第2章 全数調査と標本調査 ー 経済統計 ー
この章の内容 Ⅰ 全数調査と標本調査の特徴 Ⅱ 世帯に関する全数調査 Ⅲ 事業所・企業に関する全数調査 標本調査の特徴 標本抽出法 Ⅰ 全数調査と標本調査の特徴 標本調査の特徴 標本抽出法 標本調査の欠点 全数調査の必要性 Ⅱ 世帯に関する全数調査 国勢調査 Ⅲ 事業所・企業に関する全数調査 経済センサス その他の全数調査 <おもなポイント> 標本調査のメリット・デメリットとして、どういうことがあるのか。 なぜ全数調査をおこなう必要性があるのか 世帯と事業所・企業の全数調査にどのようなものがあるか など
Ⅰ 全数調査と標本調査の特徴 ˆ 推論 x p 母平均 μ 母比率 p 標本平均 標本比率 母数 θ 標本統計量 t 母集団(個体数N) Ⅰ 全数調査と標本調査の特徴 母集団(個体数N) 母集団 - 知りたい対象の集まり 標本 - 母集団から抜き出されたその一部 × × × × × × × 標本(個体数n) × × × × 全数調査 - 母集団の全てについて調査をおこなうこと 標本調査 - 母集団から抜き出された一部について調査をおこなうこと 推論 母平均 μ 母比率 p 標本平均 標本比率 x ˆ p 母数 θ 標本統計量 t
標本調査の例として次のようなものが挙げられる。 労働力調査(完全失業率はこの調査の結果求められる) (この調査は第4章でとりあげる) ⇒ 全国の15歳以上(約1億1千万人)の母集団から、約10万人を標本として選ぶ調査 内閣支持率調査などの世論調査 ⇒ 全国の有権者(20歳以上の日本国民)(約1億人)の母集団から、約1000人(新聞社のおこなう内閣支持率調査の場合) その他、視聴率調査、街頭でのアンケート、製品の品質管理のための抜き取り調査など、数多くの標本調査がおこなわれている。
費用・時間の削減 得られる情報の増加、精度の向上 全数調査が不可能な場合にも調査可能 a) 標本調査の利点 標本調査をおこなうメリットとして、次のようなことが挙げられる。 費用・時間の削減 → 調査票を配布回収する調査では、調査票の印刷費、集計にかかる機械処理費用、人件費などと全部を集計しおえるまでの時間がだいぶ削減できる。 得られる情報の増加、精度の向上 → 調査には調査員が使われることが多いが、ベテランの調査員は調査の内容をきちんと説明できるので、答えづらい内容を聞いたり、正しい結果を導いたりすることができる。 全数調査が不可能な場合にも調査可能 → ガラスの耐久性についての品質管理を調査するなどの場合、全数調査をおこなうことは不可能である。
街を歩く人にアンケートをとるなどの方法であり、抜き出された標本が、一定の傾向を持つ(標本の偏りを持つ)可能性がある。 b) 標本抽出法 母集団から標本を抜き出す方法を標本抽出法という。英語ではサンプリング(sampling) であり、マーケティングなどに出てくるこの言葉は、標本抽出法を指している。 標本抽出法は、次の2つに大別できる。 有意抽出法 街を歩く人にアンケートをとるなどの方法であり、抜き出された標本が、一定の傾向を持つ(標本の偏りを持つ)可能性がある。 無作為抽出法 母集団の中から無作為(ランダム)に標本を抜き出す方法。具体的に次のような方法がある。 単純無作為抽出法 - 母集団の中からくじ引きの原理によって標本を抜き出す。 系統抽出法 - 始めに1つ選び、そこから等間隔で選んでいく。電話帳などのリストに有効
非標本誤差 - 調査もれ、無回答、記入ミスなど c) 標本調査の欠点 市町村などの地域区分が困難 → 標本調査の結果と、真の状態との間にはズレがある。このズレのことを誤差というが、標本調査における誤差には次の2つの種類のものが組み合わさったものである。 標本の偏り 非標本誤差 - 調査もれ、無回答、記入ミスなど ⇒ 全数調査でも起こりうる 統計理論によりコントロール不可能 標本誤差 - 標本の偏りによるもの ⇒ 標本調査に固有のもの 統計理論によりコントロール可能
2010年6月10日付の朝刊各紙に掲載された菅内閣支持率を見ると、異なった結果になっている。 <菅内閣発足直後の支持率の例> 母集団(有権者1億人) × × 標本1(朝日1088人) 60% × × × × × × × × × 標本2(読売1057人) 64% × × 標本3(毎日1018人) 66% 2010年6月10日付の朝刊各紙に掲載された菅内閣支持率を見ると、異なった結果になっている。 同じ対象に同じ調査をおこなっても、標本によってその結果が異なる。 これが、標本の偏りである。 × × 標本4(日経888人) 68% × × 標本5(共同1021人) 61%
標本誤差を少なくするための標本抽出の工夫 標本誤差を少なくするための標本抽出の工夫 層化抽出法 - できるだけ同じような性質のグループに分ける。都市なら人口規模、産業構造など、人なら性別、年齢などによっていくつかの層にわける。 多段抽出法 - 市町村を選び、その中から世帯を選ぶなど、何段階かに分ける。 日本の官庁統計では標本誤差を少なくするために無作為抽出法に層化抽出法、多段抽出法を組み合わせた方法を用いている。 (例) 家計調査の場合 1.全国の市町村を168の層に分け、その中から1つ選ぶ。 2.各市町村から調査地区(単位区)を選ぶ。全国で約1400単位区 3.各単位区から6世帯を乱数表によって選ぶ
市町村などの小地域に区分できるデータの収集 標本抽出枠としての全数調査 d) 全数調査の必要性 市町村などの小地域に区分できるデータの収集 標本抽出枠としての全数調査 標本誤差を少なくするために層化抽出法がおこなわれるが、同じような性質となるような層(グループ)を作成するためには、全数調査をおこなう必要がある。
Ⅱ 世帯に関する全数調査
世帯 - 住居と生計を共にしている人々の集まり 世帯 - 住居と生計を共にしている人々の集まり 2世帯住宅 - 居住部分が完全に仕切られていて、専用の出入口、流し、トイレがあること。 学生寮 - アパート形式ならそれぞれが1つの世帯。 - 賄いつきなどであれば、1つの棟ごとに1つの世帯。 ルームシェア - それぞれ1つの世帯。
a) 国勢調査(基幹統計、総務省統計局) (Population Census) 目的 - 総人口、人口構成、就業状況、住宅の状況などを把握する 調査対象 - 調査年の10月1日現在で日本に居住する全ての世帯およびそこに住む人 調査の周期 - 5年ごと(西暦の末尾が0と5の年)
<結果の公表> (平成17年調査の場合)
<結果の利用> 直接的な利用 間接的な利用 議員定数、選挙区分の決定 自治体の補助金の配分 高齢者や児童の福祉政策の立案 防災計画の策定 など 間接的な利用 世帯に関する標本調査をおこなう場合のリスト ⇒ 国勢調査によって全国全世帯の人数、性別、年齢、就業状態などを把握することができ、そこから日本全体の縮図となるような標本を選ぶことができる。
<世界の人口調査> 国勢調査は国連(United Nations)の「世界人口・住宅センサス」計画に基づいて実施されている。 この勧告では、10年に1度人口や住居に関する全数調査をおこなうことを勧告している。 日本の場合は、その中間年にも調査を実施し、5年に1度としている。 「2010年ラウンド世界人口・住宅センサス計画」に盛り込まれた調査事項のリストはこちら (総務省統計局サイト「国勢調査e-ガイド」 内へのリンク) http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kouhou/ala/a07.htm
<国勢調査をめぐる諸問題> ⇒ 全戸訪問する調査が限界では? 調査環境の悪化 調査員の質に関する問題 プライバシー意識の高まり オートロックマンションなど 調査員の質に関する問題 声が大きい、朝早い時間や夜遅い時間に訪問する など ⇒ 全戸訪問する調査が限界では? ※代替案 郵送調査、オンライン調査 ⇒ 回収率の低下、標本の偏りの問題などがある。 → 平成22 (2010)年の国勢調査では、配布は調査員がおこない、回収を調査員に渡すか、郵送するか選べる方式になった。 回収する場合も、全戸封入提出が原則となった。 (東京都ではインターネット回答も試験実施している。)
Ⅲ 事業所・企業に関する全数調査 事業所 - 物の生産およびサービスが事業としておこなわれる一定の場所 それぞれ1つの事業所 企業 Ⅲ 事業所・企業に関する全数調査 事業所 - 物の生産およびサービスが事業としておこなわれる一定の場所 (例) 商店、工場、学校、病院 それぞれ1つの事業所 企業
a) 経済センサス(基幹統計、総務省統計局) <目的> 事業所及び企業の経済活動の状態を調査し、すべての産業分野における事業所及び企業の従業者規模等の基本的構造を全国及び地域別に明らかにすること。 ⇒ 国勢調査と経済センサスの2本柱 <調査対象> 農林漁業個人事業所、家事サービス業及び外国公務に属する事業所を除く全ての事業所・企業 <調査周期> 平成21(2009)年 基礎調査 事業所・企業の捕捉に重点をおく 平成24(2012)年 活動調査 事業所・企業の経理項目に重点をおく 以後5年ごとに実施の予定
事業所・企業統計調査(指定統計 第2号、総務省統計局) <廃止された統計調査> 事業所・企業統計調査(指定統計 第2号、総務省統計局) 個人経営の農林漁業を除くすべての事業所を対象とし、5年ごと(西暦の末尾が1と6の年)実施。 3年目(末尾4と9の年)に簡易調査をおこなった。 事業の種類、経営組織、従業員数などを調査した。 ※予定されていた平成21(2009)年、平成23(2011)年調査を廃止した。以降全面的に廃止。
事業所・企業統計調査でとらえたのは、所在地、事業の種類、経営組織、従業員数および男女比などであり、経理項目は調査されていなかった。 そのため、それを補うために、特定の産業の全数調査や大規模標本調査があった。 ⇒ これらを一元化しようということが経済センサス創設の一要因 産業の分類 ⇒ 日本標準産業分類 (似たようなものに、「日本標準職業分類」があるが、これは労働者がどのような業務に従事しているかを分類するものである。)
日本標準産業分類(第12回改定)の一部 (2008年4月より適用)
<廃止された統計調査(その2)> 商業統計調査(基幹統計、経済産業省) 工業統計調査(基幹統計、経済産業省) 日本標準産業分類において、「I 卸売業・小売業」の全事業所を対象とし、5年ごと(西暦の末尾が2と7の年)に調査をおこない、2年目(末尾4と9の年)に簡易調査をおこなう。 従業員数、販売額、仕入額などを調査 ※予定されていた平成21(2009)年調査を廃止した。ただし、経済センサスと重複しない年には実施する計画がある。 工業統計調査(基幹統計、経済産業省) 日本標準産業分類において、「E 製造業」の全事業所を対象とし、毎年調査をおこなう。 (正確には、西暦の末尾が0,3,5,8の年は全事業所、それ以外の年は従業員数4人以上の事業所を調査する) 従業員数、出荷額、原材料費などを調査 ※予定されていた平成23(2010)年調査を廃止した。ただし、経済センサスと重複しない年には実施する計画がある。
サービス業基本調査(指定統計 第117号、総務省統計局) <廃止された統計調査(その3)> サービス業基本調査(指定統計 第117号、総務省統計局) 日本標準産業分類の小分類において、サービスに関する事業所の中から、約43万事業所を選ぶ大規模標本調査であり、平成元 (1989)年から平成16 (2004)年まで、5年ごとに4回の調査がおこなわれた。 事業の内容別収入額、設備投資額などを調査 ※予定されていた平成21(2009)年調査を廃止した。以降全面的に廃止。 その他、関連するさまざまな調査において、一部の調査事項が削減される予定 b) その他の全数調査 分野別の調査では、以下のようなものが残っている。 農林業センサス(基幹統計、農林水産省) 西暦の末尾0と5の年に、5年ごとに調査 漁業センサス(基幹統計、農林水産省) 西暦の末尾3と8の年に、5年ごとに調査