日本語学校におけるネパール 人学生の様相とその諸問題 福岡県 A 校に通うネパール人学生 へのライフストーリーインタ ビューから 西南学院大学国際文化学会 岩切 朋彦
1、留学生の増加とその重要性 在日留学生数(平成 25 年度 5 月 1 日現在) = 135,519 人 日本語教育機関に在籍する留学生数 = 32,626 人 福岡県の留学生数 =10,779人 福岡県の日本語教育機関に在籍する留学生 =2928人 ★福岡県の留学生数は東京に次いで 2 位
平成 25 年度外国人留学生在籍状況調査
留学生の重要性 グローバル人材の育成 及び確保 1. グローバル戦略 2. 「グローバル人材」 3. 少子化 → 学生の確保 留学生 30 万人計画 ( 2008 ) →2020 年までに 30 万人 人口減少問題及び移民 の受け入れ (内閣府「目指すべき日 本の未来の姿につい て」) 1. 人口減少問題 2. 年 20 万人の移民(高度 人材に限る)受け入れ 3. 出生率の回復 ⇒ 2110 年に 1 億 1 千万人
2、 留学生増加と日本語学校の重要性 日本語能力の獲得 1. 日本は非英語圏 日本語能力が不可欠 2. 私費留学生の約 3 割 が日本語学校を経由 して進学 日本語学校の学生は 「留学生予備軍」 学生の「質」の確保 ※どのような学生を入学 させるかは日本語学校 の判断に委ねられる 学生の失踪 不法就労 日本語学校は留学の「水先案内人」
3、ネパール人学生の急増と日本語学 校における様相 ① ネパール人学生の急増とその理由 従来、日本語学校に在籍する学生の 7 割は中国人 留学生⇒減少傾向へ 代わりにベトナムとネパールの学生が急増 ネパール 943人 → 3095人 ベトナム 1087人 → 8436人 ※福岡はネパールがベトナムを逆転 ネパール1490人 ベトナム 1102人 中国人学生を確保できなくなった日本語学校の生 き残り策 → ネパール、ベトナムへのプロモーショ ン
② 勉強しない(できない)ネパール人 学生 ネパールは世界の最 貧国の一つ(一人あ たりの年間 GDP 703 ドル) 実際は総じて学習意 欲が低い – 授業中はネパール語で 私語をしたり居眠りす る – 予習復習をしない – 授業と関係ないランダ ムな質問 – 漢字が覚えられない – テスト中に声を発した りキョロキョロしたり するのは日常茶飯事 祖国のため、自 分の夢のため、 一生懸命勉強し ているのだろう イノセントな イメージを押 し付けていた だけだっ た・・・!
4、 A 校のネパール人学生へのイン タビュー調査 本発表では A 校の学生に限って報告 インタビューは「ライフストーリーイン タビュー」の手法に基づいている – あらかじめ設定した質問項目にのっとってイ ンタビューを行うのではなく、調査者と被調 査者との対話によって問題設定を逐次構築し ていくインタビューの手法 合計7人の学生にインタビューを行った が、本発表ではそのうちの3人の内容を 紹介
①C さんと D さんのケース C さん(24才) 「 You want a diplomatic answer or true answer? 」 「多くのネパール人に とって、日本は2番目の 選択」 「1番はヨーロッパやア メリカ、オーストラリア などの英語圏」 「本当はオーストラリア が本命だった」 「日本は留学ビザであれ ば取得が容易」 D さん(23才) 中東で出稼ぎをしていた 「ネパールの国内状況が 悪いので外国へ行かざる を得ない」 「父親の命令で外国へ。 中東は二度とごめんだっ たので日本を選んだ」 「ネパールにいる間、日 本のことなんてほとんど 何も知らなかった」
借金とアルバイトと送金 ほとんどの学生は、日本へ来るための資金 (渡航費・ 1 年分の学費・寮費等)を借金に よって工面している 借金は銀行や親せきなどから借りるため、毎 月の送金は必ず行わなければならず、さらに ネパールで待つ家族の生活費も送金している – C さん=月15万~16万の送金 – D さん=インタビューした月は19万稼いで16 万送金 金を稼ぐために長時間のアルバイトに従事す る。深夜2時まで「残業」する場合も多い
仲介業者と日本語学校 C さん 福岡を選んだ理由 – 友人が福岡にいたため A 校を選んだ理由 – コンサルタント(仲介業 者)が勝手に決めていた A 校に対する不満 – 学費が他校より高い – クラスがネパール人だけ なので、勉強ができない D さん 福岡を選んだ理由 – 東京よりビザの取得が容 易だとコンサルタントに アドバイスされたため A 校を選んだ理由 – 家の都合で急に行かなけ ればならなくなったので、 コンサルタントに任せた A 校に対する不満 – C さんに同じ
F さん(22才)のケース もともと親せきが東京にいたため留学先に日 本を選んだ A 校でもトップクラスの成績 卒業後は進学が決まっている インタビューは日本語 借金して来日、月10万の送金をしていた 進学のための奨学金を得ることはできたが、 それでも学費が足らないので、ネパールの持 ち家を売却することを考えている
アルバイトは死活問題 進学のための学費を稼ぐため、朝7時か ら昼12時、夕方5時から深夜2時まで アルバイト 「ネパールの学生はアルバイトをたくさ んしないと日本で生きていけない」 「週28時間を超えてはいけないことは 知っているが、アルバイト先もネパール 人学生がいなければ成り立たないし、た くさん働かせる」 「アルバイトのやり過ぎで成績が悪くな る者も多いが、頑張ればできる」
仲介業者のウソ F 「現実に直面して 泣き出してしまった 人もたくさん知って いる」 F 「アルバイトが見 つからなくて、自殺 した例も聞いたこと がある」 週28時間のア ルバイトで、借 金も返せるし送 金もできるし、 学費だって払え るんですよ 日本語なんかで きなくたって、 アルバイトはす ぐ見つかります から安心してく ださい
勉強とアルバイトのバランス 勉強アルバイト 生活費送金借金返済学費出席睡眠自宅学習 払うためには 無理して働か ないと・・・ 眠いけど、勉 強しないと怒 られる・・・
5、結論
では、どうすればよいのか 1. 出稼ぎ目的の「単純労働者」を政府が正面から受け 入れるべき – 現在は、技能研修生や資格外活動許可を得た留学生がそれ を担っている 2. 日本語学校の公的な認定制度を作り、学校に補助金 を与えることで学費を抑える – ほとんどのネパールの学生にとって、長時間のアルバイト なしで学費を払うことは事実上不可能 3. 日本語学校は、ネパール人だけのクラスを作らず、 提携しているコンサルタントがどのような募集の仕 方をしているのか敏感になるべき – 重要なことは、ネパール人学生の学習意欲の低さは、日 本語学校の在り方にも大きく起因しているということ