遺伝子診断と遺伝子治療 札幌医科大学医学部 6年生 総合講義 2001年4月16日 2019/4/10
再生医療・遺伝子治療入門: その1 遺伝子治療のテクノロジー 再生医療・遺伝子治療入門: その1 遺伝子治療のテクノロジー 札幌医科大学 分子医学研究部門 濱田洋文 ホームページ http://homepage2.nifty.com/hmd3 札幌医科大学公式ホームページから入って、分子医学研究部門のところからもリンクされています。
遺伝子治療のテクノロジー 二つの最重要課題: 疾患をよく反映した動物実験モデルの確立 疾患治療に使えるベクターの開発
遺伝子治療のテクノロジー: ベクター 三拍子そろったベクターの開発が大切な課題 安全性 高効率の遺伝子導入と発現 選択的な遺伝子導入と発現
遺伝子導入と発現をめぐる安全性の問題 大量のアデノウイルスベクター投与による急性 の心肺肝不全 癌化? 自己免疫反応? 子孫への影響(生殖細胞への遺伝子導入)?
遺伝子治療は今、 成功したもの: がん、エイズ、神経の難病などの治療法の 開発は、試験的な「臨床研究」の段階にある。 成功したもの: 先天性の免疫不全、血友病 がん、エイズ、神経の難病などの治療法の 開発は、試験的な「臨床研究」の段階にある。 動脈硬化、虚血性心疾患、糖尿病、などに 関しても遺伝子治療の適用が広げられよう としている。
生体・細胞への遺伝子導入 大きく二つの方法に分かれる。 In vivo 遺伝子導入 全身投与 局所投与 Ex vivo 遺伝子導入
ウイルスベクター、 非ウイルスベクター ウイルスベクターの特徴 非ウイルスベクターの特徴 染色体に組み込まれるものもある。 高い遺伝子導入効率が得られるものがある。 安全性は? ウィルスによって異なる。 非ウイルスベクターの特徴 遺伝子導入効率が低い。 安全性が高い。
非ウイルスベクター オリゴヌクレオチド プラスミド 人工染色体 単独 (Naked DNA) リポゾーム タンパクとの複合体 (Molecular conjugates) 人工染色体
Naked DNA or RNA 臨床研究 6件。 方法: 調製が容易。 導入効率は低い。 発現は一過性。 臨床研究 6件。 方法: 注射、遺伝子銃、エレクトロポレーション 調製が容易。 導入効率は低い。 発現は一過性。
リポゾーム 臨床研究 (1998年の時点で;以下同じ): 30件 導入効率は低い。 発現は一過性。
Molecular conjugates 臨床研究 0件。 柔軟にデザインできる。 遺伝子導入効率は低い。 発現は一過性。 臨床研究 0件。 柔軟にデザインできる。 遺伝子導入効率は低い。 発現は一過性。 生体内への投与後は不安定。
ウイルスベクター 染色体に組み込まれるもの 染色体に組み込まれない episomal DNA レトロウイルス レンチウイルス アデノ随伴ウィルス (AAV) 染色体に組み込まれない episomal DNA アデノウイルス ヘルペスウイルス (HSV, EB, etc)
レトロウイルス 臨床研究 63件 分裂している細胞の染色体に組み込まれる。 生体内投与した場合には不安定。
レンチウィルス 臨床研究 0件 細胞が分裂している・いないにかかわらず、 染色体に組み込まれる。 臨床研究 0件 細胞が分裂している・いないにかかわらず、 染色体に組み込まれる。 安全性などが十分に調べられたウィルスの 産生システムが完成していない。
アデノ随伴ウィルス(AAV) 臨床研究 1件 ヒトに対して病原性が知られていない。 染色体に組み込まれる。 短いDNAしか挿入できない。 臨床研究 1件 ヒトに対して病原性が知られていない。 染色体に組み込まれる。 短いDNAしか挿入できない。 大量のウィルス調製が難しい。
アデノウイルス 臨床研究 34件 生体内での遺伝子導入効率が非常に高い。 大量のウィルスを容易に調製できる。 細胞や組織への標的化も可能。 臨床研究 34件 生体内での遺伝子導入効率が非常に高い。 大量のウィルスを容易に調製できる。 細胞や組織への標的化も可能。 強い炎症・免疫反応を引き起こす。
単純ヘルペスウイルス 臨床研究 1件 生体内への投与で高い遺伝子導入効率が 得られる。 非常に大きなDNA断片の挿入が可能。 臨床研究 1件 生体内への投与で高い遺伝子導入効率が 得られる。 非常に大きなDNA断片の挿入が可能。 細胞毒性が高い。
ポックスウィルス(ヴァクシニア) 臨床研究 15件 親ウィルスを用いて広範な臨床経験。 大きなDNAを挿入できる。 臨床研究 15件 親ウィルスを用いて広範な臨床経験。 大きなDNAを挿入できる。 強い炎症・免疫反応を引き起こす。
キメラウィルスベクター 臨床研究 0件。 たとえばアデノ・レトロのキメラウイルス それぞれのベクターの長所を併せ持つ。 少し複雑になる。
再生医療(組織工学、Tissue engineering)と 細胞・遺伝子治療を総合的にとらえよう 培養細胞株を樹立して、細胞移植治療に利 用。 組織や臓器の再生技術によって、新しい組 織移植療法を。 遺伝子導入との複合によって、より高い治 療効果を目指そう。
遺伝子診断と 再生・遺伝子治療 遺伝子診断によって、効果の期待される患 者を見分けてエントリーしたい。 遺伝子診断によって、予期される副作用な どを先手で回避したい。
札幌医科大学での遺伝子治療臨床研究への取り組み 札幌医科大学の付属病院内に遺伝子治療室が設 置された。(2000年3月) 血管新生遺伝子治療プロジェクト 2000年3月より、札幌医科大学の5つの教室が集まってプロジェクトチーム、スタート。 対象は、まず、難治性の下肢閉塞性動脈硬化症、次に、虚血性心疾患へ。 アンギオポエチン、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)の二つの遺伝子を併用すると、しっかりした新生血管。 プラスミドDNAを筋肉内に直接投与、十分な発現が得られる。動物モデルで良好な治療効果。安全性高い。 今後、安全性を検討してプロトコール完成、学内審査申請の予定。国の審査を経て、遺伝子治療臨床研究スタート(予定)。さらに虚血性心疾患へ。
参考文献 Cecil Textbook of Medicine, 21st ed. pp140-143. W.B.Saunders, 2000. 遺伝子治療の新展開: ベクター開発と臨床 応用の最前線 (新臨床医のための分子医 学シリーズ 羊土社 2001) 分子医学研究部門ホームページ http://homepage2.nifty.com/hmd3