ブラックホール近傍での 相対論的時空の探求

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ブラックホール近傍での 相対論的時空の探求   Doppler boosting       → 像の左右非対称   gravitational lensing         → 像の浮き上がり   photon redshift … 嶺 重 慎 (京大院・理) ©高橋労太

Astro-Hと相対論的時空の探究 ASTRO-H衛星 相対論的時空の探究 具体的方法 高感度・広帯域(0.2~600 keV)観測 マイクロカロリメータによる超高分解能分光観測 相対論的時空の探究 大事なテーマだが、まだ具体的な検討に入っていない。 ぜひ、この機会に本格的(理論面・観測面)検討を! 具体的方法 1.連続成分を用いるもの 2.鉄輝線を用いるもの 3.QPO(準周期振動)を用いるもの

1. 連続成分を用いる方法 円盤温度・光度関係はブラックホールスピンに依存! メリット デメリット(課題) 相対論的効果(ニュートン力学との差) ブラックホールスピンの効果(最内縁半径など) メリット スペクトル全体の形をみる(微細構造に依存しない)。 デメリット(課題) 非熱的成分をどうさし引くか? Spectral hardening factor に不定性 ブラックホール質量や円盤傾斜角の正確な評価が必要

相対論的円盤モデル 相対論的標準円盤モデル (Novikov & Thorne 1974) そのほか関係する効果 放射フラックス分布(黒体放射)    a=0ではNewtonianの-20%、a=0.9では f R=1 円盤内縁半径=最内縁安定円軌道(ISCO)半径    rISCO=3 rS (a=0), ~0.5 rS (a~1) そのほか関係する効果 重力レンズ、beaming (Doppler), photon redshift, … Blandford-Znajek効果(or 時空のひきずり効果)→加熱源 epicyclic frequencyにピーク(後述)

Disk blackbodyモデル (Mitsuda et al. 1984) 黒体放射スペクトルの重ね合わせ フィッティングパラメータ Tin = 円盤最内縁の温度 (~ 最高温度) rin = Bν(Tin)で光る領域のサイズ(~円盤内縁の半径) 補正 本当の円盤内縁半径は~ ξrin (ξ~0.4) (最高)色温度は Tc =κTin (κ~1.7 はhardening factor) ⇒ 円盤内縁半径(rin)=rISCOとするとスピンがわかる 5

連続成分モデル結果①: 円盤内縁半径からの評価 スピンに関する情報! ただし、内縁半径>ISCO半径というケースもあることに注意(Rinが小さければ、大スピンだとは結論できる)。 牧島一夫(天文月報2010/3より)

連続成分モデル結果②: N-Tモデルによりフィッティング 観測スペクトルをN-Tモデル(kerrbb model)でフィッティング McClintock et al. 2009

問題点(1) 高温放射成分の差し引き 冷たい円盤と熱いコロナの共存 (a) horizontal separation (b) vertical separation hot inner torus BH X-rays disk X-rays disk BH corona/outflow X-rays hot inner corona/outflow BH disk (c) mixture type 8 8

問題点(2) spectral hardening factor ・放射スペクトル≠黒体放射  → 色温度は、有効温度から   有意にずれる。  spectral hardening factor    κ~1.7-2.0 質量降着率やαに依存。 Shimura & Takahara (1995) 9

slimBB model=相対論的(スリム)円盤モデル KerrBB modelに限界(高光度で不備、境界条件に近似)。 低光度から高光度(ほぼエディントン)まで計算 (M=10Msun) Mdot Mdot (Mdot c2/LE=1, 3, ・・・, 103) 10

理論計算結果(1)(i=0; face-on) 理論スペクトルをスペクトルフィットする。 Inputs: Mdot, a, & i (円盤傾斜角) Outputs: Rin, Tin, & p (温度勾配). スピンが大きいと、円盤内縁半径の変化が少ない。 T ∝r -p ⇒ Fν∝ν3-(2/p) ©Toshikawa 11

理論計算結果(2)(i=70; ほぼ edge-on) 降着率があがるにつれ,円盤最内縁部は、中から順に隠されていく。 →温度↓、光度<~0.4 ただし、上限光度はモデルに依存(円盤の厚みなど) ©Toshikawa 12

観測(GRS1915+105)と理論の比較 Preliminary 観測データは理論の予想範囲(ハイスピン)をカバー。 さらにモデルの改良が必要(遮蔽効果をより正確に)。 Preliminary ©Toshikawa 13

連続成分モデル:まとめ 結局、スナップショットでは現状を超えるのは難しい? 理論的に詰めること 同じソース(同じ質量、同じスピン)を連続してみること。 特に、エディントン光度近傍で、スピンごとに温度などの  ふるまいが変わるのをとらえる。 ターゲット=明るいBHB:GRS1915+105(吸収構造が複雑)、GRO J1655-40? 理論的に詰めること PL(Compton)成分のモデリング Spectral hardening factor Wind mass loss 効果 ・・・ 14

2. 輝線成分を用いる方法 鉄輝線プロファイルはブラックホールスピンに敏感! メリット デメリット(課題) 相対論的効果(ニュートン力学との差) ブラックホールスピンの効果(最内縁半径など) メリット 相対論的効果の直接検証に直結。 デメリット(課題) スペクトルの微細構造に依存(連続成分をどうさし引くか?) 未定パラメータが多い(ブラックホール質量、円盤傾斜角、 輝線強度分布などなど)

冷たいプラズマによる反射 べき型スペクトルのX線を 冷たい(~百万度以下)の プラズマに入射 → 反射成分 +各元素の特性X線 Compton reflection hump (Reynolds 1996) 16

鉄の蛍光輝線(1) (Fabian et al. 1989) Schwarzschild case Main parameters: Disk inner edge, rin =10 rS Disk outer edge, r0 =100 rS Inclination angle, i=30 Emissivity propto rq; q=-2 Cyg X-1 17

鉄の蛍光輝線(2) (Laor 1991, Kojima 1991) Kerr case (a=M) Disk inner edge, rin=0.5 & 3 rS Disk outer edge, r0 =20 (left) & 10 (right) rS Emissivity propto rq; q=-2 rin=0.5 (solid) & 3 rS (dashed) i=45 Rin=3 rS (fix) 18

MCG6-30-15の場合 (Reeves+ 2006, Miniutti+ 2007) 広がった鉄輝線 → Kerr holeでないと説明できない(?) 黒=Suzaku 赤=XMM Newton 19

ブラックホール連星の場合 (ASCA data, Miller+ 2005)

問題点(1) 連続成分の差し引き 連続成分の仮定 → 結論 ASTRO-Hを使うと不定性 なく決めることができる 輝線成分=全スペクトル 問題点(1) 連続成分の差し引き   輝線成分=全スペクトル        -連続成分スペクトル すなわち、 連続成分の仮定 → 結論 その一例(右図、MCG6-30-15): 連続成分からの微妙な残りが、 Kerr holeに特有のred wing   を生み出す! [吸収体モデルによりred wingが 消える (Miller+ 2008,2010)] ASTRO-Hを使うと不定性   なく決めることができる PL model “detailed” model (Wilms et al. 2001) 21

問題点(2) 多いパラメータ ・輝線強度分布(q) → 照らす光源と、照らされる 低温物質、 双方の分布 に依存 ・円盤傾斜角 ・時間依存性 問題点(2) 多いパラメータ   ・輝線強度分布(q) → 照らす光源と、照らされる 低温物質、 双方の分布 に依存 ・円盤傾斜角 ・時間依存性 → フレアは間欠的  輝線プロファイルが  ASTRO-Hで正確に     決まれば解決(?) 22

時間変動の謎 (MCG-6-30-15) べき的な連続成分(PL; 2-10keV)が明るいとき(HF)と暗いとき(LF)とでスペクトルを比較  鉄輝線成分+反射成分の変動がPLと連動していない 単純に考えると鉄輝線も反射成分もPL成分(~照射X線)が起源なのだから、フラックス変動は同期するはず simple power-lawとの比 (実は以前から指摘されていた現象) ©川中宣太 Miniutti+ 2007

Light-bending model Miniutti & Fabian 2004 Point-like X-ray sourceを仮定(lamp-post model) PL成分 強重力による光の屈折を考慮すると、照射X線源の円盤からの距離によって、PL成分と鉄輝線+反射成分の比が変化 鉄輝線+反射成分 If the primary source is located very close to the BH, the emitted photons will be greatly bent toward the disk.  enhanced reflection? ©川中宣太

Cyg X-1の“superposed shot” Negoro et al Cyg X-1の“superposed shot”     Negoro et al. (1994); Negoro, Kitamoto, SM (2001) X-ray intensity 緩やか変光~数秒急激なスペクトル硬化 < 2 ms Hardness ratio 平均 time (sec) 25

MHD降着流の変動 (Machida & Matsumoto 2004) flareを起こす領域が 内側にシフトする。 26

輝線成分モデル:まとめ 鍵は、連続成分のモデリング Challengingな課題:line profileの時間変化 ASTRO-Hで、決着がつきそう(不定性がなくなるだろう)。 逆問題的発想はできないか? (line profileから直接パラメータ決定) Challengingな課題:line profileの時間変化 コロナ中のフレアによる増光→line profile が時々刻々変化   (まさに、相対論的効果が如実に表れる)。 photon数が足りるか? “superposed shot”の技法? 大きなフレアをたくさん足し合わせて、平均スペクトルを得る。 光る領域の内側への伝搬 → 理論的モデリング 27

3.QPOを用いる方法 QPO(準周期振動)もブラックホールスピンに敏感! メリット デメリット(課題) 時間変動から相対論的効果をみる 既述の2方法とは完全に独立(相補的)。 スペクトル状態にあまりよらない(QPOが見えていれば)。 円盤傾斜角や、放射強度分布にも(あまり)よらない。 デメリット(課題) QPOは1種類ではない! QPOの種類により、周波数の、スピン依存性も(光度依存性も)異なる。 ブラックホール質量の正確な情報は必要。

円盤振動論:捕捉された振動 (Kato 2001, PASJ review) κ (epicyclic freq.)に極大あり  → waveがここにtrap(↓)  → QPO発生 κmaxにスピン依存性(→) (Silbergleit+2000) 29

典型的な周波数? (Kato 2001, PASJ review)  ここで、εは微少量、  F(a)は、aの単調増加関数   F(0)=1.00 ~F(0.998)=3.443 GRS1915+105に 67Hz QPO (→)  M=14Msunとすると、a<<1 (a~1なら~170Hzのはず) → 連続成分の結果に合わない(?) (Morgan +1997) 30

全体のまとめ ASTRO-H衛星 相対論的時空の探究 ところで・・・ 2013年以降、広帯域をカバーする唯一のX線衛星 広帯域と超高分解能分光より、未開の荒野を開拓 相対論的時空の探究 3つの方法、いずれにも不定性あり。ASTRO-Hを使って、 不定性をいくらかでも減じたい。 理論的につめるべきことも多い→緊密なコラボレーション ところで・・・ 今まで、GRおよびKerr metricを前提 → 本当? 今まで、ブラックホールの存在を前提 → 本当?