理科学習指導の基礎・基本 ~新学習指導要領に基づいた 授業づくり~ 2019年 3月 理科学習指導の基礎・基本 ~新学習指導要領に基づいた 授業づくり~ 2019年 3月 宮崎県教育研修センター
【この資料の目的】 本資料は、これからの社会を生きる子供たちに対し、子供たちが選んだ道をたくましく進んでいくために必要な ※「学力」を、確実に身に付けさせるための授業づくりの基礎 ・ 基本を提案するものです。 今の、そしてこれからの子供たちが社会で活躍する頃には、予測不可能な社会を生きていくことになると言われています。 このような状況において、私たち教師には、たくましく生き抜いていくために必要な「学力」を確実に身に付けさせることが求められています。 この資料で、理科という教科の側面から、これから必要とされる「学力」を確実に身に付けさせるための授業づくりの基礎・基本を提案しています。 ご覧いただいた先生方の授業づくりのヒントになれば幸いです。 ※本資料における「学力」については、スライド07を ご覧ください。 スライド へ 07
〇学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 【構成内容】 〇平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 スライド ~ 01 09 〇平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント スライド ~ 10 38 〇学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 スライド ~ 39 57 〇理科の授業づくりの基礎・基本 この資料は、ここに示した4つの項目に則って説明を進めています。 スライド ~ 58 88
➀ 理科の授業づくりについて1から知りたい。 スライド 〇〇から ➀ 理科の授業づくりについて1から知りたい。 01 ② 学習指導要領のポイントを理解した上で、授業づくりについて知りたい。 スライド 〇〇から 10 ③ 学習指導要領はある程度理解しているので、本県の児童生徒の実態を踏まえた授業づくりについて知りたい。 スライド 〇〇から 39 スライド 〇〇から ④ 学習指導要領、本県の児童生徒実態はある程度理解しているので、授業づくりについてのみ知りたい。 説明スライドには、右上に通し番号を付けています。➀~④を参考に、ニーズに応じてご覧ください。 58
01 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 はじめに、平成29年に告示された学習指導要領における、理科改訂の趣旨について説明します。
2015年調査における※2科学的リテラシーの平均得点の国際比較では上位に位置する。 02 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 (1)現行学習指導要領の成果と課題 ピ サ ※1PISA2015から 2015年調査における※2科学的リテラシーの平均得点の国際比較では上位に位置する。 ※1PISA = 生徒の学習到達度調査 OECD = 経済協力開発機構 2015年に実施されたOECDの調査(PISA 生徒の学習到達度調査)では、科学的リテラシーを中心とした調査が行われました。 科学的リテラシーに関して、調査国に対する日本の位置付けは良好な結果を示していました。 過去に行われた同調査においても常に上位に位置していることから、日本の子供たちは他の国や地域の子供たちと比較して、理科に関して十分な学力を身に付けていると判断できます。 科学的リテラシーの定義については、次のスライドをご覧ください。 OECD 生徒の学習到達度調査 ~2015年国際結果の要約~ 平成28(2016)年12月 文部科学省 国立教育政策研究所 より 学習指導要領(平成29年告示)解説(小:p.5~ 中:p.6~)
思慮深い市民として、科学的な考えを持ち、科学に関連する諸問題に関与する能力である。 03 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 (1)現行学習指導要領の成果と課題 ※2科学的リテラシーとは 思慮深い市民として、科学的な考えを持ち、科学に関連する諸問題に関与する能力である。 科学的リテラシーを身に付けた人は、科学やテクノロジーに関する筋の通った議論に自ら進んで携わり、それには以下の能力(コンピテンシー)を必要とする。 〇 現象を科学的に説明する 〇 科学的探究を評価して計画する 〇 データと証拠を科学的に解釈する 科学的リテラシーは、このように定義付けされています。 OECD 生徒の学習到達度調査 ~2015年国際結果の要約~ 平成28(2016)年12月 文部科学省 国立教育政策研究所 より
04 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 (1)現行学習指導要領の成果と課題 PISA2015から 「理科学習者としての※自己効力感指標」は・・・ 【例】 ○ 健康問題を扱った新聞記事から、何 が科学的に問題なのか読み取る ○ 食品ラベルの表示の科学的説明を 理解する OECD平均 しかし、詳細をみていくと、例えば、「理科学習者としての自己効力感指標」をみると、大きく順位を下げており、OECD平均からも大きな差が見られます。 自己効力感とは、学習したことを使って日常生活の問題の解決にあたることができるという期待や自信のことです。例えば、理科では、健康問題を扱った新聞記事を読んで、その中に科学的問題を読み取ること等がこれに当たります。 科学的リテラシーは高いものの、理科を学習することは好きと考えたり、理科で学習したことは世の中の役に立つと考えたりしている子供が少ないという現実が明らかになりました。 ※自己効力感 理科で学習したことを使って、日常生活の 問題の解決ができるという期待、自信 日本はココ! OECD平均を下回る
平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 (1)現行学習指導要領の成果と課題 05 他の国際調査も見てみましょう。 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 (1)現行学習指導要領の成果と課題 テ ィ ム ス ※TIMSS2015から ※TIMSS = 国際数学・理科教育動向調査 他の国際調査も見てみましょう。 2015年に行われた国際数学・理科教育動向調査では、理科に関する学力が上昇傾向にあることがわかります。 過去に行われた同調査においても常に上位に位置していることから、日本の子供たちは他の国や地域の子供たちと比較して、高い学力を身に付けていると判断できます。
中学校は、国際平均と比較して約20ポイントの差 06 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 (1)現行学習指導要領の成果と課題 テ ィ ム ス TIMSS2015から 中学校 中学校 (日本) 中学校 国際平均 中学校 (日本) 中学校 国際平均 85 84 84 83 72 72 70 62 66 57 しかし、この調査からも、「理科を勉強すると、日常生活に役立つ」といった理科の有用性や、理科を学習することへの必要性については、国際平均と比較して低い傾向にあることが明らかになっています。 2つの国際調査から、日本の子供たちは理科に関する知識は高いものの、理科を学習する意義を理解したり日常生活との関連について考えたりすることについては、まだ十分ではないことが明らかになっています。 53 53 51 45 47 39 中学校は、国際平均と比較して約20ポイントの差
「学力」とは何か? 学校教育法 第30条 2項 ➀ 基礎的な知識及び技能 07 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 「学力」とは何か? 学校教育法 第30条 2項 ➀ 基礎的な知識及び技能 ② ➀を活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力 ③ 主体的に学習に取り組む態度 学力とは何でしょうか? 学力については様々なとらえ方がありますが、「学校教育法 第30条 2項」において、学力の3要素が示されています。 【この資料の目的】へ
子供たちの学びの質を高める 平成29年告示 学習指導要領では・・・ 「何ができるようになるか」(育成すべき資質・能力)を明らかにしたうえで、 08 平成29年告示 学習指導要領 理科改訂の趣旨 平成29年告示 学習指導要領では・・・ 「何ができるようになるか」(育成すべき資質・能力)を明らかにしたうえで、 「何を学ぶか」(学習内容)を検討し、 「どのように学ぶか」(主体的・対話的で深い学び)を生徒の具体的な学びの姿を考えながら構成する。 平成29年に告示された学習指導要領では、学校教育法で示された学力の3つの柱を背景に 「『何ができるようになるか』を明らかにし、 その上で、そのためには『何を学ぶか』を検討し、 それを『どのように学ぶか』を検討していくことで、子供たちの学びの質を高めることが大切である」 とされています。これは理科だけではなく、他の教科にも共通することです。 子供たちの学びの質を高める
09 中央教育審議会答申(平成28年12月21日) 補足資料より こちらの資料をご覧ください。 こちらの資料をご覧ください。 特に、「どのように学ぶか」については、今回の学習指導要領改訂の大きなポイントの一つであり、主体的・対話的で深い学び(いわゆるアクティブ・ラーニング)の視点からの学習過程の改善が求められています。 中央教育審議会答申(平成28年12月21日) 補足資料より
10 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 学習指導要領の改訂により大きく変わったところ、指導に当たって留意すべきところを中心に、新しい学習指導要領を紐解いていきます。
平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 11 理科の目標(小学校) 現 自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う。 新 自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 自然の事物・現象についての理解を図り、観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。 観察、実験などを行い、問題解決の力を養う。 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。 スライド07、08で説明した視点で、各教科における身に付けさせる学力を見たとき、理科の目標の示し方はこのように変わりました。 これは小学校の理科の目標です。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.12)
平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 12 理科の目標(中学校) 現 自然の事物・現象に進んでかかわり、目的意識をもって観察、実験などを行い、科学的に探究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め、科学的な見方や考え方を養う。 新 自然の事物・現象に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 自然の事物・現象についての理解を深め、科学的に探究するために必要な観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。 観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う。 自然の事物・現象に進んで関わり、科学的に探究しようとする態度を養う。 これは中学校の理科の目標です。小学校と同様に、目標の示し方が変わりました。 学習指導要(平成29年告示)領解説 理科編(中:p.23)
柱書き 中学校を例に 自然の事物・現象に関わり 自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成 理科の見方・考え方を働かせ 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 13 中学校を例に 柱書き 自然の事物・現象に関わり 理科の見方・考え方を働かせ 見通しをもって観察、実験を 行う 自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成 これらを 通して 育成を目指す資質・能力 知識及び技能 (1) 自然の事物・現象についての理解を深め、科学的に探究するために 必要な観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。 思考力,判断力,表現力等 (2) 観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う。 中学校を例に、生徒に身に付けさせる資質・能力の3つの柱に当てはめると、このようになります。育成を目指す資質・能力は、学校教育法で示された学力の3つの柱に対応していることがわかります。小学校と中学校では表記上の違いは若干ありますが、基本的な考え方は同じです。 学びに向かう力,人間性等 (3) 自然の事物・現象に進んで関わり、科学的に探究しようとする態度を養う。
育成することが重要な目標(ゴール)として位置付け 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 14 中学校を例に 柱書き 自然の事物・現象に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 従来の「理科の見方・考え方」は… 育成することが重要な目標(ゴール)として位置付け ここに示しているのは、中学校の目標に表記されている柱書きです。小・中のどちらにおいても、現行の学習指導要領と新学習指導要領には、「見方・考え方」ということばが用いられています。しかし、現行の学習指導要領と新学習指導要領では、この「見方・考え方」の捉え方に違いがあります。 現行では、科学的な見方・考え方を身に付けさせることがゴールです。 一方、新学習指導要領では、理科における資質・能力を身に付けさせるための「手段」という位置付けになっています。つまり、理科の見方・考え方を働かせながら、問題解決(探究活動)を行うことを通して、資質・能力を育成することがゴールです。 新しい学習指導要領における「理科の見方・考え方」は… 資質・能力を育成する過程で児童が働かせる 「物事を捉える視点や考え方」として位置付け 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(中:p.23)
「自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通 しをもって(中略) ~を目指す。」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 15 理科の「見方・考え方」の捉え 新(小学校) 「自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通 しをもって(中略) ~を目指す。」 新(中学校) 「自然の事物・現象に関わり、理科の見方・考え方を 働かせ、見通しをもって(中略) ~を目指す。」 自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係など科学的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること。 では、新しい学習指導要領で示された、理科の「見方・考え方」とはどのようなものか。これについて、「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編」には、このように示されています。 小学校も同様に考えることができます。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.12~14 中:p.12、23、24)
理科の「見方・考え方」 見方 考え方 比較 主として量的・関係的な視点 関係付け 主として質的・実体的視点 主として多様性と共通性視点 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 16 理科の「見方・考え方」 見方 考え方 「エネルギー」を柱とする領域 主として量的・関係的な視点 比較 複数の自然の事物・現象を対比させて比べる 「粒子」を柱とする領域 主として質的・実体的視点 関係付け 自然の事物・現象を様々な視点から結び付ける 組み合わせる 「生命」を柱とする領域 主として多様性と共通性視点 条件制御 変化させる要因と変化させない要因を区別する ここから、理科の「見方・考え方」について具体的に説明していきます。説明の前に、理科の「見方・考え方」について整理します。 「学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編」から、科学的な視点、つまり「見方」については、各領域の特徴から4点に、科学的に探究する方法、つまり「考え方」については、4点に整理できます。これらを組み合わせて、自然の事物・現象から見いだした問題を解決する学習活動(探究活動)を行い、資質・能力を育成することになります。 「地球」を柱とする領域 主として時間的・空間的視点 多面的に考える 自然の事物・現象を複数の側面から考える 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.22~25 中:p.16~19)
理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 17 理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 領 域 主として捉える視点 「エネルギー」を柱とする領域 量的・関係的な視点 「粒子」を柱とする領域 質的・実体的な視点 「生命」を柱とする領域 多様性と共通性の視点 「地球」を柱とする領域 時間的・空間的な視点 まず、科学的な視点、つまり「見方」についてです。 学習指導要領では、理科は「エネルギー」、「粒子」、「生命」、「地球」の4領域に区分されており、この4領域は、小学校から高等学校までを貫く構成となっています。 スライド16に示したように、それぞれの領域について、主として捉える視点はこのように整理できます。 「主として捉える視点」としているのは、それぞれの視点は各領域に固有ではないこと、他の視点も考えられることによるからです。これについては、後のスライドで説明します。 〇理科では学習内容を、上記 4領域 に区分 〇領域は、小学校~高等学校までを貫く構成 ※「主として捉える」としているのは・・・各領域に固有でない 他の視点もある 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.13、14 中:p. 11、12)
理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 18 理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 領 域 主として捉える視点 「エネルギー」を柱とする領域 量的・関係的な視点 「粒子」を柱とする領域 質的・実体的な視点 「生命」を柱とする領域 多様性と共通性の視点 「地球」を柱とする領域 時間的・空間的な視点 自然事象を、数値や状態が変化したときの関係に着目して見る 「エネルギー」を柱とする領域における、主として捉える視点は、「量的・関係的な視点」です。 「量的・関係的な視点」は、自然事象を数値や状態が変化したときの関係に着目してみる視点と考えることができます。 これは、小学校第5学年の「電流がつくる磁力」を例に示したものです。 ある量が大きくなると、それに伴って他の量が変化するという関係性が自然事象を見る視点になります。 例 小学校第5学年 「電流がつくる磁力」 電磁石の磁力の強さは、コイルに流れる電流の大きさが同じならば、コイルの巻き数が多いほど強くなるのだろうか?
理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 19 理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 領 域 主として捉える視点 「エネルギー」を柱とする領域 量的・関係的な視点 「粒子」を柱とする領域 質的・実体的な視点 「生命」を柱とする領域 多様性と共通性の視点 「地球」を柱とする領域 時間的・空間的な視点 自然事象を、物質の性質や状態に着目して見る 「粒子」を柱とする領域における、主として捉える視点は、「質的・実体的な視点」です。 「質的・実体的な視点」は、自然事象を物質の性質や状態に着目して見る視点と考えることができます。 これは、小学校第4学年の「金属、水、空気と温度」を例に示したものです。 水は、温度が変化すると姿(状態)が変化するという実態がありますが、水そのものが変化するわけではありません。 例 小学校第4学年 「金属、水、空気と温度」 水を熱したときに出てくるあわは、水が姿を変えたものであり、水そのものは変化していないのだろうか?
理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 20 理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 領 域 主として捉える視点 「エネルギー」を柱とする領域 量的・関係的な視点 「粒子」を柱とする領域 質的・実体的な視点 「生命」を柱とする領域 多様性と共通性の視点 「地球」を柱とする領域 時間的・空間的な視点 自然事象を、同じところ、違うところに着目して見る 「生命」を柱とする領域における、主として捉える視点は、「多様性と共通性の視点」です。 「多様性と共通性の視点」は、自然事象を同じところや違うところに着目して見る視点と考えることができます。 これは、小学校第3学年の「身の回りの生物」を例に示したものです。 昆虫は、種類によって形の違い、生活場所の違い等多様性がありますが、体の基本的なつくりには共通性があります。 例 小学校第3学年 「身の回りの生物」 モンシロチョウとカブトムシのからだを比べたとき、どんなところが違っているか? 反対に、同じところはないか?
理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 21 理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 領 域 主として捉える視点 「エネルギー」を柱とする領域 量的・関係的な視点 「粒子」を柱とする領域 質的・実体的な視点 「生命」を柱とする領域 多様性と共通性の視点 「地球」を柱とする領域 時間的・空間的な視点 自然事象を、時間の変化、空間の広がりに着目して見る 「地球」を柱とする領域における、主として捉える視点は、「時間的・空間的な視点」です。 「時間的・空間的な視点」は、自然事象を時間の変化や空間の広がりに着目して見る視点と考えることができます。 これは、小学校第6学年の「月と太陽」を例に示したものです。 月の形の変化について、月を毎日観察すると、つまり時間が変化すると、月の形の見え方が変化します。この変化は、時間の変化とともに月と太陽の位置関係が変化することによって起こる現象です。月の満ち欠けという現象を、時間と空間の視点で捉えることになります。 例 小学校第6学年 「月と太陽」 同じ時刻に月を見たとき、月の形の見え方が日によって変わるのは、空に見える月の位置が日によって変わることと関係があるのだろうか?
理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 22 理科を構成する領域ごとの特徴から整理した「見方」 領 域 主として捉える視点 「エネルギー」を柱とする領域 量的・関係的な視点 「粒子」を柱とする領域 質的・実体的な視点 「生命」を柱とする領域 多様性と共通性の視点 「地球」を柱とする領域 時間的・空間的な視点 ここに留意 領域固有のものではない(他の領域でも用いる) (例) 相同器官 ⇒ 生物特有の形・働きでも基本は同じ(多様性・共通性) 長い年月、生活する場所で変化(時間的、空間的) 原因と結果、部分と全体、定性と定量などの視点 各領域における、主として捉える視点はこれまでの説明の通りです。 先のスライドで触れている通り、「主として」とあるように、これらの視点による「見方」は、それぞれの領域に固有なものではありません。 例えば、中学校「生命」を柱とする領域で相同器官を学習します。生物のからだのつくりをみると、ある生物は前足、ある生物は翼というように、生物の種類により特有の形や働きがあります。しかし、基本的な骨格は同じです。これは多様性と共通性の視点です。一方、相同器官は、生物の進化の過程で変化したという「時間的な視点」や、生物が生活する場所に適した形や働きになったといった「空間的な視点」で捉えることもできます。 また、これまでに説明した視点以外にも、原因と結果を見る視点など、他の視点があることにも留意してください。
複数の自然の事物・現象を対応させて比べること 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 23 問題解決の過程で用いる「考え方」 「比較」とは 複数の自然の事物・現象を対応させて比べること 例 小学校第3学年 「太陽と地面の様子」 「 朝、昼、夕では、できるかげの向きを比べるとちがう向きにできるのは、太陽のいちが関係しているのではないか。」 太陽の位置と、建物や物によってできる影の位置を比較 次に、問題解決の過程で用いる、科学的に探究する方法、つまり「考え方」です。 「考え方」については、これまで理科で育成を目指してきた問題解決の能力をもとに整理されています。 「比較」については、「複数の自然の事物・現象を対応させて比べること」と整理されています。 例えば、小学校第3学年「(2)太陽と地面の様子」の「(ア)日陰は太陽の光を遮るとでき、日陰の位置は太陽の位置の変化によって変わること。」では、建物や物によってできる影を、時間ごとの位置に着目して継続的に観察し、差異点や共通点をもとにそれらを比較しながら、影の位置と太陽の位置の関係を見いだしていきます。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.13、14 中:p.11、12)
自然の事物・現象を様々な視点から結びつけること ・変化とそれに関わる要因を結びつけ ・既習の内容や生活経験と結びつけ 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 24 問題解決の過程で用いる「考え方」 「関係付け」とは 自然の事物・現象を様々な視点から結びつけること ・変化とそれに関わる要因を結びつけ ・既習の内容や生活経験と結びつけ 例 小学校第4学年 「電流の働き」 「 モーターの回る向きが変わったのは、かん電池をつなぐ向きを変えたことにより、電流の流れる向きが変わったからではないか。」 「関係付け」については、「自然の事物・現象を様々な視点から結びつけること」と整理されています。 例えば、小学校第4学年「(3)電流の働き」の「(ア)乾電池のつなぎ方を変えると、電流の大きさや向きが変わり、豆電球の明るさやモーターの回り方が変わること。」では、乾電池の数やつなぎ方を変えたときの豆電球やモーターの動作の様子に着目し、これらの変化と電流の大きさや向きとを関係付けて、電流の働きを見いだしていきます。 乾電池をつなぐ向きと電流の流れる向きを関係付け 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.13、14 中:p.11、12)
自然の事物・現象に影響を与えると考えられる要因について、どの要因が影響を与えるかを調べる際に、変化させる要因と変化させない要因を区別すること 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 25 問題解決の過程で用いる「考え方」 「条件制御」とは 自然の事物・現象に影響を与えると考えられる要因について、どの要因が影響を与えるかを調べる際に、変化させる要因と変化させない要因を区別すること 例 小学校第5学年 「植物の発芽、成長、結実」 「 種子の発芽には水が必要かどうかを確かめるためには、水の条件は変えて、空気と温度の条件は同じにする必要がある。」 「条件制御」については、「自然の事物・現象に影響を与えると考えられる要因について、どの要因が影響を与えるかを調べる際に、変化させる要因と変化させない要因を区別すること」と整理されています。 例えば、小学校第5学年「(1)植物の発芽、成長、結実」の「(イ)種子の発芽には、水、空気及び温度が関係していること。」では、身近な植物の種子の発芽の様子に着目して、水、空気、温度といった条件を制御しながら、種子が発芽するために必要な環境条件を見いだしていきます。 条件制御しながら、種子の発芽に必要な条件を見いだす
自然の事物・現象を複数の側面から考えること 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 26 問題解決の過程で用いる「考え方」 「多面的に考える」とは 自然の事物・現象を複数の側面から考えること 例 小学校第6学年 「水溶液の性質」 結果➀:鉄は塩酸にとけた 結果②:➀を加熱したあとに残ったものは、磁石につかなかった 結果③:アルミニウムは塩酸にとけた 結果④:③を加熱したあとに残ったものは、銀色ではなかった ➀~④から、塩酸は金属をとかすことができ、もとの金属とは別のものに変化させることができる。 「多面的に考える」については、「自然の事物・現象を複数の側面から考えること」と整理されています。 例えば、小学校第6学年「(2)水溶液の性質」の「(ウ)水溶液には、金属を変化させるものがあること。」では、水溶液に溶かした金属や水溶液から取り出した物に着目し、水溶液の性質や働きの違いを多面的に調べることを通して、水溶液と金属の関係を見いだし、水溶液の性質や働きについてより妥当な考えをつくりだし、表現していきます。 複数の側面から調べ、これをもとに関係性を見いだし、妥当な考えをつくりだして表現する
<小学校> 各学年で身に付けさせる「問題解決の力」 比較しながら調べる活動を通して 関係付けて調べる活動を通して 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 27 <小学校> 各学年で身に付けさせる「問題解決の力」 3年生 【比較】 4年生 【関係付け】 5年生 【条件制御】 6年生 【多面的に考える】 比較しながら調べる活動を通して 関係付けて調べる活動を通して 条件を制御しながら調べる活動を通して 多面的に調べる活動を通して 差異点や共通点を基に 既習の内容や生活経験を基に 予想や仮説を基に 問題を見いだし、表現すること 根拠のある予想や仮説を発想し、表現すること 解決の方法を発想し、表現すること より妥当な考えをつくりだし、表現すること 理科の「見方・考え方」は、「問題解決の力」の重要な部分であり、問題解決の過程を通して育まれるものです。 「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」には、小学校の各学年を通して育成を目指す問題解決の力が示されています。 この表は、各学年を通して育成を目指す問題解決の力をまとめたものです。 なお、これらの力は、それぞれの学年で中心的に育成するものでありますが、実際の指導に当たっては他の学年で掲げている力の育成にも十分に配慮することや、内容区分や単元の特性によって扱い方が異なること、中学校における学習につなげていくことにも留意する必要があります。 ※ その学年で中心的に育成するものであるが… ○ 他の学年で掲げている問題解決の力の育成についても十分に配慮する ○ 内容区分や単元の特性によって扱い方が異なる 〇 中学校における学習につなげていく 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.17、18、26 中:p.20)
<中学校> 「科学的に探究する力」 1年生 2年生 3年生 問題を見いだし見通しをもって観察、実験などを行い 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 28 <中学校> 「科学的に探究する力」 1年生 2年生 3年生 問題を見いだし見通しをもって観察、実験などを行い 見通しをもって解決する方法を立案して観察、実験などを行い 見通しをもって観察、実験などを行い 規則性、関係性、共通点や相違点、分類するための観点や基準 結果を分析して解釈し、規則性や関係性 その結果(や資料)を分析して解釈し、特徴、規則性、関係性 を見いだして表現する を見いだして表現する 探究の過程を振り返る 中学校では、小学校で身に付けた「問題解決の力」をベースに、科学的に探究する活動を通して、科学的な思考力、判断力、表現力等を育成することが求められています。 各学年における「科学的に探究する」ために必要な資質・能力はこのようにまとめられています。 〇 第2節で示されている各分野の内容(1)~(7)について、知識及び技能と思考力、判断力、表現力等とを相互に関連させながら、3年間を通じて科学的に探究するために必要な資質・能力の育成を目指す 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.26 中:p.20)
児童生徒自らが「理科の見方・考え方」を意識的に働かせながら、繰り返し自然の事物・現象に関わることで、 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 29 小 自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 児童生徒自らが「理科の見方・考え方」を意識的に働かせながら、繰り返し自然の事物・現象に関わることで、 【例】 第3学年 第4学年 第5学年 「風・ゴムの力の働き」→「電流の働き」→「電流がつくる磁力」 各学習活動で「見方・考え方」を働かせ、これが積み重なる 小学校学習指導要領解説には、「児童自らが『理科の見方・考え方』を意識的に働かせながら、繰り返し自然の事物・現象に関わることで、児童の『見方・考え方』は豊かで確かなものになっていき、育成を目指す資質・能力がさらに伸ばされていく」とあります。 例えば、次のような学習活動があります。 小学校第3学年「風・ゴムの力の働き」では、風やゴムの力と車が走る長さを量的・関係的視点で捉えて比較する学習活動。 小学校第4学年「電流の働き」では、乾電池の数やつなぎ方と豆電球やモーターの様子を量的・関係的視点で捉えて関係付ける学習活動。 小学校第5学年「電流がつくる磁力」では、電流の大きさや向き、コイルの巻き数と磁力の様子を量的・関係的視点で捉えて条件制御しながら考える学習活動。 これらの学習活動を通して、自然の事物・現象を「量的・関係的」視点という同じ視点で捉えつつ、各学年では比較や関係付けといった様々な考え方を働かせることになります。 このような学習活動を通して、自然の事物・現象を様々な角度から捉え、思考する幅が広がっていき、育成を目指す資質・能力が更に伸ばされていくと考えられます。 「見方・考え方」は豊かで確かなものになっていき、育成を目指す資質・能力が更に伸ばされていく 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.14 中:p.12)
○ 自らの活動としての認識をもつことになり、観察、実験が、児童自らの主体的な問題解決の活動となる。 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 30 小 自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 「見通しをもつ」ことの意義 ○ 自らの活動としての認識をもつことになり、観察、実験が、児童自らの主体的な問題解決の活動となる。 〇 一連の学習を自分のものとすることができる。 ○ 自らの考えを大切にしながらも、他者の考えや意見を受け入れ、様々な視点から自らの考えを柔軟に見直しその妥当性を検討する態度を身に付けることになる。 目標の「柱書き」に、「見通しをもって観察、実験を行うことを通して」とあります。現行の中学校学習指導要領では、「目的意識をもって」とありますが、平成29年に告示された学習指導要領から小学校と同じく「見通しをもって」と表記されています。 なぜ「見通しをもって」が明記されているのか。その意義としてこの3点が考えられます。端的に言えば、子供たちが学習の「主体者」であること、「他者と関わりながら学力を身に付けること」が、これからますます求められるということだと考えます。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.14、15)
主体的で対話的な学びが欠かせない。 再現性 を重視しながら問題解決 客観性 「問題を科学的に解決する」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 31 小 自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 ※下線部は、中学校は「科学的に探究するために必要な資質・能力」 「問題を科学的に解決する」 「問題を科学的に探究する」 ということは… 実証性 再現性 を重視しながら問題解決 客観性 主体的で対話的な学びが欠かせない。 「問題を科学的に解決」あるいは「探究する」ということは、自然の事物・現象についての問題を、実証性・再現性・客観性を重視しながら解決していくことです。 特に、客観性という点については、誰もが納得できるものであるべきということから、主体的で対話的な学びに強く関連していると言えます。
実証性、再現性、客観性とは? 実証性・・・ 考えられた仮説が観察、実験などによって検討することができるという条件 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 32 実証性、再現性、客観性とは? 実証性・・・ 考えられた仮説が観察、実験などによって検討することができるという条件 再現性・・・ 仮説を観察、実験などを通して実証するとき、人や時間や場所を変えて複数回行っても同一の実験条件下では同一の結果が得られるという条件 問題を科学的に解決あるいは探究するために重視する「実証性・再現性・客観性」については、「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編」ではこのように説明されています。 客観性・・・ 実証性や再現性という条件を満足することにより多くの人々によって承認され、公認されるという条件 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.16)
特に、「深い学び」の鍵をにぎるのは「理科の見方・考え方」 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 33 【主体的・対話的で深い学び】 単元などの「内容」、「時間」のまとまりを見通して 〇 学習の見通しを立てたり学習したことを振り返って自分の学びや変容を自覚する場面の設定 これらの視点で 授業改善 〇 対話によって自分の考えを広げたり深めたりする場面の設定 〇 児童生徒が考える、教師が教える場面の設定 平成29年に告示された学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」が重要なキーワードの1つになっています。 「主体的・対話的で深い学び」の視点で授業を改善することが求められています。 しかし、1単位時間の中ですべてを行うことは難しい状況があります。単元などの内容や時間のまとまりの中で、授業改善に取り組んでいきましょう。 その際、例えばここに示した3つの場面を、単元や時間のまとまりの中のどこに設定するかといった視点で、授業改善を進めていくことが求められます。 また、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進めるに当たり、特に「深い学び」について鍵となるのは「理科の見方・考え方」です。 「理科の見方・考え方」を学びの過程の中で働かせることを通じて、より質の高い深い学びにつなげていきましょう。 特に、「深い学び」の鍵をにぎるのは「理科の見方・考え方」 学びの過程(習得・活用・探究)の中で働かせることを通じて、より質の高い深い学びにつなげる。
・ 自然の事物・現象から問題を見いだし、見通しをもって課題や仮説の設定をしたり観察、実験を立案する学習場面を設定 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 34 【授業改善の視点】 ○ 「主体的な学び」の実現のために ・ 自然の事物・現象から問題を見いだし、見通しをもって課題や仮説の設定をしたり観察、実験を立案する学習場面を設定 ・ 観察、実験の結果を分析・解釈し、仮説の妥当性を検討したり全体を振り返って改善策を考えたりする学習場面を設定 ・ 得られた知識や技能を基に、次の問題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を捉えたりする学習場面を設定 ○ 「対話的な学び」の実現のために ・ 問題の設定や検証計画の立案、観察、実験の結果の処理、考察の場面などでは、あらかじめ個人で考え、その後、意見交換したり、根拠を基に議論したりして、自分の考えをより妥当なものにする学習場面を設定 では、「主体的・対話的で深い学び」にするための授業改善の視点は具体的にどのようなものでしょうか。 平成29年に告示された学習指導要領には、このように示されています。 「主体的な学び」、「対話的な学び」については、このような視点をもって授業改善を図ることが示されています。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.94 中:p.114 )
・ 「理科の見方・考え方」を働かせながら問題解決の過程を通して学ぶことにより、理科で育成を目指す資質・能力を獲得するようになっているか。 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 35 【授業改善の視点】 ○ 「深い学び」の実現のために ・ 「理科の見方・考え方」を働かせながら問題解決の過程を通して学ぶことにより、理科で育成を目指す資質・能力を獲得するようになっているか。 ・ 様々な知識がつながって、より科学的な概念を形成することに向かっているか。 ・ 新たに獲得した資質・能力に基づいた「理科の見方・考え方」を、次の学習や日常生活などにおける問題発見・解決の場面で働かせているか。 先のスライド33において、「深い学び」の鍵となるのは「理科の見方・考え方」であると説明しました。より質の高い深い学びとするために、具体的にはこのような視点をもって授業改善を図ることが示されています。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.94、95 中:p.114、115 )
○ 言語活動の充実 小学校学習指導要領 第4節理科 第3 2の(1) 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 36 ○ 言語活動の充実 小学校学習指導要領 第4節理科 第3 2の(1) 問題を見いだし、予想や仮説、観察、実験などの方法について考えたり説明したりする学習活動、観察、実験の結果を整理し考察する学習活動、科学的な言葉や概念を使用して考えたり説明したりする学習活動などを重視することによって、言語活動が充実するようにすること。 中学校学習指導要領 第4節理科 第3 1の(3) 問題を見いだし、観察、実験を計画する学習活動、観察、実験の結果を分析し解釈する学習活動、科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動などが充実するように配慮すること。 「主体的・対話的で深い学び」であるためには、言語活動は欠かせません。平成29年に告示された学習指導要領においても、ここに示す通り、引き続き「言語活動の充実」の必要性が明示されています。 理科における言語活動を充実させていくことにより科学的な思考力・判断力が高まっていき、このことが「主体的・対話的で深い学び」につながっていきます。 理科における言語活動の際に、特に大切にしなければならないことは、科学的な概念を使用して考えたり説明したりする力を身に付けさせることだと考えます。そのためには、日頃の学習活動において科学的な概念を使って考えたり、説明したりすることを意識した活動を意図的に取り入れていくことが必要です。授業におけるこのような活動の積み重ねにより、思考を習慣化させていきたいものです。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.98、99 中:p.123 )
「問題を見いだし、観察、実験を計画する」とは 平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 37 ○ 言語活動の充実 「問題を見いだし、観察、実験を計画する」とは 「学習問題を設定」、「予想・仮説を立てて検証方法を考える」場面 〇 疑問や予想などを自分の言葉で表現できるようにする 「観察、実験の結果を分析し、解釈する」とは 「結果をまとめる」、「結果から考察する」場面 〇 予想や仮説と関連付けながら自分の言葉で説明する活動を、グループや学級全体の話合いの中で繰り返し行う 平成29年に告示された学習指導要領において、言語活動の充実として「科学的な用語や概念を使用して考えたり説明したりする学習活動」等の学習活動が示されています。 それぞれの学習活動は、理科の学習過程において、例えばこれらの学習の場面が考えられます。それぞれの場面において、〇で示していること等に留意しながら言語活動を充実させていくことが大切であると考えます。 科学的な概念を使用して考えたり説明したりする」とは 「結論付ける」、「振り返り」場面 〇 科学的な用語や概念を使用して、自分の言葉で説明する
平成29年告示 学習指導要領 改訂のポイント 38 ○ 言語活動の充実 こんな力を付けさせましょう 既に知っていることや観察・実験の結果、及びそれまでに学習した科学的な言葉や概念を基に、他の人たちが納得するような説明ができる力 他の人の説明を聞き、筋道が通っているか、自分の考えとどこが同じ(違う)か、みんなが納得できるものかどうかなどを判断できる力 スライド36で、「理科における言語活動の際に特に大切にしなければならないことは、科学的な概念を使用して考えたり説明したりする力を身に付けさせることだと考えます。」と説明しました。言語活動の充実を図った学習過程を通して、児童生徒にこのような力を身に付けさせていきたいものです。指導者は、学習過程においてこれらの力を発揮する場面を設定するとともに、確実に見届ける必要があります。
学力調査の結果から見る 本県の児童生徒の課題 39 では、本県の児童生徒の実態はどうでしょうか。 では、本県の児童生徒の実態はどうでしょうか。 ここからは、学力調査の結果からわかる本県の児童生徒の現状について見ていきます。
〇 学習問題と正対(正確に対応)した結論を導き出すこと 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 40 (1) 全国学力・学習状況調査、みやざき小中学校学習状況調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 〇 基礎・基本である知識の定着 〇 基礎的な実験技能の習得 〇 学習問題と正対(正確に対応)した結論を導き出すこと 〇 観察、実験の見通しを立てること 全国学力・学習状況調査では、理科に関する調査は小学校第6学年及び中学校第3学年を対象として、平成24年、27年、30年に実施されています。 また、みやざき小中学校学習状況調査は、中学校第1学年、第2学年を対象に毎年実施されています。中学校1年生の調査問題は小学校第3学年~第6学年で学習した内容の定着のようすを、中学校2年生の調査問題は中学校第1学年で学習した内容の定着のようすをはかるものとなっています。 これらの調査結果を分析したところ、概ねここに示した4点が宮崎県の児童生徒の課題として明らかになりました。 次のスライドから、学習状況調査から明らかになった課題をいくつか確認していきます。
(2) 全国学力・学習状況調査の結果から (平成30年度に実施された調査から、特徴 的なものを一例として) 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の現状 41 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から (平成30年度に実施された調査から、特徴 的なものを一例として) まず、「全国学力・学習状況調査」の結果から明らかになった課題について、特徴的なものをいくつか見てみましょう。
2 小学校:原因と結果の視点で捉えて分析すること (3) 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 42 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から 小学校:原因と結果の視点で捉えて分析すること 2 (3) これは小学校の設問です。 小学校第5学年「B 生命・地球 (3)流水の働き」で学習した内容に関する設問です。 溝を流れる水の量と溝の削られ方について、より妥当な考え方をつくりだすために、実験結果を基に分析して考察し、その内容を記述できるかどうかをみることが主なねらいです。
正答率 県 20.0%(全国20.2%) 無解答率 県 0.4%(全国 0.1%) 標準解答 【番号】 1 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 43 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から 標準解答 【番号】 1 【わけ】 2本のペットボトルの水を同時に流して、水の量を増やすと、みぞの曲がっているところの外側と内側の両方とも棒がたおれたから 正答率 県 20.0%(全国20.2%) 無解答率 県 0.4%(全国 0.1%) この設問から明らかになった課題 ・ 原因を的確に捉えておらず、原因と結果の視点で捉えて分析し、考察したことを説明することができない。 ・ これまでに獲得した知識(内側は堆積、外側は侵食)を基に解答しており、実験結果を基に分析して考察していない。 標準解答はこのように示されています。 平均正答率は、全国、県ともに約20%です。 児童は「流水の働き」の学習を通して、この設問の状況のように曲がったところを水が流れるとき、流れが速い外側では地面が削られ、流れが遅い内側では土が積もることを知識として獲得しています。 誤答の分析から、「3 外側がけずられる」を選択している児童が約半数おり、実験結果を基に分析・考察を行って解答しているのではなく、獲得した知識を基に解答している児童の実態が明らかになっています。 宮崎県の児童も同様の傾向が見られるのではないかと考えます。
4 中学校:基礎的な実験技能(条件制御)の習得と活用 (2) 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 44 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から 中学校:基礎的な実験技能(条件制御)の習得と活用 4 (2) これは中学校の設問です。これまでの学習を通して身に付けた、「条件制御」に関する力を見る問題です。 実験を計画する際、「変える条件」と「変えない条件」を適切に制御することは、適切な実験結果を得るために重要な実験技能の1つと捉えることができます。 ガスバーナーの空気の量を変えて炎の色と金網に付着するススの量を調べる実験を計画する際に、適切な条件制御となるように、「変えない条件を」指摘することができるかどうかを見ることが主なねらいです。
正答率 県 41.7%(全国44.5%) 無解答率 県 13.3%(全国15.2%) 標準解答 金網の位置 金網と炎の距離 金網の種類 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 45 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から 標準解答 金網の位置 金網と炎の距離 金網の種類 金網を炎に当てる時間 等 正答率 県 41.7%(全国44.5%) 無解答率 県 13.3%(全国15.2%) この設問から明らかになった課題 ・ 空気の量は「変える条件」であるが、これを変えることによって起こることを指摘していることから、「変えない条件」がわからない。 ・ 表1にある「変える条件」、「変えない条件」として示している条件をそのまま挙げていることから、条件制御の知識・技能を活用することができていない。 標準解答として、金網の位置(高さ)に関する視点、炎に当てる時間に関する視点から、このように示されています。 平均正答率は、全国が約45%、県が約42%です。 標準解答のように、いくつかの要素から1つだけ解答すればよい設問であるものの、無回答率(何も書かない・書けない)が高い傾向にあります。 条件制御に関しては、スライド25で説明しています。主に小学校第5学年で中心的に育成するものでありますが、他の学年においても育成する必要があり、中学校における学習につながっていくことにも留意する必要があります。 誤答の分析から、ここに挙げた2点が課題として明らかになっており、宮崎県の生徒についても同様の傾向が見られると考えられます。
6 中学校:基礎・基本である知識の定着及び計算力 (2) 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 46 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から 中学校:基礎・基本である知識の定着及び計算力 6 (2) 中学校の設問をもう1つとりあげます。 中学校では、考察の際、実験によって得られた数値を演算処理することにより、関係性をより明確に導き出すことがあります。 密度、圧力、電流・電圧・電気抵抗の関係、化学変化と質量の関係、運動とエネルギーの関係などがこれに当たります。 この設問は、表1の結果から必要なデータを読み取ることができるか、また、オームの法則を使って豆電球の抵抗の大きさを求めることができるかどうかを見ることが主なねらいです。
正答率 県 48.4%(全国52.3%) 無解答率 県 12.7%(全国14.3%) 標準解答 【電流】 0.60A 【抵抗の値】 5.0Ω 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 47 (2) 全国学力・学習状況調査の結果から 標準解答 【電流】 0.60A 【抵抗の値】 5.0Ω 正答率 県 48.4%(全国52.3%) 無解答率 県 12.7%(全国14.3%) この設問から明らかになった課題 ・ 必要な値(電流の値と電圧の値)を表から読み取る力は身に付いているが、オームの法則を使って求めるという知識は身に付いていない。 ・ 必要な値(電流の値と電圧の値)を表から読み取る力、オームの法則を使って求める知識は身に付いているが、位取りに注意して計算することができない。 表を正しく読み取れば、電流の値はわかります。オームの法則に当てはめて計算すれば、抵抗の値を求められます。 平均正答率は、全国が約52%、県が約48%です。 課題として大きく2点が考えられます。 第1に、中学校の学習内容であるオームの法則を使って求めるという知識が身に付いていないこと 第2に、位取りに注意して計算するなど、小学校段階で身に付けておくべき四則計算の技能が身に付いていないこと 宮崎県が独自に実施している「みやざき小中学校学習状況調査」においても、計算に課題があることが明らかになっています。
学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 詳しくは、国立教育政策研究所HPで 48 詳しくは、国立教育政策研究所HPで ② 中学校は ここをクリック ➀ 小学校は ここをクリック 平成30年度に実施された全国学力・学習状況調査の分析や授業改善のポイント等について、詳細は「国立教育政策研究所」のホームページに掲載されている資料をご覧ください。 ➀と②については、各学校に冊子が配付されています。お手元に無い場合は、電子版がここからダウンロードできます。 また、③をクリックすると、各都道府県の調査結果のページに移動します。 ③ ここをクリックすると、各都道府県の調査結果に移動します。 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html
ここをクリック 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 詳しくは、国立教育政策研究所HPで 49 スライド48で示した③をクリックすると、このページに移動します。 右下の方に「45 宮崎県」とありますので、ここをクリックすると小・中それぞれについて本県の調査結果が確認できます。 ここをクリック
授業改善のヒントになる資料 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 詳しくは、国立教育政策研究所HPで 小学校版です 中学校版です 50 国立教育政策研究所は、平成30年度に実施した全国学力・学習状況調査の結果を踏まえ、授業づくりのヒントとなる「授業アイデア例」を作成し、各小中学校に配付しています。左が小学校版、右が中学校版です。 どちらの資料も電子版がホームページにアップされていますので、お手元に冊子が無い場合は、電子版をダウンロードしてご活用ください。
授業改善のヒントになる資料 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 詳しくは、国立教育政策研究所HPで パッケージ表 パッケージ裏 51 全国学力・学習状況調査の調査結果を踏まえた理科の学習指導の改善・充実に関する指導事例集 パッケージ表 パッケージ裏 また、国立教育政策研究所は、平成27年度に実施した全国学力・学習状況調査の結果を踏まえて作成した視聴覚資料「全国学力・学習状況調査の調査結果を踏まえた理科の学習指導の改善・充実に関する指導事例集」を、平成29年3月に各小中学校に配付しています。 小学校は6事例が、中学校は7事例が映像資料として収められていますので、こちらも参考にしてください。
(3) みやざき小中学校学習状況調査の結果から 52 (3) みやざき小中学校学習状況調査の結果から (特徴的なものを一例として) 次に、本県が独自に実施している「みやざき小中学校学習状況調査」の結果から明らかになった課題について、特徴的なものをいくつか見てみましょう。
標準解答 ア 正答率 44.5% 無解答率 0.5% 基礎・基本である知識の定着 【例】水がふっとうしたときに出てくるあわの正体 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 53 (3) みやざき小中学校学習状況調査の結果から 基礎・基本である知識の定着 【例】水がふっとうしたときに出てくるあわの正体 図3 フラスコの中で水が沸騰しているようすを示した図 児童の素朴概念・・・「蒸気は白い」 「水中でぶくぶくするものは空気」 教科書の実験の結論・・・ 「あわの正体は空気ではない」 「あわの正体は水蒸気である」という正しい科学概念が定着せず。 これは、中学校第1学年に出題された「知識・技能」の枠組みのうち、基礎的・基本的な知識を問う問題として「水が沸騰したときに出てくるあわの正体は何か」を選択する問題です。 中学校の調査問題に出題されていますが、これは小学校第4学年の学習内容です。 子供たちは、学習の前に、「白い湯気は水蒸気」、「沸騰しているときに、水中に見られるあわは空気」といった素朴概念をもっていると考えます。 ここでの学習を通して、「水蒸気は水が気体の状態のものであり、目には見えない」ことを学習します。しかし、半数以上の子供たちにとって、正しい科学概念が定着していないという結果がうかがえます。 平均正答率は44.5%でした。 標準解答 ア 正答率 44.5% 無解答率 0.5%
〇 経年比較で見ても正答率が低い傾向にある 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 54 (3) みやざき小中学校学習状況調査の結果から 基礎的な実験技能の習得 【例】 顕微鏡の使い方に関すること 標準解答 イ → ウ → エ → ア 正答率 18.4% 無解答率 0.2% これも、中学校第1学年に出題されたものです。「知識・技能」の枠組みのうち、基礎的・基本的な技能を問う問題として、顕微鏡の使い方として正しい手順に並べかえる問題です。顕微鏡は、小学校、中学校共に観察器具としてその使い方の定着が求められるものの1つです。 このときの平均正答率は、18.4%でした。顕微鏡の使い方に関する問題は経年比較問題として毎年のように出題されていますが、例年20%前後の正答率であることから、小学校段階において正しい実験器具の操作が定着していないことがうかがえます。また、この傾向は小学校だけでなく中学校にも見られます。 〇 経年比較で見ても正答率が低い傾向にある 〇 小学校、中学校ともに正答率が低い傾向にある
正答率 32.1% 無解答率 12.8% 学習問題と正対した結論を導き出すこと 問いと結論が一致していない。 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 55 学習問題と正対した結論を導き出すこと 問いと結論が一致していない。 日頃の授業で意識していなければ気付かない。 これは、中学校第2学年に出題された、「活用」に関する枠組みの問題です。基礎的・基本的な知識・技能を活用し、観察・実験の結果などの根拠に基づいて、自らの考えや他者の考えに対して、多面的、総合的に思考して、検討して改善することを問います。 ここでは、結論が正しくないため、学習問題に対する正しい結論となるよう改善することを問うています。 結果と結論を比べると、結論に書かれていることは間違いではありません。実験結果からは「6 結論」に書かれていることもいえます。しかし、ここで求められているのは、「学習問題」に対する結論です。日頃の授業において、学習問題を意識して観察・実験を行い、結果を得て、学習問題を意識しながら考察を行うといった学習活動を行っていなければ、どこに誤りがあるのかに気付かないでしょう。 また、この問いは記述式ですが、無解答率が約13%と高い状況にあることから、書く行為そのものに抵抗を感じている生徒が多いことが予想されます。 標準解答 深さを深くしても、浮力の大きさは変化しない。 正答率 32.1% 無解答率 12.8%
観察、実験の見通しを立てること 裕史君の予想 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の課題 56 (3) みやざき小中学校学習状況調査の結果から 観察、実験の見通しを立てること この考えをもとに これも、中学校第2学年に出題された、「活用」に関する枠組みの問題です。予想を確かめるためにはどの実験結果を比較すべきかを選択する問題です。裕史君は、グループの話合いの中で、浮力の大きさは「重さ」に関係しているのではないかと述べています。そしてこの考えをもとに予想を立てています。 浮力の大きさは物体の体積に関係しているので、裕史君の予想は科学的には間違っています。 裕史君の予想
標準解答 ② 正答率 67.7% 無解答率 2.8% 観察、実験の見通しを立てること 裕史君の予想は、「『重さ』に関係しているだろう。」 学力調査の結果から見る本県の児童生徒の現状 57 (3) みやざき小中学校学習状況調査の結果から 観察、実験の見通しを立てること 裕史君の予想は、「『重さ』に関係しているだろう。」 実際の授業において、予想が正しいのか、間違っているのかは観察や実験を行うことで確かめられることです。実験の前に、自分の予想が正しければどのような結果になるのかを考えること、つまり見通しをもつことが大切です。実験を行っているときに、どこに注目すべきかについての見通しをもたせておくと、「何をやっているのかわからない。」という生徒が少なくなります。条件を制御して実験を行う場合は、その意味をしっかりと把握させておくことが大切です。 全体の約2/3の生徒が正答であることから、先生方の指導が生徒によく理解されていると考えられます。一方、選択式の問題であるにも関わらず、2.8%の生徒が記号を書くことができていません。十分時間を確保して話し合わせ、観察や実験の見通しをもたせる学習活動を取り入れるとよいでしょう。 標準解答 ② 正答率 67.7% 無解答率 2.8% 正解ではないかも知れない予想に対し、「正しければこうなるはず」といった見通しがもてない。
58 理科の授業づくりの 基礎・基本 では、「全国学力・学習状況調査」や「みやざき小中学校学習状況調査」から明らかになった本県の課題や、学習指導要領の趣旨を、これからの理科の授業づくりにどのように生かしていけばよいでしょうか。
理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です。 予想・仮説の設定 59 理科の授業づくりの基礎・基本 自然事象への働きかけ 疑問をもつ 問題把握・設定 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です。 予想・仮説の設定 検証計画の立案 観察・実験 結果の整理 はじめに、理科学習の基本的な流れを押さえます。理科の学習過程は、問題解決・探究の流れが基本であると考えます。 次からのスライドで、各学習場面の留意点等について説明していきます。 日常生活 の見直し 考 察 結論の導出・問題の解決
導入(自然事象との出会い)により、いかに児童生徒の心を掴むか・揺さぶるかが大切 理科の授業づくりの基礎・基本 60 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 自然事象への働きかけ 疑問をもつ 導入(自然事象との出会い)により、いかに児童生徒の心を掴むか・揺さぶるかが大切 【導入の役割】 ① これから展開する学習内容への興味・関心を高める。 ② 課題を明確にし、目的意識を高める。 ③ 既習事項を確認し、これからの学習に備える。 ④ 児童生徒の実態を把握する。 など まず、「自然事象への働きかけ」「疑問をもつ」場面です。 自然事象を学習の対象としている理科にとって、自然事象にふれ、その中から疑問をもつことはとても大切です。 ヒトの脳の本能には、「知りたい」という欲求があり、脳の力(理解力・思考力・記憶力)は、最初の感情によってそのパフォーマンスが左右されるそうです。つまり、脳が機能するために対象に対するプラスの感情(興味・関心)をもつことが大切になります。 このことから、導入により、いかに児童生徒の心をつかむか、揺さぶるかが学習に大きな影響を与えると言えるでしょう。 ここに示した➀、②は、この役割を担うことになると考えます。 また、他の視点でみると、学習者にとっては既習事項の確認の役割、指導者にとっては児童生徒の反応を確認し、この後の学習指導過程に反映させるなどの役割もあると考えます。
効果的な導入で児童の知的好奇心を喚起 【導入の手立て】 〇 日常生活や身近な話題、題材を使って行う。 〇 (簡単な)観察・実験を行う。 理科の授業づくりの基礎・基本 61 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 自然事象への働きかけ 疑問をもつ 効果的な導入で児童の知的好奇心を喚起 【導入の手立て】 〇 日常生活や身近な話題、題材を使って行う。 〇 (簡単な)観察・実験を行う。 〇 モデルを使って行う。 〇 視聴覚教材を使って行う。 (例)写真、動画、インターネットで公開されているデジタルコンテンツ など 小学校は45分、中学校は50分の限られた時間の中において、導入にかける時間はそう多くはとれません。 時間・内容ともに効果的な導入を行い、児童生徒の知的好奇心を喚起することが大切です。 理科では、ここに示した4つの手立てについて、単元や学習内容に応じて工夫しながら行っていくとよいでしょう。もちろん、ここに示した4つがすべてではなく、これ以外の導入の手立てもあると思います。
導入で自然事象を提示し、素朴な疑問を出す 理科の授業づくりの基礎・基本 62 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 問題把握 ・設定 観察・実験によって解決(検証)可能なものとして設定することが重要 導入で自然事象を提示し、素朴な疑問を出す 観察や実験によって科学的に検証可能である、具体的な 「学習問題」につくり直す 科学的に検証可能な学習問題になっているかチェック しましょう。 「~を調べよう」等のスローガン的なめあて 「なぜ~」等の抽象的で大きな問い などは要改善 次に、「問題把握・設定」の場面です。 問題解決的な学習を行う上で、学習問題をどのように設定するかは、大変重要です。理科における学習問題は、観察・実験によって検証できるものになることが大切です。 学習問題の設定の仕方について考えてみましょう。 学習者は導入の場面で、本時の学習に密接なつながりのある自然事象にふれます。この場面で、これまでの自分自身の経験や既習事項では説明することのできない現象に出会い、素朴な疑問をもつようになります。 この素朴な疑問をきっかけに、観察や実験によって科学的に検証することのできる「問い」にしていきます。 教科書には「~だろうか」といった表記で問いが設定されています。従って、学習者の疑問が教科書の問いと一致する場合は、この問いをそのまま使うことも可能でしょう。しかし、教科書に記載してある問いをそのまま児童生徒に提示しても、それが解決可能な具体的な形になっていなかったり、児童生徒の実態に合わなかったりする場合もあります。そのような場合は、児童生徒の疑問を基に、解決可能な具体的な「学習問題」につくり直す必要があります。 教科書に記載してある問いをそのまま提示するだけでは、児童生徒にとって、自分自身の問題として認識されにくいことがあります。
理科は「めあて(スローガン)」ではなく「学習問題」 理科の授業づくりの基礎・基本 63 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 問題把握 ・設定 理科は「めあて(スローガン)」ではなく「学習問題」 例 小学校 第5学年「ふりこのきまり」 「ふりこが1往復する時間が変わるときの条件を 調べよう」 ※これを解決すべき学習問題とするとき、この学習問題に対する結論は何? 小学校5年生の学習「ふりこのきまり」の「ふりこが1往復する時間」を例に挙げてみます。 ここでは、ふりこが1往復する時間に関係しているのはふりこの長さであることを、実験を通して見いだすことが主なねらいです。 もし、学習問題を「ふりこが1往復する時間が変わるときの条件を調べよう」としたとき、これに対する結論はどうなるでしょうか。 「調べよう」が学習問題なので、ここの学習を通してのねらいである「ふりこが1往復する時間は、ふりこの長さに関係する。」に必ず結び付くとは言えません。 また、教科書には「ふりこが1往復する時間は、どんな条件で変わるのだろうか。」とあり、ここに示している「ふりこの長さ」の他、「ふりこのふれはば」、「ふりこの重さ」という3つの条件が示されています。学習者の実態に応じて、学習問題を3つに分けて検証していくなど、工夫が必要です。 解決可能な「学習問題」へ 「ふりこが1往復する時間は、ふりこの長さによって 変わるのだろうか」
理科は「めあて(スローガン)」ではなく「学習問題」 理科の授業づくりの基礎・基本 64 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 問題把握 ・設定 理科は「めあて(スローガン)」ではなく「学習問題」 例 中学校 第2学年「動物の生活と生物の進化」 「唾液のはたらきについて調べよう」 解決可能な「学習問題」へ 「口からとり入れた食物のうち、デンプンは唾液によって何に変化しているのだろうか」 中学校2年生の「動物の生活と生物の進化」の「生命を維持する働き」のうち、「唾液のはたらき」に関する学習を例に挙げてみます。 ここでは、私たちが取り入れる食物のうち、デンプン(炭水化物)は、唾液等にふくまれる消化酵素によってブドウ糖などの吸収されやすい物質に変わることを、実験を通して見いだすことが主なねらいです。 学習問題を「唾液のはたらきについて調べよう」としたとき、「調べよう」が学習問題なので、ここの学習を通してのねらいに必ず結び付くとは言えません。
○ 「はい」「いいえ」等で回答可能な学習問題 理科の授業づくりの基礎・基本 65 どのような学習問題を設定すればよいか ○ 「はい」「いいえ」等で回答可能な学習問題 ・・・ 種子が発芽するために、空気は必要なのだろうか ○ 「~はどちらか」等の二者択一、三者択一の学習問題 ・・・ どちらが上流で、どちらが下流だろうか ○ What、Where、When等に関する学習問題 ・・・ 水がふっとうしたときに出てくるあわは何だろうか ○ 「どのような」等の大きな学習問題は、いくつかに分解 流れる水の量が増えると、はたらきはどうなるのだろうか ① 流れる水の量が増えると、流れの速さは速くなるのだろうか ② 流れる水の量が増えると、地面のけずられ方は大きくなるのだろうか ③ 流れる水の量が増えると、土の積もる量は多くなるのだろうか 学習問題を適切に設定するためには、指導者が児童生徒に対して学習活動を通して何を身に付けさせるかを明確にし、学習者の実態に応じて「学習問題」を設定することが大切です。 小学校では、各学年における発達の段階を考慮し、「はい」「いいえ」で回答できるようなものや二者択一のようなものがよい場合が多くあります。 また、教科書の「学習問題」は、「どんな~」や「どのように~」等、大きな問いが多く記載してあります。先にも述べましたが、教科書の「学習問題」には複数の要素が含まれているものがあります。これをそのまま学習問題にすると、いろいろな観点から予想をする必要があり、児童生徒が混乱します。そのような場合は、「学習問題」をいくつかに分解して、観点を整理すると児童生徒にとってわかりやすく、予想や観察・実験の計画も行いやすくなるでしょう。
理科は「めあて(スローガン)」ではなく「学習問題」 理科の授業づくりの基礎・基本 66 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 理科は「めあて(スローガン)」ではなく「学習問題」 【学習問題を設定するための視点】 〇 身に付けるべき学習内容が組み込まれているか 〇 調べることが明確な問いになっているか 〇 問題解決の資質・能力の育成が図られるか 〇 見通しをもって追究できるか 学習問題を設定する際には、ここに挙げた4点についてしっかりと吟味していくことが大切です。
観察、実験の見通しにつながる 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 予想・仮説の設定 検証計画の立案 理科の授業づくりの基礎・基本 67 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 予想・仮説の設定 検証計画の立案 学習問題に対して立てた予想が正しいかどうかを検証するために、どのような観察、実験を行えばよいのか、自分たちで計画書を作成させる 観察、実験の見通しにつながる 次に、「予想・仮説の設定」の場面です。 先のスライド56、57で、学習状況調査から、観察、実験の見通しを立てることに課題が見られると説明しました。 「問題解決」「探究」の学習活動を進めるにあたり、学習問題に対して見通しをもって取り組めるようにするためには、予想に対してどのような観察・実験を行えばよいかを自分たちで計画させる活動を行うことが有効であると考えます。 その際、自分が考えた予想が正しいならば、どのような結果がでればよいかを考えさせるようにします。また、考察の段階では、自分が考えた予想を想起させ、結果を基に予想が正しかったかどうかを検討させることも、あわせて行うようにすることが大切です。 観察、実験の計画書を作成するときに、自分の予想が正しければどのような結果になるかを考えさせる 考察の段階において、結果を基に予想が正しかったかどうかを検討させる
妥当な結論 適切な観察、実験の操作 正確な観察、実験結果 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 観察・実験 理科の授業づくりの基礎・基本 68 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 観察・実験 妥当な結論 適切な観察、実験の操作 正確な観察、実験結果 小 児童が問題解決の過程において、解決したい問題に対する結論を導き出す際、重要になるのは、観察、実験の結果である。観察、実験などに関する技能を身に付けることは、自然の事物・現象についての理解や問題解決の育成に関わる重要な資質・能力の一つである。 「観察・実験」の場面です。 妥当な結論を導き出すためには、正確な観察や実験の結果が必要であり、そのためには適切な観察や実験の操作(技能)が身に付いていることが大切です。 理科における技能に関することについては、学習指導要領(平成29年告示)解説にはこのように記されています。 中 観察、実験などに関する基本的な技能については、探究の過程を通して身に付けるようにすることが大切である。 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.17 中:p.23、24 )
妥当な結論 自然の事物・現象に対する興味・関心 のための客観的事実を収集 を高める どちらか一方ではなく、両方を大切にした観察、実験の 理科の授業づくりの基礎・基本 69 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 観察・実験 自然の事物・現象に対する興味・関心 妥当な結論 のための客観的事実を収集 を高める どちらか一方ではなく、両方を大切にした観察、実験の 在り方を指導者は意識し、実践する 多くの児童生徒は、理科の授業の楽しみの一つとして「観察、実験」を挙げます。「観察、実験」が理科の魅力の一つであることは確かなことです。 理科学習における「観察、実験」は、何のために行うのでしょうか。 自然の事物・現象に対する興味・関心を高めるという側面もありますが、学習問題に対して、自分の考えた予想(仮説)が正しいかどうかを判断し、学習問題に対する妥当な結論を導き出すための「客観的事実を収集する」という側面もあると考えます。そして指導者は、その両方を大切にした指導の在り方を意識し、実践しなければならないと考えます。 スライド56、57で説明しましたが、実験の前に、自分の予想が正しければどのような結果になるのかを考えること、つまり見通しをもつことが大切です。見通しをもつことができれば、何のために観察・実験を行うのかという観察、実験に対する目的をもつことができ、「観察(実験)は楽しかったけど、何のために、何をやっているのかわからなかった。」という児童生徒は少なくなると考えます。目的を明確にすることで、観察、実験の楽しさをより深く感じることになるのではないでしょうか。 (目的を明確にする=観察、実験の楽しさがより深まる)
予備実験、点検等を丁寧に行うことが重要! 理科の授業づくりの基礎・基本 70 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 観察・実験 妥当な結論 適切な観察・実験の操作 正確な観察・実験結果 児童生徒に適切な観察・実験の技能を身に付けさせるためには・・・ 指導者(教師)自身が適切な観察・実験の操作ができる 学習問題に対する妥当な結論を導き出すための「客観的事実を収集する」という側面に着目して説明していきます。 「客観的事実を収集する」ためには、児童・生徒に適切な観察・実験の技能を身に付けさせることが大切であり、このために指導者が行うべきことはいろいろありますが、まずは、指導者自身が観察・実験の操作や安全面をよく理解し適切な操作が行えることが大切です。 そして、指導者自身が観察・実験の操作を理解し、適切な操作を行うためには予備実験や安全点検などを丁寧に行うことが絶対に欠かせません。 予備実験、点検等を丁寧に行うことが重要!
予備実験、点検等を丁寧に行うことが重要! 理科の授業づくりの基礎・基本 71 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 観察・実験 予備実験、点検等を丁寧に行うことが重要! チェックポイント(一例) 〇 使用する薬品の特性、濃度、量の確認 〇 使用する器具の点検(器具の破損、測定機器の正確さ、器具の必要数の確認等) 〇 すべてのグループが同時に実験を行った場合の危険要素の予測と対応の検討 〇 事故が起こった場合の応急処置と、その後の対応の検討 ここに挙げているのは、予備実験におけるチェックポイントの一例です。 たとえば、薬品を使用する実験を行う場合、使用する薬品の濃度や量によって実験結果は変わってきます。適切な実験結果のためには適切な薬品の濃度と量を把握し、実際に適切な結果が生じるか、時間はどれくらいかかるのか等を確認しておく必要があります。見方をかえれば、予備実験を行うことで「子供がつまずくポイント」を予め把握することができ、学習指導過程に生かすことができます。 また、このことは適切な実験結果という側面以外に、安全性を確認することからも非常に重要です。濃度や量を誤ってしまうと、急激に激しい反応が起こったり、有害な物質が多量に発生したりする危険性もあります。 すべてを紹介することはできませんが、ここに挙げた以外にも、予備実験の意義はたくさんあります。教師自身がこの実験は何度も扱っているので慣れているとか、予備実験を行う時間的なゆとりがなかったとか、様々な理由により予備実験を行わずに授業に臨むということがないよう、十分留意すべき点ではないかと考えます。事故は起こってからでは手遅れです。 〇 野外観察における安全策や緊急時の対応の検討 など 学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(小:p.103 中:p.130~134 )
学習問題と正しく対応する結論となるためには、「学習問題(解決すべき問題)」は何だったのかを 確認することが重要 理科の授業づくりの基礎・基本 72 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 結論の導出 問題の解決 結果の整理 考 察 学習問題と正しく対応する結論となるためには、「学習問題(解決すべき問題)」は何だったのかを 確認することが重要 結論の導出 問題の解決 日常生活 の見直し 新たな疑問 (次の探究)へ 最後に、「結果の整理」から「考察」、「日常生活の見直し」の場面です。 観察の結果が無秩序に並んでいたり、実験の結果が単なる数値の羅列であったりすると、その中から規則性や関係性を見いだすことが難しくなることがあります。観察、実験結果は、学習問題に対する妥当な結論を導き出すための大切な役割があります。表やグラフに表したり、共通点や相違点を分類して記述したりするなど、目的に応じたより適切な結果の整理について指導を行うことが必要です。 適切な観察、実験結果が得られれば、これをもとに考察・結論の場面に進みます。 結論が学習問題に対して正対(正しく対応)するためには、結論付ける前に、学習問題(言い換えれば解決すべき問題)は何だったのかを再確認することが大切です。 板書されたもの、ノートに書いたもの等を使って確認し、解決すべき問題は何だったのかを意識させましょう。 スライド02~06の、国際調査から見えてきた日本の子供たちの実態で触れましたが、理科を学習することの意義や有用性を日本の子供たちはあまり感じていないようです。 このような実態を改善するための手立てとして、結論をもとに日常生活を見直して、理科で学習したことは日常生活で生かされていることや科学的に有用であることを実感させることが大切です。 これらのことは、子供たちから自然発生的に現れるものではありません。よって、例えば学習のまとめの際にこれらの視点に基づいた資料等を提示するなど、指導者の創意工夫が必要であると考えます。 ただし、毎時間このようなことを行うのは難しいので、単元の特性や子供たちの発達の段階にあわせて行っていくとよいでしょう。 結論をもとに日常生活を見直し(日常生活との関連を図り)、理科を学ぶ意義・科学の有用性を実感
中学校では、実験によって得られた数値を演算処理して、関係性を導き出す場面も 理科の授業づくりの基礎・基本 73 理科は「問題解決」「探究」の学習スタイルが基本です 考 察 に関して・・・ 中学校では、実験によって得られた数値を演算処理して、関係性を導き出す場面も 【例】 中学校第1学年 「身の回りの物質とその性質」の 「密度」に関する学習 大きさ、形、質量が異なる物体A、Bは同じ物質か? 物体A、Bの体積・質量を測定 演算により密度を求めて考察する 考察に関して、もう少し触れておくべきことがあります。 スライド45・46で触れましたが、中学校では、密度、圧力、電流・電圧・電気抵抗の関係など、実験によって得られた数値を演算処理することによって関係性をより明確に導き出すことがあります。しかし、全国学力・学習状況調査及びみやざき小中学校学習状況調査の結果から、計算力に課題が見られることが明らかになっています。 理科として、実験から得られた数値を正しく処理する力を身に付けさせるために、例えば科学的な概念の理解に基づいた公式(計算式)の理解を促すなど、すべきことはたくさんあります。 しかし、時数の限られた理科の授業だけでは難しい状況もあります。その際、小学校段階で学習している四則計算が確実に身に付いていることはとても大切です。 カリキュラムマネジメントの観点から他教科との連携を図ったり、小中連携の観点から四則計算の定着を共通取組事項として9年間を見通した指導を行ったりするなど、教科や学校種の枠を越えた柔軟な取組を工夫することも必要ではないかと考えます。 小学校段階で身に付けるべき四則計算の能力が、確実に身に付いていることも大切!
正対する 疑問をもつ 問題把握・設定 予想・仮説の設定 検証計画の立案 観察・実験 結果の整理 考 察 日常生活 の見直し 74 理科の授業づくりの基礎・基本 自然事象への働きかけ 疑問をもつ 問題把握・設定 予想・仮説の設定 事実のみ 検証計画の立案 観察・実験から得られた事実を考察しやすいように表やグラフ等に整理する 正対する 観察・実験 結果からいえること 観察・実験から得られた事実を分析・解釈して表現する(予想・仮説の妥当性を検討) 結果の整理 学習活動全体をもう一度確認します。内容はスライド59と同じです。 「結果の整理」の場面、「考察」の場面、「結論の導出」の場面における留意点について、再度押さえておきます。 「結果の整理」の場面では、考察しやすいように事実のみを整理させましょう。 「考察」の場面では、観察・実験から得られた客観的事実をもとに、予想や仮説が正しかったかどうかを考えさせましょう。 「結論の導出」の場面では、学習問題に対する答えになっているかを確認させましょう。 学習問題と結論は正対しているか、言い換えれば「正しく対応しているか」がとても重要です。 学習問題に対する答え 観察・実験結果を踏まえた考察から導いた、学習問題に正対した結論とする 考 察 日常生活 の見直し 結論の導出・問題の解決
1単位時間の中で、全ての場面を設定することは難しい 75 理科の授業づくりの基礎・基本 1単位時間の中で、全ての場面を設定することは難しい 単元など内容や時間のまとまりを見通して、その中で育む資質・能力を明確にして、単元をデザインしましょう。 単元のイメージ(例) 「みやざきスタイルの授業(理科)」より ただし、1単位時間の中でこれらの場面を全て設定して学習を進めていくことは難しい場合があります。1単位時間の中で、全ての学習活動の場面を設定する必要はありません。単元など内容や時間のまとまりを見通し、どの場面でどのような資質・能力を育むのかを明確にして、それに応じた学習活動の場面を設定しましょう。 単元や題材のまとまりの中で、その途中や最後に、基礎的・基本的な知識・技能を活用するような場面を設定することで、より深い学びにつなげることができます。 単元の途中や最後に、基礎的・基本的な知識・技能を活用するような場面を設定すると、より深い学びにつながります。
授業展開例(中学校) 延岡市立恒富中学校 平野 公一 教諭による授業実践から 第1学年 「音の性質」 76 平野 公一 教諭による授業実践から 第1学年 「音の性質」 具体的に実践事例を見ていきましょう。 延岡市立恒富中学校 平野公一教諭の授業を一例としてご紹介します。
・ 弦を指で押さえると、音の高さが変化する ・ 弦をはじく強さを変えると、音の大きさが変化する 77 授業展開例(中学校) 学習の流れ 自然事象への働きかけ ・ ギターには太さや材質の異なる弦が6本ある ・ 弦の太さによって音の高さが違う ・ 弦を指で押さえると、音の高さが変化する ・ 弦をはじく強さを変えると、音の大きさが変化する ・ ねじを回して調律すると、同じ弦でも音の高さが変化する 問題把握・設定 理科の「見方」「考え方」を働かせて学習問題を設定
ギターの弦をはじいたときの音の高さを高い音にするにはどうしたらよいか? 78 授業展開例(中学校) 学習の流れ 問題把握・設定 ここで働かせる「見方」は、量的・関係的な視点 ここで働かせる「考え方」は、条件制御 調律すると、同じ弦でも音の高さが変化するってどういうこと? 音の高さと弦を引っ張る力の大きさには、何か関係があるのかな? 弦の太さが違うと音の高さが違うってどういうこと? 音の高さと弦の太さには、何か関係があるのかな? 考えられる原因を整理し、条件を整えて調べないといけないな 【学習問題】 ギターの弦をはじいたときの音の高さを高い音にするにはどうしたらよいか?
学習の流れ 授業展開例(中学校) 予想・仮説の設定 ・ 学習問題に対して、予想を立ててみよう(個人→グループ) 検証計画の立案 79 授業展開例(中学校) 学習の流れ 予想・仮説の設定 ・ 学習問題に対して、予想を立ててみよう(個人→グループ) 検証計画の立案 ・ 予想を確かめるためには、モノコードを使って調べればよさそうだ ・ 問題を解決するためには、どのような条件設定で調べればよいか考えてみよう 弦を張る強さ、弦の長さ、弦の太さについて調べよう 「変える条件」と「変えない条件」を整理して調べよう 観察・実験
80 授業展開例(中学校) 問題把握・設定 予想・仮説の設定 検証計画の立案 場面の黒板
学習の流れ 授業展開例(中学校) 結果の整理 ・実験結果を整理すると、規則性が見つけやすくなりそうだ 考 察 81 授業展開例(中学校) 学習の流れ 結果の整理 ・実験結果を整理すると、規則性が見つけやすくなりそうだ 考 察 ・学習問題に立ち返り、自分たちが考えた予想(仮説)に対し て、実験結果をもとに考察しよう 学習問題は、「ギターの弦をはじいたときの音の高さを高い音にするにはどうしたらよいか?」だったね 自分たちの予想は、「〇〇〇〇〇」だったよ 実験結果から、予想は正しかったと言えそうだ 結論の導出・問題の解決
学習の流れ 授業展開例(中学校) ・各グループから出された意見をもとに、より妥当な結論を導 き出そう 日常生活 82 授業展開例(中学校) 学習の流れ 結論の導出・問題の解決 ・各グループから出された意見をもとに、より妥当な結論を導 き出そう 他のグループも同じような実験結果になっているよ 説明の仕方はグループによって様々だけど、他のグループも自分たちと同じ結論になっているようだ 日常生活 の見直し ・導き出した結論をもとに改めてギターを弾いてみる と、結論が成り立つことが実感できた ・音の大きさや高さが変わるとき、音源の振動のようすはどのように変わっている?
83 授業展開例(中学校) 結果の整理 場面の黒板
84 授業展開例(中学校) 考 察 結論の導出・問題の解決 全体へ 個人・グループから
85 授業展開例(中学校) 1単位時間の板書 本時の学習の流れが分かる板書(黄色の矢印)
授業づくりのステップと4つのチェックポイントの関係 86 授業づくりのステップと4つのチェックポイントの関係 授業づくりのステップ 個々の教師の授業に対する チェックポイント 1 育成すべき資質・能力を明確にする 2 資質・能力を育成できたかを適切に評価するための手立てを準備する 1 子供一人一人の理解度を1単位時間の授業の中で評価し、定着や習熟を図る時間が確保されているか 4 教師の指示や発問は的確で、子供に伝わっているか(音量、話し方も) 3 多様な考えを引き出し、解決したいという意欲を高めるような学習問題を設定する 3 授業内容は子供の実態にマッチしているか(平均をやや下回る子供も理解できる内容か) 4 学習する児童生徒の具体的な学びの姿を考え、多様な意見を認め、お互いに共有しながら解決に導くような場を設定する 2 指導内容が精選されており、テンポや間に配慮して授業を進めているか 5 学びの過程やその成果を振り返らせ、次の学びにつなげる手立てを工夫する 宮崎県教育委員会では、児童生徒が「分かる・できる」授業づくりを目指して、「授業改善のための4つのチェックポイント」に基づいた授業改善に取り組んでいます。 この表の右に示している内容は、「授業改善のための4つのチェックポイント」の、個々の教師の授業に対するチェックポイントです。 表の左に示している内容は、授業づくりのステップです。 1~5の順番で行う授業づくりのステップについて、個々の教師の授業に対するチェックポイントはこのように当てはめて考えることができます。なお、4の「教師の指示や発問は的確で、子供に伝わっているか?(音量、話し方も)」は、授業づくりのステップ1、2だけに関係するのではなく、すべての段階で関わります。
小学校の先生方へ サイエンスアドバイザーをご活用ください 授業づくりや教材のことで困ったことがあったら 〇 教材の貸出・提供・制作 87 小学校の先生方へ 授業づくりや教材のことで困ったことがあったら ・ 授業をどのように組み立てれば効果的な学習になるの? 例えば、こんなことで困ったら ・ どういうところに気を付けて観察や実験を行えばよいの? ・ 実験をしたいけれど、学校に器具が無い。どうしよう? サイエンスアドバイザーをご活用ください 〇 教材の貸出・提供・制作 〇 質問・相談への対応 〇 訪問支援 などのニーズに対応します 宮崎県教育委員会の取組をもう1つご紹介します。 小学校の先生方へのご紹介です。 小学校では、1・2年生では理科がなかったり、3~6年生を担任しても理科は専科の先生が担当したりすることから、理科の授業を行う機会があまりないという先生も少なくないようです。 そのような状況では、いざ理科の授業を行う立場になったとき、授業づくりや教材の準備等でお困りであるという声を耳にすることがあります。 宮崎県教育委員会では、「小学校理科授業サポート」として、サイエンスアドバイザーを宮崎県教育研修センターに2名配置しています。サイエンスアドバイザーは、小学校の理科学習指導について、教材の貸出し、提供、制作や訪問支援など、先生方のニーズに応じてサポートを行っています。 理科学習指導について何か困ったことがありましたら、ぜひご活用ください。 サポート内容の確認や申し込み方法等については、宮崎県教育研修センターのホームページまたは教育ネットひむかをご覧ください。 詳しくは 宮崎県教育研修センター(http://mkkc.miyazaki-c.ed.jp) 教育ネットひむか(http://himuka.miyazaki-c.ed.jp)
88 最後に、 本資料は、これからの社会を生きる子供たちに対し、子供たちが選んだ道をたくましく進んでいくために必要な ※「学力」を、確実に身に付けさせるための授業づくりの基礎 ・ 基本を提案するものです。 最後に、冒頭でお示しした、この資料の目的をもう一度確認します。 本資料により説明しました「理科学習指導の基礎・基本」は、文字通り基礎・基本であり、理科学習指導の全てを説明しているものではありません。 本資料をきっかけに、気になったところ等はそれぞれの先生方で深めていただき、授業づくりに取り組んでいただきたいと考えています。 これからの社会を生きていく子供たちに対して、確かな「学力」を、確実に身に付けさせることは、私たち教師の責任です。 学習指導要領が改訂されるこのタイミングをチャンスと捉え、これまでの自身の授業を見つめ直し、よりよい授業づくりに取り組んでいただければ幸いです。 ※本資料における「学力」については、スライド07を ご覧ください。
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