行動障害心理学05 第5回:機能分析を中心とした方法

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行動障害心理学05 第5回:機能分析を中心とした方法    行動障害心理学05 第5回:機能分析を中心とした方法        http://d.hatena.ne.jp/marumo50/ 望月昭  mochi@lt.ritsumei.ac.jp

分化強化(Differential Reinforcement)の方法 ●分化強化:特定の行動(反応)を強化し、  別の行動は消去する手続き →「反応の形態」だけではなく、反応の特定のペース(時間当たりの反応数:rate)に対して分化強化する手続きもある。(DRH, DRL) ●問題行動に対して、 1)それが一定時間生じなかったら強化 →Differential Reinforcement of O rate (or Other behavior): DRO 2)その行動とは「相容れない」行動を分化強化 →Differential Reinforcement of Incompatible Behavior(DRI)

機能分析にもとづく対応 罰,DRI,DROは,当該の問題行動が何で強化されているか(機能)は問題にされてこなかった. 消去手続きは,当該の強化刺激を除去する方法 強化刺激は除去せずに,それで適応的行動を形成する. 当該の問題行動に対する強化操作は停止し,同時に,その行動と同じ機能を持った適応的行動を強化(DRA)する

   どんな機能による分類をするか? Carr and Wilder (1998):「社会」と「自動」強化 正の社会的強化:注目や事物の出現など 負の社会的強化:課題からの逃避など 正の自動強化:問題行動による感覚的刺激など 負の自動強化:(問題行動によって)不快な身体刺激が緩和される

質問紙の例(1)) 「入門 問題行動の機能的アセスメントと介入」 (Carr & Wilder, 1998: 園山繁樹訳)二瓶社

Durandによる分類(コミュニケーションとしての表現) 要求:事物の呈示や行為実現による正の強化    「ほしい,やりたい」 注目:注目などの社会的強化による強化    「みてみて,かまって」  逃避:課題や場面からの負の強化    「いやだ,したくない」 感覚:身体的感覚などによる強化 平澤・藤原(1997)を参照

質問紙の例(2) 平澤ら(1996) Durand (1990)を参照 して作成されたもの

問題行動の機能を同定していくには? 1)関係者の「逸話的」な印象から? 2)観察記録をとる(相関はわかる) 3)実験してみる(因果に近い)

「入門 問題行動の機能的アセスメントと介入」 (Carr & Wilder, 1998: 園山繁樹訳)二瓶社 観察記録表の例 「入門 問題行動の機能的アセスメントと介入」 (Carr & Wilder, 1998: 園山繁樹訳)二瓶社 職員からの注意(社会的正の強化のケースか?)

「観察→実験→トリートメント」の例(1) (代替行動の形成までは至っていない初期 の研究:機能分析はするが後は伝統的操作) 実験によって,重度の“ひっかき自傷”の機能を確認した最初(?)の例 Social Control of Self-Injurious Behavior of Organic Etiology. Carr, E.G. & McDowell, J. J (1980) Behavior Therapy, 11, 402-409.

観察による どんな場面で「自傷」と「社会的強化」が?

実験による機能(強化)の同定 実験(ABAデザイン)

長期間のトリートメント(time out と行動契約) デザイン(ABABデザイン)

実験による同定(2) Carr & Wilder, 1998: 前出

それぞれの対策

        確立操作    正・負の強化刺激の効力をなくす 1)正・負の社会強化・自動強化   NCR:非随伴強化法 2)負の社会強化:課題逃避  ●カリキュラム修正法    逃避する課題の嫌悪性を少なくする  ●不快な事態そのものを取り除く 3)自動強化(正の感覚強化)  ●環境豊穣化法(色々な強化刺激を準備) 4)自動強化(負の感覚強化)  ●医療的な対処

  代替行動の獲得による問題行動の削減 DRA:正の強化を受ける機能的に「等価」な適応的な代替行動の形成・強化をする。とりわけ言語的行動を形成する 1)Carr and Durand (1985): Reducing behavior problems through functional communication training . Journal of Applied Behavior Analysis, 18, 111-126. 2)平澤紀子・藤原義博(1997):問題行動を減らすための機能的コミュニケーション訓練。「応用行動分析学入門」(二瓶社)

(1) Carr and Durand, 1985

課題の困難さ(Difficult vs Easy)と注目(33 vs100) ●Easy 100, Easy 33, Difficult 100 という3条件: 100:社会的注意や賞賛を適応的行動に十分に与えている(NCRに近い状況) 33:部分的にしか注意や賞賛がない Easy: 簡単な課題 Difficult:困難課題

Jim 逃避型 逃避型 Eve 注意喚起型 Tom 混合型 Sue

       トリートメント(DRA) それぞれの子供の問題行動と「等価」な「機能」を持つ言語行動を表出させる。「課題逃避型」の子供には「わかりません」に対して回答を教える、注意喚起型の子供には「うまくできた?」に対して「やるじゃない」といった賞賛を与える(relevant条件)。統制条件として、機能の異なる設定もまぜていく条件(irrelevant条件)と、言語行動の機会のない条件(Baseline条件)がある。

それぞれの子供の問題行動と「等価」な機能を持つ言語行動を表出させる場面で、問題行動が減っている。 課題逃避型の子供には「わかりません」に対して回答を教える、注意喚起型の子供には「うまくできた?」に対して「やるじゃない」といった賞賛を与える場合に、問題行動が減る。それぞれの機能に即した言語行動を代替することによって問題行動が減った。 機能的に等価な言語行動を教えることが重要。

課題逃避の例(平澤・藤原,1997)

DRA:「問題行動」と機能的に「等価」な(強化の内容が重複すると思われる)行動を成立させる。 →問題点はどこにあるか? 現環境の下で“自傷”によって得られる強化は それほど尊重する必要があるかどうか? DRAを優先させるか? 環境豊穣化あるいは正の強化で維持される行動の選択肢の拡大の操作を優先させるか?