京都大学大学院理学研究科 附属天文台(飛騨天文台)

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京都大学大学院理学研究科 附属天文台(飛騨天文台) 分光学と太陽スペクトル 担当:上野 悟 京都大学大学院理学研究科 附属天文台(飛騨天文台) 先ず、一般的な太陽大気の吸収線の形成の仕組み、その形状が表すものについての概要を紹介した後、特に太陽の可視光スペクトルの観測から得られる物理量について、代表的な例を示す。更に分光器(回折格子)の原理を述べ、当天文台において行なわれてきた代表的な分光観測の研究例や最近の観測例を紹介した後、今年度の観測実習課題の内容を説明する。

◆太陽可視光スペクトルと吸収線 太陽可視光域のスペクトル写真(撮影:飛騨天文台、岡山天体観測所)

1)高温状態の物体は連続スペクトルを放射する 2)希薄なガス体は、高温状態にあるとき、その物質に特有な 輝線スペクトルを放射する。 ◆太陽、恒星スペクトル中の吸収線輪郭の説明 キルヒホッフの法則(19世紀半ば): 1)高温状態の物体は連続スペクトルを放射する 2)希薄なガス体は、高温状態にあるとき、その物質に特有な   輝線スペクトルを放射する。 3)連続スペクトルが希薄なガス体を通る時、そのガス体の   輝線スペクトルの位置に吸収スペクトルが生じる。

◆太陽、恒星スペクトル中の吸収線輪郭の幅や形を決める主要2要素 ■原子の熱運動状態 ■他の粒子との相互作用(衝突) (ドップラー核) (減衰翼) ここで、N: 個数密度、A: アインシュタイン係数、κc: 連続光吸収係数、 a, b: 大気の深さ構造で決まる定数、α: 衝突頻度できまる定数、 c: 光速、vD: ドップラー幅 この2種の関数が確認できる 典型的なスペクトル例

【参考】吸収線の輪郭についての詳細解説

・・・(1) ◆太陽、恒星スペクトル中の吸収線輪郭の説明 太陽大気を深さ x=0 から x=∞ の1次元領域に絞って考える。  この外向きの放射強度を I (ν,x) とする。  大気の各点が局所的に熱力学的平衡状態にある場合、    κ(ν,x ):単位長さ当りの吸収係数    B (ν,x ):プランク分布関数  とすると、放射強度の変化量は下記の様に表せる。 ・・・(1)  この中の吸収係数は、連続光成分と、線吸収成分から成っている。 ◎連続光放射強度について  ここで、光学的深さ: という指標を導入すると、(1)式両辺に e-τc(x) を掛けることで、 となる。よって、太陽表面から放出される連続光放射強度は、

  ・・・(2) と表される。 ここで、ある波長(振動数)においては、プランク分布関数 B(τ) は、下記のように光学的深さに対して1次関数的に変化するとみなす。 すると、(2)式はさらに となる。 (この結果は、B(τc=1) の値と等しい。つまり、太陽外部から見た放射強度は、光学的深さ1での大気層が放射している強度そのままを見ていると言い換えることもできる。従って、しばしばτ=1の深さの大気層を、その波長で見た太陽の「表面」と呼ぶことがある。) ◎吸収線中の強度について  一方、吸収線の輪郭は、その吸収係数の形に依存する。この吸収係数の形は、吸収線を形成する原子の熱運動状態や、他の粒子との相互作用(衝突)等で決まる。

・・・(3) ■原子の熱運動状態 熱運動している原子の、ある方向への速度 v の確率分布は、Gauss分布で、 と表されると考えられる。ここで vD は温度と原子質量から定まる定数で、「ドップラー幅」と呼ばれる。   ドップラー幅:            ここで、R: 理想気体定数、A: 原子質量 ■他の粒子との相互作用(衝突)  ある振動数ν0 で電磁波と相互作用して励起した原子が、その周囲の粒子との相互作用(衝突)により、限られた時間しか励起状態が続かない場合がある。  振動数ν0の電磁波と作用した原子の周りの電子は、励起されて、やはり振動数ν0 で振動していると取り扱うと、その原子による振動電場は で表される。これをフーリエ変換して振動数の関数に書き直すと:

 今、大気がある特定の物理環境の下にあり、振動数νの振動継続時間が -T/2 から +T/2 の間に限られていると考えると となる。  従って、この大気環境における吸収線の強度は で表せるが、今この中の時間:Tの確率分布が の形で表せるとすると、全環境における吸収線の平均的強度 G(ν, ν0) は、      ・・・(4) ここで Γ=2/T0 ; 衝突頻度。

ここで、原子と相互作用する電磁波の振動数ν0が、ドップラー効果により ν0+(v/c) ν0 になるとすると、(3), (4) 式から ここで、独立変数を   と変換すると、この式は主に次の2つの形に近似できる。 [原子1個当りの 線吸収係数の形] ・・・(5) ・・・(6)

 そこで、改めて線吸収成分も含めた吸収係数を考えると、  吸収線周辺波長での光学的深さ:            ここで、 :単位体積当りの線吸収係数        N: 原子密度、A: 原子固有の定数  さらに、ここで   は深さ τc によらず一定であると考えると、  よって、輻射強度は すると、一般に 振動数νでの吸収線の深さは

・・・(7) 一方、(5),(6)式より、この式は、以下のような2つの形に近似できる。 (ドップラー核) (減衰翼) この2種の関数が確認できる 典型的なスペクトル例

以上から、吸収線の形を詳しく解析することで、以下のような太陽大気の物理情報が得られると期待できる。 u → ν0 : 吸収線中心波長→ドップラー速度、      ドップラー幅→大気の温度 N → 単位体積当りの原子の密度→励起温度 A, α → ドップラー幅vD:大気の温度 Γ:原子の衝突頻度 【参考例】  前ページの式より、吸収線中心での深さは  ボルツマンの方程式  などから、異なる2種の励起状態の吸収線の深さの観測から、温度を導出できる。

太陽のスペクトルの観測から分かること ◆ 太陽大気の成分とその割合 ◆ 太陽大気の様々な高さでの温度 ◆ 太陽大気の成分とその割合 ◆ 太陽大気の様々な高さでの運動速度 ◆ 太陽大気中の磁場の強さや方向  などなど ◆ 太陽大気の成分とその割合

太陽と、地球を始めとする惑星や小惑星などの 固体部分は大変良く似た成分、組成比を示す 松尾禎士「地球化学」(講談社サイエンティフィク)より

太陽のスペクトルの観測から分かること ◆ 太陽大気の成分とその割合 ◆ 太陽大気の様々な高さでの温度 ◆ 太陽大気の様々な高さでの運動速度 ◆ 太陽大気中の磁場の強さや方向  などなど ◆ 太陽大気の様々な高さでの温度

恒星の温度の算出 ・「色温度」について ・天文学で扱われる様々な「温度」 温 度 基 本 法 則 必要な観測  温 度       基 本 法 則         必要な観測            色温度       プランクの法則        2つ以上の波長帯の光度 有効温度(放射温度)ステファンボルツマンの法則  放射等級と温度 励起温度  ボルツマン方程式       個々の元素の相異なるスペクトル線強度比 電離温度  サハの方程式         個々の元素の相異なる電離状態の強度比 熱温度       熱運動によるドップラー効果  スペクトル線の幅と形状        ・「色温度」について 一般に、天体から連続光(連続スペクトル)が放射されるメカニズムには、 ・黒体輻射 ・熱制動放射 ・シンクロトロン放射 ・コンプトン散乱、逆コンプトン散乱 などがあるが、太陽からの可視光連続スペクトルは、圧倒的に「黒体輻射」から成っていると考えてよい。

◆黒体輻射◆ 高温に熱せられた物質からは、広域な波長に渡る、連続したスペクトルが放射される。特に、放射とガスの温度が熱力学的平衡状態になっているときに放射されるスペクトルが、「黒体輻射」と呼ばれている。 太陽大気中では、ガスと放射がほぼ熱力学的平衡状態になっており、太陽大気上層や宇宙空間、地球大気での吸収や散乱による変化を除けば、地上で観測される太陽光スペクトルは、ほぼ黒体輻射で近似できる。 ■黒体輻射により 温度 T の物質から放射される、振動数ν(波長λ)の電磁波の放射エネルギー:            (プランク分布) ■黒体輻射のピーク波長と温度の関係  λmax・T = 2.898×107  (波長単位はÅ、温度単位はK)            (ウィーンの法則)  例:太陽の連続スペクトルが最大強度を    取る波長が、5000Åであるとすれ    ば、太陽表面の有効温度は5796K。 青色 赤色

ジョンソンの色指数UBV系 による3色測光から求められる 温度を「色温度」と呼ぶ。 温度の絶対値は誤差が含まれるが、相対的な温度差について、数℃(K)という高精度で求めることができる。

色指数から算出した色温度と有効温度との関係   典型的な主系列星であるA0型(9600K)を0とする。  (これは主系列星の場合。巨星、超巨星などはまた別の関係が   成り立つ。) 有効温度 [ K ] 色指数(B-V) [等] 色指数(U-B)[ 等 ] 質量 [ 太陽質量 ] 半径 [ 太陽半径 ] 45000      -0.3       -1.1       40      20 29000      -0.3       -1.1       15      20 15000      -0.16       -0.56   6       4 9600       0.00        0.00   3      2.5 8300       0.15        0.11      2.0      1.7 7200       0.33        0.03   1.7      1.4 6600       0.45        0.00   1.3      1.2 6000       0.60        0.12   1.1      1.0 5600       0.68        0.23   0.9      0.9 5300       0.81        0.46   0.8      0.8 4400       1.15        1.1      0.7      0.7 3900       1.4         1.2     0.5      0.6 3300       1.6        1.2       0.2      0.3

観測実習的な温度導出手順の紹介 D.F. Gray & W.C. Livingston (1997, ApJ 474) の観測研究結果を利用する。

異なる複数の吸収線のスペクトル輪郭を利用

(炭素の吸収線の深さ)/(鉄の吸収線の深さ) の値は、太陽構成表面温度の指標となる 2006年度の観測実習テーマ:太陽表面上の様々な構造の                温度分布の調査

一般にC I と Fe I の吸収線深さが温度の指標になる理由 吸収線の中心での深さは と表され、ここでNは      (ボルツマン方程式) という関係が成り立つ。χは、各原子の励起エネルギー。 R の T の変化に対する変化率はχが大きいほど大き くなる。 今、 C I のχは 7.680 eV であり、   Fe I のχは 3.695 eV である。 よって、C I の方が温度に対する変化が大きく、  C/Feの比は、温度が高いほど大きくなり、        温度が低いほど小さくなる。

太陽のスペクトルの観測から分かること ◆ 太陽大気の成分とその割合 ◆ 太陽大気の様々な高さでの温度 ◆ 太陽大気の様々な高さでの運動速度 ◆ 太陽大気中の磁場の強さや方向  などなど ◆ 太陽大気の様々な高さでの運動速度

ドップラーシフトと速度 つまり、

ドップラーシフトが見られる典型例1 地球大気 O2 : 6301.9998 Å 太陽光球 Fe I : 6302.4920 Å 光球 粒状斑 (対流運動)、5分振動     < 約 1 km/s 地球大気 O2 : 6301.9998 Å 太陽光球 Fe I : 6302.4920 Å 地球大気 O2 : 6302.7640 Å

ドップラーシフトが見られる典型例2 (左)彩層中のスピキュール群(超粒状斑の境界に相当)。 スピキュール(小規模ジェット)   約 10 km/s 〜 数十 km/s (左)彩層中のスピキュール群(超粒状斑の境界に相当)。 (右)スピキュールのHα吸収線(様々な速度を持ったスピキュール    が各々分解されて見えている)。

太陽の爆発現象(フレア)の時には さらに高速でガスが流れている 百数十 km/s 〜 数百 km/s

2005年度の観測テーマ:  光球面静穏領域と黒点発生領域の  速度場分布や時間変化の調査 2008年度の観測テーマ:  彩層スピキュール(小ジェット)の  速度場の場所による違いの調査 2009年度の観測テーマ:  光球ガスの吸収線観測データを用いた  太陽自転速度分布の調査

太陽のスペクトルの観測から分かること ◆ 太陽大気の成分とその割合 ◆ 太陽大気の様々な高さでの温度 ◆ 太陽大気の様々な高さでの運動速度 ◆ 太陽大気中の磁場の強さや方向  などなど ◆ 太陽大気中の磁場の強さや方向

太陽活動が活発な時の     太陽白色光像、    視線方向磁場分布 北半球 太陽赤道 南半球 Hida SMART/T2

Zeeman効果によって生じるスペクトル線の 分裂と偏光 磁場の強度と方向を表す 磁場ベクトル測定の仕組 Zeeman効果によって生じるスペクトル線の 分裂と偏光 磁場の強度と方向を表す B 黒点 e 左円偏光 右円偏光 直線偏光 λ0-⊿λ λ0 λ0+⊿λ λ0+⊿λ λ0-⊿λ λ0 視線方向磁場 (longitudinal field) 垂直面内磁場 (transverse field) B B

Iobs=α1(θ) I +α2(θ) Q +α3(θ) U +α4(θ) V 強度 直線偏光 円偏光 θ:波長板の回転角度

磁場(磁力線)の観測例

磁場(磁力線)の観測例 2007年度の観測実習テーマ:  黒点、白斑の磁場の強さ分布と明るさ  分布との関係の調査

Δλ [cm] = (e / 4πc mc) g λ2 B [G] = 4.67×10-5 g λ2 B 観測実習的磁場観測例 理論的に Zeeman効果の波長スプリットは、下記のように表されることが分かっている。 Δλ [cm] = (e / 4πc mc) g λ2 B [G]     = 4.67×10-5 g λ2 B 波長の2乗に比例し、磁場強度に比例する。 Zeeman効果のスプリットを綺麗に見ようとすると、偏光成分の測定を行なう必要があるが、今回の観測では簡単化のために、スプリットした吸収線全体の半値幅を磁場強度の指標とする。

モデル大気のグラフ 半値幅と磁場の関係を示したグラフ 黒点 白斑 静穏領域

光球連続光での輝度マップ 磁場強度の二次元マップ 鉄の吸収線中心での輝度マップ

白斑 半暗部 半暗部 白斑 暗部 暗部 磁場強度 対 光球連続光での輝度  の関係を示すグラフ 磁場強度 対 吸収線中心での輝度 の関係を示すグラフ

地上光学望遠鏡で観測できる波長域 電磁波は波長の長い方から、 電波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線と名付けられている。 太陽から放射される電磁波自体は、これら全ての範囲を含んでいる。 しかしながら、長波長の電波は電離層によって宇宙空間に反射され、 1μmから約1mmまでの近赤外線からミリ波電波領域は, 地球大気上層の水蒸気や二酸化炭素分子によって,かなり吸収され、約3000Å以下の紫外線は地球大気のオゾン等の分子に吸収される。更にX線は地球大気中の原子に、γ線は分子の原子核に、各々吸収される。 よって、地上からの観測に適したスペクトル領域は、これら以外の、「大気の窓」を通り抜けた、可視光と電波の領域に限られて来る。当天文台では、太陽用可視光望遠鏡により、主に約3000Å〜11000Å辺りの可視光スペクトルの観測を行なう事が可能である。

飛騨天文台 ドームレス太陽望遠鏡 型式 ドームレス型真空式塔望遠鏡 光学形式 グレゴリー式反射望遠鏡 有効口径 600mm 型式 ドームレス型真空式塔望遠鏡 光学形式 グレゴリー式反射望遠鏡 有効口径 600mm 主鏡焦点距離 3,150mm 副鏡との合成焦点距離 32.19m 副鏡との組合せによる 明るさ F/53.7 分解能 0″18 二次太陽像直径 299.95 mm = 1922 arcsec (1arcsec = 0.1561 mm) 日周追尾方式 コンピュータ制御光電案内装置付 望遠鏡鏡筒内真空度 2〜5mmHg 架台 高度方位式(経緯台) 望遠鏡総重量 21トン

回折格子を用いた分光器の構成 (ツェルニー・ターナー型) 太陽像の焦点面 スペクトルの焦点面 回折格子 (グレーティング) コリメータ鏡 カメラ鏡

グレーティング(回折格子)の基本公式 D d B C α A Nd 光の波が強め合う入反射角度の関係式: mλ = AB+BC   mλ = AB+BC      = d(sinα+sinβ) ・・・(1)   ここで、m:干渉の次数(整数) 波長分散 dβ/dλ = 1/(dβ/dλ)= m / dcosβ  ・・・(2) 波長分解能 λ/Δλ = Nm/1.22  ・・・(3)   ここで、N;有効な溝の全本数  (なぜなら、 Δβ = 1.22λ/D = 1.22λ/Ndcosβ           D;反射光の口径   かつ、   Δβ =(m/dcosβ)Δλ ) d B C α A β β Nd D

(ツェルニーターナー型分光器も同じ) (分光器の場合は回折格子を 反射した光束の半径を a とする) 入射光の有効半径 : a

ドームレス太陽望遠鏡 垂直分光器を用いた場合の例 ドームレス太陽望遠鏡 垂直分光器を用いた場合の例 回折格子の溝の密度   :632本/mm 観測する波長と入反射角 :6302.5Å、         α=54.29°、β=51.38° (必ずαーβ=2.907°) 観測するスペクトルの次数:4  (1)式左辺 mλ=4×6302.5=25210  (1)式右辺 d(sinα+sinβ)=107/632×(sin(54.29°)+sin(51.38°)=25210 ここで、(2)式より 分散: dβ/dλ = m / d cosβ = 4 /(107/632) cos(51.38°) = 4.05×10-4 [rad/Å] = 5.689 [mm/Å]

有効口径内の溝の全本数:N = (632本/mm×400 mm) また、 有効口径内の溝の全本数:N = (632本/mm×400 mm)  なので、(3)式より、 波長分解能:λ/Δλ = Nm/1.22           = 632×400 × 4 / 1.22 = 828852  よって、Δλ= λ/828852 = 6302.5 Å/828852        = 0.00760 Å

ドームレス太陽望遠鏡分光器を用いた代表的な研究例 飛騨天文台における ドームレス太陽望遠鏡分光器を用いた代表的な研究例

Reference ( Simulation : Particle Precipitation) Livshits et al. : 1981, Solar Phys., 73

Reference ( Simulation : Thermal Heating) Hori, Yokoyama, Kosugi & Shibata :Ap J, 489,426, 1997 - Loop plasma dynamics when rapid heating is applied at the top - Energy flow : Conduction and radiative cooling - Downward Velocity <<100km/s

Reference ( Observation ) Ichimoto & Kurokawa : Solar Phys., 93, 1984, p. 105-121. Hαanalysis ⇒40‐100km/s downflow Shock heated and compressed atmosphere in the chromospheric evaporation process フレア発生初期の急激な速度の上昇の瞬間を複数捉えることに成功した。

Shoji & Kurokawa :PASJ, v.47, p.239-250. Hα, K, D3 ⇒ 50‐100km/s downflow           ⇒ Turbulence 120-170km/s D1,D2(Na)   ⇒ 2‐6km/s downflow ⇒ Turbulence 10km/s

Ca II 線用 分光観測CCDカメラの導入と Hinodeとの協同観測 〜エラーマン・ボムの解明〜 最近の観測・研究の紹介 Ca II 線用  分光観測CCDカメラの導入と Hinodeとの協同観測 〜エラーマン・ボムの解明〜

Ca線の特徴

導入カメラ選考基準 ・< 0.014 ~ 0.022 Å/pix ・< 0.20 ~ 0.40 arcsec/pix ・> 12.0 Å x 110 arcsec ・394nm 付近での感度が高い ・読み出しフレームレートが速い ・電子シャッター型 導入カメラの サンプル画像 (露出 80 ms)

プロミネンス、スピキュール等を含む リム付近のスペクトロヘリオグラム (Ca II K 線) 2007/08/05 01:24:41 - 01:25:15 UT FOV: 180" x 128"

小黒点等を含む活動領域の スペクトロヘリオグラム (Ca II H 線) 2007/08/09 22:02:07 - 22:02:35 UT FOV: 165" x 128"

HINODE衛星との協同観測の実施 テーマ:【1】浮上磁場領域 【1a】アーチフィラメントの上昇速度      【1a】アーチフィラメントの上昇速度      【1b】フィラメント下降流の直下の衝撃波      【1c】光球浮上磁場の足元における磁気要素の進化     【2】低温ジェット     【3】エラーマンボム 第1回:2007年 05月 28日〜 06月 03日 第2回:2007年 08月 06日〜 08月 19日 観測結果概要は、今月岐阜大学で開催される日本天文学会にて報告予定

「エラーマン・ボム」 研究テーマからの一例 1917年 エラーマン(Ellerman)が発見。 ムスターシュ(Moustache)とも呼ばれる。

T. Matsumoto et al. 2007 より

T. Matsumoto et al. 2007 より

Kitai 1983, SolPhys. 86, 135 6個のエラーマン・ボムのHα線スペクトルを調査。 この当時、まだ観測的、特に分光学的にエラーマン・ボムにおける 彩層中の物理量や速度場について、定量的に量られた例がほとんど なかった。 典型的なエラーマン・ボムにおけるHα線プロファイル

Kitai 1983, SolPhys. 86, 135 通常の大気の場合 源 泉 関 数 高 さ

Kitai 1983, SolPhys. 86, 135

Kitai 1983, SolPhys. 86, 135 典型的なエラーマン・ボムは、モデルFの大気構造に最も近い:  ΔT=1500K  ρ/ρ0=5

Kitai 1983, SolPhys. 86, 135 V 1 ディスク中心 長波長 短波長 V 2 リム近く 長波長 短波長

Kitai 1983, SolPhys. 86, 135 高温・圧縮化された大気層より上空にも上昇速度場が伸びたような、ジェット的?な構造が推測される。

T. Matsumoto et al. 2007 より

Matsumoto et al. (2007) の観測方法 T. Matsumoto et al. 2007 より

T. Matsumoto et al. 2007 より

今年度、HINODE との協同観測で得られたエラーマン・ボムの Ca II H, K 線分光データを用いて  - 光球〜彩層に渡るより幅広い高さについて同時に、  - より連続的な「温度」「密度」「速度」分布を導出し、  - これまでの観測結果の検証、リコネクションモデルとの   比較を行ない、  - エラーマン・ボム周辺の物理量分布・時間発展の解明と   その発生メカニズムの解明を試みる。

このように、太陽分光観測は、撮像観測だけでは得られない幅広い情報の取得が可能であり、 奥深い先端的研究の観測手段としてはもちろん、 計算機や高度な理論を多用しなくても観測実習・ 教育のための教材として利用が可能であり、 天文学教育普及においても、大変効果的な分野であると考えられる。

今年度の観測実習テーマ

2010年度の観測実習テーマは「太陽彩層の温度分布」 厚み約2000㎞の彩層は、昔から、平均的には約5000度~8000度まで緩やかに温度が上昇する、光球とコロナの間の大気層として取り扱われて来ている。 ↑ 中性水素ガスの吸収線(Hα線) で見た、太陽縁付近の彩層の様子。

2010年度の観測実習テーマは「太陽彩層の温度分布」 しかし、実際の彩層を細かく見ると、その中の構造は大変複雑で、ガスの濃淡のムラも激しく、平均的な温度分布が全面に渡って一様に分布しているとは考えられない。

2010年度の観測実習テーマは「太陽彩層の温度分布」 実際には、彩層の温度のはどれだけ非一様なのか、どのような所で温度が高くなったり低くなったりしているのか、自分達で観測した分光データから算出してみよう。 最近、簡単で分かりやすい彩層温度の指標としてしばしば 用いられるのが、中性水素の吸収線(Hα線)の「幅」。 【参考文献】 ・G.Cauzzi et al. 2009, A&A, vol.503, p.577 ・上田、常田他2010年日本天文学会春季年会 吸収線の幅を決めている主たる物理量:   ドップラー幅:       ここで、R: 理想気体定数、A: 原子質量 水素原子の様に、原子質量が軽い物質になれば なるほど、温度に対するドップラー幅の感度が 高くなる!

2010年度の観測実習テーマは「太陽彩層の温度分布」 予定される観測

・Hα線の強度マップと温度分布とは、どのような 関連があるか? 平均的な強度を持った領域、暗い領域、明るい 領域各々の温度の特徴は? 2010年度の観測実習テーマは「太陽彩層の温度分布」 データの吟味 ・Hα線の強度マップと温度分布とは、どのような  関連があるか?  平均的な強度を持った領域、暗い領域、明るい  領域各々の温度の特徴は? ・各領域での温度(線幅)の時間変化は?  平均的温度特性の算出精度への影響はあるのか? ・各領域での磁場の特徴とは何か関連性があるか? ・最近の他の研究者、他の手法によるの文献などと   比較して、自分達が出した温度は同様の結果か、  あるいは逸脱しているか?  などなど

太陽の様々な異なる特徴を持った領域に対して、太陽彩層起源の吸収線を観測することで、彩層の温度の分布を自らの手で導出してみる。 2010年度の観測実習テーマは「太陽彩層の温度分布」 最終的な目標 太陽の様々な異なる特徴を持った領域に対して、太陽彩層起源の吸収線を観測することで、彩層の温度の分布を自らの手で導出してみる。 その温度分布が太陽の場所によってどのような違いがあるのかを調査し、以下のような点について考察する。 ・そのような温度分布がどうして起こるのか、 ・そのような分布が太陽の光球表面からコロナに  渡る温度構造の劇的変化を実現する上で、どの  ような役割を果たしているのか、 ・今回の温度推定手法の精度や妥当性はどうだっ  たか、今後改良すべき点があるとすれば何か。

発表レポートの項目案 ■概要 このレポート全体の内容を短い文章でまず紹介 ■今回の観測の目的 ■観測の内容 ・用いた装置群とそれらの設定内容  このレポート全体の内容を短い文章でまず紹介 ■今回の観測の目的 ■観測の内容  ・用いた装置群とそれらの設定内容   望遠鏡、分光器、カメラ、スリットなど  ・ターゲット領域の説明   どのような特徴を持った領域か   分光観測時の観測領域に対するスリットの置き方、スキャンの方法 ■解析手順  ・ダーク、フラット処理  ・各領域毎の波長プロファイル作成過程  ・吸収線の幅の導出方法、温度マップの作成方法

■解析結果  ・観測領域周辺のイメージ(Hα、連続光など)と、   その中で温度を算出した領域を図示  ・静穏領域の輝度分布と温度分布(2次元マップ)、   白斑領域の輝度分布と温度分布(2次元マップ)、   黒点領域の輝度分布と温度分布(2次元マップ)  ・代表的な各領域中のある点の温度時間変動の特徴 ■結果の考察 ・Hα線の強度マップと温度分布とは、どのような関連があるか?  平均的な強度を持った領域、暗い領域、明るい領域各々の温度の特徴は? ・各領域での温度(線幅)の時間変化は?  平均的温度特性の算出精度への影響はあるのか? ・各領域での磁場の特徴とは何か関連性があるか? ・最近の他の研究者、他の手法によるの文献などと比較して、自分達が出した温度は同様の結果か、  あるいは逸脱しているか? ・そのような温度分布がどうして起こるのか、 ・そのような分布が太陽の光球表面からコロナに渡る温度構造の劇的変化を実現  する上で、どのような役割を果たしているのか、 ・今回の温度推定手法の精度や妥当性はどうだったか、今後改良すべき点があると  すれば何か。

■まとめ  ・今回得られた知見を言葉で簡潔にまとめると  ・反省点(観測、解析の方法をこうすればもっと良かった、など) ■参考文献 ■謝辞  今回実習、生活など様々な面でお世話になった人々へのメッセージ