AID当事者に対する「修復的対話アプローチ」による「社会的虐待」 からの解放に関する理論的考察

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AID当事者に対する「修復的対話アプローチ」による「社会的虐待」 からの解放に関する理論的考察 中部学院大学人間福祉学部 宮 嶋  淳 博士(ソーシャルワーク)

AID当事者とは誰か 才村・宮嶋(2003)『社会福祉学』より

想定されるサポートの範疇 才村・宮嶋(2002)『社会福祉学』より

「社会的虐待」の定義のヒント 沖縄タイムズ(2002.7.9.)社説「高齢者虐待~社会はサイン見逃すな」「社会システムが高齢者虐待を引き起こす場合もある。」 愛媛県男女平等条例~「住居に隔離すること=社会的虐待」と表現 レイア・E・ウォーカー著/斎藤学監訳『バタードウーマン』1997.1. 夫の政治的権力や支配力、社会的地位などの罠 一般の人たちは、妻の行動を彼女の夫に投影する 妻は夫の許可なしではどのような活動にも参加できない・・社会的孤立 社会的な孤立や屈辱を心理的威圧により加える 彼女たちは命令に従わないと「ひどい傷を負う」メッセージを受けている 誰も助けにならない。地域社会・人々がそれを信じたくないし、信じない 夫が専門職の世界で「人物である」・・・より複雑。 助けを求めれば、世間に知れ、恥をかき、夫の一生を駄目にするかも 黙殺と隠匿という二重苦 周りが全員暴力の共犯者

「社会的虐待」の構造 社会的排除(自己責任と不信) 虐待の起こっている場 (領域すべて) ・・・医療現場や関係者を取り巻く社会 虐待の起こっている場 (領域すべて)               ・・・医療現場や関係者を取り巻く社会 加害者(領域Ⅳ以外)             ・・・医師や医療者、提供者、AID希望者、親戚・縁者、一般市民、 被害者(領域Ⅳ)           ・・・DI者、DI者が形成した家族                   社会的不正義(暴力・無視)                    社会的虐待(権威・服従)                社会的排除(自己責任と不信)                      孤立(無力化・諦め)

我々の「社会的虐待」の定義 被虐待者(DI者)は、虐待者(医療者等)から「社会的孤立」の状態に追い込まれる。 虐待者の社会的地位の高低は、被虐待者の「社会的虐待」の強化に関わる。 「社会的虐待」が強まると、被虐待者は「社会的孤立」を強め、自ら「社会的孤立」の道をたどっているかのようにみえる。 結果、市民による無関心という「社会的排除」が生じる。 「社会的排除」は、被虐待者(DI者)が「社会参加」する権利を奪い、無力化し、諦めを助長する。

NZを調査ターゲットとする理由 “Human Assisted Reproductive Technology Act 2004”により、提供配偶子により生まれた子どもの出自を知る権利を認めた。システムがある。 第57条:Access by donor offspring to Information about then kept by providers or Registrar-General. (18歳以上で) Provider(提供事業者)~ドナーへの説明責任 Registrar-General(情報管理機関)    ~ドナー情報の管理責任 Ethics committee(倫理委員会)    ~ARTにかかる研究等倫理上の監査・監督

NZのHART Act2004(2010.10.改正) Advisory committee(諮問委員会) ACART(=advisory committee on Assisted Reproductive Technology)として活動 Consultation on the use of in vitro Maturation in fertility treatment など、議論のための提言多数 63 Voluntary register (自発的な登録)    ・・・CoC Act も含めた理解の促進  詳細情報については 二宮周平「子の出自を知る権利」日本学術会議『生殖補助医療と法』212-34、2012 Bill Atkin, REGULATION OF ASSISTED HUMAN REPRODUCTION:THE RECENT NEW ZEALAND MODEL IN COMPARISON WITH OTHER SYSTEMS, Victoria University, NZ,1-22,2011 など参照。

NZの Care of Children Act. 2004 4 Child’s welfare and best interests to be paramount (子どもの最善の利益のために) Prat2 Guardianship and care of children (子どもの保護とケア) Subpart 2—Care of children:         Making  arrangements and resolving disputes 39 Purpose of sections 40 to 43    (親と後見人とドナーのために) 40 Agreements between parents and guardians    (必要に応じてカウンセリングの活用) 41 Agreements between parents and donors    (親とドナーの契約) 42 Definitions for section 41    (親とドナー、その間の契約の定義)   * 子どもの最善の利益のために、3者が合意形成を図る。      =当然に3者は面識(代理人や裁判所を介することも)がある。

修復的対話アプローチとは 家族を主体としたNZの伝統的な先住民の考え方を取り入れた、対話方法。 前出の法にあるように、対話は主体的な努力により、合意形成が図られるところから始まる。 マオリの文化を活かした「FGC:ファミリー・グループ・カンファレンス」と同根。 出典:山下英三郎(2010)(2012)を参照。以下同じ

関係崩壊時のアプローチの系譜

期待される対策

修復的アプローチの要 対 話 被害者 加害者 双方 被害について語ることによる[癒し]の効果 謝罪を受けることによる[癒し]の効果 対 話 被害者 被害について語ることによる[癒し]の効果 謝罪を受けることによる[癒し]の効果 加害者 自らの行為の影響を知ることによる[反省の念] 全否定されないことによる[自尊心の保持] 双方 関係再構築の可能性に対する安堵感 未来への展望が開けることによる開放感

修復的対話のルール 自主的な参加 相手の話を良く聞く お互いを尊重する 相手をさけない 発言しない権利がある

修復的対話の流れ

修復的対話の適用可能性

結 論: NZで法定化された「子どもの出自を知る権利」を認めるシステムは、ドナーに関するあらゆる情報を知る権利を認めている。情報とは、管理できるものであるため、提供もシステム化すれば可能である。 一方、ドナーが子どもに会うか会わないかは意思の問題であり、意思は尊重されるべきものであり、公的管理になじまないものである。そのため、努力目標として法定化されている。 ゆえに、この間を埋めるために、子どもの最善の利益を根本理念として、ドナーの意思が協力的であるためのサポートが提供されるシステム化がされている。 相談援助の専門家や第三者がサポーターとして関与するシステム化がなされている。

文献・資料 山下英三郎(2010)『いじめ・損なわれた関係を築きなおす』学苑社 山下英三郎(2012)『修復的アプローチとソーシャルワーク』明石書店 二宮周平「子の出自を知る権利」日本学術会議『生殖補助医療と法』212-34、2012 Bill Atkin, REGULATION OF ASSISTED HUMAN REPRODUCTION:THE RECENT NEW ZEALAND MODEL IN COMPARISON WITH OTHER SYSTEMS, Victoria University, NZ,1-22,2011 才村眞理・宮嶋淳(2003)「生殖補助医療に伴う子どもの権利性の社会的支援に関する質的研究」『社会福祉学』44(1),34-45