3パラメーター解の 相対論的・弦理論的解釈と タキオン凝縮について 東京大学ビッグバンセンター 小林 晋平 2004年9月1日 於 関東ゼミ
0. String Theory 開弦、閉弦を物質の基本要素とする理論 超対称性から10次元時空を示唆 量子重力理論として無矛盾 D-brane (boundary state)という高次元オブジェクトも存在 開弦 閉弦 D-brane
1. 動機 D/anti D-brane系のような非BPS状態の D-brane系の物理に興味がある 弦理論の相互作用・非摂動的理解に役立つ 1. 動機 D/anti D-brane系のような非BPS状態の D-brane系の物理に興味がある 弦理論の相互作用・非摂動的理解に役立つ 重力系への応用という観点からも重要 例えばSchwarzschild BHは非BPS状態 →一般に、相対論的オブジェクトは弦理論ではどんなものか?という重要な問題がある ⇒BH系・宇宙論へ弦理論を応用することが念頭に
D-brane 開弦の端点がくっつく超曲面、閉弦のソース 弦理論の重要な構成要素 X0 Xμ Xi open string D-brane
Boundary State ( = D-brane) mass = charge を表す
BPS Dp-brane周りの時空とは? BPS Dp-brane の性質 質量とチャージが釣り合って何枚重ねても安定 SO(1,p)×SO(9-p)対称性を持つ ( bosonic string なら SO(1,p)×SO(25-p) ) 質量 M ~ Tp ( Tp : Dp-braneの張力 ) チャージ Q ~ Tp ( = M ) 4次元extreme Reissner-Nordstrom BHに類似 → 周囲の時空も同じようなものになるはず → BPS black p-brane解と呼ばれる解
BPS black p-brane解 対称性 SO(1,p)×SO(9-p)、RRチャージ持つ 作用 ansatz
BPS Black p-brane 解 BPS状態なので M = Q (~ N Tp) →物理量は NTp のみ、調和関数1つで表現
Black p-braneとboundary state (Di Vecchia et al. (1997)) → Boundary stateから出る graviton, dilaton などと対応するはず M 重力場 gravitonの伝播
(例) <B| |φ> boundary stateからblack p-brane解の |φ> boundary stateからblack p-brane解の リーディング(無限遠での振舞い)を再現出来る
安定な(BPS状態の)D-brane 一般的な非BPS状態のD-brane (閉)弦理論では boundary state として表現 重力理論では black p-brane 解として表現 一般的な非BPS状態のD-brane boundary state がわかっているものもある ( D/anti D-brane系など) D/anti D-brane系には開弦のタキオンモードがある 任意のタキオン期待値に対し、boundary state はわかっている 重力理論では3パラメータ解で表現されると言われているが、各物理量との対応はよくわかっていない (動的な解は弦理論・重力理論のどちらでもほとんどわかっていない)
D/anti D-brane system 枚のD-brane と 安定な 枚の 重なった不安定状態 D-braneが残る が引き合う 重なった不安定状態 開弦が不安定性を表す 安定な 枚の D-braneが残る ただし
タキオンのプロファイル V(T) T 過渡状態にある D/anti D-brane系 対応
D/anti D-braneのmassの変化 N枚のD-brane, 枚のanti D-braneが 重なる ( T=0 ) 過渡状態 途中のmassにタキオンの期待値が絡む 終状態(BPS状態) ( T=∞ ) チャージと同じ値になって落ち着く
Boundary state for D/anti D-brane
タキオン T に任意の期待値を持たせたとき、 この境界状態に対応する古典解は何か? →3パラメータ解がそれだと考えられてきた 3つのパラメータ( )持ち、対称性が D/anti D-brane と同じであるような静的な古典解 → 各物理量は対応しているのか? ?
boundary stateと古典解との対応を利用して、物理量の対応を検証する 結果、D/anti D-braneは3つのうち、2つのパラメータだけで表せることがわかった 今までタキオンの期待値を表すと考えられてきたパラメーターがdilaton chargeに対応し、タキオン期待値を表していないことがわかった
2. Three-parameter solution (Zhou & Zhu (1999)) 対称性 SO(1,p)×SO(9-p) を持つ一般解 (D/anti D-brane系と同じ対称性) 作用はblack p-braneに使ったのと同じもの
チャージに 相当? massに相当?
3パラメータ解の特徴 (1) 4次元、p=0で RN black hole に一致 (一般にD次元解も存在し、D=4に出来る) 3パラメータ解の特徴 (1) 4次元、p=0で RN black hole に一致 (一般にD次元解も存在し、D=4に出来る) という3つのパラメータがある D-braneの枚数、anti D-braneの枚数、タキオンの期待値に対応していると言われていた 特に がタキオンの期待値と同一視されてきた ~(mass), ~(charge), ~(tachyon VEV?)
3パラメータ解の特徴 (2) ADM mass RR charge ~ ? ~ ?
3. boundary stateによる3パラメータ解の検証 black p-brane のときと同様に、boundary state と3パラメータ解の十分遠方での振舞いとを比較する →特に の働きに注目
これはmodified boundary stateで再現可能 の変形で3パラメータ解のリーディングを再現 タキオン期待値 T の動きとは関係ない! (この変形の弦理論的解釈は?)
はboundary stateの を変える → タキオンの期待値とは関係ない boundary stateの形状から、タキオンの期待値はbraneの張力として効く →古典解としてはmassに働く 遠くから見るとタキオンは張力の一部にしか 見えない Sを変形したboundary stateは、弦理論的にはどう解釈されるのか? → Gaussian brane (?)
がタキオンの期待値を表していない → という2つのパラメータだけで boundary state を表せるはず 以下、 の場合について解析を行う → については次回の論文で詳しく 今回は相対論的な解釈のみ少し述べる
4.D-anti D-braneと3パラメータ解 古典解とboundary stateとの完全な対応がわかっているのは BPS の場合のみ 3パラメータ解も一般には通常の boundary state と対応しなかった c_1=0 のときのみ、通常の boundary state と対応しそう Schwarzschild BH などの場合に、ソースを点粒子と捉えられるかどうか、という問題もある →以下、BPS 近傍に話を限る
ε→0 の極限で、3パラメータ解は BPS black p-brane 解に一致 extremal limit
3パラメータ解の near extremal limit
ε as a non-extremality parameter ADM mass RR charge 確かに εは non-extremality を表す
タキオンとしてのε D/anti D-brane 系のBPSからのズレはタキオン項で表される T=∞近傍の(BPSからのズレが小さい)状態は、3パラメータ解の near BPS limit と対応しているはず このタキオン項がBPSからのズレを表す mass を表す charge を表す
新しいパラメータの導入 を使うのはMが一定でQが動く、という系に対応 →Mが動くタキオン凝縮の過程と合わない そこでパラメータを変更する
q を使って書いた near extremal limit
boundary state と比較するために、3パラメータ解の無限遠方での振舞いを見る → それが graviton, dilaton, RR potential mass が だけ変更された分、古典解も同じ だけ補正が現れる → これがタキオンの分に対応するはず
3パラメータ解から計算されたgraviton, dilaton および RR potential
弦理論 (boundary state) による graviton, dilaton および RR potential |physical field>
こうして弦理論の計算により、gravitonなどを得る これを古典解の無限遠方での振舞いと比較
BPS から少しずれた D-anti D-brane を表すboundary state → となると、 はどんな古典解なのか? 対応することがわかった
5.dilaton charge としての c_1 ~相対論的な理解~ 4次元、p=0、RR chargeなしの3パラメータ解 →Schwarzschild BH+free scalar →Wyman解(Janis-Newmann-Winicour解) Wyman 解は dilaton charge を持つ → と dilaton charge が関係を持つはず
Wyman 解 (Schwarzschild gauge) フリーのスカラー場のみ入れた静的球対称解
Wyman解 (isotropic gauge) r → Rへ変数変換して、isotropic gaugeへ 3パラメータ解と比較可能
3パラメータ解 (chargeなし) はdilaton charge qと対応 massを変えるように見える →タキオンと誤解
まとめ D/anti D-brane系の古典解だと思われている3パラメータ解がある 3パラメータ解のc_1は、タキオンの期待値とは対応していない 重力的には dilaton charge とみなせる タキオンの期待値は張力として効く c_1が入ると boundary state の S が変形される そのような boundary state に対応するのはGaussian brane かもしれない
これから c_1 を弦理論で理解する → Gaussian brane か? Schwarzschild BH などの相対論的オブジェクトを 弦理論で表現する ホライゾンが弦理論でどう見えるか、などに興味 ※ただし、ソースの議論が必要 時間依存解を構築、弦理論の真空について知見を得る boundary state で書ければ、BH entropy も原理的に計算可能 →Hawking のやっている計算と関係あるかも?