ALS患者の在宅独居移行支援に関する 調査研究(3) ――在宅移行の困難――

Slides:



Advertisements
Similar presentations
介護支援サービス(ケアマネジメント) 要援護者やその家族がもつ複数のニーズと社会資源 を結びつけること。 要援護者の生活の質を高めること。 保健,医療,福祉,住宅等の各種公的サービスだけ でなく,家族、ボランティア,近隣等の支援とも調整 し,在宅生活を支えていくもの.
Advertisements

平成24年度・平成25年度 在宅サービス収支状況比較調査 報告書 平成26年9月 社会福祉法人 大阪府社会福祉協議会 老人施設部会 在宅分科会 調査研究小委員会.
MSW の役割について 広島大学病院 薬剤部 藤田啓子. MSW の仕事とは? ・主に医療機関や老人保健施設、在宅介護支援センター等 に勤務し、医師・看護婦・理学療法士などと共に、 医療チームの一員として、患者さんとその家族への相談 やさまざまな援助を行っています。 ・社会福祉の専門家として、患者さんに関わる経済的、
生活困窮者自立支援法案について 資料(2)-2 法案の概要 施行期日 平成27年4月1日
安心おたっしゃ訪問事業 杉並区保健福祉部 高齢者在宅支援課.
1.高齢者の健康とその支援 2.保健・医療・福祉の連携
手続きに関して説明いたしますので担当部署にご相談ください。
静岡県内の生活困窮者実態に関する基礎資料
老後をみんなで考え、共に生きるためのシンポジウム
ノーマライゼーションかしわプラン策定に向けた基礎調査について
看護師がお宅へ訪問し、 疾患や障がいを持っていても、 在宅で安心して生活してゆけるよう お手伝いします。
居宅介護支援事業所.
市町村による精神障がい者の地域移行を進めるための支援策について(案)
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 3 支援体制整備③ 医療・福祉・教育の連携
Ⅱ 訪問介護サービス提供プロセスの理解 Ⅱ 訪問介護サービス提供プロセスの理解.
課題整理表 資料10 次期狛江市障害者計画・ 障害福祉計画策定に向けた この課題整理表は、 ①国が示した障害福祉計画に係る基本指針
重度障害者等包括支援を円滑に 実施するためのサービス利用計画
アンケート② 病棟体制.
4 第3次障害者基本計画の特徴 障害者基本計画 経緯等 概要(特徴) 障害者基本法に基づき政府が策定する障害者施策に関する基本計画
本邦における「障害」の射程と 身体障害者手帳をめぐる問題
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 3 支援体制整備④ 資源開拓・創出方法
大阪府高齢者保健福祉計画推進審議会専門部会 委員候補(案)
在宅ホスピスケア実施におけるSTAS-Jの有用性
立命館大学大学院先端総合学術研究科 有松 玲
Ⅲ.サービス開発の方法.
重度障害者等包括支援について.
重症心身障害児者等 支援者育成研修テキスト 5 ライフステージにおける支援① 各ライフステージにおける 相談支援に必要な視点
手話言語に関する部会について 西脇市障害者地域支援協議会 事務局会議 障害福祉関係者会議 事業所連絡会 サポートノート関係会議
第6章 ホスピス・在宅ケアについて何を知っておくべきか?
「就労支援に係る相談支援機関」 障害者就業・生活支援センター 障がい者 自立・安定した職業生活の実現 雇用と福祉のネットワーク 福祉施設等
資料2 介護保険制度改革の方向.
テーマ:ALS患者の地域医療連携と呼吸リハの実際
第2回 福祉の現在・現在 厚生労働省(2018) 障害者白書 厚生労働省(2016) これからの精神保健福祉のあり方に          関する検討会資料.
一般財団法人 仁風会 嵯峨野病院 在宅事業部長 川添チエミ
介護支援専門員 ケアマネジャー サービス担当者会議.
緩和ケアチームの立ち上げ ー緩和ケア医の立場からー
若年性認知症支援コーディネーター設置等事業
保 健 医 療 連 携 室  北海道立江差病院では、患者さまやご家族の皆様に、より良い医療・看護を効率的に提供できるように、地域における医療、介護福祉施設、関係機関と連携し、各機関・施設の機能と役割を最大限に発揮できるように、調整していくための窓口です。 ○ 診察療予約受付の流れ 報告書 □ 保健医療連携室 
地域ネットワークを構築 相談支援事業が核 甲賀地域障害児・者サービス調整会議(甲賀地域自立支援協議会)の運営 図3 約80機関で構成
「“人生の最終段階における医療” の決定プロセスに関するガイドライン」
トータス往診クリニック 国立がん研究センター東病院 血液腫瘍科 大橋 晃太
訪問診療申込書 北星ファミリークリニック行 記入者 所属 TEL: FAX:
相談支援従事者初任者研修のカリキュラムの改正について
平成30年8月 府中地区ケアマネジマント モデル 有地.
天理市第1号訪問事業 (短期集中予防サービスC)について
交通アクセス お問い合わせ先はこちら 社会福祉法人 ヴィラージュ虹ヶ丘 神奈川県川崎市麻生区虹ヶ丘1丁目22番1-2号
難病患者の地域生活支援における諸課題 ―退院から在宅へ-
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 2 計画作成③ 重症心身障害児者等の ニーズ把握事例 ~久留米市のコーディネートの現状~
地域リハビリテーション -訪問リハビリテーションを中心に-
生活支援 中央研修 H26.9.4(木)~5(金) 品川フロントビル会議室 H26.9.6(土)~7(日) JA共済ビルカンファレンスホール
いきいき笑顔応援プロジェクトによる支援の流れ確認シート
オフィス藤田 グループホーム燦々(さんさん) 看護師 介護支援専門員 古城順子
事業所名 訪問介護サービスのご案内 通院介助 入浴介助 掃除 日常家事 調理 援助 買物同行 排泄介助 買物代行 洗濯 介護の ご相談
今後めざすべき基本目標 ―「ケアの流れ」を変える―
総合事業サービス費に関する 1回報酬制の導入について
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 2 計画作成① 重症心身障害児者等の 意思決定支援
在宅医療施策の取組状況と今後の展開(案)
介護保険事業(支援)計画策定のための 地域包括ケア 「見える化」システム等を 活用した地域分析の手引き
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
若年性認知症の人への支援 若年性認知症支援コーディネーター これらの支援を一体的に行うために を各都道府県に配置
「在宅医療と 家族の位置/中立性」 京都橘大学看護学部看護学科 老年看護学 立命館大学大学院先端総合学術研究科 博士課程後期課程 仲口 路子
学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題 日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
( 平成29年6月30日時点精神科病院長期入院者数[暫定値] )
大阪府在宅医療体制強化事業(機能強化支援事業)<事業概要>
移行定着支援事業(新規) 1 事業の目的   小規模作業所等が障害者自立支援法に基づく新体系サービス(地域活動支援センターを除く。)の事業へ  移行した場合に、新たな事務処理を定着させるために要する経費や移行前の小規模作業所等の当時からの利用  者が継続して利用し、定着できるために実施する経過的な施策に要する経費等を助成することにより、新体系.
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
私のカルテ 発熱性好中球減少に対する予防的G-CSF製剤使用のための地域連携パス(通称:G連携)
Presentation transcript:

ALS患者の在宅独居移行支援に関する 調査研究(3) ――在宅移行の困難―― ○立命館大学大学院先端総合学術研究科 仲口 路子(2416) 立命館大学大学院先端総合学術研究科 長谷川 唯(2418) 立命館大学大学院先端総合学術研究科 山本 晋輔(2419) 立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー                            北村 健太郎(241 日本学術振興会特別研究員 堀田 義太郎(2415) 2008年日本地域福祉学会

目的 筋委縮性側策硬化症(以下ALS)の療養者K氏が、長期入院を経て在宅生活に移行するプロセスの報告と検討 目的  筋委縮性側策硬化症(以下ALS)の療養者K氏が、長期入院を経て在宅生活に移行するプロセスの報告と検討 退院後の生活支援体制の整備に関して生じた困難・要因・必要な解決方法を明らかにする とくに医療と福祉の双方にニーズを持つ人に必要な制度的な連携に焦点を当てる  (調査期間:2007年1月~同8月13日の退院まで) 2008年日本地域福祉学会

K氏の病歴等 ALS 喉頭分離術を受け、発声は不可能 水分は胃ろうで摂取するが、刻み食は経口で摂取可能(経口食を要望) 発症後転院しつつ4年弱の病院生活 家族とは別離 2008年日本地域福祉学会

ポイント K氏は、日本の福祉施策において、介護の「含み資産」とされている家族をあてにせずに、地域で在宅生活を営むため、福祉諸制度をフルに活用する必要があった だが、医療機関主導の退院支援においては、福祉諸制度を活用するための準備が十分に整備されなかった それによって生じた諸問題とその要因の検討は、医療的ケアを必要とする重度身体障害者が長期入院を経て在宅生活に移行するために、いかなる資源とサポート体制が必要かを明らかにするのに役立つ 2008年日本地域福祉学会

主な症状と必要な援助 (1) 痰づまりや誤嚥 (2) 全身硬直発作 (3) コミュニケーション障害 2008年日本地域福祉学会

在宅移行に至った契機 2007年1月、東京都で、障害者福祉制度を利用して「24時間他人介護」によって地域生活を実現している人の存在を知る これではじめてK氏は家族介護によらず、単身で住み慣れた地域で住居を探し、社会生活を営みたい、という意志を持つに至る 当時の入院環境に不満もあった 2008年日本地域福祉学会

K氏が2007年1月時に利用していた制度 ② 特定疾患治療研究事業:特定疾患医療受 給者重症患者認定  ① 身体障害者:四肢機能障害1級認定(2005   年1月) 障害基礎年金を受給  ② 特定疾患治療研究事業:特定疾患医療受  給者重症患者認定  ③ 2005年6月、会話機能喪失に伴い、市の情  報バリアフリー化支援事業 意思伝達を容  易にする障害者向けの支援ソフトを導入し  たパソコン購入に対して、10万円の支給 2008年日本地域福祉学会

在宅移行に至った経緯 長期療養A病院を退院 ⇒ B病院に入院 (07年1月~3月) 在宅移行に至った経緯  長期療養A病院を退院 ⇒ B病院に入院 (07年1月~3月) A病院のソーシャルワーカーに在宅移行の意向を伝える ⇒ 「転院や退院はかまわないが、再入院は現在の入院待機者が優先となるので、いったん病院を出るとベッドの保障はできない」 診察と症状に対する対処を最優先し、以前入院していたB病院の神経内科医の診察を受ける 2007年3月に喉頭分離術を受け、A病院に退院の意向を伝え、退院準備のための転院を要望する B病院からは、手術後3か月をめどに退院することを条件に引き受けてもよいとの回答を得る 2008年日本地域福祉学会

4月20日 障害者自立支援法介護給付費支給申請書を提出 B病院(3月末~6月) 3月 4月末 B病院 K氏/支援者 地域生活移行・退院調整を行うMSW(看護師資格と介護保険ケアマネージャー資格を持つ)が支援に入る MSWの支援により介護保険の居宅サービス申請 障害者自立支援法の申請、支給時間、支給決定時期等については見通しは示されなかった 気管切開後B病院に入院 ⇒ 居住先も福祉制度活用の見通しもないまま、8月13日という在院期限を約束 MSW・市障害者地域生活支援センター・自立支援センター、患者会などに照会し、在宅時に利用可能な制度の把握につとめた 4月20日 障害者自立支援法介護給付費支給申請書を提出 4月27日 障害認定調査 6月5日  障害認定調査完了  ⇒ 障害企画課送付 2008年日本地域福祉学会 6月下旬 要介護認定 5決定

障害施策を複合的に? 「自薦ヘルパー」育成? 「介護保険制度が優先で、ケアプランをケアマネージャーが作成する。足りない介護量を障害福祉サービスで補う。市に問い合わせた」 以前は、ALS患者は介護保険が障害サービスに優先だったが、今春、国から優先関係を見直す通達が出た。柔軟に対応   できるはずだ 2008年日本地域福祉学会

生活保護申請を決意する。(入院中は「生活実態がない」として受理されず) 2007年6月~7月 生活保護 6月 住居地を早期に定める必要があり、敷金礼金計20万円、家賃45000円の賃貸の平屋建ての住居を6月までに契約 入院時から家賃や転居費用が発生。 障害基礎年金では日常生活必需品の購入も困難 生活保護申請を決意する。(入院中は「生活実態がない」として受理されず) B病院に対して生活保護申請の意向を伝える 2008年日本地域福祉学会

生活保護申請と介護保険に関する混乱 (6月~7月) B病院ワーカーから、 生活保護受給開始により介護保険2号被保険者ではなくなり、介護保険サービスが使えなくなるがどうするか 退院後即生活保護を申請すると現在のケアプラン調整を破棄せざるを得ないので、退院時に支える公的サービスがなくなる と言われる これに対し、居住予定地を担当する障害者地域生活支援センターに相談すると、生活保護を受給しても、介護保険は介護扶助として利用可能と説明を得る 2008年日本地域福祉学会

病院外に支援を委託(7月~) 7月中旬 7月24日 7月27日 7月31日 8月13日 7月に至っても、障害者自立支援法に基づく介護サービス支給量が示されない状況にあったため、同法のケアプラン作成や福祉行政等との交渉を障害者地域生活支援センターに委託 B病院のMSW 介護保険サービス利用票 を提出 地域生活支援センターが作成したサービス利用計画表を、福祉事務所に提出 支給決定 651時間(内、介護保険分が62h) ・・・・・・ B病院が介護保険のケアプランの調整をしていた段階で支援者のネットワークを駆使してヘルパーを雇用登録する障害福祉の事業所(NPO)を探し当てていた 2008年日本地域福祉学会

制度利用の経緯 6月5日には障害認定調査は完了していた だが、障害者自立支援法のサービス利用計画表は、地域生活支援センターに支援者が支援を要請してから作成され、提出されたのは7月27日(介護保険のケアプランの提出も退院二週間前) ALS療養者に特有のニーズを満たすための事実上のパーソナルアシスタンスを得ようとしていたが、利用可能な自立支援法の支給量が決まらなかったため、退院直後の生活支援者が限られることになった 2008年日本地域福祉学会

問題点とその要因 問題点 退院一週間前まで障害福祉サービスの支給量が決定されなかった 時給や労働時間等の見通しを示すことができず、ヘルパーを募集できなかった。   ⇒ 退院時には、入院時から支援していた5人の男女で24時間を埋めなければならなかった 要因  介護保険優先という病院のスタンスにより、自立支援法のサービス利用計画が遅延した 2008年日本地域福祉学会

介護保険プランの限界 介護保険では量が足りない  介護保険では量が足りない  痰吸引など医療的ケアを引き受けてくれる事業所が介護保険では極めて少ない。 ヘルパーの作業内容も硬直的   介護の質量ともに明らかに限界がある   介護保険優先の支援プラン   「介護保険制度が優先でケアプランはケアマネージャーが作成する。足りない介護量を障害福祉サービスで補う」  (MSW)    生活保護を受給し、障害者自立支援法のサービスを受けると介護保険(扶助)は後回しになる。 ⇒ ケアプラン見直し業務が生ずる。 障害者自立支援法 > 介護扶助というプランに消極的 2008年日本地域福祉学会

病院の介護保険優先の支援パッケージでは独居生活は量的・質的に不可能 だが、 病院は介護保険優先を崩さない。 ⇒ K氏のような人が退院し地域生活を営むこと自体が想定されていなかった 障害福祉サービスを別途用意することが当事者に課される しかし、医療を必要とするため、障害の制度に完全にゆだねることもできない 2008年日本地域福祉学会

医療的ケアを必要とする重度障害者が独居でも生活できる権利を保障するために 介護保険の枠組みでは量的に不可能・質的にも困難 自立支援法を最大限に活用することで介護・介助の量(時間数)は確保できる可能性がある 医療的ケアを要するため、往診・訪問看護との連携が必要。緊急時に受け入れ先になってくれる病院が存在している必要がある 医療と福祉をミックスした支援体制をコーディネートでき、在宅移行にとって必要な資源を提供できる制度が必要 2008年日本地域福祉学会