要求言語行動(マンド)の獲得とその成立のための実践

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要求言語行動(マンド)の獲得とその成立のための実践 08応用行動分析 08 第8回:言語行動の獲得と維持 要求言語行動(マンド)の獲得とその成立のための実践 アクティブ・シミュレーションの場としての「実験室」

1.言語行動 1)言語行動とはオペラント行動である    先行事象-反応-後続事象 定義:同じ言語共同体に属する他の成員の オペラント行動を介した強化によって形成・ 維持されている行動

2)言語行動の分類 (形態ではなく 行動(=機能)による分類) 2)言語行動の分類 (形態ではなく 行動(=機能)による分類) ①要求言語行動(マンド:mand) 先行状況 反応 後続事象 確立操作 (激しい運動) 強化 「みず!」 水の提供 弁別刺激 (ポットを持つ人) 反応:強化内容を「聞き手」に特定

②報告言語行動(タクト:tact) 先行状況 反応 後続事象 ・弁別刺激(現物の水) 「みず!」 「あ、そう」 ・これ何? 強化 先行状況      反応       後続事象  強化 ・弁別刺激(現物の水) 「みず!」 「あ、そう」 反応の内容(水、花、鳥)に関わりない。 ・これ何? 言語的対応関係

③音声模倣行動(エコーイック:echoic) 先行状況      反応       後続事象  強化 弁別刺激  (他者の音声  「みず」) 「みず!」 「その通り」 反応の内容(水、花、鳥)に関わりない。 音声の形態的一致

3)要求言語行動を「教える」 ●確立操作(Establishing Operation) ①お使い技法(「**もらってきて」)   ①お使い技法(「**もらってきて」)    ②欠品充足技法(カレーがあるのにスプーンがない)   ③選択肢提示技法(メニューを見せる) ●要求言語行動の「反応形態を作る」   反応形態の種類:音声、手話、シンボル、   選択肢への「指さし」

●獲得した反応形態がマンドの機能を 持っているかの検証方法 ●獲得した反応形態がマンドの機能を   持っているかの検証方法 その反応が特定の強化刺激で強化されているか?   確立操作-反応-強化刺激 上記三者の間の関連が存在しているか?

要求言語行動の成立作業の実際と 問題点: 施設居住の「聾」重複の障害のある成人を対象とした実践研究 (1988~1998) 1)書字とサインモードを用いたマンドの獲得 2)日常の維持のための環境設定 3)刺激等価性手続きによる書字(アイコン)とサインによる複数複数モードの表出手段の獲得 4)色・感情表現・味・時間概念の獲得

障害のある個人に要求言語行動(マンド)を成立させる為のアプローチに含まれる 2つの援助: 1)言語行動を「形態」ではなく「機能」として捉えることで、「援助」すること 2)さらに、要求言語行動(マンド)という「環境変更」を伴う社会行動を 「援助」すること

1)通常の「形態」にこだわらず(障害のある) 個人が、今、できる形態を用いて「機能」 を成立させる。   個人が、今、できる形態を用いて「機能」   を成立させる。 正の強化で維持される行動の選択肢が絶えず 複数存在する状態の実現 本人の得意な物を選択 口話:「みず」 サイン:「ミズ」 書字:「みず」 アイコン選択 確立操作 弁別刺激 強化(水)

2)要求言語行動(マンド)という「環境変更」を伴う社会行動そのものを「援助」するということ ●要求言語行動の機会を設定する   →機会の設定(援助)、機会の    環境への常駐の要請(援護) ●要求内容について実現する   →個人的要求の機会の増大

訓練のダイアグラム

マンドの行動連鎖の訓練過程 「違います!」

訓練のタイムスケジュール

般化促進のための 教授・援助設定 日常→訓練の場へ 教授設定 Passive- Simulation 援助・援護設定 訓練→日常 Active- simulation

日常への般化を促進するための援助・援護 1)訓練場面で有効であった弁別刺激の   日常への定着      「**さん、なあに?」 2)職員や他の利用者の手話の獲得

日常での般化の過程

日常での般化の過程(絶対数)

手話の本:環境成員の手話の獲得のために

知的障害のある成人の手話獲得過程(Nozaki, et al. 1991)

どれだけ日常で手話が使われたか? Nozaki, et al., (1991) 野崎(1997)「応用行動分析入門」

誰がどんな「機能」の手話を表出したか? Nozaki, et al., (1991) 野崎(1997)「応用行動分析入門」

  要求言語行動の成立作業のむずかしさ ●反応形態の差異に対する周囲の無理解(「能力問題」として捉えられる) ●従来の、援助者と被援助者の伝統的な関係性(措置、指導療育的な態度・伝統) ●個別個人における要求充足に対応する「資源」の配置の限界

個人の行動(反応)形成 治療・教授 援助 援護 進歩するとは? 援助設定の定着のための要請 行動成立のための 新たな環境設定

08応用行動分析学 09 自己決定(対人援助のキモ) 08応用行動分析学 09    自己決定(対人援助のキモ) ●「自己決定」実は「社会行動」です。だから「自己決定ができない」というのは、社会的な行動随伴性のどこかに問題があるわけです。「抱き癖」も「寝たきり(=寝かせきり)」も周囲との行動の問題(=行動問題)であるように。 ●「環境の選択肢を拡大する」という社会行動は、 新しい「発達」の捉え方とも言えるかも。

障害領域で言われる「自己決定」: (障害のある本人が)自らの環境設定や環境随伴性の変更について、社会成員にその実現のための援助を要求する社会的行動(コミュニケーション)である。 「単独」で行う行動ではない。=MAND

自己決定への支援とは 1)障害のある個人に対して、選択機会と選択肢を用意する(援助設定) 2)そこでの選択行動の成立について過不足ない援助をする(援助設定+教授) 3)本人によって選択された内容の    実現について援助・援護をする

対人援助のキモですな。 Service 本人(ご主人様の)好きな方向へ打てるように

    障害のある個人 自己決定2 取り次ぎ 援助者1(障害のある個人の利益に基づき、環境変更を要請する) 援助者2 産地直送 自己決定1      環境設定(選択肢) 自己決定1 代弁者による環境改善要請(かつてはこれ) 自己決定2 本人自身による要請

自己決定1から自己決定2への周囲(保護者・施設職員など)の抵抗 1)知的障害のある個人には決定(選択) の能力がない(選択内容自体への弁別能力の疑問) 2)他者を介して,環境変更を要求するという能力がない 3)自己決定に伴う「自己責任」をとれない

「能力」の問題として対象物の選択ができない,ということは少なくとも「食事」などの内容については無い。 Parsons,M. B., & Reid, D. H., (1990) Assessing food preferences among persons with profound mental retardation. Journal of Applied Behavior Analysis, 23, 183-195. ・重い知的障害があっても食べ物に対して,  一定の「好み」を表明することが可能 ・食事中の選択機会設定はそれほど時間的  コストが,かかるものでもない

繰り返しの中で,一方の選択肢から選ぶことが示された。 Parsons and Reid (1990) 食べ物のペアを連続的に呈示する 選択に「分化」がある

2)他者を介して,環境変更を要求するという能力がない? 3)自己決定に伴う「自己責任」をとれない? あらためて, 「自己決定」という行動はどういう行動なのか?

「自己決定」:指定者や援助者など,他者の存在や,その指定によって選択するのではなく,あくまでも選択肢の内容によって選択している事態(Goldiamond, 1970) 「自己決定ができない」という場合 ・他者の「指定無し」で選択肢を選択した場合,あるいは「指定とは違う」選択肢を選択した場合には,選択後に当該行動が十分に成立しなかったり,罰を受ける経験が多いという経験を経た結果である可能性はないか?

「自己決定できる/できない」は,能力の問題としてではなく,「話手-聞き手」あるいは「本人と援助者」との社会関係の問題として捉えられのではないか? 選択肢A,B,C 援助者 「Aが良いよ」 選択  A 選択後に も援助あり 選択肢A,B,C 援助者 「・・・・」 選択  B 選択後に 援助なし 「自己責任」

援助者が「指定」する選択肢を選んだ場合の方が 強化を受ける率が高まる →「指定」が弁別刺激 選択肢A,B,C 援助者 「Aが良いよ」 選択  A 選択後に も援助あり 選択肢A,B,C 援助者 「・・・・」 選択  B 選択後に 援助なし 「自己責任」 もしこのような事態が多ければ・・ 援助者が「指定」する選択肢を選んだ場合の方が 強化を受ける率が高まる →「指定」が弁別刺激

援助者などが,「本人の利益のため」に特定の選択肢を「指定」するような場合(自己決定1) ●選択肢内容自体の弁別も進まない ●他者が存在する時には,専らその「指定」  に従う行動が示される。   ○他者が存在する時には,選択肢そのものの内容による選択ができなくなる。 ●上記のような状況下で,「自己責任」を強調されれば,益々,選択はできなくなる。 「自己責任」がとれないから「自己決定」ができない,という論理は,悪循環を生む。

選択肢内容によって,本人が選択した場合に,(たとえ援助者の価値とずれていても)その選択を尊重しその実現について援助する必要あり。 ではどうするか? 選択肢内容によって,本人が選択した場合に,(たとえ援助者の価値とずれていても)その選択を尊重しその実現について援助する必要あり。 その選択が結果的に,「失敗」(本人の不利益につながった)場合には? 失敗の克服(再選択)の機会を保障し, 再びその選択を援助する これを繰り返すことで,選択眼が養われる。 (繰り返しを認める状況を設定する必要がある)

パターナリスティックな援助を援助者が してしまう背景: 1)援助についてのノウハウが足りない 2)選択肢の準備が少ない(繰り返しも認めることができない) →「選択肢を拡大する」という大前提を   周囲が保障できない状況 ●このような場合に,「自己決定」が強調されると 自己決定を「放任」とすりかえて,何もしない(できない)状態になってしまう。 →「パターナリスティックか放任か」の選択を援助者が強いられることになる。      

「厳しい」か「甘やかすか」 この二項対立の図式が起こる教育や福祉現場において欠けているものはなんでしょう?

「自己決定」で、もうひとつ忘れてはいけないこと。 大前提:正の強化で維持される行動の選択肢が拡大していくための援助作業の一環である そのような前提の上で,「援助者」は,本人の決定について,過不足ない援助をする必要がある。 *単に選べればいいというものではないのだよ!

産地直送の(過不足ない)自己決定の援助 The proposal is to develop our sensitivity to the various forms of communication used by people with severe disabilities so that we may do more of what they want and impose on them less of what we assume they want or want them to want. Baer, D. M. (1998): Commentary: Problems in Imposing Self-Determination. JASH, 23(1), 50 - 52.  

産地直送の(過不足ない)自己決定の援助 The proposal is to develop our sensitivity to the various forms of communication used by people with severe disabilities so that we may 彼らが望むことをするand彼らが望むと推測されることや、望むことそのものを押しつけないようにする。 Baer, D. M. (1998): Commentary: Problems in Imposing Self-Determination. JASH, 23(1), 50 - 52.  

従来の「心理学」などのアプローチとの違い 「知る」から「聴く」 ●従来はある個人の行動を法則を見つけ予測しようとする。つまり、本人が何が好きかを予測(推測し)与える のではなく(less of what we assume they want)            ●ある個人が、その時点で何を要求するかを聞き取ろうとする( do more of what they want )。 → 「予測を目的とせず」その時点,時点で  行動選択(選択行動)の機会を保証する

選択肢を押しつけない選択機会は、具体的にはどのように設定すればよいか? impose 選択肢を押しつけない選択機会は、具体的にはどのように設定すればよいか? 否定選択肢設定の導入について

選択肢提供者の予想を「裏切れる」選択肢 Choice option 1 Choice option 2 Rejection

「選択肢否定」は要求言語行動の機能の 条件でもある。(要求していないものが供給された場合に,「違います」という 否定の反応が出るか) Choice option 3 Choice option 4 Rejection

…..less of we want them to want 既存選択肢(選択機会自体)からの離脱 …..less of we want them to want 長期にわたる施設生活 聴覚障害の疑いあり JASH(1995) Nozaki & Mochizuki 食事・水分制限あり

Option 1 Option 2 Option 3 Rejection Nozaki & Mochizuki (1995)

      この研究で示されたこと 1)最重度の知的障害のある個人でも、その個人に   合わせた選択設定を準備すれば選択表明を行える 2)既存選択肢を「おだやかに」拒否する選択肢の   設定を行うことも可能 3)設定のみではなく、教授機会ももちろん必要 4)「本人の好きなものを」のではなく   「選択機会を常に提供すること」が重要        そして、さらに 5)本人に選択を任せても過剰(逸脱的)にはならない   (ウーロン茶の例)  過剰・逸脱:選択機会や選択肢内容の貧困から(?) 6)本人の属性的な障害性(聴覚障害/無力症状)も   選択できる「やりたい行動」の経験によって軽減  

応用行動分析学のから自己決定を考える 1.「自己決定」は、単独で行う行動ではない 2.何より選択後のフォローが大切 3.好きな物を見つけようとするのではなく「自由に」選択できる機会の設定とは違う。 4.自由:今出来ることは、選択肢の拒否の選択肢設定

選択肢の拒否って これは、「要求言語行動」(mand)の機能をチェックする手続きとも共通する(Yamamoto and Mochizuki, 1988) さらに、ルーティーンの選択の中で、自らが新しい環境の選択肢拡大について提案するというのは、まさに「行動的発達」ともいえないか? 行動の選択肢の拡大=「発達」(生涯発達もあるよ) 社会共同的な行動である。