第6章 金属の腐食と摩擦摩耗.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 先修科目 42 化学Ⅱ 高校で化学Ⅰ、Ⅱを履修した人が対象。 指定学科は医学部医学科。 定員 100 名を越えた場合は、指定学科 以外の学生は登録できない。 例外は 4 年次学生。 化学Ⅱは、月曜日の 2 限目、木曜日の 4 限目にも開講している。
Advertisements

第2章.材料の構造と転位論の基礎. 2-1 材料の種類と結晶構造 体心立方格子( bcc ) 稠密六方晶格子( hcp ) 面心立方格子( fcc ) Cu 、 Ag 、 Au 、 Al 、 Ni 等 Mg 、 Zn 、 Ti 等 Fe 、 Mn 、 Mo 、 Cr 、 W 、 大部分の鋼 等 充填率.
第13章 工具材料 工具材料:硬質合金(WC、TiC)、サーメットおよびセラミック。 13.1 硬質合金の燒結機構 13.2 硬質合金の性質
環境表面科学講義 村松淳司 村松淳司.
科学のおもしろさの中から省エネを考えよう!
超臨界二酸化炭素を用いて作製した水素同位体交換反応用の 白金担持撥水性触媒
溶解、酸化・還元、酸・塩基 埼玉大学 教育学部 理科教育講座 芦田 実
シラバス説明(重要事項のみ) 到達度目標 授業計画 1.溶液中の酸化還元反応を理解し、反応式を自由に書くことができる(基礎能力)
シラバス説明(重要事項のみ) 到達度目標 授業計画 1.溶液中の酸化還元反応を理解し、反応式を自由に書くことができる(基礎能力)
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
水の話 水分子の特徴 小さい分子なのに常温で液体 水(液体)から氷(固体)になると 体積が大きくなる。 電気陰性度が大きい原子は 分極
固体の圧電性.
金箔にα線を照射して 通過するα線の軌跡を調べた ラザフォードの実験 ほとんどのα線は通過 小さい確率ながら跳ね返ったり、
シラバス説明(重要事項のみ) 到達度目標 授業計画 1.溶液中の酸化還元反応を理解し、反応式を自由に書くことができる(基礎能力)
電気分解と電子.
名古屋市南部の橋を長持ちさせる方法を考えてみよう。
セラミックス 第9回 6月18日(水) セラミックスの物性.
固体電解コンデンサの耐電圧と漏れ電流 -アノード酸化皮膜の表面欠陥とカソード材料の接触界面-
福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
リチウム二次電池正極劣化の機構解明と抑制
第14章 その他の燒結材料 14.1電気接点材料 要求される性質: 放電アークによる消耗および物質移動を防止すること 電気伝導性が大きいこと 接触抵抗が低いこと 変形に耐えること 適する材料:複合合金 電気伝導性はAg、Cu 骨格:高融点材料(W、Mo) Cu系:(20〜50)%Cu-W、(35〜65)%Cu-WC.
塩化銅(Ⅱ)CuCl2水溶液の電気分解 (1)陰極で銅が析出 陰極:還元反応 Cu2+ + 2e- → Cu (2)陽極で塩素が発生 陽極:酸化反応 2Cl- → Cl2 + 2e-
電池の化学 電池とは化学反応によってエネルギーを 直接に(直流)電力に変換する装置 どんな化学反応か? 酸化還元反応 電流が 流れる 電流が
化学変化とイオン ・「イオン」って何だろう? ・・・・アルカリイオン飲料 ・・・・マイナスイオンで健康に ・「化学変化」とはどういう関係?
第3章.材料の強化機構.
空孔の生成 反対の電荷を持つイオンとの安定な結合を切る必要がある 欠陥の生成はエンタルピーを増大させる
酸・アルカリのイオンの移動 やまぐち総合教育支援センター                          森 田 成 寿.
電池の化学 電池とは化学反応によってエネルギーを 直接に(直流)電力に変換する装置 燃焼: 化学反応 → 熱エネルギー 電池: 化学反応
科学的方法 1) 実験と観察を重ね多くの事実を知る 2) これらの事実に共通の事柄を記述する→法則 体積と圧力が反比例→ボイルの法則
セラミックス 4月 18日(水)  担当教員:永山 勝久.
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
金属使用の歴史 ●優れた材料: 強度が高くて、一定の形を作るのが容易 ●有史以前の単体金属: 金、銀、銅、鉄、錫、鉛、水銀
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
酸性・アルカリ性を示すものの正体を調べよう。
08.建築材料の耐久性(2).
ボルタ電池 (-)Zn|H2SO4aq|Cu(+)
●電極での化学変化 電子が移動するから 電子が移動するから 電流が流れる! 電流が流れる! 水素原子が 2個結びつく
問題13(耐久性)    コンクリートに劣化現象に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
使用限界状態 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
微粒子合成化学・講義 村松淳司
ひび割れ面の摩擦接触を考慮した損傷モデル
セラミックス 第11回目 7月4日(水).
塩害促進条件の違いがRC床版の材料劣化に及ぼす影響
塑性加工 第1回 今日のテーマ 塑性変形とは(塑性変形した後どうなる?) (応力(圧力)とひずみ(伸び)、弾性変形) 金属組織と変形
今後の予定 4日目 10月22日(木) 班編成の確認 講義(2章の続き,3章) 5日目 10月29日(木) 小テスト 4日目までの内容
金属のイオン化傾向.
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城一郎.
材料強度学の目的 機械とは… 材料強度学 外部から力を加えて、人に有益な仕事をするシステム 環境 力 材料 材料の破壊までを考える。
平成30年7月7日 平成30年度 宇都宮大学教員免許状更新講習  【中学校理科の実験講習】 ボルタ電池、備長炭電池.
光電効果と光量子仮説  泊口万里子.
溶接継手近傍の疲労亀裂 82188082 中島宏基.
超低コスト型色素増感太陽電池 非白金対極を使用 色素増感太陽電池 Dye-sensitized solar cells (DSSCs)
連続体とは 連続体(continuum) 密度*が連続関数として定義できる場合
電気分解の原理.
平成30年度教員免許更新講習 小学校理科の実験講習 2.水溶液の性質.
Bruciteの(001)面における真の接触面での摩擦特性
5.建築材料の力学的性質(2) 強度と破壊 理論強度 実強度 理想的な無欠陥状態での強度 材料は原子の集合体、原子を引き離せば壊れる
液中通電法を用いたAu, Pt, Pdナノ粒子の作成
環境表面科学講義 村松淳司 村松淳司.
機械の安全・信頼性に関するかんどころ 機械製品に対する安全要求と設計方法 一般財団法人 機械振興協会 技術研究所.
化学1 第12回講義        玉置信之 反応速度、酸・塩基、酸化還元.
今後の予定 (日程変更あり!) 5日目 10月21日(木) 小テスト 4日目までの内容 小テスト答え合わせ 質問への回答・前回の復習
福井工業大学 原 道寛 学籍番号____ 氏名________
電子システム専攻2年 遠藤圭斗 指導教官 木下祥次 教授
直接通電による抵抗発熱を利用した 金属粉末の半溶融焼結
第12章 機械構成部品の性質 燒結技術の応用 昔し:溶解や鋳造の困難なセラミックス、高融点金属(W、Mo、など)、高融点化合物(WC、TiCなど) 近代: *青銅系燒結含油軸受け(多孔性を利用)。 *鉄系の含油軸受け 燒結技術が応用される理由は: *小型部品の大量生産 *合金粉の開発に伴って、予備焼結体を熱間鍛造により、真密度に近い大型部品の量産化.
純チタン板の多段深絞り加工における焼付き防止
3.建築材料の密度 密度の支配因子 原子量 原子の配列状態 一般的に原子量(原子番号)が大きいほど、密度は大きい
塑性加工 第2回 今日のテーマ ・応力ーひずみ線図の正しい見方 (ヤング率はなぜ異なるのか?) (引張と圧縮は同じ?)
セラミックス 第3回目 4月 30日(水)  担当教員:永山 勝久.
Presentation transcript:

第6章 金属の腐食と摩擦摩耗

腐食の発生しやすい場所の例

腐食の事例写真 ステンレス鋼の腐食 鉄筋コンクリート構造物を 貫通する鋼管の腐食

摩擦摩耗の事例 クルマのブレーキ・パッド 摩擦後 新品

6.1 材料表面の性質 原子間力が残る ⇒ 過剰なエネルギが存在 (金属内部) 表面エネルギ (材料固有値) (金属表面) 表面の物理的性質に影響 (空孔、微小き裂、介在物) < エネルギ 金属 数百Å(酸化被膜) 良 … 低い摩擦係数を与える 悪 … よごれ、汚染物質 数Å(気体吸着層)

6.2.1 化学的腐食Ⅰ(腐食) 液体金属による脆化 固体金属 結晶粒界 エネルギ値が高い 粒界き裂 ⇒ 粒界割れ 液体金属 脱成分腐食 粒界き裂 ⇒ 粒界割れ 脱成分腐食 ① 15%以上のZnを含む黄銅 ⇒ 脱亜鉛 ② 黄銅の内部の多孔質状態 ③ ねずみ鋳鉄の黒鉛腐食 環境との反応が材料に 損傷を引き起こすこと 腐食

6.2.2 電気化学的腐食Ⅰ(卑な金属、貴な金属) 金属と溶液の界面における金属イオンの挙動 - + 電子 M+nH2O l l - + 陽イオン 陰イオン 金属 溶液 (a)卑な金属の場合 (b)貴な金属の場合 過剰な陰イオンを 引きつける 金属イオンとして 溶解 (陽イオンの吸着) 図6.1 金属/溶液界面での金属イオンの挙動

6.2.2 電気化学的腐食Ⅱ(腐食電池①) M M+ 酸化反応 eー 還元反応 M+ H+ H2 電解質溶液 金属箔 (電気めっき) 陽極 陰極 電流 (アノード) (カソード) Zn , Fe , Mg Pt , Ag , Au 図6.2 腐食電池

6.2.2 電気化学的腐食Ⅲ(腐食電池②) 水素発生型の腐食 電解質溶液 … 酸素を含まない塩酸、硫酸のとき 酸素消費型の腐食 電解質溶液 …  酸素を含まない塩酸、硫酸のとき 酸素消費型の腐食 電解質溶液 …  酸素を含む硫酸、塩酸のとき 陽極 (アノード) 陰極 (カソード) 陽極 (アノード) 陰極 (カソード) M+ H2 H+ e- M+ H2O H+ e- O2 陰極での反応 陰極での反応

6.2.3 腐食の原因(1) EZn (回路オープン) ECu V A Cu Zn ZnSO4 CuSO4 R d 電位 減少 e b Ii 6.2.3 腐食の原因(1) EZn (回路オープン) ECu V A Cu Zn ZnSO4 CuSO4 R d 電位 減少 e b Ii d と e の差 a と b の差 分極の大きさ Imax÷Re 電位 E Ecorr (腐食電位) Imax (腐食電流) c 電位 増加 a 電流 I 図6.3 ダニエル電池の分極線図

6.2.3 腐食の原因(2) 金属の腐食原因 水溶液 Fe (アノード) 不純物 鉄表面 (カソード) Fe2+ H+ H 2e- 6.2.3 腐食の原因(2) 金属の腐食原因 水溶液 Fe (アノード) 不純物 鉄表面 (カソード) Fe2+ H+ H 2e- 図6.4 金属表面の局部電池 … (式 6.1) w ; 腐食速度 [g/s] I ; 腐食電流 [A] M ; 金属の原子量 n ; 金属イオンの活量 t ; 時間 [s] F ; ファラディ定数(=96500C) 陽極に相当する領域の腐食速度 , ファラディの法則

6.3 腐食の種類Ⅰ ・ 全面腐食 ~ 金属全面がほぼ一様に腐食 ・ 局部腐食 ~ 集中して部分的に腐食 金属表面における 局部電池の影響 ・ 全面腐食 ~ 金属全面がほぼ一様に腐食 ・ 局部腐食 ~ 集中して部分的に腐食 金属表面における 局部電池の影響 腐食 全面腐食 電気化学的な活性点 金属表面 ① 組成が不均一 ② 結晶粒の異方性 ③ 局所的なひずみ (時間と共に変化) 電気化学的に不均一 (局部電池の発生) 連続的に移動 ⇒ 表面を均一に腐食 局部腐食 (カルバニック電池) ⇒ 集中的に腐食 金属表面 陽極となる部分を固定

6.3 腐食の種類Ⅱ(粒界腐食) 結晶粒C e- 粒界 M+ 粒界にある金属が溶ける 析出粒子 粒界腐食 結晶粒A 結晶粒B 金属表面 オーステナイト系ステンレス鋼 熱処理の不適当な アルミニウム合金 など 図6.5 粒界腐食の進行形態

6.3 腐食の種類Ⅲ(異なる局所的応力場における腐食) 応力腐食割れ 引張応力(残留応力、外部応力) = + 腐食環境 (どちらか一方では起きない) e- Fe2+ 高残留応力領域 低残留応力領域 応力腐食割れ 図6.6 異なる局所応力場における腐食

6.3 腐食の種類(すき間腐食) すき間腐食 応力腐食割れ 腐食疲労のき裂の起点 材料強度 低下 溶接 低酸素濃度域 (陽極) 低酸素濃度域 (陽極) 高酸素濃度域 (陰極) すき間 腐食 水溶液 図6.7 すき間腐食 すき間腐食 応力腐食割れ 腐食疲労のき裂の起点 材料強度 低下

6.4 腐食の防止法 (1)金属構造物の最適な設計 (4)電気化学的防食法 (2)被膜 (5)材料の選択 (3)環境処理 ・異種金属や非金属との接触を避ける ・すき間や凹部をできるだけ作らない ・陰極防食法(cathodic protection) ・表面の凸凹少なくする ・表面に異物をつけない ・陽極防食法(anodic protection) (2)被膜 ・亜鉛やすずの膜を電気メッキ (5)材料の選択 ・塗装や防錆油を塗る (3)環境処理

6.5 摩耗 摩耗とは … 2つの固体が互いに接触しながら 水平あるいは回転運動する時に金属表面に起こる損傷のこと ① 凝着摩耗 摩耗とは … 2つの固体が互いに接触しながら     水平あるいは回転運動する時に金属表面に起こる損傷のこと ① 凝着摩耗 2つの物体が接触することで融着、さらにせん断力により破壊する ② アブレシブ摩耗 表面が粗く硬い物体が軟らかい相手面を引っかく ③ 腐食摩耗 腐食環境中における摩耗

6.5.1 凝着摩耗Ⅰ 荷重 被摩耗材 すべり方向 融着 摩耗材 荷重 すべり方向 融着部の破壊 荷重 すべり方向 摩耗粉の形成 摩耗粉 図6.8 凝着摩耗の進行形態

6.5.1 凝着摩耗Ⅱ 基板材料 ; 超硬40% + 鉄60% 膜厚 最大粗さ = 8.5s 0.7μm 負荷荷重 = 10N 1.5μm 500 1500 1000 2000 0.1 0.2 0.5 0.4 0.3 すべり距離 [m] 摩擦係数 μ 膜の剥離 膜厚 0.7μm 1.5μm 図6.9 摩擦係数に及ぼすDLC膜の剥離の影響 基板材料 ; 超硬40% + 鉄60% 最大粗さ = 8.5s 負荷荷重 = 10N すべり速度 = 0.05m/s 膜の剥離が起きない場合 摩擦係数 μは   すべり距離によらず    あまり変化しない 剥離は摩耗に大きな影響を持つ

6.5.2 アブレシブ摩耗 アブレシブ摩耗とは … 表面が粗く硬い物体が軟らかい相手面を引っかき、表面を損傷する摩耗形態 アブレシブ摩耗とは … (やすり、エメリー紙で擦る) 移動方向 荷重 被摩耗材 アブレシブ粒の移動 突起部 摩耗材 摩耗粉 図6.10 アブレシブ摩耗の進行形態 アブレシブ粒

6.5.3 腐食摩耗 フレッティング摩耗(fretting wear) 発生例 ・互いに接触する二つの固体の微小な振動によって金属粉が形成され、それが酸化されてコーヒー色の腐食生成物を作りながら摩耗する現象 発生例 ・鉄道車軸等に用いられる圧入軸 ・ワイヤロープの素線 ・ボルト・リベット結合部付近の板

まとめ ※ 第六章のキーワード ファラディの法則、凝着摩耗、アブレシブ摩耗、フレッティング摩耗