日本カーリット株式会社 危険性評価試験所 課長 鈴木 康弘

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日本カーリット株式会社 危険性評価試験所 課長 鈴木 康弘 2015/7/17 化学物質の危険性評価試験の基礎 日本カーリット株式会社 危険性評価試験所 課長  鈴木 康弘

安全性評価を確実に行うためには、その前段階としての危険性評価が極めて重要 スマートコミュニティ2015 2015/6/19 2015/7/17 危険性評価と安全性評価 危険性評価:物質やプロセスの持つ危険性を発現させる「場」を設定する。 安全性評価:物質やプロセスの持つ危険性を封じ込める「場」を設定する。 安全性評価を確実に行うためには、その前段階としての危険性評価が極めて重要 日本カーリット㈱受託評価部

危険性評価の一般的フロー スクリーニング試験 (熱分析試験など) 爆発性の試験 (感度試験・起爆試験) 実規模試験 【安全性評価】 2015/7/17 危険性評価の一般的フロー スクリーニング試験 (熱分析試験など) 文献調査・計算による予測 爆発性の試験 (感度試験・起爆試験) 実規模試験 (密閉試験) (屋内試験) (屋外試験) (野外試験) 【安全性評価】 【危険性評価】 燃焼性の試験 (着火性試験) 分解性・安定性の試験 (貯蔵試験) (プロセス評価) →実際の状況を想定 (物質評価)→基礎データの取得

爆発性を示す官能基の例 化学構造 例 C-C不飽和結合 アセチレン類、アセチリド類、1,2-ジエン類 C-金属,N-金属 2015/7/17 爆発性を示す官能基の例 化学構造 例 C-C不飽和結合 アセチレン類、アセチリド類、1,2-ジエン類 C-金属,N-金属 グリニヤル試薬、有機リチウム化合物 隣接した窒素原子 アジド類、脂肪族アゾ化合物、ジアゾニウム塩類、ヒドラジン類、スルホニルヒドラジド類 隣接した酸素原子 過酸化物、オゾニド類 N-O ヒドロキシルアミン類、硝酸塩類、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、N-オキシド類、1,2-オキサゾール類 N-ハロゲン クロロアミン類、フルオロアミン類 O-ハロゲン 塩素酸塩類、過塩素酸塩類、ヨードシル化合物 注:上記の官能基があれば必ず爆発性を有するというものではない。

自己反応性を示す官能基の例 化学構造 例 相互に反応するグループ アミノニトリル類、ハロアニリン類、酸化性の酸と有機物との塩 S=O 2015/7/17 自己反応性を示す官能基の例 化学構造 例 相互に反応するグループ アミノニトリル類、ハロアニリン類、酸化性の酸と有機物との塩 S=O ハロゲン化スルホニル類、シアン化スルホニル類、スルホニルヒドラジド類 P-O 亜リン酸塩類 歪みのある環 エポキシド類、アジリジン類 不飽和結合 オレフィン類、シアン酸塩 注:上記の官能基があれば必ず自己反応性を有するというものではない。

スクリーニング試験 【熱分析試験】 → 危険性評価の第一歩 開放系(TG-DTA) 空気中での加熱による反応 密閉系(SC-DSC) 2015/7/17 スクリーニング試験 【熱分析試験】 → 危険性評価の第一歩 開放系(TG-DTA) 空気中での加熱による反応 密閉系(SC-DSC) 加熱による物質そのものの反応 メリット:数mgの試料で試験を実施することが出来る。   実験室での合成段階から危険性を評価出来る。 デメリット:潜在的な危険性しか評価することは出来ない。   実際の危険性は標準試験を行わないと判断出来ない。

DSC(DTA)チャートで見るべき部分 大きさ→発熱量・吸熱量 向き→減量・増量 向き→吸熱・発熱 形状(傾き)→シャープかブロードか 2015/7/17 DSC(DTA)チャートで見るべき部分 大きさ→発熱量・吸熱量 向き→減量・増量 向き→吸熱・発熱 形状(傾き)→シャープかブロードか 位置→温度

EP関数(伝爆性の評価) 伝爆性有 EP>0 EP<0 伝爆性無 優れた手法であるが感覚的に分かり難い 2015/7/17 EP関数(伝爆性の評価) EP=logQ-0.38log(T-25)-1.67 伝爆性有 EP>0 EP<0 伝爆性無 優れた手法であるが感覚的に分かり難い

簡易評価法の提案 logを外しても大小関係は変わらない QDSC>TDSC×9で推定可能 2011安全工学研究発表会 三井化学:山中 2015/7/17 簡易評価法の提案 2011安全工学研究発表会 三井化学:山中 QDSC>TDSC×9で推定可能 logを外しても大小関係は変わらない

熱分析結果から危険性の推測 (総)発熱量 QDSC[J/g] QDSC>300J/g:燃焼性・分解性 UNクラス4.1自己反応性物質 2015/7/17 熱分析結果から危険性の推測 (総)発熱量 QDSC[J/g] QDSC>300J/g:燃焼性・分解性 UNクラス4.1自己反応性物質 QDSC>800J/g:爆発性 UNクラス1火薬類 SADT>75℃:※推測としてTDSC-50℃ UNクラス4.1自己反応性物質 発熱開始温度(外挿点)TDSC[℃]

燃焼の原理と消火の原理 3つ揃わないと燃焼を継続しない 「可燃物」「酸素」「熱」:燃焼の3要素 一つを制御:火災予防 2015/7/17 燃焼の原理と消火の原理 燃焼=可燃物が酸素と反応して熱を発生 「可燃物」「酸素」「熱」:燃焼の3要素 3つ揃わないと燃焼を継続しない 一つを除去:消火 燃焼 窒息消火 酸素 熱 冷却消火 消火 可燃物 除去消火 一つを制御:火災予防

注意:自己反応性物質の性質 【重要】酸素は必要不可欠ではない! 例:2,4-ジニトロトルエン 分子中に酸素と可燃物を既に持っている 2015/7/17 注意:自己反応性物質の性質 例:2,4-ジニトロトルエン 例:1H-テトラゾール CH3 分子中に酸素と可燃物を既に持っている NO2 NO2 H N 窒素・水素・炭素からなる化合物 【重要】酸素は必要不可欠ではない!

標準試験:評価のポイント 燃焼・爆発・分解を持続するか?【伝爆性】 起こった際に被害が拡大するか? 2015/7/17 標準試験:評価のポイント 燃焼・爆発・分解を持続するか?【伝爆性】 起こった際に被害が拡大するか? 初期対応可能か? 燃焼・爆発・分解を起こしやすいか?【感度】 取扱時の注意、温度管理が必要か? 燃焼・爆発・分解は激しいか?【威力】 起こった際の対応を考える必要があるか? 防火壁、保安距離、放散口など

標準試験の例 3つの特性:爆発性・燃焼性・安定性 爆発性の試験 燃焼性の試験 安定性(分解性)の試験 2015/7/17 標準試験の例 3つの特性:爆発性・燃焼性・安定性 爆発性の試験 BAM50/60鋼管試験:鋼管に装填した試料を高性能爆薬で起爆 弾動臼砲試験:起爆して臼砲の振れ幅を標準物質(TNT)と比較 燃焼性の試験 燃焼速度試験:着火させて一定間隔の燃焼時間を測定する 時間/圧力試験:着火したときの圧力上昇速度を測定する 安定性(分解性)の試験 Koenen試験:試料を急速加熱して強制的に分解させる 圧力容器試験:試料を急速加熱して強制的に分解させる 蓄熱貯蔵試験:デュワー瓶に試料を装填して一定温度に保つ

エネルギー物質(火薬類)の評価 Sensitivity(感度) Propagation(伝播) 2015/7/17 エネルギー物質(火薬類)の評価 評価の対象 Sensitivity(感度) Propagation(伝播) 安全という面からはPropagationが重要 万一発火・爆発が起こったとしても、それが伝播しなければ大きな災害には発展せず、またそれが激しくなければ初期消火が可能で被害も少ない。

エネルギー物質の評価項目 危険な反応が起こる可能性の有無 伝爆性の有無 危険な反応の起こりやすさ 各種感度、安定度 2015/7/17 エネルギー物質の評価項目 危険な反応が起こる可能性の有無 伝爆性の有無 危険な反応の起こりやすさ 各種感度、安定度 危険な反応が起こったときの激しさ 爆発威力(静的効果) 猛度(動的効果)

「外的刺激に対して発火または爆発が起こりやすいかを示す尺度」 2015/7/17 エネルギー物質の感度 エネルギー物質の感度とは? 「外的刺激に対して発火または爆発が起こりやすいかを示す尺度」 外的刺激:打撃・衝撃、摩擦、熱、静電気、火炎などその他着火源となりうるもの 何らかのエネルギーであると理解して下さい

「エネルギー物質が発火または爆発した際の外界に対する影響」 2015/7/17 エネルギー物質の威力 エネルギー物質の威力とは? 「エネルギー物質が発火または爆発した際の外界に対する影響」 静的効果(仕事効果):発生した多量のガスと熱による仕事 動的効果(破壊効果):エネルギーを解放する早さ

物質のサイズと表面積 64L 同じ容積でもサイズが小さくなると表面積は増加する(反応し易い) 表面積:40×40×6 =9600cm2 2015/7/17 物質のサイズと表面積 10cm 10cm 10cm 10cm 40cm 20cm 20cm 40cm 40cm 64L 表面積:40×40×6 =9600cm2 表面積:20×20×6 ×8=19200cm2 表面積:10×10×6 ×64=38400cm2 同じ容積でもサイズが小さくなると表面積は増加する(反応し易い)

容器サイズ(容積)と表面積 1L 8L 27L 4倍! 9倍! 容積の増加に対し表面積はそれほど増加しない(冷却効率が悪い) 2015/7/17 容器サイズ(容積)と表面積 20cm 30cm 10cm 10cm 20cm 30cm 10cm 1L 20cm 8L 30cm 表面積:10×10×6 =600cm2 27L 表面積:20×20×6 =2400cm2 4倍! 9倍! 表面積:30×30×6 =5400cm2 容積の増加に対し表面積はそれほど増加しない(冷却効率が悪い)

熱収支の基礎理論 熱の蓄積はQ1>Q2の場合に発生する ここで、ρ:かさ密度、ΔH:発熱量、A:頻度因子、E:活性化エネルギー 2015/7/17 熱収支の基礎理論 容積Vの粉体において、熱の発生速度をQ1とし、反応がアレニウス型に従うとすると、  ここで、ρ:かさ密度、ΔH:発熱量、A:頻度因子、E:活性化エネルギー 放熱はニュートンの冷却則に従うとすると、  ここで、α:熱伝導率、S:伝熱面積、T0:雰囲気温度(粉体の表面温度) 熱の蓄積はQ1>Q2の場合に発生する

堆積物の自然発火について 通常は着火源が存在しなければ燃焼しない 酸化発熱 可燃物 の蓄積 発火 酸素 2015/7/17 堆積物の自然発火について 酸化発熱 の蓄積 発火 可燃物 酸素 通常は着火源が存在しなければ燃焼しない 空気中の酸素によって可燃物が徐々に酸化する (自己反応性物質は熱により徐々に発熱分解)

SADTと安全(品質)管理温度 事故の発生 (爆発) (火災) SADT 品質異常 品質劣化 貯蔵温度 緊急温度 管理温度 貯蔵領域 2015/7/17 ※Self Accelerating Decomposition Temperature SADTと安全(品質)管理温度 事故の発生   (爆発)   (火災) SADT (1週間以内に自己加速分解を起こす最低温度) 品質異常 品質劣化 緊急温度 (SADT-5~-10℃) 管理温度 (SADT-10~-20℃) 品質保証領域 貯蔵温度 貯蔵領域

エネルギー物質を安全に製造・取り扱うためには 2015/7/17 エネルギー物質を安全に製造・取り扱うためには エネルギー物質の性質を理解・把握する どのような性質を有しているか? 【動的・静的効果】  (燃焼するのか? 爆発するのか? その威力は?) どのような状態になると危険か? 【感度】  (衝撃? 摩擦? 温度? 形状? その他の要因?) エネルギー物質の性質に応じた取扱・対策が必要

2015/7/17 保安上重要な特性である理由 感度及び威力が保安上重要な特性である理由は、エネルギー物質の安全な性能設計に必要不可欠であると共に、製造から消費、廃棄に至る迄の間、取り扱い上に於ける事故の発生を防止する為に、必ず把握しておかなければならない。 安全性に問題のあるエネルギー物質は、爆発威力などの性能がいかに優れていても実用化は困難である。したがって、エネルギー物質を開発、製造する上で、安全性評価と一体となった性能評価が行われることが保安上重要となる。

試験結果の取扱【重要】 危険性評価試験によって得られた結果は、その物質の持つ「物性値」ではなく「特性値」である。 2015/7/17 試験結果の取扱【重要】 危険性評価試験によって得られた結果は、その物質の持つ「物性値」ではなく「特性値」である。 即ち、試験結果は試験条件によって異なる値を持つ。 評価を行うに当たり、どの試験が最適かを事前に十分に考慮する。

これって危険な物と思いますか? CAS No. 7732-18-5 分子式:H2O、モル質量:18.01528 g/mol 2015/7/17 これって危険な物と思いますか? CAS No. 7732-18-5 分子式:H2O、モル質量:18.01528 g/mol 融点:0℃(273.15K)、沸点:100℃(373.15K) 通常の状態(20℃液体)では安定である。 爆発範囲:なし 引火点:なし、発火点:なし 腐食性・刺激性:なし

2015/7/17 ご安全に! 御静聴有難う御座いました。