現代の薬物乱用問題   ー青少年の薬物乱用の実態とこれからなすべきことー 岐阜薬科大学 勝野 眞吾 

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第4章 何のための評価? 道案内 (4) 何のための評価? ♢なぜ教育心理学を勉強するか? (0) イントロダクション ♢効果的な授業をするために (1) 記憶のしくみを知る (2) 学習のしくみを知る (3) 「やる気」の心理学 ♢生徒を正しく評価するために ♢生徒の心を理解するために (5)
Advertisements

第1章 健康の考え方第2節 健康の増進と疾病の予防⑤飲酒と健康. 第1章 健康の考え方第2節 健康の増進と疾病の予防⑤飲酒と健康 本時の学習のポイント ①アルコールは,健康にどのような影響を 与えるのだろうか。 ②「アルコール依存症」とは,どのような 状態をいうのだろうか。 ③飲酒は,青少年にどのような影響を与え.
患者さんとご家族のための 双極性障害ABC すまいるナビゲーター 双極性障害ブックレットシリーズ No.1 監修 : 理化学研究所脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム チームリーダー 加藤 忠史 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
薬物乱用とは? 医薬品を医療の目的以外で使用 医薬品でない薬物を不適切な目的で使 用 7.薬物乱用と健康.
発達障害と統合失調の類似性 原因を求めれば発達障害が増える
統合失調症ABC 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
統合失調症ABC 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
 テーマ別解説 中学校における 情報モラル指導の実際 千葉県八千代市立八千代中学校 校長 坂本 仁.
情報モラル.
第42回日本薬剤師会学術大会 福岡市薬剤師会の行政と連携した 喫煙・飲酒・薬物乱用防止活動
富山大学教育学部 附属教育実践総合センター 助教授 小川 亮
生活習慣病の予防.
薬物乱用防止 クイズ 宮城県保健福祉部薬務課作成.
薬物乱用 学校薬剤師 豊見 雅文.
薬物乱用防止 について考えよう 中学校非行防止プログラム 「薬物No!百科」(全国防犯協会連合会・社会安全研究財団)よりイラスト使用
平成○○年○○月○○日 学校薬剤師 ○○○○○
 テーマ別解説 情報モラルの5つの領域 岐阜聖徳学園大学 教育学部 准教授 石原 一彦.
      特別支援学校 高等部学習指導要領 聴覚障害教育について.
がんの家族教室 第2回 がんとは何か? 症状,治療,経過を中心に
学校薬剤師仕事(中教審/学校保健安全法)
医薬品と健康.
学校薬剤師って…? 幼稚園、小学校、中学校、高等学校には、学校医、学校歯科医と共に、学校薬剤師を必ず置くことになっています。(学校保健法第16条) 学校薬剤師の仕事は、学校の環境衛生について検査をしたり、児童・生徒の快適な学校環境をつくるために、色々と指導、助言を行っています。
6.飲酒と健康 飲酒・喫煙のカット 素材集-飲酒 「アルコール健康医学協会」 カット「アルコール健康医学協会」提供.
3.さまざまな保健活動 母子保健活動 日本赤十字社の写真 素材集-保健活動 「室蘭市役所ホームページ」 UNICEFの写真 素材集-保健活動
平成21年度 特別支援学校新教育課程中央説明会 (病弱教育部会).
危険ドラッグは 身体と人格を破壊します 合法・脱法ではなく違法です 合法・脱法という言葉には絶対にだまされない。近づかない。
保健学習の進め方・指導案の書き方 さいたま市立三橋小学校   豊島  登.
薬物乱用防止教室 健康で幸せな生活を送るために.
目的 喫煙は、疾病の最大・単一の原因であり、そのために多くの命が失われ、膨大な医療資源等が消費されている。
本邦における「障害」の射程と 身体障害者手帳をめぐる問題
1. 糖尿病と感染症 2. 感染症にかかりやすく 長引きやすい、5つの理由 3. 主な感染症の症状と対策 4. 感染症にかかったときの
1.職場における産業保健活動 (1) 産業保健は予防医学
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
糖尿病 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 検査 診断 治療
統計リテラシー育成のための数学の指導方法に関する実践的研究
黄熱(yellow fever)の要点 WHO Fact sheet December 2009
女子大学生におけるHIV感染症のイメージと偏見の構造
エイズとその予防.
1. 痛風・高尿酸血症とは 2. 糖尿病・糖尿病予備群と 痛風・高尿酸血症の関係 3. 高尿酸血症の治療は 3ステップで 4.
介護予防サービス・支援計画表 記入のポイント.
患者さん 歯科衛生士 受付 歯科技工士 歯科医師 はじめに 当院は患者さんの“健康”に目を向け、
現代学生の運動生活と スポーツ意識について
福岡県学校薬剤師会キラキラ輝く笑顔のためにHP 照葉小・中学校薬物乱用防止教室 平成21年6月17日(水) 福岡市薬剤師会 古賀 充
日本糖尿病学会のアクションプラン2010(DREAMS)
喫煙者は糖尿病に なりやすい!! 保険者機能を推進する会 たばこ対策研究会 003_サードハンドスモーク(3).pptx.
薬物乱用と健康 あなたはNOとはっきりいえますか・・・  .
複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果 自殺企図の再発防止に対するケースマネジメントの
4.生活習慣病と日常の生活行動 PET/CT検査の画像 素材集-生活習慣病 「がん治療の総合情報センターAMIY」 PET/CT検査の画像
小・中学校における 「情報モラル」学習指導資料集 説明会
はじめに 当院は“メディカルトリートメントモデル”という 診療プロセス取り入れることによって患者さんの
血液透析患者の足病変がQOLに与える影響の調査 ~SF-36v2を使用して~
みんなで考えよう、薬物乱用はダメ・ゼッタイ
中学校における薬教育 大曽根清朗.
2013/11/27 くすり 中学校における薬教育 平成25年11月27日 教育プラザ 大曽根清朗.
2016/10/29 がんという病気を知っていますか? 岡山医療センター 消化器外科(大腸) 國末浩範(くにすえ ひろのり)
中学校保健体育科 1 改訂の趣旨及び要点 新学習指導要領の趣旨を踏まえた授業づくり 改訂の基本的な考え方 目標の構成の改善 内容の構成の改善
肺の構造. 肺の構造 肺の間質とは? IPF(特発性肺線維症)とは? IPF患者さんの肺の画像(胸部X線)
トピック6 臨床におけるリスクの理解と マネジメント 1 1.
大阪市の依存症対策 現状と課題 H29事業 共通 アルコール依存 薬物依存 ギャンブル等依存 治療が長期間に及ぶ-薬物治療の効果は限定的
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
疫学概論 疫学研究の目的 Lesson 1. 疫学研究 §A. 疫学研究の目的 S.Harano,Md.PhD,MPH.
自殺対策基本法(振り返り) 資料4 基本理念(第2条)
健康教育導入について 宮崎県薬剤師会 健康教育推進委員会  鈴木 啓子.
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
青少年の薬物乱用 青少年と薬物問題 小森 榮 (弁護士) 写真提供 厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部 東京都
~「依存症対策のあり方について(提言)」(平成29年3月)と府の対応~
健康再生療養型リゾート計画.
2019年度 すべての教職員のための授業改善研修 本研修の背景とねらい
Aqtiの効果・効能.
Presentation transcript:

    現代の薬物乱用問題   ー青少年の薬物乱用の実態とこれからなすべきことー 岐阜薬科大学 勝野 眞吾 

  薬物乱用の危険

  薬物乱用の危険

薬物の害ーその1 薬物の特徴的な3つの有害性 (1)依存性(習慣性) ・止めたくても止められなくなる性質 ・精神的依存性、身体的依存性     ・止めたくても止められなくなる性質     ・精神的依存性、身体的依存性 (2)脳や他の臓器への害     ・精神障害、肝・腎障害等 (3)フラッシュバック     ・薬物中止後に突然現れる精神障害

薬物乱用と薬物依存  薬物依存    薬物乱用     人間 動物 ー

薬物乱用・依存の自然史と予防対策 第三次予防 第一次予防 第二次予防 健康 時間の流れ 依存の 悪循環 ハイリスク の状態 試験的 使用 増強的使用 依存の 悪循環 ハイリスク     の状態 試験的  使用 乱用・依存  (早期) 乱用・依存 (進行期) 健康 強迫的使用 回復期 社交的使用 娯楽的使用 環境的使用 状況的使用 危険信号 薬物未使用 健康な 生活の 維持 リスクの早期発見 乱用・依存の防止(早期発見・早期治療) リハビリテーション 自覚症状のチェック 生活指導 治療 経過観察 再発防止 健康教育  危険因子のチェック 環境改善 第三次予防 第一次予防 第二次予防

MDMA乱用の危険性

MDMA

MDMAの有害性:興奮・幻覚作用 [主成分] メチレンジオキシメタアンフェタミン [主成分] メチレンジオキシメタアンフェタミン    Methylenedioxymethamphetamine, [有害作用] * ・覚せい剤と同様の精神病症状興奮・妄想   妄想、精神錯乱等の精神分裂病症状 *アルコールヤ他の薬物と一緒に乱用されると   危険はより複雑になり、有害性は著しく増す

大麻乱用の危険性

大麻(マリファナ等)の有害性Ⅰ:幻覚 [主成分] テトラヒドロカンナビノール Δ9-tetrahydrocannabinol:THC [主成分] テトラヒドロカンナビノール       Δ9-tetrahydrocannabinol:THC [有害作用]* ・大麻精神病   幻覚、妄想、感覚異常 ・知的機能の低下*他の薬物と一緒に乱用されると危険は、より複雑になり、有害性は著しく増す ・無動機症候群   無気力・集中力低下・判断力低下・無為

大麻(マリファナ等)の有害性Ⅱ ・青少年における薬物乱用の連鎖 “Entry Drug / Gateway Drug” 大麻・マリファナ 喫煙 有機溶剤(シンナー) 覚せい剤 大麻・マリファナ 麻薬類 飲酒

薬物乱用の歴史・現状

<薬物乱用に関する法律違反者の動向からみた日本の薬物乱用の特徴> ・日本では覚せい剤(Methamphetamine)と有機溶剤(ペイントシンナー)が2大乱用薬物であり、他の薬物の乱用は少ない。 ・覚せい剤乱用の流行は1955年をピークとする第一次乱用期、1983年をピークとする第二次乱用期、1991年から始まり、1997年をピークとする第三次乱用期がある。 ・1980年代中頃の第二次覚せい剤乱用期には有機溶剤乱用の流行も起こり、これへの対策のひとつとして、1987年「麻薬覚せい剤乱用防止センター: Drug Abuse Prevention Center)が設立された。 ・第3次覚せい剤乱用期を迎えて、1998年「薬物乱用防止5ヶ年戦略」が制定され、国をあげての包括的な取組が始められた。2003年には「新薬物乱用防止5ヶ年戦略」、2008年には「第3次薬物乱用防止5ヶ年戦略」がスタートした。

日本の薬物乱用の動向

我が国における青少年の薬物乱用の実態 (推定人数) 厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2008」 我が国における青少年の薬物乱用の実態                 (推定人数) 厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2008」 JSPAD: Japanese School Survey Project on Alcohol and other Drugs 勝野眞吾他 岐阜薬科大学2009

世界の薬物乱用の動向

3.9%

Bremen, Germany, 2001

日本の薬物乱用の動向    経年的変化

高校生の喫煙と飲酒経験率(年経験率)の推移          (2004-2009)

 薬物:生涯経験率(%) 女子 男子

 薬物乱用流行の要因

薬物乱用・依存の3要因 薬物 Agent 環境 ヒト (社会環境) Host Environment

乱用薬物の隠語 覚せい剤: スピード, エス, シャブ, ヒロポン, 突撃錠, 猫の目錠, (やせ薬) コカイン: クラック 大麻 :  突撃錠, 猫の目錠, (やせ薬) コカイン: クラック 大麻  : チョコ, グラス, マリファナ, ハシッシ LSD : アシッド MDMA: エクスタシー (メチレン・ジオキシ・メタンフェタミン)

生活習慣: 学校欠席,夜間外出, アルバイト時間 態度・認識: 大麻乱用に対する拒否的態度 大麻乱用の危険についての認識 時代要因: 生活習慣: 学校欠席,夜間外出,            アルバイト時間 態度・認識:  大麻乱用に対する拒否的態度 大麻乱用の危険についての認識 時代要因: 各年の大麻乱用の全国平均 Bechman JG et al. Amer. J. Public Health Vol.88, 1998

世界で最も長期に続けられている米国のMonitoring the Futureの結果である。 (1975年から毎年実施されている) 大麻乱用は、大麻乱用の危険についての認識をひとりひとりの生徒が持つと減少する。 これは、教育を通じた予防的働きかけが有効であることを明確に示している。一方、 予防的働きかけが弱くなるとひとりひとりの生徒の大麻乱用が危険であるという認識が減り、大麻乱用が広がる。 米国では、大麻は生徒に身近であり、80%以上の生徒が、「大麻を手に入れようと思えばできる」と答えている。 Monitoring the Futureの結果は、地道な継続したモニタリングが、薬物乱用の実態把握に必要なだけでなく、薬物乱用防止対策の有効性を評価するためにも有用であることを示している。

 学校における 薬物乱用防止教育

新学習指導要領 小学校体育科 保健領域 中学校教科保健体育 保健分野 高等学校教科保健体育 教科保健 平成20年3月公示 (3)病気の予防 新学習指導要領             平成20年3月公示 小学校体育科 保健領域 (3)病気の予防  エ 喫煙,飲酒,薬物乱用などの行為は,健康を損なう原因となること 中学校教科保健体育 保健分野 (4)健康な生活と疾病の予防  ウ 喫煙,飲酒,薬物乱用などの行為は,心身に様々な影響を与え,健康を損なう原因となること。また,これらの行為には,個人の心理状態や人間関係,社会環境が影響することから,それらに適切に対処する必要があること 高等学校教科保健体育 教科保健 (1)現代社会と健康  イ 薬物乱用は,心身の健康などに深刻な影響を与えることから行っては ならないこと。

世界で最も長期に続けられている米国のMonitoring the Futureの結果である。 (1975年から毎年実施されている) 大麻乱用は、大麻乱用の危険についての認識をひとりひとりの生徒が持つと減少する。 これは、教育を通じた予防的働きかけが有効であることを明確に示している。一方、 予防的働きかけが弱くなるとひとりひとりの生徒の大麻乱用が危険であるという認識が減り、大麻乱用が広がる。 米国では、大麻は生徒に身近であり、80%以上の生徒が、「大麻を手に入れようと思えばできる」と答えている。 Monitoring the Futureの結果は、地道な継続したモニタリングが、薬物乱用の実態把握に必要なだけでなく、薬物乱用防止対策の有効性を評価するためにも有用であることを示している。