高齢者虐待の種類 「高齢者虐待」の定義 身体的 虐待 介護・世話の 放棄・放任 (ネグレクト) 心理的 虐待 性的 虐待 経済的 虐待
高齢者虐待の考え方 ① 報道などで顕在化した高齢者虐待以外にも、 気付かれていない虐待がありうる 厚生労働省の統計 ・相談・通報件数: 962 件 ・市町村が虐待と判断した件数: 221 件 ・うち有料老人ホーム・特定施設における虐待: 38 件 (厚生労働省:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく 対応状況等に関する調査結果(平成 25 年度)) 気付かれていない虐待 意図的な虐待が表面化していないもの 意図していないが結果的に虐待となっているもの 「緊急やむを得ない」場合以外の身体拘束
高齢者虐待の考え方 ② 明確な「暴力」「虐待」の言動の周辺には、 「適切ではない言動」が予兆として存在する ことが多い 「虐待である」とは言い切れない「適切ではない言 動」 「適切ではない言動」が見えていれば、隠れたとこ ろ(個室など)では「虐待」があるかもしれない 「適切ではない言動」を放置しておくと、エスカ レートするおそれがある
高齢者虐待の考え方 ③ 「暴力」は「犯罪」であるという認識の下、 決定的な虐待は見逃してはならない 「未熟なケア/適切ではない言動」⇒「虐待行為」 は、連続しているケースが多い しかし、決定的な虐待=暴力=犯罪は、決して見逃 してはならない 犯罪を犯罪として認め、報告する勇気
高齢者虐待の考え方 適切なケア 不適切な言動 / 未熟なケア グレーゾーンの言動 虐待の言動 暴力 決して見逃してはならない 「暴力」は「犯罪」 連続性や予兆が あることが多い ※作成にあたり、 柴尾慶次氏(社会医療法人慈薫会) 作成の資料を参考にした。
高齢者虐待の考え方 ● 「適切ではない言動」から考える 介護事業所の職員による高齢者虐待の問題は、 「適切ではない言動」から連続的に考える必要 虐待が顕在化する前には、表面化していない虐待や、 その周辺の「グレーゾーン」行為がある さらにさかのぼれば、ささいな「適切ではない言動」 が放置されることで、蓄積・エスカレートする可能性 「適切ではない言動」の段階で発見し、 「虐待の芽」を摘む取り組みが求められる
介護事業所による高齢者虐待の実態 ● 高齢者虐待の行為を受けた利用者の特徴 認知症の人の割合が高く、意思疎通の難しさ等の関連 する問題がある ● 高齢者虐待の行為を行った職員の特徴 介護従事者全体の割合と比較すると、 「男性」「 30 歳未満」の割合が高い (出典:厚生労働省『平成25年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する 法律に基づく対応状況等に関する調査結果』,2015) ・行動・心理症状( BPSD )の存在 ・特に攻撃的言動や介護への強い抵抗がある場合 !
各職員が虐待行為や適切ではない言動を 防ぐために何をすべきか 1. 暴力など明らかな虐待行為は、犯罪であり、 即時報告 2. 適切ではない言動を見て見ぬふりをしない 3. 一人で抱え込まず、一人の責任にせず、 「チームケア」を行う 4. 「認知症ケア」の専門性を高める 5. ストレスマネジメント 各職員が気を付ける不適切な言動の対策
ストレスが背景にある適切ではない言動 ストレスマネジメント
ストレス自己診断チェックリスト 労働者の疲労蓄積度 自己診断チェックリスト (厚生労働省)
ストレスが生じた時にどうするか 意識して休養をとろう 自分に役立つストレス対処をしよう 必要なら他人に助けてもらっていい (例)どうしても難しいときにはケアを代わってもらう (それでもうまくいかない時は)何かいつもとは違 うことを試しにやってみよう ストレスの自己診断とその対応
事例に基づく検討・演習
「介護への抵抗」の事例 有料老人ホームに入所中のAさん(アルツハイマー型認知症)は、 排泄介助の際に拒否が強く、なかなか汚れた下着を交換できません。 スタッフBさんは日頃からAさんの介助に入るのが憂鬱でした。 他のスタッフに対しても同じなのですが、介助に入ると毎回決まっ て「汚れてもいないのに何するんだ!」と不機嫌になり、「誰か助 けて!」「私をいじめる!」と大きな声でわめくのです。 “汚れたままでは不快だろう”“早く交換してあげなくては”というス タッフの思いに反してAさんは手足をバタバタさせながらスタッフ の腕を払いのけ、抵抗を繰り返すばかりです。 スタッフBさんは自分に向けられた行為が認知症による症状なのだ と思いながらも、こみ上げてくる怒りとの葛藤で自分の感情を抑え るのが精一杯でした。
スタッフ B さんに求められる対応 チーム・ホームに求められる対応 あなただったらどうしますか? 考えてみよう
(まず、スタッフ B さんに求められる対応) ストレスマネジメントの視点
ケアを行う体制を改善する 職員の性格と介助時のストレス ⇒上司や先輩、同僚が日ごろから積極的に声をかけ、 悩みを聴く 職員個人だけの問題にしない ⇒特定の職員個人だけの問題にしてしまわず、職員 全体の問題として考える。 チーム・組織のあり方
ケアを行う体制を改善する 職員間の情報共有・意思疎通の方法を工夫す る ⇒情報共有・意見交換の機会を設けることは、介護 サービスの重要な要素 ⇒ルールや手順を決めて行い、管理者やリーダーは ときには教育的に関わっていく チーム・組織のあり方
ケアの内容や考え方を見直す アセスメント:入居者の心理を推測する ⇒対応に困る「問題行動」と考えずに、行動には理 由があると捉え、本人の視点から考える ケア:アセスメントに基づいたケア ⇒アセスメントの過程を職員全体で共有し、ケアの 意思統一を ⇒直接的な対応だけでなく、生活全般におけるケア のあり方を考える ケアマネジメント
認知症に伴う行動・心理症状の対応 「その行動には理由がある」と捉え、本人 の視点から考える。 ケアを提供する環境やスタッフの対応自体 が、「行動・心理症状」の背景やきっかけ になっていないかを考える。 認知症ケア
「不穏」の事例 認知症がある利用者Cさんは、昼食を終えると、「下に行く」と 言ってホーム内を歩き回り、スタッフKさんは一緒に歩き対応しま すが、「とにかく行かないと」というばかりで、しまいには大声で 泣き出します。 原因を探ろうとしますが、意思疎通も難しくなってきている中でた だ「行く」の一点張りなため、なかなかCさんの背景がつかめませ ん。 そのため対症療法的な一緒に歩くということしかできなく、落ち着 くまでにもかなりの時間がかかります。 ほぼ毎日このような状況なため、Cさんが歩き始めると、Kさんの 中で「またか・・・」と思うようになり、そのような気持ちが態度 にも出てくるようになってきました。
ストレスマネジメントの視点
「手薄な状況」の事例 有料老人ホームFの2階フロアでは、個別ケアを重視する観点から、 スタッフが1対で1で散歩に連れていくプログラムを行っています。 しかし、残されたスタッフMさんは、業務を進めながら、残る利用者 の対応を2人でこなさなければならないプレッシャーがあります。 食事の準備に追われていると、利用者のGさんは数分おきに「トイレ に連れて行って」とやって来ます。 常時見守りを必要としている転倒リスクの高いHさんも落ち着きなく 立ったり座ったりを繰り返しています。 Hさんを残してフロアを離れることに不安を感じつつ、Gさんをトイ レに誘導し、急いで戻るとHさんがよろけながら歩いていました。 スタッフMさんは、余裕を失い、強い口調でHさんを叱責してしまい ました。