急性気道感染症 (急性上気道炎,急性気管支炎) The Japanese Respiratory Society 社団法人日本呼吸器学会 教育用DVD - DVDで学ぶ実践呼吸器病学 - Ⅱ-05 急性気道感染症 (急性上気道炎,急性気管支炎) 松村医院 松村 榮久 中浜医院 中浜 力
内容 急性気道感染症とかぜ症候群 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 急性気道感染症とかぜ症候群 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 付記 非定型病原体 Chlamydia pneumoniae, Mycoplasma pneumoniae を中心に 抗菌薬と耐性菌 抗菌薬の適正使用について おわりに 参考文献
クラミドフィラ(chlamydophila)とクラミジア(chlamydia)の表記について 最近はクラミドフィラ(chlamydophila)がすすめられていますが,論文においてもまだ両者の表記が 見られるため, このDVDでも両者が使用されております.
急性気道感染症とかぜ症候群
【気道と感染症1)】 鼻腔 副鼻腔 咽頭 喉頭 上気道…上気道感染症 急性上気道炎 急性気道感染症 気管 気管支 下気道…下気道感染症 急性気道感染症とかぜ症候群 【気道と感染症1)】 鼻腔 副鼻腔 咽頭 喉頭 上気道…上気道感染症 急性上気道炎 急性気道感染症 気管 気管支 下気道…下気道感染症 a. 急性気管支炎 b. 慢性下気道感染症 肺胞腔…肺炎
急性気道感染症とかぜ症候群 【用語の解説】 普通感冒 英語のcommon coldに対応する日本語.急性上気道炎のなかでも鼻,咽頭症状が主体で発熱や倦怠感などの全身症状が軽微な例に使われる. 急性上気道炎 上気道(鼻腔,副鼻腔,咽頭,喉頭)の急性炎症性疾患. 急性気道感染症 上気道と下気道(気管,気管支)の急性感染症を合わせたもの. すなわち急性上気道炎と急性気管支炎を包括したもの. 非特異的上気道炎 米国内科学会のガイドラインで提唱.鼻,咽頭,咳の症状が優位性なく複数あるもの.普通感冒common coldはこの概念に含まれる.
【かぜ症候群-1】 「かぜ症候群」という用語は頻用されているが,明確な定義がない.実際には下記のように使われている. 急性気道感染症とかぜ症候群 【かぜ症候群-1】 「かぜ症候群」という用語は頻用されているが,明確な定義がない.実際には下記のように使われている. 最も狭義 「普通感冒」として やや広く 「急性上気道炎」として さらに広く 「急性気道感染症」として いずれの使い方であっても共通点がある. 急性の気道感染症である(一部ないし全部) 基礎疾患のない例では が大半 肺実質の急性炎症性疾患である肺炎は,大半が で あるのと対照的である. ウイルス感染症 細菌感染症 7
【かぜ症候群-2】 日本呼吸器学会のガイドライン(成人気道感染症診療の基本的考え方)でも著者によって“かぜ症候群”の示す範囲が異なっている. 急性気道感染症とかぜ症候群 【かぜ症候群-2】 日本呼吸器学会のガイドライン(成人気道感染症診療の基本的考え方)でも著者によって“かぜ症候群”の示す範囲が異なっている. 急性上気道炎と同義と明確に記述(第Ⅱ章) (内容からみて)普通感冒と同義として記述(第Ⅳ章) このDVDでは混乱を避けるため,“かぜ症候群”の用語を避け, 急性気道感染症として解説する. 8
【かぜ症候群の概念・範囲】 最も広義 やや広義 最も狭義 非特異的上気道炎 急性上気道感染症 (普通感冒を含む) 急性気道感染症 急性気道感染症とかぜ症候群 【かぜ症候群の概念・範囲】 最も広義 やや広義 最も狭義 非特異的上気道炎 急性上気道感染症 (普通感冒を含む) 急性気道感染症 (広義の上気道炎) 急性鼻・副鼻腔炎 急性咽頭炎 急性下気道感染症 急性気管支炎 9
-急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 日本呼吸器学会のガイドライン1) -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 10
【気道感染症の病態(急性vs慢性)1)】 急性気道感染症 ウイルス感染症がほとんど 軽症,自然治癒傾向 抗菌薬の適応は少ない 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【気道感染症の病態(急性vs慢性)1)】 急性気道感染症 ウイルス感染症がほとんど 軽症,自然治癒傾向 抗菌薬の適応は少ない 慢性気道感染症(下気道感染症) 下気道の器質的障害(慢性気管支炎,肺気腫,気管支拡張症,びまん性汎細気管支炎(DPB)など) 急性(感染)増悪 先行感染:ウイルス,クラミジア,マイコプラズマなど 原因菌:インフルエンザ菌,肺炎球菌など・・・抗菌薬の適応
【普通感冒と急性気管支炎1)】 臨床徴候 主な原因微生物 普通感冒 咳嗽が主要症状ではなく, 鼻症状や咽・喉頭症状などが主である 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【普通感冒と急性気管支炎1)】 臨床徴候 主な原因微生物 普通感冒 咳嗽が主要症状ではなく, 鼻症状や咽・喉頭症状などが主である 咳嗽は通常7~10日で沈静化する 高熱を伴うことは少ない ライノウイルス コロナウイルス パラインフルエンザウイルス RSウイルス インフルエンザウイルス アデノウイルス 急性気管支炎 咳嗽は激しく主症状で長期化することがある 症状はしばしば重症で,いわゆる急性炎症性疾患の病状を呈することがある 百日咳菌 マイコプラズマ・ニューモニエ クラミジア・ニューモニエ (日本呼吸器学会編「成人気道感染症診療の基本的考え方」 第Ⅳ章,2003) 12
【ライノウイルス上気道炎での 症状持続期間2)】 70 咽頭痛 60 咳嗽 50 鼻汁 40 30 20 10 1 2 3 4 5 6 7 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【ライノウイルス上気道炎での 症状持続期間2)】 70 発熱 発熱,咽頭痛は約1週間で治まるが,咳嗽,鼻汁は2週間後も1~2割の症例で持続している. 咽頭痛 60 症状のある患者の割合(%) 咳嗽 50 鼻汁 (n=139) 40 30 20 10 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 病 日 13
【急性上気道炎:患者説明の要点1)】 自然経過は5~14日間,一般には3~7日で軽快する. ほとんどがウイルス感染症. 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【急性上気道炎:患者説明の要点1)】 自然経過は5~14日間,一般には3~7日で軽快する. ほとんどがウイルス感染症. インフルエンザを除き,抗ウイルス薬はない. 抗菌薬は直接効くものではない. 抗菌薬を頻用すると,副作用や耐性菌を招く. 発熱はウイルスを排除する免疫反応.発熱や痛みへの解熱鎮痛剤は辛いときのみ,頓用で服用. 発症時,特に発熱時に最も感染力が強い. 症状の持続(4日以上)や悪化の際は医師の診察を. (日本呼吸器学会編「成人気道感染症診療の基本的考え方」 第Ⅴ章,2003) 14
【急性気管支炎の起炎菌3) (研究論文20編のまとめ)】 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 健常成人患者 基礎疾患(+)患者 病原体 % 不明 29~84 30~50 ウイルス adenovirus influenza parainfluenza rhinovirus coronavirus respiratory syncytial virus 3~4 1~25 8~33 4~13 10 herpes simplex 1~2 5~26 3~29 5~17 5~23 0~11 2 細菌 Streptococcus pneumoniae Haemophilus influenzae 28 S. pneumoniae H. influenzae Moraxella catarrhalis Staphylococcus aureus 腸管系グラム陰性桿菌 15~33 30~70 3~22 0~17 0~44 非定型菌 Mycoplasma pneumoniae Chlamydia pneumoniae Bordetella pertussis 12~21 M. pneumoniae C. pneumoniae 0~6 4~22 この論文では「各論文の診断法に差はあるが,健常成人の急性気管支炎の80%以上がウイルス性と推察する」と記されている.基礎疾患がある場合には,細菌の関与が増加する. 15
【急性気管支炎における抗菌薬の適応1)】 細菌性二次感染を疑うとき 膿性痰で喀痰量増加 胸痛,呼吸困難,倦怠感,食思不振の出現 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【急性気管支炎における抗菌薬の適応1)】 細菌性二次感染を疑うとき 膿性痰で喀痰量増加 胸痛,呼吸困難,倦怠感,食思不振の出現 末梢血白血球数増多,CRP強陽性 非定型病原体(マイコプラズマ,クラミジア)を疑うとき 急性気管支炎の主な原因菌:肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセ ラ・カタラーリス,化膿性連鎖球菌 米国内科学会のガイドラインでは,肺の基礎疾患がなければ これらの細菌が急性気管支炎を起こすことはないと記載しており,日米で見解が異なる. (日本呼吸器学会編「成人気道感染症診療の基本的考え方」 第Ⅳ章,2003) 16
日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【抗菌薬選択の基礎知識1)】 β-ラクタム薬の経口投与は,注射薬に比べて血中濃度や組織移行濃度は十~数十倍低い.特に第3世代セフェム薬は気道への組織移行が低いものが多い. β-ラクタム薬の気道病巣への移行は,炎症の急性期には比較的よく,炎症の消退に伴って低下. マクロライド系,テトラサイクリン系,ニューキノロン系経口薬の気道病巣組織移行はよい. 主要原因菌(肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリス など)のペニシリン,セフェム,マクロライド系薬への耐性化が高率に存在. (日本呼吸器学会編「成人気道感染症診療の基本的考え方」 第Ⅴ章,2003) 17
【かぜ症候群と漢方薬4)】 漢方薬はかぜ症候群の対症療法として使われる.適切な処方をすれば,即効性も十分期待できる. 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【かぜ症候群と漢方薬4)】 漢方薬はかぜ症候群の対症療法として使われる.適切な処方をすれば,即効性も十分期待できる. 漢方薬の使用は医師がある程度習熟し,また医師と患者の両者が信頼し納得した場合に可能な選択肢の一つである. 生体の反応が強力な(体力のある)状態(実),生体の反応が軟弱な(体力のない)状態(虚),熱感の有無,寒気の有無,自然発汗の有無などで漢方医学的病態(証)を判断し,治療薬を選択する. 18
【かぜ症候群急性期の漢方薬4)】 太陽病期 実 大青竜湯 麻黄湯 葛根湯 倦怠感が強い ふしぶしが痛む 首の後ろがこわばる 汗なし 中間 日本呼吸器学会のガイドライン -急性気道感染症(急性上気道炎と急性気管支炎)- 【かぜ症候群急性期の漢方薬4)】 太陽病期 実 大青竜湯 麻黄湯 葛根湯 倦怠感が強い ふしぶしが痛む 首の後ろがこわばる 汗なし 中間 桂枝二越婢一湯 桂枝麻黄各半湯 小青竜湯 熱感強い,口渇あり 熱感強い,口渇なし くしゃみ,鼻水 汗あり 虚 桂枝湯 香蘇散 麻黄附子細辛湯 真武湯 のぼせ,咳嗽なし 寒気,胃が重い,うつ的状態 咽痛,寒気 ふらつき 汗少 ない 小陰病期 19
米国内科学会のガイドライン5~9)と症例呈示 -急性気道感染症- 免疫能が正常で慢性の心疾患,呼吸器疾患のない成人についての治療原則を記載 臨床症状に基づいた分類で非常に使いやすい 20
【急性気道感染症の分類10)】 鼻閉/鼻汁 咽頭痛 咳/痰 非特異的上気道炎 △ △ △ 急性鼻・副鼻腔炎 ◎ × × 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【急性気道感染症の分類10)】 鼻閉/鼻汁 咽頭痛 咳/痰 非特異的上気道炎 △ △ △ 急性鼻・副鼻腔炎 ◎ × × 急性咽頭炎 × ◎ × 急性気管支炎 × × ◎ ◎は主要症状,×は原則としてなし △は際立っていない程度に複数あり 21
【A. 非特異的上気道炎 , , の 3系統の症状がみられ,特に際立った症状がない. 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【A. 非特異的上気道炎 (nonspecific upper respiratory tract infection) 6)】 , , の 3系統の症状がみられ,特に際立った症状がない. 普通感冒(common cold)はこの病型に含まれる. 症状が多様であることはウイルス感染症を示唆する.(細菌感染では病巣は通常1か所) は炎症細胞や障害された粘膜上皮細胞があれば観察され,抗菌薬適応を意味するわけではない. この病型は抗菌薬不要である. 鼻症状(鼻汁,鼻閉) 咽頭症状(咽頭痛) 下気道症状(咳,痰) 膿性分泌物(痰,鼻汁) 22
⇒ 非特異的上気道炎 【症例:18歳女性】 病歴: 2日前より鼻閉,咽頭痛,咳嗽,黄色調の喀痰あり.37℃台の発熱を伴い,当院を受診した. 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:18歳女性】 病歴: 2日前より鼻閉,咽頭痛,咳嗽,黄色調の喀痰あり.37℃台の発熱を伴い,当院を受診した. 身体所見:体温37.1℃,脈拍96/分,SpO2 96%,咽頭軽度発赤,扁桃腫大なし.頚部リンパ節触知せず.呼吸音異常なし. 午後から発熱38.9℃となり,同日夕再度来院.家族の希望にて胸部X線撮影したが異常なし. ⇒ 非特異的上気道炎 抗菌薬なし(対症療法薬4日間投与)で軽快 23
【B.急性鼻・副鼻腔炎 (acute rhinosinusitis)7)】 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【B.急性鼻・副鼻腔炎 (acute rhinosinusitis)7)】 鼻症状(鼻汁,鼻閉)主体であれば,急性鼻・副鼻腔炎と診断する. 普通感冒でCTを撮影すれば,87%の症例で副鼻腔に所見があるという報告11)あり.鼻炎はしばしば副鼻腔炎へ波及し,鼻炎と副鼻腔炎の間に明確な一線を引くのは難しいため急性鼻・副鼻腔炎とする. 臨床症状から細菌性・ウイルス性の鑑別は困難. 抗菌薬は,症状が7日以上持続し顔面痛を伴い膿性鼻汁のある症例,もしくは7日以内では非常に強い片側の顔面痛,腫脹のある症例に限定する. 24
米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:47歳男性-1】 病歴:13日前より発熱(最高38.8℃),咳嗽があったが市販薬にて数日後に解熱,咳嗽のみが続いていた.受診前日朝より左頬が痛むため歯科医院を受診,異常なしとのことでロキソプロフェンとセファレキシンを処方された.症状が続くため1月15日当院を受診.鼻汁,鼻閉なし. 身体所見:体温36.8 ℃,左頬(片側顔面)に圧痛・叩打痛あり. 25
⇒ 急性(細菌性)鼻・副鼻腔炎 【症例:47歳男性-2】 急性期 治癒 アモキシシリン/クラブラン酸1,125mg,10日間投与にて治癒 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:47歳男性-2】 急性期 治癒 WBC 13,200,CRP 6.0 ⇒ 急性(細菌性)鼻・副鼻腔炎 アモキシシリン/クラブラン酸1,125mg,10日間投与にて治癒 26
【C.急性咽頭炎 (acute pharyngitis)8)】 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【C.急性咽頭炎 (acute pharyngitis)8)】 咽頭痛が主症状の場合,急性咽頭炎とする(扁桃炎を含む). 大半がウイルス性であり,特別なウイルスとして と (稀)がある. 細菌性では が重要で,約10%を占める.他に淋菌,ジフテリア(稀)あり. はABPC禁忌. 鑑別診断で , に要注意. EBウイルス HIVウイルス A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌) 伝染性単核球症(EBVの初感染) 扁桃周囲膿瘍 急性喉頭蓋炎 27
【溶連菌性咽頭炎】 A群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)が起因菌で, 感染経路はヒトーヒトの飛沫感染 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【溶連菌性咽頭炎】 A群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)が起因菌で, 感染経路はヒトーヒトの飛沫感染 Centorの診断基準(4項目)12) 発熱 扁桃滲出物(白苔を伴う扁桃) 圧痛を伴う前頚部リンパ節腫大 咳嗽がない 培養陽性をgold standardとして,4項目中3項目以上陽性であれば感度75%,特異度75% 陽性的中率:約40~60%(一般外来にて) 咽頭ぬぐい液の迅速診断テストが有用 治療の原則は,ペニシリン薬の10日間投与 28
米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:37歳女性-1】 病歴:3日前より軽度の咽頭痛あり,前日より38℃の発熱を生じ,唾液を飲み込むのも痛むようになったため来院.咳嗽,鼻汁なし. 身体所見:体温36.5℃,咽頭発赤あり,口蓋垂から軟口蓋に顆粒状の発赤あり,白苔を伴う両側扁桃腫大あり.前頚部リンパ節腫大なし.呼吸音正常. Centor criteria 3項目陽性 咽頭ぬぐい液の溶連菌迅速抗原テストを施行 29
⇒ 溶連菌性咽頭炎 【症例:37歳女性-2】 AMPC 1,500mg,10日間投与にて治癒 右扁桃には白い滲出物が見える 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:37歳女性-2】 右扁桃には白い滲出物が見える 軟口蓋の顆粒状発赤にも注目 迅速診断テスト陽性 ⇒ 溶連菌性咽頭炎 AMPC 1,500mg,10日間投与にて治癒 30
【重要な鑑別診断: 扁桃周囲膿瘍(模式図)】 膿瘍 口蓋垂が偏位 前口蓋弓の膨隆が著明 局所の穿刺・切開 抗菌薬の経静脈投与を要す 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【重要な鑑別診断: 扁桃周囲膿瘍(模式図)】 口蓋垂が偏位 膿瘍 前口蓋弓の膨隆が著明 局所の穿刺・切開 抗菌薬の経静脈投与を要す (吉川弥生:扁桃の急性疾患.加我君孝ほか(編),新臨床耳鼻咽喉科学,3巻,中外医学社,東京,2002; 262-70) 31
米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【重要な鑑別診断:急性喉頭蓋炎】 喉頭蓋の急性感染症で,喉頭蓋の腫脹により発症から する恐れもある超急性疾患である.疑えばただちに入院管理のできる耳鼻科もしくは救急施設に紹介する.経過観察してはならない.特に呼吸困難を訴える場合は,早急な処置を要する. 細菌感染症で,特に が重要. 主な症状は,急性の発熱,強い咽頭痛, , , (唾液の嚥下困難を示す)である.症状が強いにもかかわらず,咽頭所見が乏しい(喉頭蓋は通常の診察では見えない)とき,本疾患を疑うこと! 8時間以内に窒息死 インフルエンザ菌 嗄声 含み声 流涎 32
米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:58歳男性-1】 主訴:発熱,咽頭痛 現病歴:来院13時間前より,のどの痛み,38℃台の発熱あり.痛みが治まらず,7時間前には声が嗄れるようになった.しだいに息苦しさを伴うようになり,午前3時に総合病院救急室を受診した.咳嗽なし. 体温38.3℃,全身状態良好. あり. 咽頭発赤や腫脹なし.頚部リンパ節腫大なし.呼吸音正常,stridor なし. muffled voice(こもった含み声) 33
⇒ 急性喉頭蓋炎 【症例:58歳男性-2】 経過:救急室にて気管挿管,気管切開 セフトリアキソン,mPSL投与にて軽快 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:58歳男性-2】 WBC 14,000,CRP 0.6 喉頭ファイバーでは喉頭蓋の著明な浮腫,腫大あり.頚部X線ではvallecula sign陽性(矢印の溝の部分が消失).また喉頭蓋の幅が広がり丸くなっている. ⇒ 急性喉頭蓋炎 経過:救急室にて気管挿管,気管切開 セフトリアキソン,mPSL投与にて軽快 34
【D.急性気管支炎 (acute bronchitis) 9)】 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【D.急性気管支炎 (acute bronchitis) 9)】 咳嗽が主症状であれば,急性気管支炎とする 喀痰の有無は問わない 原因の大半はウイルスである 他にマイコプラズマ,クラミジア,百日咳が5~10% 肺の基礎疾患がなければ,肺炎球菌やインフルエンザ菌,モラクセラが急性気管支炎の起因菌になることはない この病型では肺炎の除外が重要 基礎疾患のない非高齢者においては,バイタルサインの異常(体温38℃以上,脈拍数100/分以上,呼吸数24/分以上)や,呼吸音の左右差があれば,胸部X線撮影を考慮 ルーチンの抗菌薬投与は勧められない 35
⇒ 急性気管支炎 【症例:19歳男性】 病歴:前夜から38℃の発熱,咳嗽,黄色痰あり.市販薬を服用.当院を受診.鼻汁,鼻閉,咽頭痛なし. 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:19歳男性】 病歴:前夜から38℃の発熱,咳嗽,黄色痰あり.市販薬を服用.当院を受診.鼻汁,鼻閉,咽頭痛なし. 身体所見:体温36.7℃,脈拍110/分,SpO2 97%,咽頭正常,頸部リンパ節触知せず,呼吸音正常. ⇒ 急性気管支炎 対症療法薬4日間投与にて軽快 36
急性気管支炎型で肺炎の除外要 ↓ 胸部X線撮影 【症例:18歳男性-1】 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:18歳男性-1】 病歴:前日より39℃台の発熱あり,今朝より咳嗽あり,喀痰なし,軽度咽頭痛あり,鼻汁なし.当院を初診. 身体所見:体温39℃,脈拍134/分, SpO2 97%,咽頭正常,頸部リンパ節触知せず,呼吸音正常 インフルエンザ迅速抗原試験:陰性 急性気管支炎型で肺炎の除外要 ↓ 胸部X線撮影 37
⇒ 肺炎(右下肺野) 【症例:18歳男性-2】 肺炎の除外はしっかりと! アジスロマイシン500mg,3日間内服で治癒 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【症例:18歳男性-2】 肺炎の除外はしっかりと! マイコプラズマ抗体 80倍→320倍 ⇒ 肺炎(右下肺野) アジスロマイシン500mg,3日間内服で治癒 38
B. 急性鼻・副鼻腔炎:発症7日以内は原則適応なし 顔面の痛みや圧痛が著明な症例:抗菌薬適応 米国内科学会のガイドラインと症例呈示 -急性気道感染症- 【急性気道感染症における 抗菌薬の適応(要約)】 A. 非特異的上気道炎:抗菌薬適応なし B. 急性鼻・副鼻腔炎:発症7日以内は原則適応なし 顔面の痛みや圧痛が著明な症例:抗菌薬適応 C. 急性咽頭炎:溶連菌性では抗菌薬適応 (迅速診断陽性 or Centor criteria 3項目以上陽性) D. 急性気管支炎:肺炎を除外すれば原則抗菌薬なし (症例に応じて胸部X線撮影) 39
付記 40
【普通感冒と急性鼻炎に対する抗菌薬 Cochrane Libraryより 【対象】 付記 【普通感冒と急性鼻炎に対する抗菌薬 ( antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis )14)】 Cochrane Libraryより 【対象】 発症7日以内の急性上気道感染症,10日以内の膿性鼻汁を伴う急性鼻炎に対して,抗菌薬とプラセボを使用したランダム化比較試験13編のメタアナリシス. 【結果】 全体として,抗菌薬は治癒や症状の持続期間において,プラセボに比べて有意な効果は認めなかった. 副作用はプラセボに比べて有意に増加した. 膿性鼻汁については,抗菌薬による改善が認められた. 【結論】 普通感冒に対する抗菌薬はまったく利点がなく,副作用が多い.膿性鼻汁を改善させる可能性があるが,自然治癒も多く,病初期からの抗菌薬投与は勧められない. 41
【急性気管支炎に対する抗菌薬 Cochrane Libraryより 【対象】 付記 【急性気管支炎に対する抗菌薬 (antibiotics for acute bronchitis)15)】 Cochrane Libraryより 【対象】 急性気管支炎に対する抗菌薬とプラセボを使用したランダム化比較試験13編のメタアナリシス. 【結果】 抗菌薬投与群はプラセボに比べて咳嗽の持続日数が有意に(0.58日)少なかった.(NNT=5) 【結論】 急性気管支炎に対する抗菌薬は若干の効果が認められる.ただしその程度は副作用,自然治癒,耐性菌,費用を勘案する必要がある. 注)13編のうち11編が喀痰を伴う急性気管支炎,さらにそのうち3編は膿性痰を伴う例である(米国内科学会の定義とは異なる).肺炎の除外について,胸部X線を全例検査したのは1試験のみ.発症1週間以内の症例は,抗菌薬の恩恵は少なかったと記載. 42
Chlamydia pneumoniae, Mycoplasma pneumoniae を中心に 非定型病原体 Chlamydia pneumoniae, Mycoplasma pneumoniae を中心に 43
【市中呼吸器感染症における 非定型病原体16)】 疾患 症例数 C. pneumoniae M. pneumoniae Chlamydia pneumoniae, Mycoplasma pneumoniae を中心に 【市中呼吸器感染症における 非定型病原体16)】 疾患 症例数 C. pneumoniae M. pneumoniae 咽頭喉頭炎 210 16.2% 1.0% 扁桃炎 54 14.8% 3.7% 咽頭喉頭炎/扁桃炎 32 6.3% 0% 咽頭喉頭炎/気管支炎 27 7.4% 0% 気管支炎 181 14.4% 2.8% 肺炎 26 19.2% 0% 2003. 4~6月,全国4地域,開業医59施設における20歳以上の初診外来患者532例 血清抗体価による検討. 44
【非定型病原体の関与】 平潟らは血清抗体価による調査で,気管支炎,扁桃炎,咽頭喉頭炎に が10数%, が数%以下に関与していると報告16). Chlamydia pneumoniae, Mycoplasma pneumoniae を中心に 【非定型病原体の関与】 平潟らは血清抗体価による調査で,気管支炎,扁桃炎,咽頭喉頭炎に が10数%, が数%以下に関与していると報告16). 米国内科学会のガイドラインでは,急性気管支炎において5~10%に , , が関与と記述9). 3週間を超える咳嗽例(遷延性咳嗽)では,これら非定型病原体の頻度が高くなる(10~20%). クラミジア・ニューモニエ感染は軽症,無症状者や自然治癒例が多い. 病初期に診断することは困難であり,これらを念頭においた抗菌薬投与は実践的ではない(流行期を除く). クラミジア・ニューモニエ マイコプラズマ・ニューモニエ マイコプラズマ クラミジア 百日咳 45
抗菌薬と耐性菌 46
【外来呼吸器感染症の主要な耐性菌】 主要な耐性菌 ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP) マクロライド耐性肺炎球菌 抗菌薬と耐性菌 【外来呼吸器感染症の主要な耐性菌】 主要な耐性菌 ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP) マクロライド耐性肺炎球菌 β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 院内からの波及が危惧される耐性菌 メタロβ-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌 多剤耐性緑膿菌(MDRP) ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生グラム陰性桿菌 将来的に危惧されている耐性菌 キノロン耐性肺炎球菌 キノロン耐性インフルエンザ菌 47
【抗菌薬の使用量と耐性菌(欧米)-1】 抗菌薬の使用量が多い国ほど,マクロライド薬耐性の化膿性連鎖球菌や肺炎球菌の頻度が増加している. 抗菌薬と耐性菌 【抗菌薬の使用量と耐性菌(欧米)-1】 40 60 Greece France 50 Italy 30 Spain 40 Portugal Spain Belgium 20 30 Italy Macrolide-resistant S. pyogenes (%) Macrolide-resistant S. pneumoniae (%) Germany France 20 UK Greece 10 Belgium Finlands Ireland Austria Slowenia Germany 10 Australia Portugal Sweden Austria Sweden Finlands Slowenia Australia Denmark Netherlands UK Nether lands 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 Macrolide use (DDD/1,000 pop/day) Macrolide use (DDD/1,000 pop/day) 抗菌薬の使用量が多い国ほど,マクロライド薬耐性の化膿性連鎖球菌や肺炎球菌の頻度が増加している. (Werner CA et al: Antibiotic Selection Pressure and Resistance in Streptococcus pneumoniae and Streptococcus pyogenes. Emerging Infectious Diseases 2004; 10(3)) 48
【抗菌薬の使用量と耐性菌(欧米)-2】 抗菌薬の使用量が多い国ほど,ペニシリン薬耐性肺炎球菌の頻度が増加している. 抗菌薬と耐性菌 60 Spain 50 France 40 USA Penicillin-nonsusceptible S. pneumoniae (%) 30 Greece Portugal 20 Ireland Canada Luxemburg Iceland Austria Belgium Italy 10 Netherlands Germany UK Australia Sweden Finlands Denmark Norway 10 20 30 40 Total antibiotic use (DDD/1,000 pop/day) 抗菌薬の使用量が多い国ほど,ペニシリン薬耐性肺炎球菌の頻度が増加している. (Werner CA et al: Antibiotic Selection Pressure and Resistance in Streptococcus pneumoniae and Streptococcus pyogenes. Emerging Infectious Diseases 2004; 10(3)) 49
抗菌薬と接触 耐性菌の院内・地域への流行拡大 【抗菌薬投与と耐性菌出現】 自然耐性株の選択 (10-6/mLの頻度) 耐性菌の 選択的増加 抗菌薬と耐性菌 【抗菌薬投与と耐性菌出現】 抗菌薬と接触 自然耐性株の選択 (10-6/mLの頻度) 耐性菌の 選択的増加 突然変異株の 発現 耐性遺伝子の 誘導・発現 耐性菌の院内・地域への流行拡大 ※ 「安易な抗菌薬治療」を戒めるべきである. 特にありふれた急性気道感染症の診療において 50
【日本の肺炎球菌に対する薬剤感受性成績 (n=274) 】 抗菌薬と耐性菌 【日本の肺炎球菌に対する薬剤感受性成績 (n=274) 】 <注射薬> <経口薬> PCG PIPC CTRX CTX CPR IPM MEPM Range 0.002-8 0.004-8 0.004-4 0.002-2 0.002-0.5 BP 0.06 2 1 0.12 0.25 S-ratio 44.2 84.3 85.0 96.7 99.3 86.9 81.0 AMOX FRPM CCL CFTM CPDX CFDN CDTR CFPN CPFX LVFX TFLX MINO CAM TEL Range 0.004-4 0.002-1 0.06->128 0.004-8 0.004-64 0.008-32 0.125-64 0.125-16 0.016-8 0.016-64 0.004->256 BP 2 0.5 1 0.25 S-ratio 98.9 93.4 38.7 66.1 31.8 50.7 86.5 61.7 52.6 97.8 98.5 25.2 25.6 100 経口セフェム薬の感受性が低い. LVFXやTFLXなどのキノロン薬にも 少数ながら耐性化が出現している. BP: CLSI break point S-ratio: BP以下を示す株の割合 (塚田弘樹ほか:薬剤感受性サーベイランス研究会成績―グラム陽性菌―.第54回日化療学会発表,2006) 51
【日本:肺炎球菌の年齢別LVFX耐性率】 抗菌薬と耐性菌 【日本:肺炎球菌の年齢別LVFX耐性率】 7 年齢とともにLVFX耐性率が増加している 2<LVFX<8μg/mL LVFX≧8μg/mL 6 5 4 Resistant ratio (%) 3 2 1 0~3 4~64 >64 ALL (年齢) (57) (117) (69) (273) (株数) (塚田弘樹ほか:薬剤感受性サーベイランス研究会成績―グラム陽性菌―.第54回日化療学会発表,2006) 52
抗菌薬の適正使用について 53
【抗菌薬適正使用の阻害因子 (抗菌薬過剰投与の背景)】 医師の誤解 黄色痰や黄色鼻汁は抗菌薬適応を意味する 抗菌薬の適正使用について 【抗菌薬適正使用の阻害因子 (抗菌薬過剰投与の背景)】 医師の誤解 黄色痰や黄色鼻汁は抗菌薬適応を意味する 肺炎などの細菌性二次感染を予防できる 有症状期間を短縮できる (これらはすべて誤りである) 医師の心理的背景 長年の習慣は変えにくい 細菌感染を見落としていないかという不安 本人や家族の希望を断りにくい 抗菌薬を処方しなかったための過去の失敗例 患者側の誤解 抗菌薬に対する過度の期待 54
【抗菌薬過剰使用による問題】 胃腸障害,アレルギーなどの副作用の増加 服用者と地域社会における耐性菌の増加 重症疾患の診断の遅れ 抗菌薬の適正使用について 【抗菌薬過剰使用による問題】 胃腸障害,アレルギーなどの副作用の増加 服用者と地域社会における耐性菌の増加 重症疾患の診断の遅れ 医療費の増大 耐性菌に有効な「新抗菌薬」が次々と登場する見込み薄 したがって ⇒ 現在の抗菌薬を「適正使用」することが重要 55
内科医におけるかぜ症候群の意識調査(2003年)19) 抗菌薬の適正使用について 【かぜ症候群への抗菌薬投与の現状】 内科医におけるかぜ症候群の意識調査(2003年)19) 日本内科学会内科専門医会評議員114名へのアンケート かぜ症候群における抗菌薬処方率は48%と推定された. (10~90%に均等に分布し,医師による差が大きい) 発熱と黄色鼻汁があれば,抗菌薬を処方するか? たいてい処方する 34% 半分くらい処方する 23% 時に処方する 31% ほとんど処方しない 12% 56
【本邦のprospective study20)-1】 抗菌薬の適正使用について 【本邦のprospective study20)-1】 《対象・方法》 5名の内科開業医による前向き共同研究(平成16年10月~17年4月) 年齢15~64歳,基礎疾患がない,発症7日以内の急性気道感染症と診断した症例 急性気道感染症に該当するインフルエンザ例含む 抗菌薬適応は米国内科学会ガイドラインに準拠 ただし下記は,主治医判断で抗菌薬投与可とした 片側性の扁桃炎,扁桃周囲炎,扁桃周囲膿瘍 急性気管支炎で肺炎を否定できない症例 インフルエンザ例にはオセルタミビル処方可とした 第5,8,15病日に再診,葉書,電話によって評価を行った 57
【本邦のprospective study20)-2】 抗菌薬の適正使用について 【本邦のprospective study20)-2】 《急性気道感染症の病型と頻度》 合計783例を集積 インフルエンザ診断 92例 上記以外 691例 病型の内訳(783例中) 非特異的上気道炎 631例 (80.6%) 急性鼻・副鼻腔炎 12例 ( 1.5%) 急性咽頭炎 92例 (11.7%) 急性気管支炎 48例 ( 6.1%) 58
【本邦のprospective study-3】 抗菌薬の適正使用について 【本邦のprospective study-3】 《抗菌薬処方率 -インフルエンザを除く691例-》 病型 症例数 抗菌薬処方 抗菌薬処方率 初診時 全経過 非特異的上気道炎 554 1 13 0.2% 2.5% 急性鼻・副鼻腔炎 11 9.1% 急性咽頭炎 90 32 33 35.5% 36.7% 急性気管支炎 36 2 2.8% 5.6% 合計 691 35 49 5.1% 6.5% (Tomii K et al: Minimal use of antibiotics for acute respiratory tract infections: Validity and patient satisfaction. Intern Med 2007; 46: 267-72) 59
【本邦のprospective study-4】 抗菌薬の適正使用について 【本邦のprospective study-4】 《抗菌薬処方率 -インフルエンザ92例-》 病型 症例数 抗菌薬処方 抗菌薬処方率 初診時 全経過 非特異的上気道炎 77 2 0% 2.7% 急性鼻・副鼻腔炎 1 急性咽頭炎 急性気管支炎 12 合計 92 2.2% オセルタミビルは92例中89例に処方された. (Tomii K et al: Minimal use of antibiotics for acute respiratory tract infections: Validity and patient satisfaction. Intern Med 2007; 46: 267-72) 60
【本邦のprospective study20)-5】 抗菌薬の適正使用について 【本邦のprospective study20)-5】 《結論》 初診時に抗菌薬を投与した症例は,全体の約5%であった. 初診時に抗菌薬を投与した症例の約90%は急性咽頭炎型であった. 急性気道感染症の80%を占める非特異的上気道炎では,全経過を通しての抗菌薬処方は2.5%に過ぎなかった. インフルエンザ症例において,オセルタミビルが97%に処方された.抗菌薬は初診時の処方例はなく,経過中処方例が2%のみにあった. 再診・追跡調査で肺炎合併や入院例はなかった. 第8病日において,非インフルエンザ症例の94%が症状改善,87%が満足.インフルエンザ症例の100%が症状改善,97%が満足した. この治療戦略は症状改善,満足度とも高く,十分実用可能である. 61
おわりに 62
【急性気道感染症】 基礎疾患のない症例では,大半の急性気道感染症が抗菌薬不要であると言って差し支えない. おわりに 【急性気道感染症】 基礎疾患のない症例では,大半の急性気道感染症が抗菌薬不要であると言って差し支えない. 重要なことは,抗菌薬の必要な症例とそうでない症例を正しく診断することである. ポイントは急性気道感染症の約 %を占める非特異的上気道炎を認識することであり,この群はすべて初診時の抗菌薬は不要である.残り20%の症例は抗菌薬が必要な症例が一定数あり,その判断が医師の腕の見せどころである. 肺炎を除外すれば,急性気管支炎は原則抗菌薬不要である. 丁寧な説明と適切な対症療法は,患者に安心と満足感をもたらす. 医師や患者の安心のために抗菌薬を処方することは止めるべきである. 80 63
【抗菌薬の適正使用 -最初の一歩と社会的責任-】 おわりに 【抗菌薬の適正使用 -最初の一歩と社会的責任-】 基礎疾患のない成人例における適正な抗菌薬処方率は,本来 %であろう. 過去の処方態度を変更することは,少なからず勇気が必要である. まず基礎疾患のない気心の知れた,そして非特異的上気道炎と診断した症例から処方を変えてみる. 臨床医は「患者の安全」,「医療資源」,「耐性菌の抑制」という社会的責任があることを自覚する. 地球環境を守るために,まず自らが「ごみの分別」を実践するのと同様である. 5~10 64
参考文献 65
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