65歳定年制 国際経済学部 国際経済学科 4年 古谷 文孝
目次 需要側・供給側の現状 高齢者の雇用を妨げる要因 賃金制度の改革 結論
労働力供給側の現状 主要先進国による高齢者の労働力率 日本人の60歳代男性の労働力率は、諸外国に比べとても高い水準にある事が分かる。60歳代前半でいえばアメリカ・イギリスの1.5倍、ドイツ・フランスの実に4倍の水準だ。この労働力率は、当該人口にしめる労働力人口の比率のこと。労働力人口とは実際に働いている就業者と、失業中で仕事を探している人の合計である。 (1995年版『経済白書』) つまり働く意志のある人口の総数であることがいえる。この比率が60歳代で高いということは、定年退職などによって職業をなくした高齢者であっても、その後の再就職を望んでいるということになる
需要側(企業)の現状 年代別有効求人倍率 年齢別の有効求人倍率を時系列でみたものである。この図から分かるように、全体的には、1990年前後のバブル経済が崩壊するとともに、有効求人倍率は減少している。しかし重要な点は、高年齢層に就いては、景気や経済の状況に関わらず、安定的に低い水準で有効求人倍率が推移している点である。特に、60歳代前半層の状況についてみると、有効求人倍率が0.2前後という非常に低い水準で推移している。有効水準倍率が0.2ということは、1つの求人に対して、5人の求職者が仕事を求めていることを意味している。高齢期における有効求人倍率の低さは、二つの側面から見なくてはならない。すなわち、労働力需要側である企業からみれば、高齢者を雇用したくないことを意味しており、逆に、労働力供給側である働く人たちからみれば、60歳以上であっても仕事をしたいと考える人たちが多いことである。このような需要のミスマッチが、高齢期における有効求人倍率を押し下げる結果となっている。
日本的雇用慣行 (1)年功賃金 (2)年功的処遇体系 高齢者の雇用を妨げる要因 高齢者が労働市場にとどまることを難しくさせているもう一つの要因に、日本的な雇用慣行の存在があげられる。雇用慣行とは、ここでは終身雇用・年功賃金・年功昇進体系のことで、戦後の日本経済の発展に大きく役立ってきたものといわれている。 終身雇用の最大のメリットは、景気の循環に関わらず、長期の雇用が保証されることだ。しかし、これは言い換えれば、一定の定年年齢に達すると、個々の仕事の能力に関わらず強制的に解雇されるてしまうという大きな代償をともなっている。 年功賃金や年功昇進の採用は、やはり高齢者の雇用促進は妨げられている。長期の企業内訓練を受けてきた熟練労働者でも、定年年齢になったというだけで能力の有無に関係なく強制解雇されてしまうのは、定年年齢を超えてもなお上昇していく賃金を企業は、払っていくことができないからである。
定年制と年功賃金 なぜ定年制が存在 するのか? 賃金 賃金 B E D C 貢献度 A O F 年齢・勤続年数 なぜ定年制が存在 するのか? 賃金 賃金 B E D C 図は、アメリカの経済学者、エドワード・ラジアーの図を編集したものである。縦軸には賃金をとっています。横軸は年齢・勤続年数となっています。原点Oは、例えば大学を卒業してすぐに就職した人は、22歳の地点である。右にあるFという点は、定年の地点である。まず、この青いラインABですが、これは賃金を表しています。Oで就職してFで定年するまで、年齢を重ねるにつれて賃金が上昇していっている様子が伺えます。次に、この赤のラインCDが、労働者の企業に対する貢献度を表している。ここでは、話を簡単にするために貢献度を一定にしているが、ここでの点は、若いうちは貢献度よりも低い賃金で働いていて、年配になると貢献度よりも高い賃金で働いていることである。より具体的に見ると、左側の部分の三角形CAEという部分は、貢献度よりも低い賃金をもらって働いていることになるので、労働者が損をしている部分になっている。逆にこの右側の三角形DBEは、貢献度よりも高い賃金をもらって働いている部分なので、企業が損をしている部分になっている。この2つの三角形を見比べて、実はこの2つの三角形は、面積が等しくなっている。このことから、何がいえるかというと、定年Fまで働いた場合、企業と労働者は貢献度と賃金の関係において損も得もしていないことになる。ではもし、この定年Fという時点を企業が設けなかったらどのようになるか。貢献度よりも高い賃金で雇い続けなければならないことですから、企業にとってどうだろうか。定年Fでちょうど収支のバランスがとれているので、これ以上、貢献度よりも高い賃金を払い続けるとなると企業は損をしてしまうことになる。企業が定年Fを設けない場合、貢献度よりも高い賃金を払い続けなければならないことですから、企業にとって損になります。そこで、企業はこの定年Fを設けて、貢献度と賃金をバランスさせるようにしている。定年は年功賃金制度において、切っても切り離せない関係にあるのではないかと考えられる。 貢献度 A O F 年齢・勤続年数
賃金制度の改革 年功的賃金カーブ 高齢者の継続雇用を促進するにあたって、最も重要な問題は、現在の賃金カーブの在り方である。それは、賃金と職務・能力との関係が、どの年齢時点で賃金上昇にストップをかけるか、ということである。もちろん、直接的に加齢による能力・職務の発揮度の低下とは結びつくものではないにしても、定年の延長・高齢者雇用を優先的に実行しようとするならば、企業負担の最も大きいところである賃金への影響を考慮せずにはいられないことは当然のことである。 これまでの年功賃金は、図のようにS字型、もしくは直線型を描いていた。この賃金カーブの見直しが必要である
昇給基本線のパターン 昇給継続型 64歳まで何らかのかたちで昇給を継続するもの 昇給ストップ型 64歳まで何らかのかたちで昇給を継続するもの 昇給ストップ型 ある年齢で昇給をストップするもの。さらに60歳以降昇給をストップするものと60歳前からストップするもの A B C D E F G まず昇給基準線を「昇給継続型」と「昇給ストップ型」の2つに分けました。昇給継続型は64歳まで何らかのかたちで昇給をけいぞくするもの、昇給ストップ型はある年齢で昇給をストップするもの。さらに60歳以降昇給をストップするものと60歳前からストップするものに分けることができます。次に、昇給継続型も昇給ストップ型も、ベースダウンを伴わないものと、伴うものに分けることができます。これらを整理してAからGまで分けたのがこの図表になります。 60才
昇給基準線の型と賃金、高齢化の実態 昇給基準基本線 企業 60歳台の賃金 高齢化の実態 A型 B型 H社 中程度 C型 I社 54 D型 B型 H社 中程度 C型 I社 54 D型 J社 55 K 社 37 L社 18 高い M 社 40 E型 N社 27 低い F型 O社 P社 63 Q社 _ G型 R社 44 S社 T社 39
結論 賃金制度の具体的な方向 職業生涯にわたる賃金体系
賃金制度の具体的な方向 高齢者の賃金=高齢者の生産力 賃金曲線と生産力曲線 賃金 300 生産力 200 賃金 100 22 40 50 59 年齢
職業生涯にわたる賃金体系 30~35歳位まで 40~50歳位まで 65歳まで 職能給 役割給 + 役割給 職能給 30~35歳位まで 40~50歳位まで 65歳まで 職能給 職能給 + 役割給 役割給 長期雇用を前提とした従業員の今後の賃金制度の見直しの1つの方向考えると次のようになります。まず新卒学卒を採用してから30から35歳ぐらいまでの一定年齢までは、職業能力が急速に高まる「能力形成期」であることから、この時期の賃金としては能力開発を促進させる賃金が望ましく、具体的には「職能給」を基準とした賃金設定が考えられる。次に、40歳から50歳位までは中堅あるいは上級社員として能力を発揮する時期、すなわち「能力成熟期」であり、生産力のかなり高まっている時期に相当します。この時期の賃金としては、職業能力に見合った業務を付与して、担当業務をどの程度達成したかという要素を含めて賃金を決定することが望ましい。65歳までの残りの期間は一般的には能力開発の時期は、ほぼ終了していて能力や適性に応じた業務がほぼ固まっている「能力完成期」であり職能給は必要なくなり、「役割給」のみで賃金を決めることとなります。