2章:大循環(とくに、東西平均した中層大気のありよう)

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2章:大循環(とくに、東西平均した中層大気のありよう) 4月の気層のひかりの底を …… まばゆい気圏の海のそこに -宮沢賢治- 2章:大循環(とくに、東西平均した中層大気のありよう) 2ー1:観測された場 中層大気の東西に平均した全球的な温度構造をみておこう。対流圏とは異なる温度構造(図は地表、対流圏から 120km までで冬と夏の季節)。 夏半球の50kmのところがあつくなっている。これは太陽放射のオゾンによる吸収で高温になっている。さらにその上の90kmの夏では低温(日のあたらない冬で高温)になっていて、これは放射では説明されない。 冬 夏 冷たくなる cold cold 太陽のあたり方 冷たくなる warm colder 極域の冬の下部成層圏では、北半球の方があつい(左図、北半球の方が山岳が多い)<-惑星波の熱輸送 北半球 1月 7月

1月 7月 中層大気では対流圏とは独自の風系を形成している。 夏半球で東風、冬半球で西風になっている。 弱風 地球大気の場合は自転がはやいので、東西平均した東西風の場合、だいたい地衡風が成り立つ 西風 西風 静力学平衡の式: 東風 東風 2つをあわせて、温度風の式で東西風と温度は関係している 対流圏 左図が1月、右図が7月の平均東西風。成層圏の冬の西風は南半球がつよい。 赤道域50kmで東風、80kmで西風、赤道域半年周期振動をみている 80-110kmの高度ではその下の風系と逆センス 冬 北半球 成層圏の東西風の北半球と南半球の違いの図:

2−2 放射についてすこし 赤外放射の吸収係数 kνを波長によらず—定として、上下の赤外放射エネルギーの流れの式は、吸収と放出を考えると(cf. 松野と島崎、成層圏と中間圏の大気、1981) dF↑/dw = F↑ — B dF↓/dw = —F↓+ B ここで、B=∫0∞ Bν dν=σT4( ボルツマンの法則 )、wは光学的厚さ、矢羽根はフラックスの向き 放射平衡の条件:Netの放射フラックスとしてF↑net =F↑—F↓を定義して、これの鉛直方向の収束がないことで決まるB(w)(温度)をきめる (収束があると温度が変化する)。 式であらわすと、 d( F↑net )/dw =d(F↑—F↓)/dw=0 境界条件として、大気上端で逃げるエネルギー F↑(0)をJ0( これは入射する日射量( — 短波反射 )であろう)で F↓(0)=0 、それが F↑net にも等しいとして (F↑net =—定= J0) 、 d(F↑+F↓)/dw=F↑—F↓ 、すなわち F↑+F↓=F↑net w+C  と d(F↑—F↓)/dw=F↑+F↓−2B を解くと、    B (大気温度に対応)は   B=J0(1/2+ w /2) また   F↑=J0(1+w/2)      F↓=J0(w/2) のように決まる。 図としては右のようになる(光学的厚さを鉛直座標として) w=2 大気上端近くでは(成層圏では)、下向きフラックスはゼロに近い

地面の温度をTgとする。それを黒体温度としてBgとかくと、これは地面でのF↑だろう. Bg( Tg )=F↑g=J0/2*(wg+2) 地面の温度をTgとする。それを黒体温度としてBgとかくと、これは地面でのF↑だろう Bg( Tg )=F↑g=J0/2*(wg+2) = B(wg)+J0/2   地面温度(左辺)と地面と接する大気の温度(右辺の1項)に差がある。 光学的厚さwを高さに変換する: 吸収物質の密度は静力学平衡の大気密度とおなじように指数関数で分布すると仮定 ρ(z)=ρ0exp( ー z/Hs) Hsは吸収物質のスケールハイト   B(w)=J0/2(w+1) は  B(z)=J0/2(wg exp( — z/Hs)+1) 右上が高さで表現した図:←これまでは、物質の量としての分布であった。 ー> 大気上層では等温の成層圏ができる<— w≒0のところで物質密度が小さいので引きのばされて等温層になる O3のない地球 地球 外からみた地球大気の相当黒体温度は B(Te)=F↑(0)=J0 一方成層圏の温度は式 B=J0(1/2+w/2)から B(0)=J0/2=B(Te)/2 と低温になる(  B と F↑の差 ) 実際には地球のように成層圏でオゾンによる高温化あり、惑星によって異なる ー>右下図を参照 金星 木星

赤外放射のNewton冷却近似: エネルギーフラックスの鉛直方向収束が大気温度の変化をもたらすので、  ρa Cp dT/dt = - d/dz (F↑—F↓) のようになる。ここでは、ρa (kg/m3)が大気密度である。 Cp (J/K/kg) は定圧比熱。 右辺は、 d/dz(F↑—F↓)= —kρ( F↑+F↓—2B )   成層圏ではF↓は無視(大気の上端では0であった)、F↑ は殆ど変化なしと仮定、B も殆ど変化なしとする。   r=ρ/ρaとすれば、上の式は Cp dT/dt=—2k r B  +k r F↑   のようになる。 放射平衡にあって、平衡から少ししかずれないとすれば、B=B0+dB/dT・dT みたいに書けるであろう。そうすると dT/dt=—2kr/Cp dB/dT・dT—2kr/Cp B0+kr/CpF↑ このような線形近似(右辺の1項)をNewtonian coolingの近似とよぶ。  温度擾乱に伴う力学の議論でよく使う(熱的な散逸でこの近似をつかっている)     2kr/Cp dB/dT :Newton冷却係数とよぶ。 こんな感じか

Dickinson (1973) の求めた値をしめしておこう、この程度でもとにもどる——>10日くらいまたはそれより早い! 中間圏ではもうすこし緩和時間は早いようである(数日?)(Wehrbein and Leovy, 1982, JAS) Dickinson (1973) の求めた値をしめしておこう、この程度でもとにもどる——>10日くらいまたはそれより早い!  左がNewton冷却係数(時間の逆数)で 右は平均的な冷却率を示す(K/dayの単位) ー>このようなdamping係数が使われる。

中層大気大循環をおこす大気加熱について 大循環は、大気加熱の緯度的違いにより作られるであろう。太陽放射加熱率の中層大気における緯度—高度断面図を示す(O3, O2, NO2, CO2 の吸収が考慮されている)。図の左が夏半球に対応。50kmで最大18K/dayの大きさ。 90kmあたりもおおきな加熱率  それにもかかわらず、結果としては90kmあたり(夏半球)の温度は低い。 太陽放射による大気加熱率と赤外放射による冷却率の鉛直1次元分布(K/day)。London(1980)より、図はAndrews et al. (1987)から。図からわかる様に中層大気においては、太陽放射による加熱率はオゾンによるものが—番大きく、赤外放射は二酸化炭素による 中層大気では、オゾンによる 太陽放射吸収により大気が温められ、また赤外のcoolingもあるが(式の右辺ー>T)、それによって大気が全球的運動をしていると考えられるであろう。 London(1980)より、図はAndrews et al. (1987)から

短波+赤外放射(観測温度が考慮)の大気加熱率の緯度—高度断面図:冬半球は赤外放射で冷却されている 放射のみによって決るらしい成層圏・中間圏の温度分布。Wehrbein and Leovy(1982) 冷却率 加熱率 違い 173 233 右上図は短波放射による加熱と赤外による冷却のバランスによって決る温度分布である。  のような力学の入っていない式を解いてもとめた。夏半球は高温になり、極夜では赤外放射で低温になる。この図と観測による温度図とを比較する。大きな差が存在する。この差は力学の効果ということで、そのことを簡単なモデルで考えることである。 観測されている温度

補足:大気大循環モデルにおける放射加熱 太陽放射加熱 図は1年平均された放射による加熱分布(モデル)、単位はK/dayである: ただし、結果としての温度の情報も入っている 上図は年平均太陽放射による加熱(どこも加熱) 中図は赤外放射による加熱(大体冷却、赤道下部成層圏は加熱)、 下図はNet(短波と長波)の放射加熱 ー> 力学的には、このような放射加熱があったとき、大気はどのように運動しているか(成層圏は年変動が大きい) が議論される。 赤外放射加熱 Net(短波と長波)放射加熱)

2−3:東西平均した大循環を表す1つの方法 いつか巨大な配電盤は 交通地図の模型と変じ  --宮沢賢治 観測をもとに東西平均をした中層大気を2−1で眺めた。 東西方向の運動方程式は、 のようであった。この式で球の効果を無視すると、 となる。連続の式 この図も東西平均した温度であった ー>高度・緯度の2次元的理解と、東西非一様擾乱 を用いて東西方向の運動方程式を変形すると、 波動による、東西平均の影響(効果)についての式を導出しておこう。 大循環の運動は3次元の運動であるが、成層圏の気象力学で理解の1つの方法としてよく使われる 運動量フラックスの形

物理量を f(x)を周期2Lの周期関数として、 (フーリエ分解的に見れば、直流成分+sin(kx)みたいな分離) のようにする。 over-barの東西平均量は東西に一様であり、南北、高度、時間の関数となる。 primeはそれからのずれを示す。 これらを上の運動方程式に代入すると、 この式に、さらにover-barなる東西平均の操作をほどこす。このとき、primeとover-barの積の項を平均操作するとゼロ。結果として のような式を使って議論される。prime量が東西に非一様な擾乱で、それが相関として東西平均量に影響をおよぼすであろうことを示している。 数学的にみれば、方程式が非線形のためにこのようなことが起こる:sin2kx=(1- cos2kx )/2 を平均して直流成分がでてくる 冬(上図)と夏の東西平均した東西風の緯度高度分布図 ー> 東西平均場と東西に一様ではない擾乱   を調べることになる。

結果的に東西平均の式は、 一方、primeの擾乱については、log-p座標が使える場合、線形の運動方程式(   が一定の場合は1章の議論が使える)を用いる。 のようになる。左辺が東西平均場の変化の仕方をしめし、右辺が波動のフラックスの収束を表し、波動の東西平均場への作用を表していると思ってよいであろう。波の作用は波の特性に依存する。また、左辺は非線形項がふくまれるので、簡単には線形の形で議論される。 成層圏の大気大循環は、このような式(実際はこの式を変形したものだが、transformed Eulerian mean equationと呼ばれる、これについては4章で述べられるであろう)をもちいて解釈される。 線形の傾圧不安定波動の議論では、       によって不安定擾乱が作られるとして、議論される(準地衡風近似のもとで)。

2一4:簡単2次元モデルによる年振動の理解 ある近似のもとで、東西に平均した東西方向の運動方程式は(平均場について線形、Holton, 1982, JAS) (1) 右辺の第2項に鉛直方向の粘性を入れてある。また右辺1項に重力波の効果が書かれてある。 熱力学の式の大気加熱を考えよう。 中層大気における放射による大気加熱は、 のようになる。ここで右辺の1項はNewton 冷却を、2,3項は基本的な温度における赤外放射による非断熱加熱、4項はオゾンの紫外線吸収による大気加熱をあらわしている。 ここで Qtot = 0 となるような、仮想的に決まる温度をTe(緯度、高度、時間の関数)とする。そうすると Qtot は以下のようになるであろう( Qtot の右辺のうしろの3つの項を一緒にするような形 )。 さらに、年平均としてきまる高さだけの温度 T0(z) を導入すると、 結果として東西平均した熱力学の式は以下のようになるであろう (2) 数日のdamping time Q は Net の大気加熱の南北・鉛直偏差 、第2項は赤外放射のNewton 冷却近似である。加熱で温度があがり、上昇流の時、断熱膨張で温度が下降する式である。 このように、線形の問題にすると解きやすい  

南北方向の運動方程式としては地衡風の方程式を採用する。 (3) 南北方向の運動方程式としては地衡風の方程式を採用する。 (3) 連続の式は (4) 最後に静力学平衡の式を東西平均した (5)  (1), (2), (3), (4) , (5) が以下の議論に使う基本方程式である。決めるべき物理量は、東西風、南北風、鉛直流、温度、高度場の5つである。 (2) の右辺の熱力学的な強制(放射によってきまる)のみが与えられ、粘性が与えられている条件で問題を解くことを考える —>結果として、風や温度偏差が決定される f は—定、N2、α、νは鉛直のみの関数として、上の式を東西方向の風 u のみの1つの方程式にする。 (6) ここで であるがここでは考慮しない。

次にHolton (1982) に従って次の様に南北方向に関数形を仮定する。 (7) ここで、例えば 東西風は北半球のみを選んでいる。 f = 一定近似は赤道域ではおかしい結果をもたらす。   —>球面の方程式を用いるべき -> あとで 対応した放射加熱の形は (8) である。ここで L = π / l は半球のスケールに対応している。この様に仮定すると(6)式は以下の様になる( ここでN2 は—定と仮定する )。 (9) ー>南北の変数を一つのモードで表し、鉛直と時間の関数の東西風の式となる。 Q(z) などを与えて、鉛直と時間の変数として U(運動)を決めることになる。 この式は右辺を与える(今の場合はQ:放射加熱)と適当な境界条件を与えることにより数値的に簡単に解くことが出来る。 上端の境界条件として適当に高い所で (10)

また下端の境界条件としてここでは とする。今熱力学の式を思い出すと、 さらに地衡風の式と南北構造の仮定からUについて (11) またニュートン冷却率として図の実線の25 km “boxcar” という記号のついたようなものを選ぼう。 注意:Qのまえはl(Lの小文字) これで境界条件(式10、11)は揃ったので Q , Fx が与えられれば解くことが出来る。時間積分については例えば Holton and Mass(1976) のsemi-implicit 法を使って解こう(前方差分でも2年位の積分だったらO.K.)   Q のみが与えられたときの解を求めよう。まえに太陽放射の緯度−高度断面図を示した。図は50kmにピークがあり、南北には 第1近似的に cos 的な形をしており、振幅は8K/day ほどである。そこで Matusno(1982)に従ってQを以下の様な形に仮定する。 (12) Wehrbein and Leovy,1982. JAS

渦粘性係数としては図のようなものが使われる。 鉛直1次元化学モデルで使われる渦鉛直拡散係数。松野、島崎(1981)より。 拡散を起こすであろう現象についても書いてある(木田、高層の大気から)

結果: 南北のスケールとして7000km、下端z=0km、上端z=120kmとして計算した結果を図に示す。秋のequinox を時間t=0として、初期条件はt=0でU=0とした。1年を360日としてあり、2年間はしらせた。西風、東風が交互に繰り返している。このことは観測図の夏半球での東風、冬半球の西風と対応している。しかしこの図と観測図は風の定性的構造が全く異なっている。観測では約80km近くでほとんどゼロの風になっており、—方この図では60km近傍の風が高さとともに減少せず、—定になっている。もちろん対流圏もおかしい(何も考えていないのだからここは当然か)。 図:計算された平均東西風の時間変化 上層に分子粘性やイオンdragが入った計算:上層がすこし弱くなっている(Matsuno, 1982) 観測での東西風の変動(40N)

f—平面の議論では赤道でおかしくなるので、球面ということをきちんと考慮したモデルで考える。 線形の近似はなりたつとすれば、東西平均した式は <- 球面での連続の式 のような形になる。球面上の式では南北方向が緯度の関数となって複雑になる。 Matsuno(1982)に従って、Geopotential     の式になおすと のようになる(左辺の空間的な線形演算子はf-平面の場合のそれと似ている)。 とする。これは緯度方向の線形演算子である。線形の偏微分方程式で、1章のhomegeneous系の赤道波の議論と同様に、変数分離の方法を用いる。

のようにし、 前式の左辺第一項は緯度のみの、第2項は鉛直の演算子のみであって、鉛直と南北の変数分離として、 <ーある定数に対応して、南北構造が決まる のように南北成分をとりだして議論しよう。ここで   は1章で述べたように、南北と鉛直を分離するさいの変数分離定数と呼ばれるもので、hnは等価深さである。緯度  について2階の微分方程式の固有値問題となっている。 中層大気の年振動モードは、Sawada and Matsushima(1964) が求めていて、赤道に対しての最低次の反対称モード(赤道にたいして   の形が北半球が正のとき、南半球は負になるモード)と考えられる。 そのモードの南北構造の形は図のようである: (u は赤道に関して反対称で、v は対称である) f-平面のときは、u, v が sin ly の構造であった。 v の構造が赤道域でまったく異なる。 またこのモードの変数分離の定数(固有値)はSMにより、  h= -10.82km と求められている。この場合、hは負の値である。

戻って、(9)式 をみると、Newton冷却の項と運動量の鉛直拡散の項は同じ形をもっている。ここでは鉛直拡散の項を無視し、平衡の形を仮定した解(年振動はゆっくり変化していて、Newton冷却の時間に比べて無視できるであろうから)について見てみよう。 鉛直流を無視すると(Fxを考えず、鉛直拡散を無視すると、東西風の変化は南北風で生成される。東西風の変化を無視する近似は南北風=0であろう、そうする連続の式から鉛直風=0とおいていいであろう)、熱力学の式は だから加熱に対応してGeopotentialが積みあがっていく。その圧力南北勾配に従って、地衡風が積みあがることになるから、右のような東西風になる。この結果は前に示した数値計算と同じになっている。 これは観測の風と全く異なる。  東西風を減速するのに東西非一様な擾乱が重要な役割を果たしているようである。

ここまでの話の整理 温度場 観測による成層圏の東西平均東西風、1月 のバランスとする 低温 弱風層ではない 弱風層 西風 高温 東風 中層大気の放射のみによって決まるであろう平均東西風 ー> 東西に非一様な擾乱(波動)のよる直接的な東西風の減速 ー>波動擾乱の重要性 夏 冬 温度風の関係をみたしていて、中層大気の中では独自な系をなしている

中間圏の重力波 50km〜90kmの中間圏高度では、温度は高さとともに減少している.しかし水はほとんどなく,温度勾配も緩やかなので,基本的には対流不安定は起こっていない(g/Cpより勾配は小さいから) しかし、対流圏から鉛直に重力波が伝わってきて,しかもここで振幅が大きくなり,不安定が起こっているところがある(中間圏は結構ぱたぱたしている).波が壊れたり(局所的に乾燥断熱減率を超える温度傾度)、散逸があると—>平均東西風の変化をおこす。 中間圏の重力波に伴う温度変動: 9/2000-9/2001、インドネシア中間圏のOH airglowで観測された重力波(Nakamura et al., 2003, GRL) 重力波のBreakingの例:Lindzenの教科書から <— 時と場所による 重力波のbreakingについては3章

1章でしめした、primitive方程式を直接解いている。 現状の大気大循環モデルの結果の1つ 1章でしめした、primitive方程式を直接解いている。 惑星波動 重力波 Watanabe et al., JGR, 2008、水平分解能は50km程度、鉛直は300mの高分解能モデル 色は東西風加速の大きさを示す 24

2−5:いろいろな場所の平均東西風 赤道域の50kmあたり、および80kmあたりに、半年周期振動が存在する。 コリオリがゼロになると のようになり、赤道域ではForcingが直接東西風を変化させている現象も存在する。 ー> 波動の役割については、8章で 1979, 2月26日の平均東西風、高緯度で東風になっている ー> 10章 赤道下部成層圏の準2年振動

木星赤道域成層圏で準4年振動があるらしい—>地球の赤道域下部成層圏の準2年振動と類似の長周期振動 南北方向の運動方程式に於いて、地衡風(コリオリ力と圧力勾配力のバランス)が成り立つとして       f u = ー d Φ/dy —>すると温度風 f du/dz = - d/dy (RT/H) から温度差は風の鉛直shearに対応している。 緯度 最近の観測成果、準4年振動 Flasar et al., 2004, Nature、温度は観測 ー> 温度風から見積もられた。 Leovy et al., 1991, Nature

観測の温度、東西風と大気大循環モデル結果(黒田他、2005)<ー地球大気のモデルを火星の状況に変更 火星大気: 観測の温度、東西風と大気大循環モデル結果(黒田他、2005)<ー地球大気のモデルを火星の状況に変更 風の分布をみると、地球の成層圏の夏と冬の風によく似ている。火星の大気量は成層圏と同程度である。また火星の自転速度や赤道傾斜角も地球と似ていることが関係しているであろう。 温度 東西風 10mb 夏半球->冬半球 地球大気の東西風 夏半球->冬半球(下はCCSR/NIES火星大気モデル)

金星の成層圏で速い風が吹いている。100m/s程度の風。自転周期は243地球日、自転速度は1.5m/s 金星成層圏大気の全球的温度構造 金星の成層圏で速い風が吹いている。100m/s程度の風。自転周期は243地球日、自転速度は1.5m/s 異なった大循環現の様子であるが、このような風系に東西に非一様な擾乱の赤道方向への角運動量輸送が重要な役割をはたしている。 28