環の構図 エマージング・マーケットにおける国際資金の米国への還流

日米欧の経常収支の推移 (US$ billions) Data:IMF,World Economic outlook, Sep.2005

米国の経常赤字と海外資金流入(US$ billions) Data: IMF,World Economic outlook. Sep.2005 FRB, Flow of Funds Accounts of the United States. 2005.

米国への海外資本流入の推移(US$ billions) Data:IMF, IFS. 2005

米国の海外資金フロー(US$ billions) Data: FRB, Flow of Funds Accounts of the United States. 2005.

国際資金循環における米国の要因 経常赤字を上回る海外資本流入の規模が急拡大する一方で、米国はこの赤字以上の外資の余剰分を経常赤字国に対外投資している。 米国から流出した資金は、国際通貨ドルに対する強い需要を反映し、非居住者のドル資産として保有され続ける。 ドル資産の保有者とその内容は変化するものの、流出した資金は様々なルートを通じて米国に自動的に還流することになる。

エマージング・マーケットの対外ファイナンス (US$ billions) Data: The Institute of International Finance, Capital Flows to Emerging Markets Economies, January, 2004.

Data: World Bank, Global Development Finance 2005

Data: World Bank, Global Development Finance 2005

Data: World Bank, Global Development Finance 2005

東アジアの貯蓄投資、経常収支及び国際資金フローの特徴 不安定な国際資金フロー   大規模な資金流入と急速な資金流出 東アジアに流入した国際資金の米国へ  の還流

東アジアの貯蓄・投資バランス (Percent of GDP) Date: “Asian Development outlook 2004”

東アジアの経常収支 (Percent of GDP) Date: “Asian Development outlook 2004”

アジア途上国の経常赤字のファイナンス方式 (US$ billions) 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 経常収支 -33 -19 -42.1 -39.2 7.7 49.3 48.5 46.1 40.7 72.3 84.8 93.0 対外ファイナンス(ネット) 75.3 76.2 101.9 113.2 171.3 55.7 67.3 70.7 51.6 75.5 101.2 196.2   非債務性資金流入 49.1 48.0 60.7 72.1 127.9 67.8 66.0 70.2 57.0 69.4 82.9 106.8   債務性資金(ネット) 26.1 28.3 41.2 41.1 43.4 -12.2 1.4 0.5 -5.4 6.0 18.3 89.4     政府借款 10.9 11.2 7.4 -1.3 11.4 19.0 19.7 -3.8 -0.5 9.6 -0.2 21.0     銀行貸付 10.6 10.8 29.6 27.9 13.5 -12.5 -11.8 -13.1 -5.3 -5.0 2.6 22.9     民間債務 4.6 6.3 4.2 14.5 18.4 -18.7 -6.6 17.5 0.4 15.9 45.5 Exceptional Financing 1.7 1.2 0.6 0.7 14.6 7.0 6.1 6.6 7.5 6.2 3.1 Data: IMF, World Economic outlook, Sep. 2005

途上国への資金流入(1997-2004)地域比較(US$ billions) Data: IMF,World Economic outlook, Sep.2005

東アジア地域の対外債務の変化(US$ millions) Data: World Bank, world development indicators, 2005

東アジア地域への純資金フロー(US$ millions) Data: World Bank, Global Development Finance 2003

東アジアへの直接投資の構成 Data: Asian Development Bank, Asian Development outlook 2004.

タイの国際資金フローの推移(US$ millions) Data: IMF, IFS. 2005

韓国の国際資金フローの推移(US$ millions) Data: IMF, IFS. 2005

東アジアの国際資金フローの特徴 97年のアジア通貨危機を境として、東アジアの国際資金フローの急激な変化によって、東アジアの経済成長パターンが変化している。 「怪しい循環」の存在:東アジアに大規模に流入した資金の一部は実質的ドルペッグの下、米国債に投資されることになり、米国に還流している。 東アジア地域への国際資金の再還流。

中国の対外資金フローの特徴 経常収支黒字の逓増 外貨準備の拡大と資本逃避 資金純輸出の資金循環パターン china

Overseas Fund Flows in China (100 million RMB) Data: The People’s Bank of China Quarterly Statistical Bulletin, 1998-2005

中国資金循環の特性値(1992-2003年平均) 超過貯蓄 1,201億元 経常黒字 1,428億元 海外へ資金供給1,654; 外貨準備 -2,671  海外資金流入 3,603;   誤差脱漏 - 696 海外資金純流入1,949 - 外貨準備2,671 - 誤差脱漏696  =-1,418億元(年平均資金純輸出)

中国対外資金循環の問題点 経常収支黒字の規模を超えて資本収支(資本流入)で外貨準備を増加させるという資金運用となっている。 年平均1,949億元の海外資金純流入を運用している一方、年平均の696億元は資本逃避の形で海外に流失している。

東アジア地域保有の米財務省有価証券 (10億USドル、 2004年各期末データ) 国別・地域 12月 11月 10月 9月 8月 7月 6月 5月 4月 3月 2月 1月 日本 689.9 693 692.3 698.8 699.4 675.4 666.6 666.4 651.8 645.3 613.2 582.6 中国 222.9 220.2 214.8 209.4 201.6 196.4 194.3 165.8 163.9 158.7 155 157.6 台湾 67.9 67.1 66.6 66.5 65.5 66.8 67 56.8 56.3 54.4 55.3 52.6 韓国 55 49.6 50.5 47.3 45.4 44.5 57.2 57.8 59.1 57.3 59.8 香港 45.1 42.4 43.3 43 42.8 43.8 45.8 53.7 53.6 52 54 シンガポール 30.3 30.4 28.4 26.1 28.2 29.3 26.9 26.6 25.6 23 タイ 12.5 12.8 12.1 11 12.2 11.2 8.8 10.9 10.7 11.9 15.3 13.5 そのうち 外国政府保有 1233.3 1237.4 1219.9 1204.6 1188 1169.9 1160.9 1062.8 1046.6 1031 991.1 962.1  財務省証券 245.2 256.3 259.9 260.2 254.3 252 248.9 233.1 224.9 231.9 225.6 214.5  財務省長期債券・手形 988.1 981.1 960 944.4 933.5 918 912 829.7 821.8 799.1 765.5 747.6

まとめ:問題と展望 「怪しい循環」が発生した制度上の要因 「怪しい循環」が発生の内部的要因 安定的資金循環の環境作り:   ①資本流入による経済離陸を達成する可能性   ②資本逃避による金融危機発生の構造的要因   ③資本市場自由化のタイミングと順序 東アジアの新たな成長のチャンス: 東アジア地域は、世界の人口の三分の一、GDPの五分の一、貿易は四分の一、外貨準備高は6割、域内貿易は5割を越え、東アジア共同体への条件が揃いつつある。

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