第3章 わが国における聴覚障害教育の目的と制度 第3章 わが国における聴覚障害教育の目的と制度
第1節 一人ひとりの教育的ニーズに対応した教育 1.聴覚に障害のある児童生徒への教育の意義と内容 一人ひとりの障害の状態に応じた指導を行うため、 少人数の学級編成、知識・経験を有する教員の配置、特別な施設や教材の整備、教育課程の編成、教育内容や方法の工夫。
2.聾学校の教育の目的 学校教育法第6章に規定 「準ずる教育を施し」とは、「・・・教育目標の達成に努める教育を行うこと」 第71条「・・その欠陥を補うために、必要な知識技能を授けることを目的とする」とは、障害に基づく種種の困難を改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、心身の調和的発達の基盤を培うことを意味している。
3.聾学校や特殊学級の学級編成について 法律(公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律)で規定 聾学校: 小・中学部は6人、高等部は8人 重複障害学級は3人 自立活動担当教員、寄宿舎指導員も配置 難聴学級:8人 通級指導教室:10人
第2節 聴覚障害児童生徒への就学指導 1.わが国の就学指導(図3-1) 学齢簿の作成(入学5ケ月前) 就学時健康診断 専門家の意見を聴取して教育委員会が決定 義務教育の猶予・免除 小学校、聾学校、認定就学者として小学校に就学
2.聾学校への就学 聾学校の対象者の障害の程度 学校教育法第71条第2項 学校教育法施行規則第22条の3に規定 現在の規定は2002年に改正 「両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもののうち、補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが不可能又は著しく困難な程度のもの」を聾者として規定
「補聴器等の使用によっても」の「等」は、人工内耳を指す 「通常の話声」とは、通常の会話の中で使用する話し声 「話声を解することが著しく困難」とは、聴力レベル60dB以上で補聴器を使用しても通常の会話における聞き取りができにくい状態。 このような場合には、聾学校が適当
3.小・中学校への就学 ①「難聴特殊学級」に在籍 ②通常の学級に在籍し「難聴通級指導教室」に通う ③聾学校対象であるが、市町村の判断で、「認定就学者」として、小・中学校で学習 ④通常の学級に在籍し、特に支援を受けることなく学習
難聴特殊学級の対象者 「補聴器の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもの」 「話声を解することが困難な程度」とは、補聴器を使用した状態で通常の会話における聞き取りが部分的にできにくい状態 特定の教科(例:国語、英語)において、聴覚活用や音声言語の理解に支障があり、かつ障害を改善克服するための特別な指導を系統的・継続的に行う必要のある児童生徒
(2)難聴通級指導教室の対象者 「補聴器の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの」 下線部は、障害を改善・克服するための特別な指導や教科の補充指導を部分的・継続的に必要な児童生徒
(3)認定就学者 障害の程度だけでなく、 ①その地域や小・中学校の状況 ②障害のある児童生徒の学習を支援する学習機器が用意されていること ③障害に配慮した施設面の整備 ④指導において専門性の高い教員の配置等 を充分考慮して総合的に判断し、小・中学校に「認定就学者」として就学することができる
4.「通級による指導」の制度について 学校教育法施行規則第73条の21第1項 言語障害者、自閉症者、情緒障害者、弱視者、難聴者、学習障害者、注意欠陥/多動性障害者、その他 年間35~105単位時間、週1~3時間を、 小・中学校の教育課程に加え、または一部に変えることができる 自校通級と他校通級がある
第3節 聾学校における教育 1.現在の聾学校 学校教育法第74条において設置を義務づけ 2006年時点で106校 都道府県立100、市立4、国立1、私立1 幼稚部だけ、小・中学部だけ、高等部だけでも設置可 聾学校数と学部の設置校・率(表3-2)
聾学校の在籍数(2004) 幼稚部1287、小学部2175、中学部1112、 高等部1999人、0~2歳693人 聾学校、難聴学級、通級指導教室の在籍者数(図3-2)
2.聴覚障害児童生徒の教育の場の課題 補聴器・人工内耳を装用し 小学校で2868人、中学校で1473人が学習 * 1622人が特別な支援なしで学習(表3-3) 聾学校で学習する児童生徒よりも、小・中学校で学習する聴覚障害児童生徒の数が上まわっている
第4節 聾学校、難聴特殊学級で使用される教科書 聾学校では、 ・通常の「国語」教科書と併せて聾学校用「国語」の教科書が無償給与 ・自立活動や国語の時間に指導 難聴学級では、 ・聾学校の教育課程に準じた場合、聾学校用教科書を使用できる
特別な教育課程を編成した場合、 ・検定教科書ではなく、他の適切な教科用図書を使用することができる 学習評価が学習指導要領の目標に準拠した絶対評価で行われており、教科用図書の採択は学習内容の上限に影響を及ぼすため、 慎重に行われなければならない
第5節 特殊教育から特別支援教育への動向と聴覚障害教育 「21世紀の特殊教育の在り方について ~一人ひとりのニーズに応じた特別な支援の在り方~(最終報告)」(2001)
「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(2003) 障害者基本計画(2002)を踏まえ、「障害のある子ども一人一人のニーズに応じてきめ細かな支援を行うために乳幼児期から学校卒業後まで一貫して計画的に教育や療育を行うとともに、学習障害、注意欠陥/多動性障害、自閉症などについて教育的支援を行うなど教育・療育に特別のニーズのある子どもについて適切に対応する」
特別支援教育を構築していくうえで 「個別の教育支援計画」「特別支援教育コーディネーター」「広域特別支援連携協議会」「特別支援学校」「特別支援教室」が提起 「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」 ①「特別支援教育の理念と基本的な考え方」 通常の学級に在籍する学習障害(LD)・注意欠陥/多動性障害(ADHD)・高機能自閉症等に対しても支援を行う。「特殊教育」の用語を改める。
②盲・聾・養護学校は、障害種別を超えた学校制度「特別支援学校」とする。地域の特別支援教育のセンター的機能を明確に位置づける ③LD等も含め障害のある児童生徒が通常の学級に在籍したうえで、その必要に応じて指導を受ける形態としての「特別支援教室」の制度的見直し
④盲・聾・養護学校教員の免許制度については、5障害(視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱)と言語障害・情緒障害に加え、LD・ADHD・高機能自閉症等を含めたさまざまな障害に関する基礎的な知識を有する特別支援学校教諭免許状を創設 聴覚障害教育においては、これまでの専門性をどう継承・発展させるかが課題 聴覚障害児教育の実態は変わるものではない