星間乱流の謎に迫る 長島雅裕(天体核) あらすじ ・星間分子雲は乱流状態にある(と考えられている) ・どうやって維持しているのか、長年の謎

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口径合成によるメーザー源の 時間変動の観測 SKA に向けて 岐阜大学 高羽 浩. 東アジア VLBI 網の 22GHz 日本 野辺山 45m 、鹿島 34m 、 高萩、日立、つくば、山口 32m 、 VERA20m× 4 北大、岐阜大 11m 、水沢 10m 韓国 KVN20m× 3+測地 20m.
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今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
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天文・宇宙分野1 梅村雅之 「次世代スーパーコンピュータでせまる物質と宇宙の起源と構造」
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
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Presentation transcript:

星間乱流の謎に迫る 長島雅裕(天体核) あらすじ ・星間分子雲は乱流状態にある(と考えられている) ・どうやって維持しているのか、長年の謎  ・星間分子雲は乱流状態にある(と考えられている)  ・どうやって維持しているのか、長年の謎  ・説はいくつかあるけれども、混迷状態  ・もしかしたら自然に説明できるかもしれない   シナリオと、その物理過程について、紹介します。  ・さらに、乱流をドライブする物理が、   銀河の定性的な理解を大きく変える可能性も。 犬塚修一郎、井上剛(天体核)、小山洋(神戸大)

分子雲 (野辺山のwebより) 野辺山45m (立松さんのwebより) 2006/3/7

中性水素原子とCO分子 in M33 水素の濃いところにCO分子 温度10Kぐらいまで冷え、密度が 高くなると、分子が形成される Blitz et al.(2006) 温度10Kぐらいまで冷え、密度が 高くなると、分子が形成される 2006/3/7

サイズー線幅関係(Larson's law) 電波望遠鏡で スペクトルを取ろう 観測される線幅と 雲のサイズには 良い相関がある おおよそ、 12COの線幅 観測事実 輝線幅 dv [km/s] Heyer & Brunt (2004) 分子雲のサイズ L [pc] 2006/3/7

輝線幅の起源? ナイーブには温度による幅 雲は静止していても、構成原子(分子)は 温度に相当する乱雑な運動をしている しかし、観測される輝線幅は、 それ(~10K)よりずっと広い 2006/3/7 Sakamoto & Sunada (2003)

サイズー線幅関係(Larson's law) 観測される線幅と 雲のサイズには 良い相関がある 12COの線幅 超音速運動? 100K 10K ところが、分子が あるような場所の ガスの温度は高々 数10K程度 輝線幅 dv [km/s] Heyer & Brunt (2004) 分子雲のサイズ L [pc] 2006/3/7

ところが 線幅の起源:乱流? 観測されている分子の温度は高々数10K →線幅は Δv < 1km/s となるはず しかし、観測されている線幅はずっと大きい もし、分子雲内部がすべて分子になっているなら  →線幅は thermal ではなく、kinetic なもの(バルクな運動)  →超音速乱流状態 ところが 2006/3/7

困った。 線幅の起源:乱流? 観測されている分子の温度は高々数10K →線幅は Δv < 1km/s となるはず しかし、観測されている線幅はずっと大きい もし、分子雲内部がすべて分子になっているなら  →線幅は thermal ではなく、kinetic なもの  →超音速乱流状態 超音速乱流は、  →あちこちで衝撃波発生  →効率的なエネルギー散逸、あっというまに乱流は decay  →しかし乱流はuniversalなので、維持したい 困った。 T_ <<銀河回転~100Myr 2006/3/7

乱流の維持機構 普通に考えると、何らかのエネルギーを注入し、 乱流を維持しなければならない →超新星爆発? 原始星からのoutflow? いずれにしても、なんらかのチューニングが必要 ここで、まったく別の考え方をしてみよう。 ・暖かいガスに、ランダムに運動する冷たい(~10K)クランプが  浮かんでいる ・観測は冷たいクランプからの輻射  (暖かいガスは希薄なので観測不可能) ・クランプの運動は、 暖かいガスの音速よりは遅く(sub-sonic) 冷たいガスの音速より速い(super-sonic) →衝撃波生じず、乱流が維持される? 2006/3/7

星間ガスを、超新星爆発による衝撃波が通過 →ショック背後に二相構造、乱流生成 黄色: 低温高密度 青色: 高温低密度 乱流が維持 分子雲でも 同じことが? 提供: 小山洋氏@神戸大

位置-速度(PV)図 シミュレーション Koyama & Inutsuka (2002) 観測 Sakamoto & Sunada (2003) 位置 速度 そもそも、どうして 二相に分離するのだろうか? 2006/3/7

二相構造の熱的起源 低密度なので、 光学的には薄い 冷却 原子・分子の衝突励起 +自発放射 (運動エネルギー→輻射) 加熱源 UV/X-ray, Cosmic ray など ガス雲 電子を叩き出す 色々なプロセスが あって、ややこしいが、 まとめると、 要するに… 加熱率、冷却率 Koyama & Inutsuka (2000) 2006/3/7

熱不安定(thermal instability) 全加熱率G、全冷却率L、 G=Lの系列をプロット (+理想気体の状態方程式) P/k (圧力) 不安定平衡 Γ<Λ 圧力はほぼ一定 Warm Cold 星間ガスの状態は、 WarmガスとColdガスへの 相分離状態→一種の相転移 (密度比約10^3) Γ>Λ 安定平衡 高圧: 冷却が卓越→condensation 低圧: 加熱が卓越→evaporation 釣り合う圧力が飽和圧 T(温度) Koyama & Inutsuka's cooling function used 2006/3/7 n (個数密度)

熱エネルギー→運動エネルギーへの変換 輻射 宇宙線 非平衡開放系そのもの 熱エネルギー ↓ 運動エネルギー 輻射 ・熱伝導が運動を駆動している ・圧力の大きさで、運動の向きが  決まる 加熱 T Warm しかし、実際にどう乱流に なるかは、二次元以上で 界面がどうなるか しらべないといけない。 熱伝導 Cold 冷却 x 2006/3/7

パターン形成理論の応用:界面の運動 エネルギー方程式: (冷却-加熱) (熱伝導) 以下の仮定をすると、界面方程式を得る: 3次関数的 ρ:密度、e: specific energy, p: 圧力 (熱伝導) 以下の仮定をすると、界面方程式を得る: ・球対称(界面の位置R) ・ほぼ等圧に進化(流体の運動が遅い) ・界面の構造が次元に依らない(plane-parallelでも球対称でも同じ) ・温度(密度)の空間微分は界面でのみ non-zero 2006/3/7 (界面の速度)=(圧力のみで決まる速度)+(曲率に比例する項)

曲がった界面のダイナミクス (1) 界面に垂直なnormal vector g を定義 温度微分は 平均曲率は Cold Warm をKで置き換える (一般にd次元なら      ) x 2006/3/7 Nagashima, Koyama & Inutsuka (2005)

曲がった界面のダイナミクス (2) 方向余弦に注意して、x軸方向の界面の速度は 熱フラックスが 曲率の影響で 集中/拡散するため 蒸発しやすい V小 for K>0 region V大 for K<0 region →界面はまっすぐになりたい  →安定 →曲率項は安定化に寄与する ただし、圧力変動等の効果も 効く可能性がある(線形摂動) (井上&犬塚、準備中) →燃焼波面の   Darrieus-Landau不安定 K>0 Cold Warm K<0 凝集しやすい 冷 温 x 2006/3/7

乱流を駆動するメカニズムは何か? 曲率が効いて熱伝導で ならされる Cold 相互作用で引力 Cold Warm ・接近した部分は、より強く引かれあうようになる ・しかし、凸の部分は蒸発しやすくなって、まっすぐに戻そうとする この二つの兼ね合い ある程度近づくと、一気に cold になる 密度が3桁高いので、急激にガスが 流れ込む inertia で運動が生じる?  (2Dと3Dでも違うかも) 2006/3/7

理論の検証? 今まではすべて純理論的 実際に分子雲内部でどうなっているかは、 (とりあえずは)今後の高精度観測を待つしかない 都合のいいことに、最近(去年5月)、 熱伝導が直接影響を及ぼしそうな、微小な雲が見つかった。   → tiny HI clouds まだ数例しか発見されていないが、今後統計が増えれば、 進化について観測から制限がつく 理論的に進化を求めよう 2006/3/7

Tiny HI clouds 電波干渉計によるマップ(21cm線) ←観測限界ギリギリ 電波銀河に対する吸収線 0.15pc@100pc Braun & Kanekar (2005) Stanimirovic & Heiles (2005) ←観測限界ギリギリ 電波銀河に対する吸収線 2006/3/7

蒸発の Timescale 折角球対称雲の進化を求めたのだから、蒸発率を求めてみよう R〜0.01pc の雲は、1Myr程度で蒸発してしまう なければならない それとも、銀河の物理状態の 我々の知識は間違っている? (実は物凄い高圧?) 高圧の場合 condensation 低圧の場合 解析近似解の予想 動径方向のみを解いた シミュレーション結果 Nagashima, Inutsuka & Koyama, in prep. 2006/3/7

臨界半径 2006/3/7

質量スペクトル 個々の雲の進化が求め られたので、統計の進化も 計算できる →将来の観測でチェックできる 2006/3/7

まとめ ・星間分子雲は乱流状態と思われる。 ・universal なスケーリング則がある。 ・星間ガスは二相構造を取り得る。 ・熱伝導により、乱流が自発的に維持される。 ・熱伝導の役割は、微小な中性水素雲を調べることで、  明らかになると期待される。 ・より大きな数値実験 ・より現実的な観測との比較(輻射輸送; 国立天文台グループが開始) ・非平衡系の物理学の方法論が有効 ・微小な中性水素雲の統計から、銀河ガスディスクについて  新たな知見が得られると期待  →ガス相にある baryonic dark matter? (baryon budget) 2006/3/7