08応用行動分析(その7)) 行動の記録・実験(実践)デザイン
1. 「報告も実践のうち」 臨床・対人援助活動そしてその研究とは、報告言語行動に対する強化を以って完成する。 2.「具体的目標が決まっていない実践は、記録がとれない」(望月,1993) 目標設定の定まらない実践、つまり、従属変数が決まっていない実践では、それに対する独立変数も決まらない。 =無責任
記録の方法 記録をとる前に: これから記録をとろうとする行動(反応)について、客観的な表現で定義できているか? 記録の方法 記録をとる前に: これから記録をとろうとする行動(反応)について、客観的な表現で定義できているか? 「まじめに作業できる」(???) ●決められた時間の中で休まないことか? ●開始時間になったらすぐに始めることか? ●単位時間あたりの作業量が多いのか? ●正確に作業をこなすということか?
行動の記録の単位・表現 ある機会あたりの反応数(反応比率 ratio) 時間あたりの反応数(反応率 rate) 時間間隔記録法 時間間隔記録法 時間サンプリング エピソード記録法
査定の選択 短い期間 長い期間 時間・場所 対象反応 明確? NO 定時観測可能? YES 時間間隔 記録法 複数反応対象可 NO YES 対象反応 明確? NO 定時観測可能? YES 時間間隔 記録法 複数反応対象可 NO YES 指導目標 生起頻度 反応形 野呂(1997) 「応用行動分析学入門」(学苑社) 反応比率 ratio 反応率 rate 時間サンプリング エピソード記録
時間間隔記録法による記録 数十秒の間にある反応が出たか、出ないか?
時間サンプリングによる記録 比較的長い時間の中で、数分ごとの最後に出たか出ないか
行動が目標の形に変化しつつある場合(学習:acquisition中)の記録・表現 ある作業についてどれくらいできているか どんな部分について「教授」したり「援助」 が必要かを知る(課題に対するアセスメント) ●誰もが同じ記録が残せるような具体的 な目標が設定されているか? ●その行動に必要な下位の行動を分解 どの部分ができているか どのくらいの援助でできるか その表現方法は?
課題分析 目標とする(複雑な)行動を、 時系列的に「教授」や「援助」をしやすい行動要素にわける。 目標とする(複雑な)行動を、 時系列的に「教授」や「援助」をしやすい行動要素にわける。 今回は、パソコンでしてみたいことを一つ目標行動として、こまかい課題に分けてみました。
スーパーで買い物をする課題分析(応用行動分析入門)
上昇方向で 「薄い」援助へ 各行動に必要な「援助」内容の表現
高齢者におけるPC操作の支援 (課題分析) Mさんの課題分析 : メールを送信する これは、Mさんの「メールを送信する」という目標を達成するために必要な各課題です。 この課題分析が、そのままマニュアルになるようにしています。 斉藤(2001)
プロンプトの段階 斉藤(2001) 課題分析をもとに、はじめはこのようなプロンプトを入れながら操作を教えます。 基本的に10秒間待ってから、プロンプトをいれてゆくようにします。 斉藤(2001)
Mさんの結果 斉藤(2001) チェックリスト記入 チェックリストとフィードバック マニュアル 励ますだけ 下の表は、それぞれの課題の正答がどれくらいかを示したものです。 数字はプロンプトの種類です。 上のグラフは、正答率をグラフにしたものです。 マニュアル・・・課題分析をマニュアルとして提示した時 チェック・・・対象者自身で、一つの課題がおわることに記録用紙に丸をつけてもらう チェックとフィードバック・・・対象者に丸をつけながら、進めてもらった後で、どれくらい できたか、どこができなかったかをフィードバックするもの 斉藤(2001)
実験(実証)デザイン 独立変数としての教授方法や援助設定が、従属変数である行動に対して影響を及ぼしているかを検討する。= 実験デザイン 実験(実証)デザイン 独立変数としての教授方法や援助設定が、従属変数である行動に対して影響を及ぼしているかを検討する。= 実験デザイン 「特定個人」において、行動の原因となっている独立変数を特定していく →Single Subject Design 1回だけ独立変数をみるのでは信頼性が低い。独立変数の導入を複数回繰り返してその効果を検証する必要がある(=replication:追試) そこで「実験デザイン」というものが必要となる
デザインの基本:Baseline ある独立変数(教授方法や援助方法)と行動的結果(従属変数)の間の機能的関係をみるためには、当該の支援を導入する前の(導入しない時の)状態と比較する必要がある。 「ベースライン」をとってみよう ベースライン:これから試してみるトリートメント(教授・援助)を導入する前に、現状での当該行動の出方(反応率や反応比率など)を、数回(3回)とってみる。
使用前・使用後では、わからない
ベースライン 行動の変化(回数・持続時間など) 介入前の状態 介入(教授)スタート セッション(日数)
ベースラインと介入期(教授・援助)の比較をのためのいくつかのバリエーション A期:ベースライン期(当該対応なし) B期:ある対応(介入)をしている時期 1)ABデザイン 2)ABABデザイン(逆転デザイン) 3)マルチ・ベースラインD 4)マルチ・プローブD 5)チェンング・クライテリオンD 6)オルタネイテイング・トリートメントD
ABABデザイン(援助設定の効果などに有効) 反応率・比率 など 同じ独立変数(B)の効果を、同一個人の中で反復検証する
周囲の子供の社会的行動開始行動(initiation)が常動行動にどう影響? Lee & Odom(’96) 社会的相互行動 周囲の子供の社会的行動開始行動(initiation)が常動行動にどう影響? ABABデザイン 常動行動 A:周囲の子供は単に一緒に遊ぶことを指示されている B:周囲の子供(peer)が話しかけなどの口火を切る
ABA (BAB) ドラッグの効果(chlorpromazine)があるか? 具体的な行動への効果を確認→投与不適切の例 D:ドラッグ
長期間のトリートメントの効果をみたABAB 偶発的にReversal条件(介入操作を抜く)操作が入り、ABABの実験スタイルになった例 (Carr & McDowell, 1980, Behavior Therapy, 11, 402-409.) Baseline(A条件):トリートメントなし Treatment(B条件): ●独立変数:自傷(ひっかく)したらタイムアウト/ 傷口が減ったら正の強化(特定の場所へドライブ等) (傷の数が2個減った週に限って施行) ●従属変数:自傷による「ひっかき傷」の数
偶発的 A A B A B
図1 ADHD児におけるリタリン投与と在室率 金山好美(2004)ADHD児の集団参加を促進する環境設定 実験の前半部:リタリンの投与が教室在室に及ぼす効果 A A B B 図1 ADHD児におけるリタリン投与と在室率 偶発的A
マルチベースライン(反転不能な内容の場合 従属変数A 独立変数の導入をずらす 従属変数B ある独立変数の効果を、異なる行動あるいは異なる個人に おいて(再)確認(replication)する
マルチベースライン 「空手の行動的コーチング」(星野,2000) 標的行動:右下段廻し蹴り 従来の指導法(S) 「腰が入っていないのでもっと意識して」(抽象的) 行動的コーチング(B) 教示・モデリング・ 具体的行動を強化 具体的フィードバック
参考文献 ●アルバート・トルートマン: 「はじめての応用行動分析」(二瓶社) 参考文献 ●アルバート・トルートマン: 「はじめての応用行動分析」(二瓶社) ●望月(1997):コミュニケーションを教える” とは? 小林重雄(監修)山本・加藤(編) 「応用行動分析学入門」(学苑社),2-25. ●Poling, Methot, and LeSage (1995): Fundamentals of Behavior analytic research. Prenum. ●望月昭:「行動変化の観察と評価(講座3回連載)」、月刊実践障害児教育、21巻(10月号~12月号)、1993 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/kenkyu.html 上記URLの当該引用部分の左端「・」の部分で原典リンク