Giddens 他の Essentials of Sociology における 日本型システム 林晋
日本型組織 Japanese model 「21世紀は日本の時代」と言われていた1980年代までの競争力のある日本型企業・組織の特徴として、ギデンズは、次のものを挙げ、それがウェーバーの官僚制の条件に対立することを指摘した(Sociology, 6th ed., pp.807-808): Bottom-up decision making 専門分化が少ない。「総合職」という言葉。 終身雇用 (5と関連) グループ指向の仕事スタイル 仕事と人生の融合
参考:ウェーバーの官僚制概念 資料:webertheory.ppt より ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Giddens, Sociology, 6th edition, p.785 の記述を使って説明: 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。 メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。 注意:ギデンズの説明を、さらに林が纏めたもの。ウェーバー自身の言葉やリストによるものではない。たとえば、ウェーバーは「ピラミッド型」「トップ・ダウン」などの現代的用語は使っていない。これはギデンズによる。ウェーバーの元の説明は、ギデンズのもののように判り易くはない。
「日本型組織」についての注意 80-90年代の日本では「日本的組織は日本人・日本社会でしかできない日本の伝統」という議論が多かったが、現在では「日本的特性」は、世界の企業・組織の多くが取り入れている。たとえば、ギデンズは “Many of the changes now witnessed in organizations around the world were first pioneered amongst some of the large Japanese manufacturing corporations, such as Nissan and Panasonic.” (Sociology, p.807) と書いている。 皮肉なことに、バブル崩壊後の「改革」等により、日本の企業・組織の、「日本的特徴」は、その形が崩れている。 日本社会は「大部屋から個室へ」。アメリカは「個室から大部屋へ」。 ?
「日本型組織」についての注意(2) 「日本的特性」が「日本の伝統」であったかどうかは、産業史・社会史の観点から検証が必要。ギデンズは日産を典型としてあげているが、現在では、トヨタの方が「日本的な企業」として有名。そのトヨタの Toyota Production System (TPS)の基本概念の多くが、実は西洋産、特にアメリカ産であることは歴史学的に証明できる。TPS はアメリカ生まれの産業工学の後継者であり、(日本人が)それを飛躍的に高めたものと理解する方がより自然。
注:ソフトウェアと日本型モデル しかし、実はソフトウェア分野においては、「日本型」は、例えば、UNIX文化という名前で米国に古くから存在した。 しかし、それはOSの世界であり、ソフトウェア工学と呼ばれる分野では、機械工学・生産工学を通して、アメリカのソフトウェア産業に日本型システムの影響があるらしい。 この当たり、まだ十分に調べられていない。日米における研究が必要。これからの課題。そろそろ歴史研究(経済史、産業史、技術史、政策史)の俎上に上げることができる時期。 また、かなり前に米国は英国から「日本型」のように見られていたという事実もあり、単純な「XX人論」に持って行くと大きく間違うので注意!