多摩川水系におけるHBCDの 排出実態について

Slides:



Advertisements
Similar presentations
下水処理場におけるノニルフェノール関 連物質の LC/MS を用いた分析 永光 弘明 * 加藤 康伸 * 熊谷 哲 ** 中野 武 *** 永光 弘明 * 加藤 康伸 * 熊谷 哲 ** 中野 武 *** * 姫路工業大学工学部 * 姫路工業大学工学部 ** 姫路工業大学環境人間学部 ** 姫路工業大学環境人間学部.
Advertisements

大気中有機フッ素化合物の 一斉調査について 東條俊樹 ( 大阪市立環境科学研究所 ) 竹峰秀祐 ( 兵庫県環境研究センター ) e- シン ポ.
血液中のダイオキシン類・ PCB 分析と異性体組 成 増崎優子・松村徹 (国土環境株式会社 環境創造研究所 環境リスク研究センター) 静岡県志太郡大井川町利右衛門1334-5 Phone : Facsimile :
生体試料における PCB 分析 生体試料における PCB 分析 ○ 上瀧 智巳 1 ) 、 森 千里 2 ) 、 中野 武 3 ) 1 ) ㈱エスアールエル、 2 ) 千葉大学大学院医学研究 院、 3 ) 兵庫県立健康環境科学研究センター.
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
LC/MSを用いた生物試料中の ジラム、マンゼブの定量
分子・物質合成プラットフォームにおける利用成果
LC/MSを用いた水道水源における 解離性有機リン系農薬とその分解物の一斉分析法の開発
環境中のポリ塩化ナフタレンの分析手法開発に関する検討
社内使用禁止物質の 事前チェック.
HPLCにおける分離と特徴 ~逆相・順相について~ (主に逆相です)
○田中康寛、新海貴史、津野洋(京都大学) 松村千里、中野武(兵庫県立健康環境科学研究センター)
UPLC/MS/MSを用いたハロ酢酸分析法開発 ○佐藤信武,津田葉子,小西泰二,江崎達哉 (日本ウォーターズ株式会社)
天然物薬品学 天然物質の取扱い.
ベルリン青染色 Berlin blue stain (Prussian blue stain)
国内で市販されているワイン中の残留農薬 ○山口之彦、板野一臣   (大阪市立環境科学研究所).
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
大阪府の発生源・環境の状況 大阪府環境農林水産総合研究所 2012/03/17 e-シンポ.
PFCsの環境分析 上堀美知子 (大阪府環境農林水産総合研究所) 2009/08/01 第8回e-シンポジウム.
パッシブエアーサンプラーにおける各ピークのサンプリングレート 算出の試み
福岡市内の公共用水域におけるLASの調査結果について
環境試料中のPCB分析における精度管理のヒント
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の分析検討
LC/MSによる環境汚染物質の分析条件の検討. -マネブ系農薬・界面活性剤の分析-
挨拶 飛行機からの景色は雄大で感動 招待していただいたことに感謝 日本での30年の化学物質調査・研究の経験をお話したい
静岡大学システム工学科 前田研究室4年 50113006 阿部 茂晴
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
緩衝液-buffer solution-.
神戸周辺沿岸海域における 有機フッ素化合物の分布と推移
IC/MS/MS法を用いた環境水及び水道水中のハロゲン酸分析法と 過塩素酸の検出
9 水環境(4)水質汚濁指標 環境基本法(水質汚濁防止法) ・人の健康の保護に関する環境基準 (健康26項目) 
The Application to POPs Analysis with HT8-PCB
日本におけるヒト血清中ペルフルオロオクタン酸と ペルフルオロオクタンスルホン酸の 経年的、地域的評価
環境水中の 抗てんかん薬の分析 岩手県環境保健研究センター 環境科学部 鎌田憲光 佐々木和明 嶋弘一 齋藤憲光
第10回e-シンポ「環境及び食品の分析技術の現状」
9 水環境(4)水質汚濁指標 ・人の健康の保護に関する環境基準 (健康26項目) 環境基本法 地下水を含む全公共用水域について適用
下水試料中の女性ホルモン 測定法の課題 -LC/MS/MSとELISAの比較から-
「化学物質分析の過去・現在・未来」(MS技術研究委員会)
カンキツ果実に含まれる蛍光物質の特定 共同研究機関:東北大学,愛媛大学.
SBSE-TD-GC/MS法による農薬分析
旭川医科大学教育研究推進センター 阿久津 弘明 化学 中村 正雄、津村 直美
分子・物質合成プラットフォームにおける利用成果
LC/MSを用いた生物試料中の ベンゾトリアゾール系化合物定量法
GPCクリーンアップを用いた PCBs、PCNs、PCTs及びPBBsの 同時分析
○清家伸康・大谷 卓 (農業環境技術研究所)
水系の2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(ABN) の分析法
静岡大学システム工学科 環境分野 前田研究室 伊藤 啓
湖沼流入河川の医薬品負荷量と 湖沼内の医薬品濃度の関係 独立行政法人土木研究所 水環境研究グループ(水質) 小森行也、鈴木穣
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
水中のフェノール類測定に用いる 抽出固相の検討
販売名1乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用) 製品回収
福岡市の河川水におけるPFCsの実態調査
水田における除草剤ブロモブチドの濃度変動と挙動
水中農薬一斉分析における 固相前処理法の簡略化の検討
誘導体化を用いた フッ素テロマーアルコールの高感度分析 ○竹峰秀祐 環境省 環境調査研修所.
LC/TOF-MSを用いた臭素系難燃剤の分析
産業系排水由来による河川水の有機フッ素化合物汚染
長崎大学大学院生産科学研究科 環境保全設計学専攻修士課程1年 足達 亮
○仲摩 翔太 1,上野 孝司 2,西野 貴裕 2, 高橋 明宏 3, 北野 大 1
廃棄物試料中の有機フッ素化合物の分析法の検討
14 水酸化PCBの生成について (1日鉄環境エンジニアリング㈱,2大阪市立環境科学研究所,3元大阪府環境情報センター)
ガスクロマトグラフィー/負イオン化学イオン化 質量分析法による河川水中フェノール類の 高感度定量
水酸化PCBの生成について 日鉄環境エンジニアリング株式会社         福沢 志保.
大阪府域における 有機フッ素化合物の環境実態調査
LC/MSを用いた水環境中における ネオニコチノイド系農薬の分析方法と存在実態
神戸沿岸海域における 有機フッ素化合物濃度及び組成の経年変化
GC/MSによるノニルフェノキシ酢酸類の分析
大阪府生活環境の保全等に関する条例に基づく水銀の大気排出規制のあり方について
名古屋市内河川におけるネオニコチノイド系農薬および代謝物の濃度分布
沿道植物中のEROD活性による 大気汚染のバイオモニタリング ー研究の概略ー.
Presentation transcript:

多摩川水系におけるHBCDの 排出実態について     東京都環境科学研究所           ○西野 貴裕、加藤みか、下間 志正 東京都環境科学研究所の西野でございます。昨年度から東京都内の公共用水域を対象として、臭素系難燃剤のひとつでありますヘキサブロモシクロドデカンの汚染実態、そして排出源に関する調査を進めてきましたので、その内容について報告いたします。

臭素系難燃剤ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)について α体 β体 γ体 工業用 HBCDの組成比 γ: 75-89%, α: 10-13%, β: 1-12% 用途 発泡ポリスチレン製の住宅建材や樹脂用難燃剤、ポリエステル製の難燃カーテンなどの繊維用難燃剤 まず、ヘキサブロモシクロドデカン略称はHBCDといっていますが、ここにいらっしゃる方は皆さんご存知のことと思いますが、これまでポリスチレン等の住宅建材や樹脂用の難燃剤、あるいは何年カーテンなどの難燃剤として、国内で多い年は年間3500トン程度の規模で出荷されてきました。しかし、2013年にPOPs条約の対象物質に追加され、その1年後に化審法の第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入が禁止になっています。しかし、このような規制がなされてからも、HBCDを使用した製品の廃棄、あるいは洗浄を通じて環境中へ排出されていることを想定し、水環境中での実態調査を行うことにしました。 2013年、POPs条約対象物質に追加 2014年、化審法第一種特定化学物質

HBCDのPOPs追加、化審法第一種特定 調査内容 HBCDのPOPs追加、化審法第一種特定 化学物質指定に伴う、排出の削減  多摩川水系における排出実態調査 多摩川へ放流している下水処理場    ・流入水、放流水中のHBCD濃度の定量    ・多摩川への負荷量を算出  この動きに伴い、各業界による自主的な使用や排出の削減活動が行われているということを受け、水環境への流入が減少することが考えられました。 このため、我々はこれまで多摩川をメインフィールドとして扱ってきましたので、引き続き多摩川でPFOS、PFOAを中心に濃度や負荷量をそくていしました。そして、排出削減活動が行われる前の平成17年にも国立環境研究所と同様の調査をしてきましたので、そのデータと比較することでで、どれだけ活動前後で変化したかを追跡しました。

調査対象地点 多摩川 下水処理場A~F6ヶ所の流入水、放流水(いずれもコンポジット試料)を採取 調査時期:2014年11月および12月  調査時期:2014年11月および12月 ● 多摩川 永田橋 日野橋 関戸橋 多摩川原橋 ■       10km ●:多摩川本川の主要地点 ■:下水処理場放流口(A~Fの6ヶ所) 4

調査対象物質 物質 α-HBCD β-HBCD γ-HBCD δ-HBCD ε-HBCD サロゲート シリンジ スパイク シリンジ スパイク D18-α-HBCD 今回の調査対象物質です。まずカルボン系の物質は、骨格炭素数6のものから12のものまでの7種類、スルホン系は同じく炭素数4~10までの5種類、計12物質としました。定量は後ほどお話しますLC/MS/MSにより内部標準法で行いましたが、それぞれの物質に対応する内標物質がそろっていない状況なので、極力炭素数の近いもので代用しました。

分析方法 水試料 固相抽出 洗浄 溶出 濃縮、定容 精製 LC/MS/MS 濃縮 精製2 流入水の場合、以下を追加 サロゲート混合溶液 EmporeDisk C18 60%メタノール水溶液 30mL 50mL/min 超音波抽出装置 アセトン、ヘキサン シリンジスパイク溶液 濃縮、定容 精製 窒素吹付 EnviCarb 80%メタノール水溶液1mL LC/MS/MS 濃縮 ロータリーエバポレーター 5%アセトン/ヘキサン 10mL 流入水の場合、以下を追加 フロリジルPR 2g、無水硫酸ナトリウム0.5g、44%硫酸シリカゲル2g、無水硫酸ナトリウム1g 精製2 ヘキサン10mL(廃棄)⇒ 30%ジクロロメタン/ヘキサン40mL

分析条件 LC/MS/MSの分析条件です。まずLCの方は、Waters社製Alliance2695を使用しました。溶離液として10mM酢酸アンモニウム溶液とアセトニトリルを55:45の比率で流しました。カラムはAgilent製のXDB-C18を用い、40℃一定のもと、流量は一分あたり0.2mLとしました。MSに関しては、イオン化法はネガティブモードのESIとし、MRMモードで測定しました。測定イオンに関してはこちらに示すとおりです。

検出下限値・定量下限値(ng/L) α~εHBCD各10ng/mL混合溶液20μLを超純水1Lに添加(HBCD濃度:各0.2ng/L) 7回繰り返し分析後、標準偏差算出 α β γ δ ε MDL 0.16 0.10 0.09 0.25 0.07 MQL 0.41 0.24 0.64 0.17 分析を進めるにあたって、検出下限等を算出しました。黒本調査のやり方に従い、HBCD各異性体濃度が水ベースで0.2pptになるように調整した水溶液を7回、先ほど示した方法で繰り返し分析して算出しました。今回は5つの異性体を対象としましたが、δ体は他と比べて同一濃度あたりのピーク面積がかなり小さいため、高めの濃度になりました。

回収率50%未満の試料 二重測定により±30%以内を確認 サロゲート回収率等について 流入水に対して 13Cα-HBCD・・・32~78% 13Cβ-HBCD・・・37~60% 13Cγ-HBCD・・・57~79% 回収率に着目すると、サロゲートとして添加した13Cラベル化体の回収率は、ご覧の通りでした。一部で50%を割る検体がありましたが、全体的には90%以上の試料がほとんどでした。なお、操作ブランクは、全ての試料で検出下限値未満でした。 回収率50%未満の試料 二重測定により±30%以内を確認

下水分析結果(流入水) δ、ε体は、全試料でN.D.

下水分析結果(放流水) 流入水と比較して95%以上減少

下水処理場から多摩川への 負荷量(g/日) PFOSの約7g/日1)と比較して1/10未満 回収率に着目すると、サロゲートとして添加した13Cラベル化体の回収率は、ご覧の通りでした。一部で50%を割る検体がありましたが、全体的には90%以上の試料がほとんどでした。なお、操作ブランクは、全ての試料で検出下限値未満でした。 水溶解度   PFOS:519~670mg/L        HBCD:8.6×10-3mg/L     1)西野ほか:環境化学,23,pp.177-186 (2013)   

既存毒性データとの比較 水生生物への影響に関する毒性情報との比較 放流水のデータ 最大値(ΣHBCDで1.1ng/L) 藻類(Skeletonema Costatum)の 増殖阻害に関するEC50:9.3~12μg/L(72時間) オオミジンコの繁殖阻害に関するNOEC:3.1μg/L(21日間)                (PNEC:0.31μg/L)     放流水のデータ 本データを、既存の毒性情報と比較してみました。HBCDに関しては水生生物への影響に関するデータが複数報告されています。今回測定した事業場排水データのうち最大値を、甲殻類に対するNOEC、あるいはPNECと比較すると、それぞれ20分の1、2分の1といった具合でした。水生生物へのPNECは、さらに安全性を考慮した設定になっていると思われますが、このような排出源の近傍における影響について今後、付近の底質を調査したりなどより重点的に調査する必要があろうかと考えています。 最大値(ΣHBCDで1.1ng/L) で、PNECの1/300程度          

底生生物への影響、高次捕食生物へのリスクが懸念 環境省環境リスク評価では、一部の地点でPEC/PNEC比1以上 今後の課題と予定 HBCDのLogPow:5.07~5.47 底生生物への影響、高次捕食生物へのリスクが懸念 環境省環境リスク評価では、一部の地点でPEC/PNEC比1以上 底質、水生生物の調査の実施 今後の課題と予定ですが、HBCDはPOPsや化審法第一種特定化学物質になるだけあって水オクタノール分配係数も高く、底質や生物への蓄積、ひいては底生生物や高次捕食生物へのリスクが懸念されます。実際に環境省の実施したリスク評価では一部の地点でPECとPNECの比率が1を超える地点もあるとの報告もあります。これを受け、特に排出源近傍地点の底質や水生生物を対象とした調査を進めていきたいと考えています。