2010/4/21 STP seminar Numerical Studies of Jupiter’s Magnetosphere-Ionosphere-Thermosphere Coupling Current System 木星磁気圏・電離圏・熱圏結合電流系に関する数値研究 ~ Doctor thesis and beyond ~ PD 垰 千尋 Chihiro Tao
1. はじめに:木星電磁圏環境 ◆自転卓越電磁圏 (cf. 地球:太陽風駆動型) ◆高エネルギー加速器・電波星 2/26 ・太陽系惑星最大・高速自転 (9時間55分:自転エネルギーは地球の20万倍) ・強磁場(磁気双極子は地球の2万倍) ・磁気圏内イオからのプラズマ供給 ◆自転卓越電磁圏 (cf. 地球:太陽風駆動型) ex. 磁気圏広範囲でプラズマ回転、周期的現象 ◆高エネルギー加速器・電波星 太陽風 磁気圏 磁気赤道 イオ プラズマトーラス 磁力線 Fig. 木星磁気圏模式図 2000 電子密度(低緯度) 中性温度 1500 電離圏 熱圏 1000 ・ガス惑星:H2, He, H, CH4, C2H6, … ・電離圏・熱圏形成、磁気圏と相互作用 数100 km 1 barからの高度 [km] 乱流圏界面 ~300 km 500 (オーロラ域) 105-6 /cc ~1000 K 2/26 Fig. 木星電離圏・熱圏
1. はじめに:木星電磁圏結合系 磁気圏内広い領域でプラズマが回転 イオからのプラズマ供給・外向き輸送 角運動量の流れ 磁気圏内広い領域でプラズマが回転 イオからのプラズマ供給・外向き輸送 ⇒電磁的結合による、惑星から磁気圏への角運動量輸送 熱圏・電離圏 磁気圏 電離圏 プラズマ 中性大気 磁気圏 プラズマ 電子降込 熱圏・電離圏のエネルギー源 Joule/auroral 加熱 >> solar EUV 加熱 ⇒熱圏ダイナミクスは磁気圏-電離圏結合系に大きく影響 イオ Fig. 木星電磁圏結合系 3/26
1. はじめに 過去の研究 ◆極域イオン運動観測 [e.g.,Stallard et al.,2003] ⇒速度~数km/s ◆熱圏電離圏モデル [e.g., Achilloes et al., 1998; Bougher et al., 2005] <着目>熱圏温度・速度分布、電離圏電子密度構造、極域オーロラの影響 ⇒極域速度~数100 m/s, オーロラ電子flux・電場(~磁気圏プラズマ対流)依存あり <仮定>印加電場・flux⇒大気運動によるフィードバックがかからない ◆結合電流モデル [e.g., Hill, 1979; Cowley et al., 2007] <着目>磁気圏プラズマ速度分布、沿磁力線電流/オーロラ構造、エネルギー収支 ⇒熱圏大気運動による電流量・角運動輸送量変化を示唆 [Huang and Hill, 1989] <仮定>磁気圏プラズマ速度に一定の割合で連動した中性大気運動分布を仮定 ⇒相互作用下での熱圏大気運動および電流分布は ? Fig. 木星オーロラ[Grodent et al., 2003] Main oval Io footprint Ganimede/Europa footprint Polar emission <手法>理論・解析的アプローチ: 自転軸非対称性がもたらす時空間変動の調査困難/未解明 4/26
1. はじめに 過去の研究 2 ◆電子降込モデル cf. 地球版の式 [Rees, 1963] イオン化率: [/m3/s] 大気の厚さ λ:電子エネルギー散逸関数 ε0:入射電子のエネルギー [keV] F:入射電子フラックス [/m2/s] εion:イオン生成に要する エネルギー 0.035 [keV/ion] ρ:中性大気密度 [kg/m3] [kg/m2] 電子が最大限進入できる高度の大気の厚さ 高度依存性 イオン生成数 イオン化率: cf. 地球版の式 [Rees, 1963] ※任意の中性大気分布、電子エネルギー、フラックスに対して求まる down-, two-, multi- stream近似 [e.g., Grodent et al., 2001; Perry et al., 1999] <着目> ・大気進入高度、イオン化率・加熱率 ・オーロラ発光との比較 ・降込電子エネルギースペクトル推定 ◇電子降込効果の3次元モデルへの組込が困難 ⇒H2大気分布・電子エネルギーを関数とするパラメータ式による表記 5/26
1. 研究目的 自転が卓越した木星電磁圏結合過程について、その相互作用における熱圏大気運動と結合電流の空間分布とその関係を明らかにすることを目的とする。 §2 電子降込によるイオン化率高度分布のパラメータ化 §3 磁気圏・電離圏・熱圏結合モデルと大気運動・電流分布 6/26
2. オーロラ電子イオン化率の パラメータ化 水素大気への電子降込過程のモンテカルロ計算 その結果を用い、イオン化率高度分布のパラメータ化式作成 ※地球大気電子降り込みのパラメータ化式[Rees, 1963]を参考 ※主要部は Hiraki and Tao [2008, Ann. Geophys.] 7/26
2.1 電子降り込みシミュレーション ○水素分子大気への電子降込過程をモンテカルロ計算 ○考慮している衝突過程: ○計算手順: 8/26 弾性衝突、イオン化、振動励起(v=1)、回転励起(J=0→2) 励起衝突( ) 断面積 [Tawara et al., 1990] ○計算手順: 大気上層から単色エネルギーの電子を降り込ませる。 乱数を用いて衝突の種類・衝突後の電子および生成2次電子の方向を決定、全電離数の高度分布を導出。 Fig. イオン化率高度分布(計算結果). 8/26
2.2 パラメータ化 9/26 大気組成に関わる部分 ⇒計算結果をもとに、R0とλを導出 (a) (b) [Rees, 1963] λ:電子エネルギー散逸関数 [kg/m2] 電子最大進入高度の大気の厚さ 大気組成に関わる部分 ⇒計算結果をもとに、R0とλを導出 (a) (b) Fig.イオン化率高度分布の計算結果(色)とパラメータ式で得られた結果(黒破線) Fig. (a) R0(ε0) 分布と(b) エネルギー散逸関数。 9/26
2.3 系の時定数 10/26 時定数は高度・衝突の種類ごとに異なる 衝突率が最終定常値の90%になるまでの時間 ∴時定数について、 ⇒降込電子のエネルギー緩和時定数 イオン化・励起 101-2 msec, 回転・振動 101-3 msec 緩和時間スケール [msec] 衝突率が最終定常値の90%になるまでの時間 Fig. 緩和時間スケールの高度分布 10 keV 電子 cf. 力学時定数(輸送・拡散): 106-12 msec イオン化学の時定数: 104-7 msec 回転・振動 励起、イオン化 時定数は高度・衝突の種類ごとに異なる (∵断面積のエネルギー依存性) 10 keV 電子 回転・振動 励起、イオン化 ∴時定数について、 力学輸送 >> 化学 >> 降下電子緩和 ⇒大気・化学モデルへの適応妥当性 Fig. 生成率高度分布の時間発展 10/26
2.4 まとめ オーロラ電子降込過程のモンテカルロ計算を行い、Rees [1963]のイオン化率高度分布のパラメータ化式を基に、 H2大気版の式を新たに得た。 1) 得られたパラメータ式は、任意の電子エネルギースペクトルおよび成層大気入射角(ピッチ角+磁力線の傾き)分布と、任意のH2密度高度分布に適用でき、計算結果をよく再現する。 H2大気主成分である巨大惑星への適応できる。 2) 高エネルギー電子は高高度で衝突によりエネルギーを減じつつ低高度に至り、2次電子を生じて大半のエネルギーを消費する。 3) イオン化率高度分布について、過去の研究ともよい一致を示した。角度依存性は、モデルによる2次電子散乱の扱いの違いが確認された。 4) 電子のエネルギー緩和時間は10-1000 ミリ秒であった。これは大気の力学・化学特性時間よりも十分短く、局所平衡仮定は十分成立する;大気・化学モデルへの適応が可能である。 11/26
3. 磁気圏-電離圏-熱圏結合系 相互作用下の電流構造/大気運動を明らかにする 12/26 木星熱圏・電離圏モデル + 結合電流モデル:外向き輸送フラックスをもつ磁気圏プラズマ流の対流速度/電流分布 →対流電場・電子フラックスの更新 木星 大気運動 磁気圏プラズマ対流 FAC Fig. モデル領域 [Tao, Fujiwara, Kasaba, 2009, JGR] 12/26
3.1 モデル: 熱圏 13/26 ・・・ ― 計算パラメータ: 中性大気運動 (v) & 温度 (T) ― プリミティブ方程式系 静水圧平衡 運動方程式 エネルギー保存 質量保存 状態方程式 auroral electron H2 ・・・ equator pole 90 deg. lat. 0 deg. Δ=0.5 deg. 250 km altitude ~2000 km Δ=0.4 scale height 30 levels Joule heating ion drag ionization/heating molecular/eddy viscosity & conduction H3+ IR cooling CxHy+ wave heating ― 境界条件 ・ミラー @赤道, 極 (∵反対半球からの寄与) ・flux 一定@上端 ・共回転 (v=0)、温度固定 @下端 ― 計算 ・1次風上差分+Euler修正法 →大規模循環場 ・Δ=60 sec Fig. Model Region: Thermosphere 13/26
3.1 モデル: 電離圏 太陽紫外線 [Richards et al., 1994]・オーロラ電子 [§2, Hiraki and Tao, 2008] による大気電離 →電離圏イオン化学 →電離圏電気伝導度 Σ 電子エネルギースペクトルは、FACの関数として Knight の関係を満たすように変化 [Nichols and Cowley, 2004] Fig. Profiles of ionization rate from Monte Carlo calculated (dot) & parameterized (solid) results [Hiraki and Tao, 2008] H2+ H3+ CH5+ CH4+ C2H3+ C2H5+ C2H2+ C3Hn+ C4Hn+ CH4 H2 C2H2 hν, electron hν C2H4 + recombination Fig. Ion chemistry 14/26
3.1 モデル: 磁気圏との結合 磁気圏 電離圏/熱圏 15/26 時間積分:~200自転 準定常 プラズマ (@磁気赤道) 角速度 中性大気運動 電気伝導度 電場 電離圏電流 FAC プラズマ (@磁気赤道) 角速度 動径電流 イオンドラッグジュール加熱 磁場経験モデル JXB加速 電流保存 オームの法則 プラズマ運動 モデル:動径1次元 モデル:緯度高度2次元+経度方向成分 時間積分:~200自転 準定常 15/26
3.2 結果:電流・熱圏温度/速度分布 16/26 FACが形成 温度: ジュール加熱 東西風: イオンドラッグ+コリオリ力 電離圏→磁気圏 子午面内の温度・風速 (オーロラ電子降込) max(水平風)=77 m/s max(鉛直風)=0.98 m/s 磁気圏→電離圏 Fig. Latitudinal distribution of FAC (left) and meridional temperature and wind fields (right). FACが形成 ⇔Obs. 0.04-0.4 μA/m2 [Gustin et al., 2004] 温度: ジュール加熱 東西風: イオンドラッグ+コリオリ力 子午面循環: オーロラ領域・極域の加熱 16/26
3.2 結果:速度分布 中性大気 東西風速度 電離大気 東西風速度 磁気圏プラズマ角速度 反自転方向 中性大気 max 742 m/s 中性大気 東西風速度 電離大気 東西風速度 FAC max Fig. Zonal velocities of neutral wind (left) and ion wind (right) and magnetospheric plasma angular velocity normalized by the planetary one (down). 磁気圏プラズマ角速度 反自転方向 中性大気 max 742 m/s 電離大気 max 2.1 km/s ⇔観測 数 (0-3) km/s ←Without coupling 17/26
3.3 考察: 系内のpower 半球積分 18/26 6.4x1013, 3.2x1013, 7.9x1011 W 電流系によって引き出される自転 仕事率: τは j x B によるトルク ↑torque by J x B 磁気圏プラズマの仕事率: 超高層大気領域のジュール加熱: イオンドラッグによる消費: [e.g., Cowley et al., 2005] Power Magnetospheric acce. Ion drag Joule heating <73.5゚ : PM 卓越 >74゚ : PJ 卓越 磁気圏プラズマ速度と中性大気速度を反映 半球積分 6.4x1013, 3.2x1013, 7.9x1011 W cf. 観測からの見積もり.: 1012-1014 W Fig. Latitudinal profile of power per unit area. 18/26
3.3 考察:中性大気の影響 19/26 電離圏ペダーソン電流 k: 中性大気Vnによる E の減率 共回転と比較して “中性・イオン結合係数” [Millward et al., 2005] ⇒ 高高度・低緯度で増大 σk : 電流系への寄与 ⇒90% は< 550 km が寄与 σ k 90% Fig. Latitude-altitude map of k (upper) and σ k (lower) and FAC lat. profile (center). 19/26
3.3 考察: 疑問点 1. 熱圏温度維持のメカニズム 2. 動径電流 20/26 本モデル: 音波による加熱 [Schubert et al., 2003] 他グループ: 電場擾乱, (大きい) 極域加熱 2. 動径電流 “閉じた”結合系、境界電流の仮定なし ⇒電流値小 (~20 MA) cf. 観測~80 MA 背景電気伝導度に依存 (ex. 太陽紫外線の短波長, 流星, 高エネルギー電子成分) 境界電流を仮定すると⇒~100A 電流の起源? (ex. 磁気圏MHD的発電) ⇒オーロラ時空間分布に見られる多様性の理解への鍵? With assumed radial current From Observation [Nichols and Cowley 2004; Khurana, 2001] Without assumption Fig. Radial distribution of radial current 20/26
3.4 まとめ 21/26 木星における磁気圏・電離圏・熱圏結合系は、電磁的結合による、惑星から磁気圏へと角運動量輸送が卓越した系である。 相互作用下の大気・プラズマ・電流分布を導出するモデルを開発した。 熱圏中性大気は、磁気圏対流のフィードバックを受ける。熱圏中性大気運動による電離圏-磁気圏結合系電流への影響は、定常状態において~22%と見積もられた。低緯度では電離大気から中性大気、高緯度では中性大気から電離大気への運動量輸送が卓越する。 問題点/課題: 熱圏温度加熱・背景電気伝導度・動径電流(@~100RJ)の起源? 時間発展・3次元性? 21/26
5 まとめ ◆任意の電子エネルギースペクトルおよび任意のH2密度高度分布に適用可能な、イオン化率高度分布のパラメータ式の適応に成功した。 ◆熱圏中性大気運動・電離圏電気伝導度・磁気圏プラズマ対流の、相互作用のもとでの分布を導出した。熱圏中性大気運動による電離圏-磁気圏結合系電流への影響は、定常状態において~22%と見積もられた。低緯度では電離大気から中性大気、高緯度では中性大気から電離大気への運動量輸送が卓越する。 ◆結合系の改善と非軸対称性効果の調査、観測される発光強度の理解、MHDデータの同化研究を計画中である。 26/26