馬伝染性子宮炎 馬科動物の生殖器感染症
馬伝染性子宮炎(届出伝染病) 馬:軽種馬、重種馬、ろばなどの馬科の動物が感染。 1977 年に英国で初めて発生が確認され、日本では 1980 年に北海 道で、有症状馬から原因菌が分離された。 感染部位は生殖器で、雌馬の陰核洞、雄馬の尿道洞、亀頭窩、 包皮の皺内に垢とともに長期間生残し、無症状保菌馬となり、 交配した種雄馬が感染源となることが多い。
馬伝染性子宮炎の発生状況 (2014 年1~6月現在 ) 発生の認められる地域 発生の無い地域報告のない地域 現在発生の無い地域 発生が限定的に認められる地域感染が確認された地域 発生の疑いのある地域現在発生している地域
馬伝染性子宮炎の原因菌 Taylorella equigenitalis が原因菌で、球桿状ないし桿状の微好気性グラ ム陰性菌で、時に多形性を示す。 Streptomycin に対する感受性の違いで区別される生物型が存在する。 本菌は通常の培地では発育せず、チョコレート寒天培地上でよく発育す る。 カタラーゼ、オキシダーゼ、ホスファターゼを除く多くの生化学的性状 試験は陰性を示す。 ペニシリン系をはじめ多くの抗生物質に感受性を示す。
馬伝染性子宮炎の症状 交配後1~ 14 日間の潜伏期の後、子宮内膜炎、子宮頚管炎、膣炎な どを発症する。 陰門部からの粘性濃性滲出液による尾部の汚れ、不受胎、早期発情 の繰り返しなどが観察される。 極めて稀であるが流産も報告されている。 多くの感染雌馬は軽微な症状にとどまるか、あるいは全く症状を示 さず、他の原因による子宮内膜炎との区別は容易ではない。 雄馬は本菌に感染しても全く症状を示さない。
馬伝染性子宮炎の病変 子宮、子宮頚管の粘膜の充血や水腫が観察される。 子宮粘膜は灰白色から淡黄色の粘稠性に富む滲出液 に覆われる。 子宮や膣内に貯留した滲出液が、時に陰門部から排 出される。
馬伝染性子宮炎の診断法 急性期には子宮内膜や子宮頚管の拭い液、あるいは滲出液 の塗沫染色標本により原因菌を確認する。 雌馬では子宮頚管、陰核窩、陰核洞などの拭い液や滲出液 を、雄馬では尿道洞、亀頭窩、包皮の拭い液などをユーゴ ンチョコレート寒天培地の選択培地と非選択培地に接種し、 5~ 10%CO2 下、 37 ℃で培養する。 2~4日後に針頭大~数 mm の灰白色コロニーが観察される。 培養法では保菌馬摘発が万全でないことから、保菌馬の摘 発には感度の高い PCR 法を併用する。
馬伝染性子宮炎の予防・治療 発生の予防は保菌馬との交配を避けることが最も重要で ある。 現在、本病に有効なワクチンは開発されていない。 治療法として、保菌雄馬ではペニス表面、包皮の皺のな か、尿道洞、亀頭窩の垢を完全に除き、洗浄、消毒、抗 生物質の塗布を行う。 保菌雌馬では陰核洞切除手術が有効である。