節足動物(吸血昆虫)の介在しない 牛の感冒

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米国の外来呼吸器感染症での抗菌薬投与状況 抗菌薬投与率 普通感冒 5 1% 急性上気道炎 52% 気管支炎 6 6% 年間抗菌薬総消費量 21% 【 Gonzales R et al : JAMA 278 : ,1997 】
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節足動物(吸血昆虫)の介在しない 牛の感冒 主に冬季に牛に流行する感冒 節足動物(吸血昆虫)の介在しない 牛の感冒

牛伝染性鼻気管炎(届出) (Infectious Bovine Rhinotracheitis : IBR) 19世紀末に中央ヨーロッパで水疱性媾疫と呼ばれた牛の生殖器感染症が本病にあたると思われ、呼吸器疾病として確認されたのは、1950年米国のコロラド州の肉牛フィードロットにおいてである。 わが国へは1970年北米からの輸入牛を導入した牧場で、呼吸器病ならびに流産の集団発生がみられたのが初発と考えられ、1998~2000年には年間400頭余りの発生があった。 1983年には2bウイルスによる膣炎が初めて確認された。 粘液性から化膿性の鼻漏を伴い、呼吸器症状および結膜炎を主症状とする疾病である。 症状は発熱、元気消失、食欲不振、流産、髄膜脳炎、下痢および産乳量の低下などの様々な症状を示す。 生殖器にも感染し、膿疱性陰門膣炎や亀頭包皮炎を惹起する。 致死率は低いが、いったん感染すると潜伏感染を起こし、ストレスなどでウイルスを排泄し、感染源となる。

牛伝染性鼻気管炎の発生状況(2014年6月現在) 発生の認められる区域 発生の疑いのある区域 感染の確認された区域 発生が限定的な地域に認められる区域 報告のない地域 現在発生の無い区域 発生の無い区域

IBRの原因ウイルス 牛ヘルペスウイルス1型に属するウイルスで分類学的には、Herpesviridae, Alphaherpesvirinae, Varicellovirusのウイルスである。 本ウイルスは牛由来初代培養細胞や株化細胞で円形化CPEを伴って良く増殖する。 本ウイルスのゲノムは二本鎖DNAで、制限酵素の切断パターンにより1,2aおよび2bの3種類のサブタイプに分けられる。 サブタイプ1ウイルスは呼吸器感染、2aおよび2bウイルスは膣炎および包皮炎から分離されるが抗原的には区別出来ず、単一血清型である。

IBRの症状 2~4日の潜伏期の後、漿液性鼻汁、流涎、発熱、食欲不振、元気消沈を示す。 発症から数日以内に鼻汁および目やには粘液性から膿性となる。 鼻腔粘膜は壊死し膿疱化し潰瘍が形成され、潰瘍が偽膜で覆われたジフテリー性炎に進むと気道が塞がれ開口呼吸となる。 乳牛では突然産乳量低下し、妊娠牛は突然流産を起こす。 自然交配では膿疱性の陰門膣炎や亀頭包皮炎を起こし、人工授精により子宮内膜炎を起こすことがある。 組織学的に脳炎像を認めることがあるが、発症することはない。

鼻粘膜のジフテリー性炎により気道が 塞がれたための開口呼吸および流涎

目の病変:粘液性の 滲出物

鼻汁の滲出と擦りつけによる鼻鏡の充出血

鼻鏡の病変がさらに進むと鼻鏡の糜爛および瀰漫性出血を認め、赤鼻と呼ばれるようになる

口唇および歯齦の出血性病変ならびに糜爛

鼻甲介の出血および滲出物

鼻甲介の慢性出血

喉頭の壊死性病変

気管の点状出血

瘡痒感による尾の挙揚

膿疱性膣炎:膣粘膜の充血および膿疱

膿疱性亀頭包皮炎:陰茎粘膜の膿疱

流産胎児の瀰漫性出血

IBRの診断 ウイルス分離が比較的容易に行われるので、感染初期の鼻腔、膣および包皮スワブもしくは剖検例の扁桃、肺および気管リンパ節を、また流産胎児では肝、肺、脾、腎ならびに胎盤小葉を材料として牛由来細胞に接種する。 迅速診断法として、鼻腔、結膜および生殖器スワブの直接あるいは遠心沈殿物をスライドグラスに塗抹し、蛍光抗体法により抗原を証明する。 PCR法は汚染精液の検査や潜伏感染牛の摘発に有効である。 中和試験およびELISAにより発症期および回復期のペア血清を調べ、有意の抗体上昇が認められれば陽性とする。

IBRの予防・治療 わが国では、豚精巣細胞で継代し、低温馴化させた筋肉内接種用弱毒生ワクチンを用いている。 本ワクチンは最初に発症牛を認めた後に、同居牛に対し、発症の広がりを防ぐために使用する。 またフィードロット飼育を行う場合は、移動前にワクチンを接種することが望ましい。 治療は対処療法で二次感染による気管支肺炎防止のために、抗生物質およびサルファ剤を投与する。 ジフテリー性気管支炎に対しては蛋白分解酵素の気管内噴霧が有効とされる。

牛RSウイルス病 発熱と呼吸器症状を主徴とする急性伝染病である。 世界最初の発生は1967年にスイスで発生し新しい牛の呼吸器病として確認された。 日本では1968年10月に北海道で発生を認め、約半年の間に全国に蔓延した(約4万頭以上の牛が罹病)。 その後、本病はわが国に定着し毎年散発的な発生を繰り返している。 冬季の発生が多く重症例が目立ち、伝播は咳やくしゃみによる飛沫感染による。 本病は他の呼吸器病ウイルスや細菌の感染を助長させる。 飼養環境の急変(気温の低下、輸送、密飼等)によるストレスは症状を悪化させる。

RSウイルス 本ウイルスはParamyxoviridae, Pneumovirinae, Pneumovirusに属する。 粒子は直径80~450 nmの多形性および球形でエンベロープを有する。 ノイラミニダーゼおよび血球凝集素はなく血球を凝集しない。 エンベロープには吸着(G)蛋白および融合(F)蛋白が存在する。 ウイルス遺伝子の核酸は一本鎖(-)RNAで分節していない。 牛由来初代細胞や株細胞、Vero細胞、ESK細胞でシンシチウムと細胞質内封入体を形成して増殖するが、分離は難しく、長期継代を要する。 ウイルスの培養温度は低温で、33~34℃が適している。

RSウイルス病の症状 潜伏期は2~8日で、発熱(39.5~41.5℃,5~6日の稽留熱)、咳(湿性)、呼吸促迫、喘鳴、鼻漏、泡沫性流涎、流涙、元気・食欲の減退を示す。 重症例では皮下気腫を呈し、泌乳牛では産乳量の著しい減少をし、妊娠牛では流産もみられる。 死亡率は0.4%前後と低く、通常は15~20日の経過で回復し、予後は良好である。 気管・気管支粘膜の充出血、気管内の粘稠・泡沫性粘液の貯留、間質性・肺胞性の肺気腫、肺の肝変化および皮下気腫を認める。

牛RS病の診断・予防 発病初期の鼻腔や咽喉頭の拭い液、肺の灌流液から採取した気管支内滲出細胞の塗抹標本を用いて蛍光抗体法を行い抗原を検出する。 ウイルス分離は上記の材料を牛腎細胞またはVero細胞に接種し、34℃で回転培養を行い、10~14日培養するか2~3代盲継代を行う。 発症期および回復期のペア血清による有意な抗体の上昇を確認する。 単味生ワクチンもしくは4種もしくは5種混合ワクチンにより予防する。 二次感染による病勢悪化を防ぐために、抗生物質の投与を行う。

牛のパラインフルエンザ 全ての年齢層の牛に発生する鼻漏、咳などの呼吸器症状を主徴とした疾病である。 わが国では1958年に初めてウイルスが分離され、年間を通じて、各地で発生が認められるが、冬季に多く認められる。 長距離輸送や放牧、集団飼育に際して多発するので、輸送熱と呼ばれている。 接触感染や咳に含まれるウイルスによる飛沫感染により伝播する。

牛パラインフルエンザウイルス Paramyxoviridae, Paramyxovirinae, Respirovirusに属し、牛パラインフルエンザウイルス3に分類されるウイルスに起因する。 ウイルス粒子はエンベロープを有し、赤血球凝集素(牛、モルモット、マウス等の赤血球を凝集)およびノイラミニダーゼを持つ。 牛腎細胞、Vero細胞でシンシチウムを形成し増殖する。 10日齢発育鶏卵の尿腔内接種で増殖する。

牛パラインフルエンザの症状 一過性の発熱、食欲不振とともに、鼻漏、咳などの呼吸器症状を示す。 牛RSウイルスやパスツレラ菌などの混合感染により症状が悪化する。 重症になると肺炎を起こし、剖検では前葉、中葉に肝変化病巣が認められ、組織学的には、肺胞上皮や気管支上皮細胞にシンシチウム(合胞体)が、核内および細胞質内には封入体が形成される。 発症初期には白血球減少症が認められる。

牛のパラインフルエンザの診断・予防 発病初期の鼻漏あるいは肺炎病変の乳剤を牛腎細胞もしくは10日齢発育鶏卵の尿腔内に接種しウイルスを分離する。 鼻腔拭い液中の細胞塗抹や肺炎病変組織から蛍光抗体法や酵素抗体法により抗原を証明する。 発症期および回復期のペア血清についてHI試験もしくは中和試験を行い抗体の有意上昇により診断する。 IBRおよびBVDとの3種混合ワクチン、この3種混合ワクチンにRSウイルスワクチンを加えた4種混合さらに牛アデノウイルスを加えた5種混合ワクチンが販売され放牧や輸送前の発症予防に使用されている。 症状の悪化を防ぐため抗生物質の投与が行われる。