今城想平, 清水裕彦 A, 三島賢二 B, 吉岡瑞樹 C, 北口雅暁 D, 日野正裕 D and NOP collaboration BL05UCN実験計画 今城想平, 清水裕彦 A, 三島賢二 B, 吉岡瑞樹 C, 北口雅暁 D, 日野正裕 D and NOP collaboration 京大理, 名大理 A, 東大理 B, 九大理 C, 京大原子炉 D
超冷中性子: Ultra Cold Neutron 定義: 物質表面の有効Fermiポテンシャル以下の運動エネルギーの中性子. 通例, 研磨したニッケル表面 (245 neV) より低いエネルギーのもの. 速度:~ 6.8 m/s 以下, 波長: ~ 58 nm 以上. 多くの物質においてポテンシャルは斥力的=容器中に溜められる. UCN は微小な物理量の精密測定に有用である. 基本粒子の電気双極子能率(EDM) 既存のUCN源とEDM上限 フランスのILL ポート出口での総フラックス: 3.3×104 UCN/cm2/s ポート出口でのUCN密度: 110 UCN/cm3 EDM 容器内のUCN密度: ~30 UCN/cm3 中性子EDMの現在の上限 : |dn| < 2.9×10-26 e・cm
EDM実験用UCN源 (J-PARC P33) LINAC proton UCN 新設UCN源候補地 Moderator & Converter 冷却にはスーパーサーマル法を用いる. 目標 3100~93000 UCN/cm3 (実験容器中) レンズ 粒子数 時間経過 速度に応じてばらける bottle 位置 このような光学的操作が可能なら大きな強みになる. 瞬間的だがきわめて濃い
R&D Doppler Shifter MLF のパルス中性子ビームで R&D ができると便利. 始状態にまで回復させる装置 (Rebuncher) を開発中. たとえば、先に到着した高速な UCN ほど減速量を大きくする. UCNがパルス構造を持てば可能. MLF のパルス中性子ビームで R&D ができると便利. Doppler Shifter LINAC ・最低 1 cps あればR&Dができる. ・1 UCN/cm3 の密度を達成できれば標準レベルのUCN基礎物理実験(e.g. 中性子寿命測定)も可能になる. MLF
Doppler Shifter とは 狭い波長帯をピンポイントでUCN化する. Beam 取り出し口 鏡 鏡の慣性系 実験室系 減速粒子 回転 325 mm 弾性散乱 ドップラーシフト 逃げる鏡に中性子を反射させ、ドップラー効果によって中性子を減速させる。 mirror Vn⊥ neutron 鏡面速度の2倍の速度の粒子をUCN化 Vm⊥ Vr⊥ 狭い波長帯をピンポイントでUCN化する.
本 Doppler Shifter の特徴 世界最高の反射能力 136 m/s の中性子を正面反射で UCN 化できる. 本装置では京大原子炉で研究された多層膜ミラーを使用. (製作者:日野氏) 68 m/s の中性子を垂直にBragg反射できる. ( ニッケル鏡面の全反射臨界運動量の10倍) 136 m/s の中性子を正面反射で UCN 化できる. 30 mm 30 mm 装置に搭載した鏡. Bragg反射で中性子を反射. 反射率 40% サーボ制御により回転位相を±0.05°の正確さで固定することができる.
セッティング 全体図 136 m/s 前後を蹴り出せているかを TOF で確認. 136 m/s ±4 % Pb & B4C 遮蔽体 陽子ビーム入射 ±4 % Pb & B4C 遮蔽体 単色化ミラー UCN 3He detector 3He detector UCN UCN 2次元検出器 2次元検出器 Beam 白色中性子 136 m/s (RPMT) 2次元検出器 Beam
実験結果 6.8 m/s 減少が見られた. 全出力(黒い線の積分値)は 1.152±0.005 cps.
シミュレーションによる解析 実測値(黒線: ニッケルなし - ニッケルあり)とシミュレーション(赤線)との比較。 R 反射率の表式。 E R ニッケルの反射率に由来 アルミ(検出器の開口部)の透過率に由来 実測値(黒線: ニッケルなし - ニッケルあり)とシミュレーション(赤線)との比較。 R 反射率の表式。 E R E シミュレーション中のUCN 成分は 60 nm ~115 nm で有効。 この範囲に絞った場合、計数率は 0.16±0.02 cps. この成分については不明. 解析中. シミュレーションでおおよそ 再現できている。 ドップラーシフターはほぼ予想通り 動作している。
強度を上げるには = 保存力の下では粒子の位相空間密度は一定(Liouvilleの定理) ドップラーシフターは保存力を用いた減速装置。 入射ビームの位相空間密度が上限値。 = 装置の性能によらず上限は決まっている。 距離、速度で構成される6次元空間中のどれだけの体積を 有効活用できているかが強度を決める。 vz たとえば、UCNは半径 6.8 m/s の球内に限られる。 空間体積が固定ならあとはこの球内をどれだけ使えるか。 vy vx
位相空間密度の見積もり 0.012 / cm3 / (m/s)3 / s @120 kW 減速した中性子からUCNのみ抜き出すと速度空間中では円盤状になる。 シミュレーションから求まる位相空間密度を実験値で規格化する。 3次元ヒストグラムの体積素に体積素あたりの粒子の存在比をかけて積算。 UCN取り出し効率 3.9%(シミュレーション) 120 kW でのUCN出力 0.16 cps(実験値) 鏡の反射率 約40 %(実験値) 空間体積 44 cm3, 速度体積 55 (m/s)3 UCN生成は入射3パルスに1回。 0.012 / cm3 / (m/s)3 / s @120 kW 3.3 / cm3 / (m/s)3 / s @1 MW (Cold) 入射ビームの範囲では有効に使えていると思われる。 120 kW のVCNは2桁減。
UCN増加の余地 できそうなこと 加速器の増強を待つ。→入射ビームの位相空間密度が底上げされる。 この円盤が現在使用されている領域。 今回の見積もりでは単純計算で 96% が空き領域 円盤の中心部(低発散領域)は有効に使えている。今回の見積もりでは増やせて2倍。 単純な見積もりであと45倍ほど増やす余地がある。 速度球 できそうなこと 加速器の増強を待つ。→入射ビームの位相空間密度が底上げされる。 鏡を大きくする。→空間体積を大きく取ることで速度球内の粒子を増やす。 入射ビームの発散を増やす。→速度球内の未使用領域を増やす。
J-PARC MLF BL05 上流部の改造 proton Hg target neutron この部分をニッケルを蒸着したダクトに交換する。 136 m/s のVCNについては、単純計算で 50 mrad までの発散角のビームを下流まで導くことができる。
改造結果のシミュレーション 6.8 m/s 球内部の未使用部分の使用量を増やせる。 ビーム進行軸(z軸) に対する速度ベクトルの発散角の分布 現状 改造後 フラックスは理想的には60倍にまで上昇する。一方で発散も±50mrad まで増える。 6.8 m/s 球内部の未使用部分の使用量を増やせる。 UCNは増える。 ただし発散の大幅増加と引き換え。
シミュレーション結果(取り出し口) 入射ビームを集光せずにそのまま使用した場合のシミュレーション。 波長スペクトル UCN増加率
シミュレーション結果(チャンバー直上) 検出器が本体のチャンバー直上にあったと仮定した場合の結果。 波長スペクトル UCN増加率 3~5倍に上昇している。 この地点でのUCN量は取り出し口地点の4倍 → 最大で12~20倍の増加。
発散角比較(1Qcなし) ドップラーシフター ILL TES
発散角比較(1Qcあり) ドップラーシフター ILL TES
現状のセッティングをそのまま使用しただけでは… ここで 79%損失 Pb & B4C 遮蔽体 単色化ミラー ここでさらに 18%損失 3He detector 2次元検出器 白色中性子 136 m/s (RPMT) ビームをなるべくドップラーシフター内に導けるようなガイド管を設計中。
まとめ J-PARC MLF BL05 にてドップラーシフターを用いて 0.16 cps のUCN出力を確認したが、R&D に用いるには出力が最低10倍は必要である. ドップラーシフターには加速器の増強が無くとも45倍の出力上昇を見込める余地があると推定される。ただしUCNの発散は大きくなる。 最下流のダクトを交換することでこれまでの60倍のVCN入射が見込めるようになり、発散を無視すれば 120 kW の加速器出力でも最大で約 3 cps のUCN出力が得られるようになる。 今後の展開 最下流のダクトを交換する計画は現在進行中。 入射VCNをより多く使用できるような集光ガイド管を設計中。