事業リスクマネジメント学習支援教材 事業リスクマネジメント ケーススタディー NO.2 個別リスクの把握方法 ティーチングノート
学習にあたって 学習のポイント 事例分析を通じてリスク把握(発見~特定~算定)の 代表的手法の実践的知識を身につける。 学習するスキル内容 学習にあたって 学習のポイント 事例分析を通じてリスク把握(発見~特定~算定)の 代表的手法の実践的知識を身につける。 学習するスキル内容 リスクファクターの構造、因果関係の把握、評価方法について 説明できる リスクの大きさを定性的に判断できる個別リスクの発生頻度・ 影響度の分析手法について説明できる 準定量的、定性的分析ツールについて説明できる コアリスクの選定、リスクマップなどを用いてリスク処理の 優先度を設定できる 感度分析を用いてバリュードライバーの抽出・分析ができる 第2章、第3章、第6章です。 基本テキストで対応しているのは: (注)本ノートについて: 本ティーチングノートは、平成15年12月に開催された 「事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業」実証プログラムにおける 実習「個別リスクの把握方法(2)」 の内容を学習支援用教材に再編集したものです。 なお、前半(~P12)が設問、後半(P13~)は解答例という構成になっております。 自習される場合は、前半を読んで考察を加えた上で後半の解答例を参考にしてください。
この実習の目的 リスク把握とは、実際には以下の三つの意味で用いられることがあります。 この実習の目的 リスク把握とは、実際には以下の三つの意味で用いられることがあります。 リスク発見(洗出し)については昨日の実習と共通する所が多くあります。リスク特定は、実際にリスクマネジメントを実施する際に効率的に検討する上でも重要な作業になります。またリスク算定はリスクの大きさを明確にするもので、そのあとどのようにリスクを管理すべきかというリスクコントロールやリスクファイナンスの手法につながっていきます。 この実習は、前日のカリキュラムも踏まえ、ケーススタディ「株式会社青空油圧」におけるリスクの把握していくものです。リスク把握の作業を通じて、事業リスクの全貌を明らかにしていき、以降のより詳細なカリキュラムにおいても有効になると考えます。 なお、より詳細なリスク処理手段の選定等については実習「リスクファイナンス・リスクコントロール」で取り上げます。 リスク発見(洗出し):対象とする組織やプロジェクトにおいて潜在するリスクを認知・発見すること リスク特定:認知したリスクに対して、重要なリスクを見出すこと リスク算定:特定したリスクについて、リスクの大きさを明確にすること
この実習のねらいとスキル なお、本プログラムの中におけるこの実習の「ねらい」および受講することによって習得が期待される「スキル」の位置づけは以下の通りです。 「ねらい」 ◇リスク分析の代表的手法を理解する 「スキル」 ◇感度分析を用いてバリュードライバーの抽出・分析ができる ◇リスクファクターの構造、因果関係の把握、評価方法について説明できる ◇リスクの大きさを定性的に判断できる ◇個別リスクの発生頻度・影響度の分析手法につちいて説明できる ◇準定量的、定性的分析ツールについて説明できる ◇コアリスクの選定、リスクマップなどを用いてリスク処理の優先度を設定でき る
実習1 リスク特定の実習 実習① 昨日のケーススタディ「株式会社青空油圧」全社について、以下のリスクに対する大きさを3区分で各人検討してください。 その際、リスクの大きさを判断する基準も示してください。 実習② ①で検討したリスクについて、グループにおいて結果を見比べコンセンサスをとるように議論を試みてください。 その結果(リスクの大きさ)をグループの結論として表示してください。 また、リスクマップにプロットしてみてください。 リスク項目 1 景気変動 2 為替変動 3 割賦債権回収 4 在庫管理(余剰在庫) 5 技術力低下 6 品質管理 7 労働争議 8 大規模工場火災 9 環境問題 10 海外情勢
実習1 ①リスク特定(個人作業) 発生確率ランク 影響規模ランク ランク 目安 3 (高) 2 (中) 1 (低) ランク 目安 3 (大) (小) リスク項目 発生確率 影響規模 判断理由 1 景気変動 2 為替変動 3 割賦債権回収 4 在庫管理(余剰在庫) 5 技術力低下 6 品質管理 7 労働争議 8 大規模工場火災 9 環境問題 10 海外情勢
実習1 ②リスク特定(グループ作業)-1 発生確率ランク 影響規模ランク ランク 目安 3 (高) 2 (中) 1 (低) ランク 目安 3 (大) 2 (中) 1 (小) 発生確率ランク 本人 グループ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 影響規模ランク 本人 グループ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
実習1 ②リスク特定(グループ作業)-2 ①景気変動 ②為替変動 ③割賦債権回収 ④在庫管理(余剰在庫) ⑤技術力低下 ⑥品質管理 発生確率ランク 3 (高) 2 (中) 1 (低) (小) (大) 影響規模ランク ①景気変動 ②為替変動 ③割賦債権回収 ④在庫管理(余剰在庫) ⑤技術力低下 ⑥品質管理 ⑦労働争議 ⑧大規模工場火災 ⑨環境問題 ⑩海外情勢
実習2 事業リスクのシナリオ分析 実習① ケーススタディ「株式会社青空油圧」全体のSWOT分析をしてみてください。 SWOT分析とは企業の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)による評価を言います。SWOT分析では自社を取り巻く外部環境分析(機会/脅威の分析)と自社自身の内部環境分析(強み/弱みの分析)に分けることができます。 外部環境分析と内部環境分析はそれぞれ以下のような視点で分析します。 外部環境分析:企業あるいは事業が利益をあげる能力に影響を与えるマクロ環境要因(政治、経済、社会、技術、法規制、文化等)とミクロ環境要因(顧客、競合他社、流通業者、供給業者)の変化について機会と脅威として分析するもの 内部環境分析:有利な状況、機会において成功するコンピタンスが自社の内部に存在するかどうかを強み、弱みとして分析するもの
実習2 事業リスクのシナリオ分析 実習② ケーススタディ「株式会社青空油圧」における中型クレーン事業の収益安定につながるインフルエンスダイアグラムを先のSWOT分析などを参考にしながら記述してください。 インフルエンスダイアグラムとは、ビジネスにおいてどんな不確実要素(リスク要因)と意思決定項目(イシュー)が存在するか、それらの関係はどうなっているか、さらにそれが評価基準(バリュー)にどう結びつくかを明らかにするツールです。 記述に際しては、「中型クレーン事業への追加投資」を意思決定ノードとして、「健全なキャッシュフロー」をバリューノードとしてみてください。 尚、今回は作業を容易にするために、関連しそうな項目を予め回答用紙に示してあります。この図に対して空白の項目を適当な内容を記述し、関連するノード同士を矢印で結んでみてください。 インフルエンスダイアグラムの例 流通コスト 人件費 コスト 製造コスト ストライキ 製造のオート メーション化 売上金額 利益 売上量 市場シェア 価格 市場規模 設備投資 バリューノード 意思決定 不確実性要因 影響関係
実習2 ①リスク特定(グループ作業)-1 強み(Strength) 弱み(Weakness) 機会(Opportunity) (マクロ) (ミクロ) 脅威(Threat)
チャーター業者・レンタル業者・ブローカー販売割合 実習2 ②リスク特定(グループ作業)-2 健全な キャッシュフロー 設備投資額 増加運転資本 減価償却費 割賦売掛金等 修理部品 仕入費 販売管理費 製造原価 製品単価 当該国 の景気 原料在庫 製品在庫 製品品質 人件費 チャーター業者・レンタル業者・ブローカー販売割合 ブランド 認知度・広報 営業系 人材投資 技術系 人材投資 営業・販売戦略 人事戦略 設備投資戦略 中型クレーン事業 への追加投資
解答作成例:実習1① 発生確率ランク 影響規模ランク ランク 目安 3 (高) ・3年以内に1度以上 2 (中) ・3年~10年に1度 1 解答作成例:実習1① 発生確率ランク 影響規模ランク ランク 目安 3 (高) ・3年以内に1度以上 2 (中) ・3年~10年に1度 1 (低) ・10年以上に1度 ランク 目安 3 (大) ・10億円以上 ・社外へ影響 2 (中) ・1億円以上 ・全社の問題 1 (小) ・1億円未満 ・個別部署の問題 リスク項目 発生確率 影響規模 判断理由 1 景気変動 中 小 景気変動は大きな要素であるが、中型クレーン事業と他の事業はポートフォリオの関係にある。 2 為替変動 中~大 現状の海外売上は約60億円。為替が5%変動(110円→105円)すれば約3億円。但し、今後海外市場中心になれば、その影響は10億円を超える。値引き交渉もある。 3 割賦債権回収 高 年率3.5%の回収不能がある。 但し、チャーター業者への販売割合を抑えれば影響は小さくなる。 4 在庫管理(余剰在庫) 低 現在のところ、複数のチャネルを持ち、受注生産なので在庫の大きな問題は置きにくいと判断できる。 5 技術力低下 技術力は競争力の源泉になっていて重要であるまたベテランの減少が懸念されている。 6 品質管理 製品リコール、訴訟に発展すれば大きな損害である。 7 労働争議 現在のところ安定してきているが、人件費の削減などの予定、労働集中などから問題化する場合もある 8 大規模工場火災 大 代替工場が無いとすれば死活問題になる。ただ、危険物等は少ないので大規模火災の可能性は少ないと判断される。 9 環境問題 低~中 当該問題となりそうな汚染物質は過去から大量使用した歴史は無い。今後大きな問題になる可能性は十部にあるが、不確実性も高いと判断される。 10 海外情勢 小~中 海外市場への依存度により影響は変化する。但し、海外拠点を多く持っている訳ではないので事業所としてのリスクは小さい。
解答作成例:実習1②(リスクマップ) ③割賦債権回収 ⑤技術力低下 ②為替変動 ①景気変動 ⑦労働争議 ⑨環境問題 ⑩海外情勢 解答作成例:実習1②(リスクマップ) 発生確率ランク 3 (高) 2 (中) 1 (低) (小) (大) 影響規模ランク ③割賦債権回収 ⑤技術力低下 ②為替変動 ①景気変動 ⑦労働争議 ⑨環境問題 ⑩海外情勢 ④在庫管理(余剰) ⑥品質管理 ⑧大規模工場火災 ①景気変動 ②為替変動 ③割賦債権回収 ④在庫管理(余剰) ⑤技術力低下 ⑥品質管理 ⑦労働争議 ⑧大規模工場火災 ⑨環境問題 ⑩海外情勢
解答作成例:実習2①-1 強み(Strength) ・不良債権無しの健全経営 ・既存の高いコア技術 ・価格競争力 ・安定品質 ・過去3年間の市場開拓実績 弱み(Weakness) ・ブンランド認知度の不足 ・貧弱な販売チャネル ・キャッシュフローの悪化 ・チャーター業者へ(割賦)販売率の高さ ・ベテラン技術者の減少 ・オーナー企業的な経営 機会(Opportunity) (マクロ) ・国内景気の底打ち(今後上向き) ・海外建設市場の伸び (ミクロ) ・景気に対するポートフォリオ ・修理市場 脅威(Threat) ・国内景気低迷 ・中国市場の競争(地場企業、他国メーカー輸出攻勢、現地生産メーカー) ・環境意識の高まり ・国内公共事業の上向きは無い ・下取品の増加
解答作成例:実習2①-2 (参考) SWOT分析を基にして、各マトリクスにおいて戦略の概略を策定することが可能です。以下にその例を参考として示します。 機会(Opportunity) (マクロ) ・国内景気の底打ち(今後上向き) ・海外建設市場の伸び (ミクロ) ・景気に対するポートフォリオ ・修理市場 脅威(Threat) ・国内景気低迷 ・中国市場の競争(地場企業、他国メーカー輸出攻勢、現地生産メーカー) ・環境意識の高まり ・国内公共事業の上向きは無い ・下取品の増加 強み(Strength) ・不良債権無しの健全経営 ・既存の高いコア技術 ・価格競争力 ・安定品質 ・過去3年間の市場開拓実績 積極的攻勢 ・成長市場への製品投入 ・需要に耐えうる生産体制確保 ・低価格での市場確保 差別化戦略 ・品質(技術力)のアピール ・下取りを含めた付加サービス充実 弱み(Weakness) ・ブンランド認知度の不足 ・貧弱な販売チャネル ・キャッシュフローの悪化 ・チャーター業者へ(割賦)販売率の高さ ・ベテラン技術者の減少 ・オーナー企業的な経営 段階的施策 ・海外向け販売チャネル拡大 ・ブランド構築 ・チャーター業者への割賦販売率の抑制 専守防衛または撤退 ・意思決定の迅速性確保 ・技術者の安定雇用
チャーター業者・レンタル業者・ブローカー販売割合 解答作成例:実習2② 健全な キャッシュフロー 増加運転資本 税引後利益 減価償却費 設備投資額 売上高 コスト 割賦売掛金等 下取り 修理部品 仕入費 販売管理費 製造原価 製品単価 販売台数 市場規模 マーケットシェア 当該国 の景気 原料在庫 競合他社 の動向 製品在庫 製品品質 人件費 チャーター業者・レンタル業者・ブローカー販売割合 ブランド 認知度・広報 営業系 人材投資 技術系 人材投資 営業・販売戦略 人事戦略 設備投資戦略 中型クレーン事業 への追加投資
実習の進め方 講師挨拶 5分程度 実習の説明 10分程度 個人実習1 20分程度 グループ実習1+2 60分(30+30)程度 実習の解説 ※受講者は既にケーススタディを昨日実践していることを前提とする 個人実習1 20分程度 ※ケーススタディの質疑応答はこの時間内に行うサポートスタッフも各テーブルを巡回して適宜対応する グループ実習1+2 60分(30+30)程度 ※SWOT分析結果については予め配布する 時間を区切って、実習1の成果を回収する 実習の解説 20分程度 ※実習1:リスクの大きさ判定の理由を中心に述べる 実習2:SWOTではこれらを戦略概略に活かすイメージも説明する インフルエンスダイアグラムでは、健全なキャッシュフローに付随する部分はB/SやP/Lから抽出可能であることを理解してもらう。また、戦略についてはSWOT分析と連関があることも言及する。各要素には青空油圧が決定することの出来る意思決定要素と外部要因等から決まる不確実性要素があることも示し、双方が結果的にリスクファクターになり得ることを理解してもらう。実際にはこれらのファクターから変動幅を考えて感度分析などをすることも言及しておく。 ( 計120分)