退職者連合2019年地方代表者会議/2019.9.18/ホテル ルポール麹町 公的年金の財政検証結果と連合の考え方 連合生活福祉局長 伊藤彰久 掲載資料は特別に表示がない限り、厚生労働省「2019(令和元)年財政検証結果」をトリミング・加工して使用しています。
財政検証とは
財政検証とは ○2004年の年金制度の見直しで採用された年金財政のフレームワークにより、所得代替率50%維持の可能性を確認するのは財政検証。
遅れた財政検証結果の公表 参院選を挟んだ8月27日に公表 ○2019年財政検証は前2回よりも公表が大幅に遅れた。 出所:2019年6月13日 東京新聞朝刊
2019年財政検証結果
2019年財政検証結果 ○2019年財政検証では、経済成長と労働参加が進むケースでは50%以上を確保できるとされたが、それ以外のケースでは前回検証同様50%を下回る結果となった。
【参考】2014年財政検証結果 ○2019年財政検証について、2014財政検証結果と単純に比較することはできないが、内閣府試算の悲観的なケースを用いた2014財政検証のケースFは、 出所:厚生労働省「平成26年財政検証結果」
公的年金におけるマクロ経済スライドの廃止に要する費用に関する質問に対する答弁書(抄) 「基礎年金給付水準は約〇割低下」 ○国会質問趣意書に対する政府答弁書の計算方法に基づき、2014年財政検証のケースC及びケースEは、基礎年金の給付水準はマクロ経済スライド終了時点で約3割低下する。 公的年金におけるマクロ経済スライドの廃止に要する費用に関する質問に対する答弁書(抄) (2019年7月2日) 「平成二十六年財政検証」における経済前提のケースC又はケースE・・・等を前提とすると、平成二十六年財政検証における基礎年金部分の所得代替率(略)は、平成26年度は36.8%、マクロ経済スライドの調整期間(略)が終了する・・・令和25年度は26.0%と見込まれており、平成26年度の基礎年金部分の所得代替率は、令和25年度の基礎年金部分の所得代替率よりも約4割高くなることとなる。 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・ 平成26年財政検証における基礎年金部分の所得代替率が平成26年度から令和25年度にかけて低下すると見込まれるのは、マクロ経済スライドの適用によるものであるため、仮にマクロ経済スライドの適用がなかった場合、調整終了年度の基礎年金給付額は約4割増加すると考えられる。したがって、マクロ経済スライドの適用がなかった場合における調整終了年度の基礎年金給付額は、ケースC又はケースE・・・等を前提としつつこの4割を用いて機械的に算出すると、マクロ経済スライドの適用があった場合と比べて約7兆円増加すると見込んでいるところである。 安倍内閣総理大臣の「将来の受給者の給付が減らないようにする上においては、これは7兆円の財源が必要」であるという発言は、当該増加の額について述べたものである。 36.8 - 26.0 = 0.41 26.0 マクロ経済スライドをかけないと2043年度の給付水準は4割高くなる 36.8 - 26.0 = 0.29 36.8 マクロ経済スライドをかけると2043年度の給付水準は2016年度に対して3割低下する
足下と長期の経済前提の接続イメージ ○2019年財政検証では、前回検証と同様の方法とし、足下と長期の経済前提を機械的に接続する方法を採用することとしている。 資料出所:第8回社会保障審議会年金部会(2019.3.13)資料
足下の経済前提の設定 ○2028年度までの経済前提については、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2019.1.30)を採用し、2ケースを設定した。 資料出所:第8回社会保障審議会年金部会(2019.3.13)資料
長期の経済前提の設定 ○2028年度以降の経済前提は、各ケースについて3段階の労働力率と6段階の全要素生産性(TFP)の仮定を置き、それらに基づき経済前提が設定された。
【参考】労働力率等の前提
【参考】労働力人口と65歳以上人口の推移
全要素生産性(TFP)上昇率の推移 ○全要素生産性とは、経済成長の要因のうち、技術の進歩や生産の効率化など、資本や労働の量的変化では説明できない部分の寄与度を示すものとされる。長期的に低下傾向がみられ、ケースⅥに採用するとされる0.3%でも高いとの指摘がある。 資料出所:第8回社会保障審議会年金部会(2019.3.13)資料
政府もベースラインケースを基本に将来見通しを検討 ○政府の「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」は、「経済ベースラインケース」と「成長実現ケース」の双方を用いて試算しつつも、「ベースラインケース」に基づき説明している。 出所:平成30年第6回経済財政諮問会議(2018.5.21)資料をトリミング・加工
政府もベースラインケースを基本に将来見通しを検討 ○政府の「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」の「経済ベースラインケース」は、2015年財政検証のケースFを経済前提に用いている。 出所:平成30年第6回経済財政諮問会議(2018.5.21)資料をトリミング・加工
オプション試算 年金制度改正の選択肢
オプション試算の種類 ○オプション試算は制度見直しの検討材料として行われるもの。
オプションA:厚生年金の適用拡大の財政メカニズム ○厚生年金の適用拡大は、国民年金第1号被保険者が減少することにより、第1号被保険者一人当たりの国民年金の積立金が増加し、国民年金の財政の大幅な改善をもたらす。 〇国民年金の財政が改善し、国民年金のマクロ経済スライド期間が短縮されることにより、適用拡大をしない場合より基礎年金の水準が低下しないですむこととなる。 〇基礎年金の給付水準が上昇すると、厚生年金保険料(18.3%)のうち基礎年金に充てられる分が大きくなり、報酬比例部分に充てられる分が減るため、報酬比例部分の給付水準は低下する。 〇しかし、第3号被保険者だった人が厚生年金保険料を払うようになることや、フルタイム労働者が新たに厚生年金に加入することなどから、厚生年金の所得代替率が大幅に低下することはなく、基礎年金と報酬比例部分を合わせた所得代替率は大幅に改善する。
オプションBの種類 ○オプションBは性格の違う試算を盛り込んでいる。
オプションB-①:基礎年金の保険料拠出期間を5年延長 ○保険料拠出期間が長くなることにより、年金給付額は45/40倍前後高くなり、報酬比例部分、基礎年金ともに所得代替率は上昇する。 +3.7% +3.8% +3.7%
基礎年金の収支の構造について(2013年度) ○基礎年金の財政について、全国民共通の1階部分である基礎年金の給付を、そのときの現役世代全体で支えるという考え方がとられている。 資料出所:厚生労働省「平成26年財政検証結果レポート」~「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」(詳細版)~
基礎年金拠出金について ○国民年金勘定と厚生年金勘定から基礎年金勘定に拠出を行っており、国民年金第1号被保険者(20~60歳未満が基本)と20歳以上60歳未満の同第2号、同第3号の被保険者数(免除者等は除く)で按分して負担している。 〇国民年金第1号被保険者の加入年齢上限を60歳超に引き上げ、合わせて基礎年金拠出金算定対象者の定義(年齢)を引き上げれば、基礎年金の給付改善が可能。その際、増加する国庫負担額を準備する必要がある。 算定対象外の厚生年金・共済年金加入者 478万人 基礎年金拠出金算定対象者数 5,424万人 13.7% 86.3% 第1号 全額免除・未納者 830万人 第1号 納付者 (任意加入含) 745万人 第3号 専業主婦など 901万人 第2号 会社員・公務員など 3,777万人 自営業者等 1,575万人 (23.4%) 被用者年金加入者及びその専業主婦等 5,156万人 (76.6%) 資料出所:厚生労働省「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業年報」より連合作成
オプションB-②:高在老の廃止 ○在職老齢年金(65歳以上)の廃止・見直しは、厚生年金財政の若干の悪化を招き、その結果厚生年金のマクロ経済スライド調整期間の延長につながり、高在老の廃止・見直しの恩恵を受けない厚生年金受給者や将来世代に不利益が及ぶことになる。
オプションB-③:75歳まで厚生年金加入 ○厚生年金の加入年齢の上限を70歳から75歳に引き上げると、報酬比例部分の所得代替率が高くなる。
オプションB-④:繰り下げ受給の選択肢の拡大 ○繰り下げ受給をすれば所得代替率は高くなる。
オプションB-⑤:B①~④を合わせたもの ○皆が65歳まで保険料を払い、高在老を廃止し、75歳での繰り下げ支給を選択すると、現役男子の平均手取り収入額を上回る年金額が支給される可能性がある。
連合の考え方と今後の取り組み
2019年「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」の公表に関する談話 1. 基礎年金の給付水準は約4割低下、制度改革が急務 検証結果(ケースⅣ)では、モデル世帯の基礎年金の給付水準が2019年に対し2040年には約22% 低下、2053年には約36%低下するという見通しも示された。団塊ジュニア世代が高齢期に差し掛かる 2035年以降を見据え、すべての人が安心してくらせる年金の実現に向けて早急に社会保障審議会年 金部会で抜本的な制度改革議論をはじめるべきである。 2.経済の実勢や将来の不確実性を十分に踏まえていない経済前提 財政検証の経済前提において、年金改革法(2016年成立)の国会附帯決議で「より経済の実勢や国 民のニーズに合った財政検証の態様の見直しを検討する」ことが要請されていたにもかかわらず、実質 経済成長率の計算にかかわる全要素生産性(TFP)上昇率が高めに仮定されたことで、年金財政に影 響の大きい賃金上昇率も高めの設定となっている。公表された結果については楽観的に受け止めるべ きではないと考える。 3.厚生年金のさらなる適用拡大などによる給付改善を オプション試算では、厚生年金のさらなる適用拡大によって給付改善が図られるとともに年金財政の安定にも資するとの結果が示された。雇用形態や企業規模等の違いにより厚生年金に適用されないのは不合理であるため、これらの試算結果を踏まえ、すべての労働者に厚生年金を適用させる方向で検討を行うべきである。 また、保険料拠出期間の延長によって基礎年金の給付水準が3.7~3.8%上昇するとの結果も示され た。基礎年金の給付改善は急務であり、その検討にあたっては、被保険者や受給者等における公平性 や納得性を十分に踏まえる必要がある。 4.連合は、公的年金の機能強化と真の皆年金の実現に向け全力で取り組む すべての人が安心してくらせる年金の実現のためには、基礎年金の給付改善と厚生年金のさらなる適用拡大などによる公的年金の機能強化が急務である。連合は、将来世代を含むすべての人が安心してくらし続けられる真の皆年金の実現に向け、社会全体に対して連合の考え方を訴えかけ世論喚起をはかるとともに、構成組織・地方連合会・連合本部が一体となった取り組みを全力で進めていく。
公的年金制度の見直しに向けた連合の考え方と当面の取り組みについて(その2) (第26回中央執行委員会(2019.9.12)確認・抜粋) 1.短時間労働者等への社会保険の適用拡大について ○ すべての労働者に厚生年金などの社会保険を原則適用させる制度にあらためる方向で検討するよう求める。 ○ 当面は、企業規模要件を撤廃し、適用基準として労働時間要件(週20時間以上)または年収要件(給与所得控除の最低保障額以上)のいずれかに該当すれば社会保険を適用させるよう求める。 〇 非適用業種を撤廃し、常時5人未満の個人事業所も適用対象とするよう求める。 ○ 勤務期間要件は、雇用保険の適用基準とあわせ「31日以上」とし、学生を一律に適用除外とする要件は見直すよう求める。 2.基礎年金の給付水準の改善と所得再分配機能の強化について 〇 基礎年金についてはマクロ経済スライド適用の在り方の見直しを求める。また、国民年金第1号被保険者の保険料の納付期間の上限を延長するとともに、基礎年金拠出金算定対象者の年齢上限の見直しを求める。その際、保険料及び国庫負担の所要額、マクロ経済スライドをフルに発動した場合の財政見通しなどのシミュレーションを求める。 ○ 年金生活者支援給付金について、所得再分配機能の強化のため、給付額の増額、年金保険料を支払えなかった人への対応などさらなる低所得者加算の充実について検討を求め、シミュレーションの実施と結果の公表を求める。 3.長期化する高齢期における年金受給のあり方について (1)支給開始年齢と受給開始可能期間の選択幅の拡大について ○ 支給開始年齢のさらなる引き上げは、反対する。 ○ 受給開始可能期間の拡大について、60歳からの繰上げ受給は維持するとともに、70歳以降への繰下げを可能とすることについては、65歳時点での給付水準を変更しないことに加え、繰下げ増額率も財政中立を前提に検討することを求める。 (2)在職老齢年金について ○ 65歳以上の在職老齢年金(高在老)について、「骨太の方針2019」では「公平性に留意した上で、就労意欲を阻害しない観点から」見直しを行うこととされているため、まずは65歳以降の就労抑制効果について明確なエビデンスに基づく検証を求める。制度の見直しを行う場合には、就労可能な者とそれ以外の者との公平性、公的年金の所得再分配機能、将来世代にかかわる年金財政への影響などを十分に踏まえた検討を求める。 4.その他 ○ GPIFの株式のインハウス運用については、年金積立金という公的な資金による市場や企業への過度な影響が懸念されるため、行わないよう求める。
今後の見通しと取り組み 〇被用者保険の適用拡大については、厚生労働省の「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」で近日中にとりまとめが行われる見通し。同懇談会での検討を受け、社会保障審議会年金部会での検討が始まる。 ○連合は、社会保障審議会年金部会の議論の整理のとりまとめに、 ① 被用者保険の適用拡大 ② 基礎年金の給付改善 を盛り込むことを目標に、とりまとめが想定される2019年末までを目途に、当面の取り組みをすすめる。 1.連合本部 (1)公的年金制度の課題や改革の方向性についての連合の考え方を広く社会に発信するとともに、制度改革の必要性について世論喚起を図る。 (2)判断に必要となる試算結果の開示を求めることを含め社会保障審議会年金部会などで意見反映を行うとともに、構成組織・地方連合会に対して審議内容の情報提供を適宜行う。 (3)公的年金制度に関する学習会やシンポジウムを開催する。 (4)老後の生活を支える安心と信頼の公的年金制度の構築に向け、抜本改革を進めるよう、国会議員に対して要請を行う。 2.構成組織・地方連合会 (1)連合本部と一体となり、公的年金制度改革の必要性について世論喚起を図る。 (2)連合本部が主催する学習会や院内集会等に参加する。 (3)短時間労働者の適用拡大の状況を確認・把握し、取り組みを強化する。