GISを用いた環境影響評価 システムの構築に関する研究 指導教官 山口 一 教授 システム創成学科E&Eコース 30753 伴 賢治
研究背景① 「持続可能な発展」の概念に沿った開発 環境保全にとって良い開発 環境影響の推測・評価が必要 「持続可能な発展」の概念に沿った開発 環境保全にとって良い開発 20世紀後半以降、大規模開発のもたらした環境悪化が顕在化し、人間の生存環境に大きく影響を及ぼしています。人類社会の存続のため、「持続可能な発展」は重要な課題となっております。つまり、経済発展をはかると同時に、自然環境の保全も考えなければなりません。そこで、開発を行う前に、開発の環境影響を予測・評価し、それにより適切な開発プランを確立するのが必要があります。 環境影響の推測・評価が必要
研究背景② データベース 評価基準 評価手法 環境影響評価 開発 プロジェクト 環境保全 にとっての 最善策 開発実行へ 開発案1 開発案2 開発案3 ・・・ 現在行われている環境影響評価は以下のようなものです。・・・ 問題点へ
研究背景③ 新しい環境影響評価システム 現状の環境影響評価の問題点 評価手順の不透明さ 評価結果の不明瞭さ 環境影響評価は世界各国で法制化され、現在様々な開発に対して行われています。しかし、その環境影響評価には問題点はないのでしょうか? 評価がどのようにして行われ、どのように決定を下されたのか? 評価結果が分かりにくい。
本研究の目的と方針 開発後の環境状況を予測するために数値シミュ レーションと連動させる。 適切な評価手法を選択する。 海洋開発の環境影響評価を迅速かつ分かりやすい形で行うシステムの構築 開発後の環境状況を予測するために数値シミュ レーションと連動させる。 適切な評価手法を選択する。 プラットホームとして地理情報システム(GIS)を導 入する。 評価プロセスの自動化プログラムを作成する。 そこで、本研究は、それらの問題点を考慮して、海洋開発の環境影響評価を迅速かつ分かりやすい形で行うシステムの構築することを目的とします。 システムの方針といたしましては、4点。 これらの方針をもとにした研究内容を以降説明いたします。
数値シミュレーション 事前評価の必要性 開発による環境変動を正確に予測するために数値シミュレーションは有効 開発 観測 事後 モニタリング
評価手法 環境への影響 影響面 自然環境 社会経済 累積影響 突発影響 評価対象 自然環境:海洋生態系 社会経済:経済損失 評価手法を検討する前に、本研究では環境への影響と影響面をこのように分けて考えました。影響を開発事業の通常オペレーションがもたらした累積的な影響と事故などのイベントによる突発的な影響に分けて、それぞれ自然環境と社会経済的影響を推測・評価していきます。自然環境の評価対象を海洋生態系にし、社会経済影響の評価対象を開発によって発生する海域の経済損失にしました。 まず海洋生態系の定量的評価手法 評価対象 自然環境:海洋生態系 社会経済:経済損失
海洋生態系の定量的評価手法 既存手法 要素1 要素2 …… 生態系 統合 指数 算出 要素ごと 定量化 絶対評価 相対評価 BEST、IBI、IFIM、HEP、HGM、WET 評価の流れはこのようになります。まず、生態系の要素、つまり評価項目を特定し、それぞれを定量化します。そして、なんらかの手法を用いて統合指数を算出し、その指数によって評価を行います。算出した指数は、指数の絶対値による絶対評価、また別の海域あるいは開発前後の比較による相対評価に用います。 既存研究手法は多数提案されていますが、その中に水域の研究に実績のある手法はこれらが挙げられます。それぞれの利用例を参照し、評価手法を検討しました。WETの適用は湿地中心であり、大まかの結果しか得られません。BESTは細かい評価項目を設定していて、詳細調査が必要で、事後評価中心で適用されてきました。HEPとHGMは定量化するプロセスは評価実行者の主観に大きく依存します。IFIMは直接評価法でありますが、河川のような狭い領域に適用できますが、海洋のような広い領域の適用は難しいです。IBIは生物学的保全性指数であり、元々陸水域の生物生存状態を評価する手法です。生物生存環境の影響要素を考慮されているので、開発評価は適しています。本研究はこれを評価手法として選定しました。 また、開発後の生態系状況を推定するための生態系の予測モデルが必要です。現在厳密的な生態系の予測モデルの開発が進んでいますが、まだ実用化段階になっていませんので、本研究はPVAモデルを利用します 生態系予測 PVAモデル
IBI(生物保全指数) 生物保全性 汚染耐久度 種の豊富さ 生物の生産性 ・・・ 各項目ごとに採点1、3、5 総得点が IBI 海域における生態系の定量的評価に使用 本研究では海洋生態系の評価手法としてIBIを選択しました。IBIについて、くわしい説明を行います。 ・・・
PVA(個体数存続可能性分析)モデル 個体群の個体数 変動をモデル化 T年後の 個体数 モデルを利用して、具体的な個体数を予測 シナリオを元にした 変動要素設定 (繁殖率)=(初期繁殖率)×(繁殖地の環境)×(餌の量) (死亡率)=(初期死亡率)×(被食危険度)/{(餌の量)×(水質)} モデルを利用して、具体的な個体数を予測 個々の個体群が対象 開発後の生態状況を推定するためのモデルとして、本研究ではPVAを用います。PVAは・・
経済評価手法 選好依存型 選好独立型 顕示選好 表明選好 再生費用 適用効果 ①海域経済価値データ ②対策コスト 経済評価手法は図のように大別されます。 人の好き嫌い、つまり、選好に依存するか否かで大きく分かれ、それぞれ~と言います。 選好独立型は結果が客観的で、基準とする価値によって~と~に分かれます。 ~は環境修復・代替環境づくりの費用で環境の価値を評価する評価方法であり、~は環境劣化の損失、環境修復の収益で環境の価値を評価します。 選好依存型は環境経済学の考えから環境の価値を算定します。 ~はアンケート調査などによって、~は実際にマーケットで取引されている市場財に反映して環境の価値を算定する評価方法です。 本研究では、再生費用法を採用しました。 ①海域経済価値データ ②対策コスト
経済評価手順 累積影響 × X% 累積影響の経済評価 突発影響 + 対策コスト 突発影響の経済評価 影響の及ぶ範囲 影響範囲内の経済損失
GIS(地理情報システム) これらの現象を定量的に 把握するためのツール 地理的な位置(空間座標)を付けられたデータを どこに 何がある これらの現象を定量的に 把握するためのツール どこで 何が起こっている 地理的な位置(空間座標)を付けられたデータを 取得・統合・管理・分析・表示するシステム 地理情報システムは、簡単に説明しますと、どこに何があるとどこで何が起こっているといった現象を定量的に把握するためのツールです。すなわち、地理的な位置……システムであります。
GISの環境影響評価に適する特徴 地理位置(空間座標)の軸に様々なデータを統合管理機能 空間検索・空間演算などの解析機能が整備されている 多数の異なるデータに基づいた環境影響評価に適する 空間検索・空間演算などの解析機能が整備されている 範囲指定・データ組み合わせが必要な環境影響評価に適する 電子地図と連動で、データ・解析結果を分かりやすく表示できる 環境影響評価を分かりやすい形で行うのに適する
自動化プログラム ①データ処理 作成、追加、編集、加工 ②数値モデルの実行 ③EIAプロセス 影響エリア IBI算出 PVAモデル 経済評価
対象海域指定 (データ作成) 対象海域
数値モデルとの連動 結果表示 条件設定 起動
影響範囲自動生成 影響範囲 起動
パラメータ入力 PVAモデルの実行① 起動 対象入力
PVAモデルの実行② 結果表示 結果登録
入力+結果表示 IBIの実行① 起動 絶対評価
相対評価 可視化 IBIの実行② データ入力
統合 経済評価①(データ作成) 1次生産量データ SeaSAT衛星の SeaWifsセンサー の観測データの 水深データ: 年平均 IceFree期間データ 氷の分布統計値 1次生産量データ SeaSAT衛星の SeaWifsセンサー の観測データの 年平均 水深データ: ETOPO5データ (NOAA) 離岸距離データ GISの空間検索 統合
経済評価② 影響範囲と 重ねて 経済損失 測定
経済評価③ ESIマップ(地形) ESIマップ(生態系)
経済評価④ 対象設定 影響範囲 起動 結果表示
利用例 システムの有効性確認のため、「サハリンⅡプロジェクト」のデータを使って、仮想評価を行った。
仮想評価例① 海洋生態系への影響 対象生物:4種のアザラシ PVAモデルによる個体数変動の予測 変動予測をもとにした海域の生物保全性の測定
仮想評価例② 仮想の輸送ルート検討 経済損失 作成:直線ルートと迂回ルート 経済評価機能を利用して双方の経済損失と比較 経済評価機能を利用して双方の経済損失と比較 経済損失 直線ルート>迂回ルート 1753 1635
仮想評価例③ 氷海油流出事故の経済評価 数値シミュレーション結果(影響範囲) 油流出後2週間 油流出後1週間 油流出後3週間 氷海における油流出モデルを使用 数値シミュレーション結果(影響範囲)
評価 結果 1週間 2週間 3週間 影響範囲 損失 4187 9308 12879 回収コスト(海) 17.2億$ 回収コスト(岸) ESIマップより - 0$ Type Length 1 1.7 2 59.7 3 31.5 4 23.2 5 0 合計 308.4 15.4億$ 1 1.7 2 135.1 3 75.4 4 28.2 5 5.8 合計 639.9 32億$ 評価 結果 2万$/t 5000$/m
結論 GIS上で環境影響評価を行うシステムを構築した。 データベース作成 評価手法確立 EIA自動化プログラムの開発 ケーススタディとして「サハリンⅡプロジェクト」を用いて、システムの有効性を確認できた。