中学校新教育課程で学んだ高校生の小・中学校理科学習の実態と問題点 物理教育 第45巻 第4号(1997) 1210037 倉田亮輔
1.はじめに ・前回の調査・・・物理教育 第44巻 第4号 (1996) 「高校生にみられる小・中学校理科学習の実態と問題点」 1.はじめに ・前回の調査・・・物理教育 第44巻 第4号 (1996) 「高校生にみられる小・中学校理科学習の実態と問題点」 対象:京都市内の普通科高校2年生 調査内容:理科に対する好嫌度 ・中学校理科での深刻な物理離れ ・高校生女子の理科系に進学する理由 (中学校時代に化学が好きだった) 明らかになったこと ・今回の調査・・・ 平成元年施行の中学校教育課程に基づいて理科 学習を行った生徒を対象に、理科に対する好嫌 度を調査 ・前回の調査では改訂前の教育課程に基づいて学習した高校生を対象に調査を行った。 ・今回の調査では改訂後の教育課程に基づいて学習した高校生を対象に調査を行った。 ・ 前回の調査と結果を比較することで、学習指導要領の改訂前と改訂後の変化を考察する
2.今回の調査 ・今回の調査 対象:京都市内の普通科高校生189名(ほぼ全員大学進学希望者) 内訳 対象:京都市内の普通科高校生189名(ほぼ全員大学進学希望者) 内訳 調査方法:質問紙法により好き嫌いを1~5の5段階でマークシートに記入 調査内容:小・中学校の理科について 理科の学習項目ごとに対象者の 好嫌度を調査 小学校の学習項目:前回の調査と同様 中学校の学習項目:改訂された指導要領に基づいて修正 好嫌度・・・0.4以上の学習項目:よく好まれている学習項目 -0.4以下の学習項目:ひどく嫌われている学習項目 前回と同様
3-1.調査結果(小学校) 合計:23項目 ・調査項目は物化生地から満遍なく選んでいる 前回 結果 今回 理科系男子 +0.07 理科系女子 合計:23項目 前回 結果 今回 理科系男子 +0.07 理科系女子 +0.23 +0.14 非理科系男子 +0.10 +0.13 非理科系女子 +0.12 +0.02 小学校理科での好嫌度の変化 小学校理科での好嫌度調査項目
各対象者群で値の増減はあるものの、全体的に理科離れが生じているとは言えない ・全体的な好嫌度の変化から見えること 各対象者群で値の増減はあるものの、全体的に理科離れが生じているとは言えない 次に各対象者群で高い好嫌度が出ている項目を分析 赤:好嫌度高 青:好嫌度低 理科系男子 理科系女子 非理科系男子 非理科系女子
小学校の低・中学年では物理離れは生じていない 3.動くおもちゃの工夫(風、ゴムの動き)・・・理科系男子0.46、非理科系男子0.43 5.草むらや水中の動物・・・非理科系男子0.40 7.糸電話・・・理科系女子0.42 10.閉じ込められた空気の弾性(空気鉄砲)・・・理科系男子0.48、非理科系男子0.48 21.酸性・アルカリ性・・・理科系女子0.48 ほとんどの項目が低・中学年での物理領域の学習項目 小学校の低・中学年では物理離れは生じていない
高学年の物理領域で物理嫌いが始まっている 8.季節による植物の成長の違い・・・理科系男子 -0.30 20.受粉と結実・・・非理科系男子-0.33 22.てこの原理とその利用・・・理科系男子0.17、非理科系男子-0.03、理科系女子-0.05、非理科系女子-0.29 前回と同様の傾向 (-0.3以下) 高学年の物理領域で物理嫌いが始まっている 前回と同程度の傾向
・小学校における学習項目の好嫌の理由 生徒が主体的に参加できる学習 教え込まれる学習 生徒は指導者の側で硬直的に実験方法が決められている実験は好まず、自分で創意工夫して行う実験を好むことがわかる それを踏まえて理科の指導法を考える必要がある
3-2.調査結果(中学校) 合計:21項目 前回 結果 今回 理科系男子 -0.04 +0.04 理科系女子 +0.15 +0.08 非理科系男子 +0.02 -0.10 非理科系女子 -0.06 -0.08 中学校理科での好嫌度の変化 中学校理科での好嫌度調査項目
小学生の時と比べ、明らかにマイナスの項目が増えている 青:好嫌度低 理科系男子 理科系女子 非理科系男子 非理科系女子 学習指導要領が改訂されたからといって理科嫌いが解消される方向に向かっているわけではない
好嫌度が高い学習項目(+0.4以上) 3.水溶液・・・理科系女子+0.42 4.気体の発生・・・理科系女子+0.48 理科系男子 理科系女子 非理科系男子 非理科系女子 好嫌度が高い学習項目(+0.4以上) 3.水溶液・・・理科系女子+0.42 4.気体の発生・・・理科系女子+0.48 8.化学変化・・・理科系女子+0.52 9.原子と分子・・・理科系女子+0.43 14.酸性・アルカリ性・・・理科系女子+0.45 7.惑星と太陽系・・・非理科系男子+0.40 理科系女子の化学領域
理科系・非理科系・男女問わず好嫌度が低い 好嫌度の低い学習項目(-0.4以下) 6.力・・・非理科系女子-0.48 12.電流と磁界・・・非理科系女子-0.45 17.仕事とエネルギー・・・非理科系女子-0.49 18.科学技術の進歩と生活・・・理科系男子-0.30、理科系女子-0.50、非理科系男子-0.40、非理科系女子-0.77 21.地球と人間・・・理科系男子-0.30、理科系女子-0.50、非理科系男子-0.20、非理科系女子-0.77 物 理 領 域 理科系・非理科系・男女問わず好嫌度が低い 中学校における物理離れが深刻化している
教育課程の改訂後も改定前と同様に理科離れを示す結果となっている 理科授業の改善を求められていると言える ・中学校における学習項目の好嫌の理由 小学校における好嫌になかった項目 小学校よりも嫌いな理由が増加 教育課程の改訂後も改定前と同様に理科離れを示す結果となっている 理科授業の改善を求められていると言える
4.考察 今回の調査で明らかになったこと ① 学習内容を理解できるような実験を授業に取り入れ ていくことの必要性 ① 学習内容を理解できるような実験を授業に取り入れ ていくことの必要性 ② 「科学技術の進歩と人間生活」、「地球と人間」といっ た単元の好嫌度の低さから、我々教師が学習内容と日 常生活の関わりについて十分に理解していない可能性 ③ 「光と音」の単元の学習がうまくいっていないことが危 惧されること(理科系男子以外では負の好嫌度) 科学技術の進歩と人間生活・・・(ア)日常生活では、科学技術の成果として様々な素材やエネルギーが利用されていることを知ること (イ)情報手段としてのコンピュータなどについて、その発展の過程を知ること 地球と人間・・・(ア)ほかの惑星との比較を通して、地球には生物の生存を支える様々な環境要因が揃っていることを認識すること (イ)人間が利用している資源やエネルギーには、天然資源、水力、火力、原子力などがあることについての認識を深めること (ウ)自然の開発や利用にあたっては自然界の釣り合いを考えたり自然の保存や調整を行ったりするなど、自然環境を保全することの重要性について認識すること 具体的事例や実験、あるいは科学史から学べることを活かして授業設計する必要性 生徒にとって有意味な学習がなされるようにする必要性
5.今後の展望 考察で挙げられた項目を受けて 学習内容を理解できるような実験を授業に取り入れる ためには、学習内容がひと目で分かり教師が用意できる ような教材が必要(特に光と音の分野) 学習内容と日常生活の関わりについて十分な理解をし、 うわべだけの思い込みにとらわれないためには学習内容 についての本質的な理解が必要 実験教室のための教材開発 戦略ゼミや輪講を通しての深い理解
6.引用文献 1) 川村康文:「高校生にみられる小・中学校理科学習の実態と問題点」 物理教育 44(1996) 393-396 物理教育 44(1996) 393-396 1997年5月20日受理
ご清聴ありがとうございました