ネットワーク情報産業論 コンセプト補講 慶應義塾大学環境情報学部 國領 二郎 (http://www.jkokuryo.com/)

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ネットワーク情報産業論 コンセプト補講 慶應義塾大学環境情報学部 國領 二郎 (http://www.jkokuryo.com/)

情報システムをどのように理解(科学)し、どのように設計するか?

人工物としての技術と社会のシステム 目的達成に向けた ボトルネックの顕在化 ボトルネック解消の 手段(技術)探索・発見 注意!「目的」についての合意がいつでもあるわけではない。目的の探索もビジネスモデル設計の一部 目的達成に向けた ボトルネックの顕在化 ボトルネック解消の 手段(技術)探索・発見 新たな技術体系に基づく ビジネス・社会モデルへ再編

人工物のデザイン変遷のプロセスとして理解し、より良いシステムを設計する 「気になる現象」の発見 素直な問題設定が大切。 例:タテ型がヨコ型に移行する現象は見える。 起こる業界と起こらない業界。なぜか? 観察対象の特定が鍵。 「気になる現象」の原因探求 新しいシステムの設計 さまざまなdisciplineの一般的用語で説明 実社会への応用に向けて多面的な一つの平面にのせ、現実に動く仕組みの設計を提案。Engineeringの視点。正しさの証明は実社会で。 開発コストの増大→配賦 ネットワーク外部性 情報システム設計特性として記述 認知限界→モジュール化 情報のコスト特質の顕在化

デザイン理解のキーワード「アーキテクチャ」を通じて人工物設計を考える

アーキテクチャ:認知限界を突破する古典的手法 アーキテクチャ:認知限界を突破する古典的手法  アーキテクチャ  =認知限界を突破する手法:  =下位システム間の役割分担及び連携方式(インターフェース)のルール アーキテクトとプログラマの分業 アーキテクト=全体構造とインターフェースの設計 モジュール モジュール プログラマ インターフェースルールに従って 他のモジュールとは独立に作業 プログラマ モジュール プログラマ Brooks, Frederick P. Jr., "The Mythical man-month: essays on software engineering Anniversary Edition, " Addison-Wesley Publishing Company, Inc., 1995.(邦訳:滝沢徹・牧野祐子・富澤昇、『人月の神話--狼人間を撃つ銀の弾はない』、アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン、1996年.).

情報技術が今日、大きな意味を持つのは人間同士のコミュニケーションがシステム設計最大のボトルネックだから コミュニケーションが一回1万円だったら...10円だったら...

情報と組織分析の基本フレームワーク 組織能力 情報量 情報処理能力 X 組織内に流れる情報量は操作可能なパラメーター。  非対称性の構造 情報処理能力  機械の能力  人間の能力 X 組織内に流れる情報量は操作可能なパラメーター。 情報処理能力は技術によって向上可能。 どのように情報の流れを設計すれば能力(組織でも社会でも)が最大化するか?

情報伝達コストの大幅な低下 ・ 情報量の増大(階層組織にするコスト上の必然性なくなる) ところが! ・ 情報量の増大(階層組織にするコスト上の必然性なくなる) ところが! ・ 人間の認知限界ボトルネックの顕在化(機械の処理能力が強化されるにつれバランスはさらに悪く)。   伝達コスト低下≠良いコミュニケーション   認知能力を必要とする「信頼」などがボトルネックとなる

例:インテグラルvsオープン -アーキテクチャ論争のホットトピック- アーキテクチャ=モジュール間の役割分担及びモジュール間連携の方式(インターフェース)のルール  オープン型 モジュラー型 モジュール間の接続に公開され社会的に広く利用されたインターフェースを使用。社会的分業を可能にする。 独立性の高いモジュールの組み合わせでシステムづくり。調整費用を下げるが資源の無駄づかいを発生させる。 クローズド型 多数の技術の複合したシステム モジュール間の接続に自社専用仕様インターフェースを使う。必然的に自社専用の囲い込み型システムになる インテグラル型 モジュール化しない。無駄のないシステムが設計可能だが調整能力高いチームが必要でメンバーが固定化する傾向。

アーキテクチャと組織能力の関係 米国型 戦後日本型 オープンな文脈共有 高 組織のオープン性 低 高 低 プロダクトの統合度の高さ モジュール化された製品を巡り、オープンなコラボレーションを行って創造性高い経営。但し、製品は最適化されず無駄が多い。 ネットワーク上で英知を集め、完成度の高い製品・サービスを提供する。 組織のオープン性 戦後日本型 限られたメンバーで長期的で緊密な関係で無駄なく、最適化された「統合度」の高い製品を作って競争力を高めた。 低 高 低 プロダクトの統合度の高さ

デジタル化とアーキテクチャ変化

デジタル経済の特質→アーキテクチャへの影響は? (1)情報財のコスト構造 開発費が大きいが、追加供給の変動費が極端に低い。 (2)課金コスト コピーの変動費が低い割に課金コストが高い。 (3)情報の非対称性の方向逆転 希少なのは信頼 (4)ネットワーク外部性・連結の経済性 使う人間が増えるほど便益が増える。 (5)参加型の価値生産構造 顧客が価値をつける。

水平型のアーキテクチャ

水平展開型戦略と垂直囲い込み型戦略 供給連鎖の再編 市場A 市場B 市場C 市場D 水平展開化の要因 機能1 (例:CPU) 機能2 (例:OS) 水平展開型 垂直囲い込み型 機能3 (例:応用ソフト) インターフェースのオープン化 機能4 (例:周辺機器) 機能5 (例:販売網) 市場A 市場B 市場C 市場D 水平展開化の要因  条件1:開発コストが大きく追加生産コストが低い業界→固定費配賦  条件2:モジュール化:複雑なシステムを組み合わせで。

サプライチェーンの進化:日用品流通ビジネス・モデルの例 従来型卸 活用モデル 販社モデル 一括配送モデル メーカー メーカー 総合 メーカー メーカー メーカー メーカー 生産拠点 オープンネットワーク プラネットなど 専属販社 地域配送 拠点 卸 卸 地域一括物流センター網 全国化した大規模卸などが運営 箱単位配送 小売 チェーン 店舗 小売 チェーン 店舗 小売 チェーン 店舗 店舗 店舗 店舗 単品単位配送

分散型アーキテクチャ

ネットワークそのもののアーキテクチャ ローカルなイニシアチブが発揮できる構造へ 分散処理型 集中処理型 ・センターの存在しないシステム センター/大型計算機 データ データ アプリ アプリ データ アプリ  透明なネットワーク  データ交換の標準 データ データ アプリ 入出力装置 アプリ 入出力装置 入出力装置 ・センターの存在しないシステム ・自律分散、情報共有、参加型 ・自己責任、セルフガバナンス ・中央への負荷軽い→低コスト ・中核組織による囲い込み ・中央制御、情報専有 ・保護、集権的ガバナンス ・中央に高負荷→高コスト ローカルなイニシアチブが発揮できる構造へ

集中型社会 分散型社会 情報 機能 統制・保証 協働 ベストエフォート 受益 受益 受益 貢献 情報 機能 貢献 貢献 情報 機能 情報

顧客間インタラクション 市場における分散的情報処理 売り手からの一方的コミュニケーション    マス・マーケティング 売り手と顧客の双方向コミュニケーション   データベース・マーケティング等 プラットフォーム 語彙、文法、文脈、規範 顧客間インタラクション

モデルの一般化

ネットワークの業界構造分析モデル 要素提供者 要素提供者 要素提供者 オープンなネットワーク環境 バリューチェーン コーディネーター パッケージャー パッケージャー パッケージャー バリューチェーン コーディネーター 要素を編集、統合。業界によって購買代理者が強いところとパッケージャーが強いところがある。 購買代理店 購買代理店 顧客 顧客 顧客

プラットフォーム・ビジネスによるオープンな協働の実現 ・情報ネットワーク上で不特定多数の主体が取引。 ・ただし、コンピュータ・ネットワークだけでは取引が成立しない。 ・ 取引相手の探索 ・ 信用(情報)提供 ・ 経済価値評価 ・ 標準取引手順の提供 ・ 物流など諸機能の統合 プラットフォーム・ビジネス 誰もが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供する役割を私的なビジネスとして行っている存在のこと。

技術を包含し、情報システムを包含する一般ビジネス・社会モデルの構築

協働のアーキテクチャ設計問題として考える 市場も組織も営利も非営利も協働のシステムと考え、そのデザインを考える デザインの成約条件として情報技術を認識し、制約条件が緩むことで可能となるビジネス・モデルと旧モデルを比べる。Enablerとしての情報技術。

例:情報共有のメリットを ビジネス・社会モデル化する 産業効率化 新産業創造 透明性による安心・安全 参加型社会・組織構造 知識立国 情報共有技術を活かす協働構造の設計 制度 (知的所有権・ プライバシー等) ビジネスモデル (情報の収益モデル) 技術 (含:セキュリティ 技術標準)

ビジネス・モデルはビジネスの設計思想 顧客にどんな価値を提供するか? どんな仕組みで提供するか?(供給システムの設計:含む参加者への誘因設計) どのようにして生んだ価値に対する報酬を得るか?(収益モデルの確立)

重要テーマ 知をめぐる協働構造の確立 (特に誘因設計)

ネットワーク効果 情報を発信するコストの劇的な低下。「末端」から世界中に低コストで情報発信。 ブロードバンド常時接続 無線LANの普及 トレース技術(RF-IDなど) 断片化され、散在していた力がネットワーク上で巡り合い、編集されて新たな価値を生む。

貨幣が価値の生産と分配のシグナルになれない? 誘因問題 目指すは物質と化石燃料の消費拡大による生活向上の戦略から精神的充足による幸福を追求する戦略への転換。 但し、誘因設計が大きな課題。複製費用(限界費用)がゼロに近いため情報はネット上で無料になってしまう傾向がある。 人間の知的な創造性発揮の場をどう提供するか? 貨幣が価値の生産と分配のシグナルになれない? 二つの思想がある。 (1)デジタル財に物財的な特性を持たせて貨幣経済にのせる。コピー防護機能強化、知的所有権強化、情報の「versioning」などの手法がある。 (2)開き直って非貨幣経済的な価値の交換を目指す。例としてソースコードをオープンにして社会的な開発を目指すLINUXなど。

情報財の希少化手法 収益の確保・拡大の必要条件 ・物財帰着  → 情報技術により物財ブランド強化し、物財販売で回収。   → 所有権移転型、利用権許諾型(レンタル制、座席予約など) ・擬似物財(情報)販売  → Versioning(新製品を短サイクルで投入)   →  利用権許諾型(ただし実効上移転型に近いものも) ・認知限界(安心感)   → 広告など →  (例外的に希少となる情報)信頼、プライバシー ・自己実現   → 勲章 供給サイドの希少性にリンクさせるモデル 需要サイドの希少性にリンクさせるモデル

注目:内部化の技術 逃げる価値(外部効果)を捕まえる可視化の技術 個体識別技術(RF-IDなど)   ネットワークと結合して、近代の大量生産・流通の中で失われていた「つながり」を回復する技術となる。生産者と消費者が顔(固有名詞)で見合う、責任供給と、安心消費の世界。 常時接続による認証  利用権許諾型の実効性を高める

最後にメッセージ

実践のために学問する 科学する(論理厳密さと現実による検証を大切にする)心を忘れてやみくもに走ると間違える。先人の探索の軌跡(理論)も大切にしよう。 学問の自己目的化に要注意。お勉強ばかりして、動かないのでは存在している意味がない。動くものを作って、社会に役立てる使命を忘れずにいよう。