第 10 回講義 マクロ経済学初級 I タイプ II クラ ス
前回の講義復習 消費と総需要 ケインズ型消費関数のもとで の 有効需要の原理
ケインズの消費関数 短期的な所得と消費には次のような関係 が観察されている。 ( ケインズの消費関 数) C = A + c ・ YD C : 消費支出額 ( 計画された消費) A : 基礎消費 c : 限界消費性向 YD : 可処分所得 YD ≡ Y+TR ー T ( T=TR = 0 ならば YD = Y )
限界消費性向と平均消費性向 c 限界消費性向=追加的可処分所得の 増大によって増える消費の割合 c =消費の増分 / 可処分所得の増分 消費の増分= c 可処分所得の増分 ケインズ型消費関数では一定の値で0 から1の間の数値をとると仮定されて いる。 0 < c < 1
平均消費性向は可処分所得一単位あた りの消費をさす。 平均消費性向= C/YD C =平均消費性向YD ケインズ型消費関数のもとでは平均消 費性向は常に限界消費性向より大きく、 かつ可処分所得の増大とともに減少す る。 C/YD= ( A + c ・ YD )/ YD = c + A / YD
YD C(YD) A c YD 1 可処分所得が YD 1 のときの平均消費性向 c C(YD 1 )
総需要関数 経済には消費者と生産者しかいない(政府 と海外部門はない、 T=TR = G = NX =0 )と想 定しよう。 [ すなわち YD = Y ] ( 計画された)投資支出 I は一定であると仮 定する。 このとき、所得水準 Y のもとでの、計画され た総需要は以下のようになる。 AD ( Y ) ≡ C ( Y )+ I = A + c ・ Y + I
Y AD(Y) A+IA+I c
均衡生産量と均衡所得の決定 有効需要の原理で述べたように、均衡生産量は 総需要に等しくなるように決定される。 すなわち、均衡生産量 Y * は、以下の等式をみた す総生産水準である。 Y *=AD(Y*) (1) = C ( Y *)+ I (1 ‘) = A + c ・ Y * + I (2) 均衡生産量 Y * は均衡所得として分配され る。
Y AD(Y) A+IA+I c 45 度線 Y*Y* 均衡生産量と均衡所得の決定 AD(Y*)
貯蓄投資の均等化条件 また、 (1) 式からから計画された消費を差 し引くと次を得る。 Y * - C ( Y *) = AD ( Y *) - C ( Y *) S ( Y *) = I (3) すなわち、均衡生産の決定条件 (1) 式は上 記の、計画された貯蓄=投資という条件 (3) 式でも表現できる。
貯蓄関数のグラフ S(Y) =Y - C(Y) = Y - A - cY = - A + (1 - c)Y (1 - c) は限界貯蓄性向と呼ばれている。 S(Y)S(Y) Y 1-c ー( A + I ) S(Y)S(Y)
1-c Y S(Y)S(Y) S(Y)S(Y) I Y* 0 貯蓄投資の均等化条件の図
今日の講義 乗数効果 投資関数
乗数効果 独立支出が増大すると、 それ以上に有効需要の原理で決まる均 衡総生産量が増大する。 投資や、政府購入が増大した場合も同 様な効果がある。
独立支出と均衡総生産量 (2) 式に示される、均衡総生産について解 くと、以下を得る。 Y *=[ A + I ]/(1 - c ) [ A + I ] は計画された総需要 AD ( Y ) のうち、 所得に依存しない独立支出とよばれるも のである。それはここでは、基礎消費と 投資支出からなっている。いま、独立支 出を A で表すことにしよう。
独立支出の乗数効果 独立支出 A を Δ A 単位増大させたとき、均衡生産水 準 Y * はどれだけ増大するか? 増大した独立支出 A + Δ A のもとで、均衡生産水準は [ A + Δ A ]/(1- c ) になる。これか増大前の独立支出 A の もとでの均衡生産水準をさしひくと、 [ A + Δ A ]/(1- c ) - A /(1- c )= Δ A /(1- c ) となる。すなわち、 Δ A 単位の独立支出の増大はそ の 1/(1- c ) 倍の総生産の増大をもたらす。
独立支出の乗数効果 1/(1- c ) は独立支出乗数と呼ばれる。 特に Δ A が投資の増大による場合、 1/(1- c ) は投資乗数と呼ばれる。
ー (A+I ) 1-c Y S(Y)S(Y) S(Y)S(Y) I Y* 0 独立支出 A の拡大と乗数効果 ー (A+ΔA+I ) - ΔA ΔA/(1 ー c)
Y AD(Y) A+IA+I c 45 度線 Y*Y* 独立消費 A の拡大と乗数効果 ΔA A+ΔA+I ΔA/(1 ー c)
政府部門の導入
政府部門 政府部門は所得税 T を徴収し、国 民に移転し支払い TR を支払い、 政府購入 G を支出する。 所得税率を t とすると、 T = tY とな る。 可処分所得は Y + TR ー T であ る。
均衡総生産の決定 このとき、計画された総需要は以下のよ うになる。 AD ( Y )≡ C ( Y+TR-T ) +I+G =A+c ・ ( Y+TR- t ・ Y)+I+G したがって、均衡生産水準 Y* は以下の式 で決定される。 Y * = C ( Y*+TR- t ・ Y* ) +I+G (4) =A+c ・ ( Y*+TR- t ・ Y*)+I+G (4’)
均衡総生産の決定 ( 続き ) (4) 式を書き換えると次のようにも表 せる。 Y * -C ( Y*+TR- t ・ Y* ) ‐ G = I [ Y * +TR- t ・ Y* -C ( Y*+TR- t ・ Y* )] +[ t ・ Y* - TR ‐ G ]= I S pvt ( Y* ) +S govt ( Y* ) = I S ( Y* ) = I
均衡総生産と乗数 (4’) 式を均衡総生産 Y * について解くと 次を得る。 Y *=[ A + c ・ TR + I - G ]/[1-(1- t ) c ] すなわち、政府購入 G を独立に一単 位増大させたときの均衡総生産の増 加は 1/[1-(1- t ) c ] である。 これは政府購入乗数と呼ばれている 。
均衡予算乗数 均衡予算:政府の税収と支出 [ 購入と移転支払 い ] が税収と等しいとき、均衡財政がはかられて いる。 TR + G = t ・ Y 均衡予算がはかられているとき、 (4‘) 式は以下の ようになる。 Y *= A + c ・ ( Y *- G )+ I + G したがって、均衡予算のもとでの均衡総生産は 以下のように計算される。 Y *= G +[ A + I ]/(1- c ) 均衡予算の下での政府購入乗数は 1 である。 ( G の 一単位の増大は一単位の均衡生産量増大をもた らす ) これを均衡予算乗数という。
これまでのまとめ 有効需要の原理に従えば、総生産は総需要が 決める。 (1) 式。 上を言い換えると、計画された貯蓄が投資と 等しくなるように生産水準が決まる。( 3 ) 式。 これまでは貯蓄(そのうらにある消費)につ いて学んだ。 これらからは投資について理解する。
投資支出 日本の投資支出 – 日本の投資支出の状況はどのようなもの か? 新古典派の投資理論 – 投資支出の決定はどのように考えられてい るか?
日本の GNP と投資 GNP 6 割が消費 3 割が総固定資本形成 そのうち 2 割強が公的総固定資本形成 7 割強が民間総固定資本形成 さらに民間総固定資本形成のうち 6 割が企業設備投資 1 割 5 分が住宅投資 非常に少ないが在庫品増加がある 1 割弱が政府最終消費支出 2 、 3 パーセントが純輸出
生産関数の復習 生産者は資本ストック K と労働力 N の2つの生産要素 ( 投入物 ) を用いて 生産活動を行うとする。 要素投入( Inputs) と生産物 ( Outputs) の関係 ( 生産技術)は生 産関数( Production Function) で 表されるとしよう。 Y = F ( K, N )
生産関数の性質 資本ストックを追加的に一単位投入したと きに増大する生産物の量を資本の限界生産 力 (Marginal Product of Capital) とい う。 ∂ F ( K, N )/∂ K 、 Δ F ( K, N )/ Δ K 、 F K ( K, N ) ま たは、 MPK で表す。 この値は正値である。また資本ストック を横軸に、生産量を縦軸にとった F ( K, L ) のグ ラフの傾きを示す。
F(K,L)F(K,L) K 生産関数 F K (K 1,L) = MPK K1K1 F(K1,L)F(K1,L)
資本の限界生産力逓減の仮定 資本の限界生産力は逓減する (decreasing) ∂ 2 F ( K, L )/∂ K <0 F KK ( K, L )<0 資本ストックの投入が増大するにつれ て、資本の限界生産力は小さくなる。 限界生産力を縦軸に、資本ストック投 入量を横軸にとると、次のようなグラ フになる
FK(K,L)FK(K,L) K 資本の限界生産力曲線 K1K1 FK(K1,L)FK(K1,L) F(K1,L)F(K1,L)
資本の使用者費用 users cost of capital 資本を一単位利用するのにかかる費 用を資本の使用者費用という。 資本の使用者費用は資本を一単位調 達するのにかかる利子費用 ( 利子率) r と、資本を一単位生産活動に利用 することで資本が減耗する資本減耗 率 d からなる。 したがって、資本ストックを K 単位 利用することの ( 実質)費用は ( r + d ) K である。
生産者の利潤最大化行動と望 ましい資本ストック水準 生産者にとって、利潤は以下のようにな る。 F ( K, L ) -( r + d ) K -労働費用 利潤が最大になるような資本ストック K * が望ましい資本ストック水準と呼ばれる。 資本の限界生産力と資本の使用者費用が 等しいときに利潤は最大化される。 F K ( K *, L ) = r + d 以下の図を参照。
FK(K,L)FK(K,L) K 生産者の利潤 K* r+dr+d F(K*,L)-(r+d)K* (r+d)K*(r+d)K*
FK(K,L)FK(K,L) K 生産者の利潤: K が K* より小さい場合 K* r+dr+d F(K s,L)-(r+d)K s (r+d)Ks(r+d)Ks KsKs
FK(K,L)FK(K,L) K 生産者の利潤: K が K* より大きい場合 K* r+dr+d F(K l,L)-(r+d)K l (r+d)Kl(r+d)Kl KlKl
利子率と 望ましい資本ストック水準の関係 利子率が上昇すれば、望ましい 資本ストック水準は減少する r ↑ ⇒ K *( r ) ↓ 利子率が下落すれば、望ましい 資本ストック水準は増大する。 r ↓ ⇒ K *( r ) ↑
資本ストックと投資の関係 一年間の資本ストックの変化量は純投 資( Net Investment) と呼ばれる。そ れを NI で表すことにする。 NI t ≡ K t+1 - K t 今年の資本ストック水準を来年の資本 ストック水準にまで増やすには、実際 には資本減耗分を埋め合わせて投資し ている。これを粗投資( Gross Investment) と呼び、 I t で表す。 I t ≡ K t+1 - K t + dK t
投資水準の決定と利子率の関係 生産者は望ましい資本ストック水準を達成 ( 利潤最大化)するように投資水準を決定 する。 I t ( r ) = K *( r ) - K t + dK t 利子率の上昇は K * の下落、すなわち、投 資水準の下落をもたらす。 r ↑ ⇒ I ( r ) ↓ 利子率の下落 K * の上昇、すなわち、投資 水準の上昇をもたらす。 r ↓ ⇒ I ( r ) ↑