パーソナルゲノム時代の リテラシーを考える ~生物基礎でゲノムをどう扱うか~

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パーソナルゲノム時代の リテラシーを考える ~生物基礎でゲノムをどう扱うか~  日本生物教育会第69回全国大会 福岡大会 パーソナルゲノム時代の リテラシーを考える ~生物基礎でゲノムをどう扱うか~ 平成26年8月6日(水) 都立新宿山吹高等学校 大野智久

プレゼンテーションの全体像 Ⅰ 授業実践の背景 Ⅱ 授業の設計 Ⅲ 授業実践の内容 Ⅳ ディスカッションに関する考察 Ⅴ その他の話題

Ⅰ 授業実践の背景

手軽に受けられる遺伝子検査

手軽に受けられる遺伝子検査

アンジー・ショック 朝日新聞デジタル 2013年5月14日

新型出生前診断 朝日新聞デジタル 2014年6月28日

現状認識と危機意識 技術の進展の速さに比べての社会的体制の確立の遅れ、教育内容の整備の遅れ 生活への急速な浸透に対しての基礎知識の欠如  ex)アンジーショック、親子鑑定、出生前診断 ゲノムリテラシーは喫緊の課題である

学習指導要領との関連 「生物基礎」の目標 日常生活や社会との関連を図りながら生物や生物現象への関心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,生物学的に探究する能力と態度を育てるとともに,生物学の基本的な概念や原理・法則を理解させ,科学的な見方や考え方を養う。

学習指導要領との関連 「生物基礎」解説より抜粋 「日常生活や社会との関連を図りながら生物や生物現象への関心を高め」とあるのは,この科目で学習した内容が日常生活や社会とかかわることを示すことで,生物や生物現象に対して興味・関心を高め,生物を学習する動機付けとすることを示している。DNAなど現代生物学の基盤となる内容,ホルモンや免疫など健康にかかわる内容,生態系など環境の科学的な理解に資する内容を学ぶことを通して,日常生活や社会と「生物基礎」の学習の内容にかかわりがあることを示し,生物や生物現象への関心を高めることをねらいとしている。

判断材料としてのゲノム情報 ゲノム情報は、人を見る新しい「ツール」としての役割 →「科学的根拠」のある情報として新たな差別・   偏見につながる可能性 どこまで科学的妥当性があるかが不明確な中で決定論的に語られる危険性

“I’m OK. You are OK.”の心の構え ゲノムリテラシー教育の目的 「教育」の目的は、「人の幸せを実現する手伝い(幸せを感じられる可能性を高める)」 ゲノムリテラシーを身に付けることで、  “I’m OK. You are OK.”の心の構え  につなげたい 注)教授する側は「科学」の範疇と「倫理」の範   疇を意識しておくことが必要

Ⅱ 授業の設計

授業実践の全体像 ①インプット型学習 リテラシーとなる知識・理解の獲得 【科学的基盤】 ②アウトプット型学習 学んだ知識のアウトプットと多様性の認識・受容 【倫理観】

インプット型学習 リテラシーとなる知識・理解の獲得 大きな目的(I’m OK. You are OK.)を見失わないように  ex)知ることで偏見を助長するような内容は望ましくない    犯罪者の遺伝子など <講義>100分 + <振り返り課題>任意

アウトプット型学習 ex)個人の意見の優劣を決めるわけではない 内容のアウトプットと多様性の認識・受容 大きな目的(I’m OK. You are OK.)を見失わないように  ex)個人の意見の優劣を決めるわけではない <ディスカッション> 100分  もしくは <レポ―ト作成>任意での自宅学習

Ⅲ 授業実践の内容

講義の「目的」 遺伝学とは「遺伝と多様性の科学」であることがわかる。 SNPsとオーダーメイド医療などの例からヒトゲノムの多様性を知る。 遺伝要因と環境要因の関係についてわかる ゲノムの多様性という生物学的な背景を前提として、遺伝子診断を材料に「多様性の倫理」を考えることができる。

講義内容①基礎的な背景知識 ヒトゲノムの多様性について知る 「正常」と「異常」について考える <キーワード> DNA、塩基配列、ゲノム、DNA、塩基配列、遺伝情報の複製、(タンパク質合成)、(選択的遺伝子発現)、突然変異、種間多様性、種内多様性、がん、進化、共通性、SNP、オーダーメイド医療、人種、遺伝と環境、表現型可塑性、劣性遺伝性疾患と保因者、遺伝性疾患と遺伝的多様性、正常と異常、色覚多様性、鎌状背血球症とマラリア、内なる優生思想

講義内容②現状認識 現代の「技術」と「法」を知る 遺伝子診断に関する問題点の整理 <キーワード> ゲノム解読、ヒトゲノム計画、遺伝子診断と法整備、遺伝診断と確率、統計学、遺伝情報の特徴、究極の個人情報、家族との共有、遺伝情報とプライバシー権

講義でおさえておきたい内容① 人は皆、等しく異なっている ゲノムと環境で形質が決まる。同じゲノムでも環境が変われば形質は変わる。 私たちは例外なく複数の劣性遺伝性疾患の保因者である。 遺伝性疾患と遺伝的多様性の間に明確な境界はなく、連続したものである。 遺伝子検査は、ゲノムの一部と形質の関連性を確率で示す。

講義でおさえておきたい内容② 遺伝情報は生涯不変の「究極の個人情報」 遺伝情報は家族と共有(「個人」に閉じない) ゲノムは全ての体細胞に複製されている 「知る権利」、「他人に知られない権利」、「知らないでいる権利」 自分のゲノムの情報を入手可能な時代に 遺伝子検査に関しての法規制の問題 「多様性」の重要性

ディスカッションの「目的」 遺伝学とは「遺伝と多様性の科学」であることがわかる。 ゲノムの共通性と多様性という生物学的な背景を前提として、ディスカッションにより多様な意見に触れ、「多様性」について考えることができる。 「パーソナルゲノム時代のリテラシー」について考えることができる。

ディスカッション課題 多様性の概念と社会のあり方について <課題> ①「ゲノム情報」流出によるデメリットの考察 ②遺伝子診断に関する考察 ③ゲノム時代のリテラシーに関する考察

Ⅳ ディスカッションに    関する考察

ディスカッションの前に 議論のための背景知識の必要性 議論のキーワードは「多様性」 適切な背景知識がないと、ディスカッションできない、もしくは科学的妥当性のない誤解を助長する可能性がある 議論のキーワードは「多様性」 相手を論破したり、意見の優劣を決めることが目的ではない。「多様性を知る」という目的を最初に提示することが重要。

ディスカッションのねらい 身近な多様性への気付き 理解の度合いの深化 当事者意識の発生 同年代の生徒同士の対話により、様々な意見に触れることで、身近にも存在する多様性に気付くことができる。 理解の度合いの深化 講義等でのインプットの理解から、アウトプットすることで、理解が深まる。 当事者意識の発生 自分の意識の変容と、他人への働きかけの意識が生まれる。

ディスカッションの進め方 確認講義+趣旨説明(20分程度) グループ分け (人数のみを指定してあとは任せる) ディスカッション(70分程度) ※大事なのは、「安心感」と「多様性」。生徒の実態に応じて「目的」と「手段」を選択する必要あり ディスカッション(70分程度)

教員の役割 ファシリテーター(=議論を促進する) 議論が滞っているグループに話題提供 壁にぶつかっているグループに考えるヒント   議論が滞っているグループに話題提供   壁にぶつかっているグループに考えるヒント   サラっと流しているグループに突っ込み   etc… 枠内で自由に議論させる(=邪魔をしない)   大きな枠は「多様性の理解」   枠内であれば自由に議論させる

「目的」の達成度 目的の達成度  (できなかった)1 2 3 4(できた) 1 2 3 4 1人 5人 24人 11人

授業設計への評価 授業4時間の設計としてどれが良いか ①講義4h ②ディスカッション2h+講義2h ③ディスカッション4h ① 5人 ②   ①講義4h ②ディスカッション2h+講義2h   ③ディスカッション4h ① 5人 ② 40人 ③ 0人

生徒の受け止め方

肯定評価の高い項目 ディスカッションの導入のメリット (座学だけでは得られないメリット) ①多様な意見に触れることができた ②人の意見から刺激を受けた ③人の意見から新たな視点を獲得することがあった ⑧人の発言を聞くことによって知識・理解が整理された ディスカッションの導入のメリット (座学だけでは得られないメリット)

生徒の受け止め方

肯定評価の低い項目 ディスカッションのデメリットの回避 (座学だけでは得られないメリット) 上記項目以外は、概ね肯定的評価 ⑤議論の「勝ち負け」を気にした ⑫男女間の意識の差を感じた 上記項目以外は、概ね肯定的評価 (半数以上が肯定評価) ディスカッションのデメリットの回避 (座学だけでは得られないメリット)

Ⅴ その他の話題

ゲノムに関する出題と結果 ヒトゲノムに関する記述として適切なものを、次のア~エから2つ選べ。 ア、ヒトゲノムには多様性は見られず、人類は皆全く同じゲノム   情報を持っている。 イ、現代人は生物種としては1種である。 ウ、現在行われている遺伝子検査では、診断項目にある疾患   についてはゲノム情報からその疾患にかかるかどうかを確   実に知ることができる。 エ、遺伝情報は基本的には一生変わらない情報であり、「究極   の個人情報」である。

ゲノムに関する出題と結果 ヒトゲノムに関する記述として適切なものを、次のア~エから2つ選べ。 ア、ヒトゲノムには多様性は見られず、人類は皆全く同じゲノム   情報を持っている。(1人/58人中) イ、現代人は生物種としては1種である。(46人/58人中) ウ、現在行われている遺伝子検査では、診断項目にある疾患   についてはゲノム情報からその疾患にかかるかどうかを確   実に知ることができる。(10人/58人中) エ、遺伝情報は基本的には一生変わらない情報であり、「究極   の個人情報」である。(55人/58人中)

代替としてのレポート作成 遺伝子診断の現状について、以下の(1)~(7)に関して、指定された様式でまとめよ。 (1)遺伝子診断の目的は何か (2)実際に行われている遺伝子診断の例 (3)遺伝子診断の規制の現状と問題点 (4)一般市民がリテラシーとして身につけるべき知識 (5)意見・考察 (6)本課題への感想 (7)参考文献

レポート作成のねらい 主体的、能動的な学び 当事者意識の発生 自律的な学びへの移行 主体的、能動的な学びの機会を提供できる。 インプット型では得られなかった気付きや理解、思考の深まりが期待される。 当事者意識の発生 自律的な学びへの移行

レポートの感想 今回、授業や宿題でこの問題を扱わなければ、きっと一生こういうことに触れずに生きていくのだろうなと思った。遺伝子診断がどんどんメジャーになっていくだろうに、学校でも、親やメディアもこういうことを取り上げないのはどうかと思う。もしこのまま知識もなく、どんどん遺伝子診断が一般化していったとしたら、いじめや差別、また恋愛なども自由にできなくなったりと問題だらけじゃないだろうか。

レポートの感想 倫理観はきっとこれから色んな影響を受けて変わっていくだろうが、現時点での考えと向き合えたのは自分の中で大きかった。普通の生物の授業で、こういった事実が触れられていないというのは恐ろしいことであるという実感が強く残った。 出生前診断のことは以前から知っていましたが、違う側面(生物学的)に考えたときに新しい思いが自分の中に生まれました。

みんなちがってみんないい 伝えたいのは “I’m OK. You are OK.” の心の構え