2013年5月11日 東京国際大学オープンキャンパス 経済学部体験授業 古川徹也 ゲーム理論の 世界へようこそ! 2013/5/11 2013年5月11日 東京国際大学オープンキャンパス 経済学部体験授業 古川徹也
そもそもゲーム理論とは? 「かけひき」が大事な役割を果たす場面を分析する道具。 わかりやすい:さまざまなゲーム(人vs.人)やスポーツの試合 2013/5/11 わかりやすい:さまざまなゲーム(人vs.人)やスポーツの試合 人と人との関係(恋愛,上司と部下,経営者と労働者),企業の間の競争,国と国との交渉・・・ かけひきが重要になる場面すべてを「ゲーム」と呼んで,ゲームを分析する道具をゲーム理論と名付けた(1944年)
ゲーム理論の大事な道具 ゲーム理論の大事な道具には, (1)利得行列(表のようなもの) (2)ゲームの木(樹形図のようなもの) の2つがある。どんなに複雑で難しい問題を考える場合でも,この2つを使って頭を整理することがとても大事。 2013/5/11 理論の役割:人間の理解力は無限ではない。信じられないほど複雑な現実を,整理して簡単にして考えやすくして,大事なところを見落とさずにすることが一番大事な役割。
それぞれの使い道は? 相手の出方がよくわからない状況での駆け引きを考えるには,利得行列が便利(例:ジャンケン,PKなど) 片方が最初に行動をとって,それを見てもう一方が行動を起こすような場合には,ゲームの木が便利(例:先手,後手のある囲碁将棋など) はっきりわからないときは,両方で試してみるとよい。 2013/5/11
私が惹かれる理由 選択肢は広い方がよい?狭い方がよい? 伝統的経済学にはない魅力:「ヒトが見える」気がする。 新しい視点が得られる:コミットメントの考え方 2013/5/11 選択肢は広い方がよい?狭い方がよい? 「可能性を広げておく」という意味では広い方がよさそうだが,相手との駆け引きが必要な場面(ゲーム理論が活躍する場面)では,選択肢を狭くするほうがよいケースはいくらでもある!
合理的なブタ 強いブタと弱いブタが,あるシステムをもった場所で飼われているとする。 2013/5/11 弱いブタ 強いブタ
エサにありつくシステム エサ場 スイッチ 入口 1. 少なくとも1匹がスイッチを押さないと,エサは出ない。 2. エサは5キログラム出る。 2013/5/11 エサ場 スイッチ 入口 1. 少なくとも1匹がスイッチを押さないと,エサは出ない。 2. エサは5キログラム出る。 3. どちらのブタも,スイッチを押しに行くと1キロ分お腹が空く。
エサの行方は? スイッチの押すブタ エサの配分(行先) 2匹ともスイッチを押しに行く 強いブタが出たエサを全部食べてしまい,弱いブタは何も食べられない 弱いブタだけスイッチを押しに行く 強いブタが出たエサを全部食べてしまい,弱いブタは何も食べられない(お腹が空くだけ) 強いブタだけスイッチを押しに行く 強いブタが往復する間に弱いブタは2キロだけエサを食べられる。 2匹ともスイッチを押しに行かない 2匹とも何も食べられない。お腹も空かない。 2013/5/11
順序づけしてみよう 1番良いのは? 弱いブタだけが押しに行く(5キロまるまるお腹に入る) 強いブタだけが押しに行く(2キロお腹に入る) 2番目に良いのは? 両方で押しに行く(4キロお腹に入る) どちらも押しに行かない(0キロ) 3番目に良いのは? 両方で押しに行く,または弱いブタだけが押しに行く(1キロお腹が空くだけ,すなわち-1キロ) 最悪なのは? 2013/5/11
駆け引きを考えよう 2013/5/11 や の立場に立ったとして スイッチを押しに行くべきか,それとも押しに行かないほうがよいか,を考える。
いよいよ,利得行列 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 4,-1 2,2 5,-1 0,0 青字:強いブタ,赤字:弱いブタ
あなたは強いブタです 左側:弱いブタが押しに行くならば,押しに行かないほうが良い。 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 4,-1 2,2 5,-1 0,0 左側:弱いブタが押しに行くならば,押しに行かないほうが良い。 右側:弱いブタが押しに行かないならば,押しにいくほうがよい。
あなたは弱いブタです どちらにしても押しに行かないほうがよい! 上側:強いブタが押しに行くならば,押しに行かないほうがよい。 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 4,-1 2,2 5,-1 0,0 上側:強いブタが押しに行くならば,押しに行かないほうがよい。 下側:強いブタが押しに行かないならば,押しにいかないほうがよい。 どちらにしても押しに行かないほうがよい!
「強いブタは押しに行き,弱いブタは押しに行かない」という結果となる。 お人よし(おブタよし)?の「強い」ブタ 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 4,-1 2,2 5,-1 0,0 弱いブタが押しに行かないとわかってしまえば,強いブタは押しに行くほうがよい。 「強いブタは押しに行き,弱いブタは押しに行かない」という結果となる。
弱いブタは本当に弱かった? 弱いはずの弱いブタが1番よい結果を得られ,強いはずの強いブタが3番目の結果しか手に入らなかった。 なぜだろう? 1番良いのは? 弱いブタだけが押しに行く(5キロまるまるお腹に入る) 強いブタだけが押しに行く(2キロお腹に入る) 2番目に良いのは? 両方で押しに行く(4キロお腹に入る) どちらも押しに行かない(0キロ) 3番目に良いのは? 両方で押しに行く,または弱いブタだけが押しに行く(1キロお腹が空くだけ,すなわち-1キロ) 最悪なのは? 2013/5/11 弱いはずの弱いブタが1番よい結果を得られ,強いはずの強いブタが3番目の結果しか手に入らなかった。 なぜだろう?
少し設定を変えてみよう スイッチの押すブタ エサの配分(行先) 2匹ともスイッチを押しに行く 強いブタが出たエサのうち3キロを食べる。弱いブタは2キロを食べられる。 弱いブタだけスイッチを押しに行く 強いブタが出たエサのうち3.5キロを食べる。弱いブタは1.5キロを食べる。 強いブタだけスイッチを押しに行く 強いブタが往復する間に弱いブタは2.5キロ食べる。戻ってきた強いブタは2.5キロ食べる。 2匹ともスイッチを押しに行かない 2匹とも何も食べられない。お腹も空かない。 2013/5/11
新しいゲームの利得行列 弱いブタからマイナスの利益の部分がなくなった。 押しに行く 押しに行かない 2.5,0.5 1.5,2.5 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 2.5,0.5 1.5,2.5 3.5,0.5 0,0 弱いブタからマイナスの利益の部分がなくなった。
新しいゲームで起こり得る結果 新たに,弱いブタが押しに行き,強いブタがそのままという可能性が生まれた。 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 2.5,0.5 1.5,2.5 3.5,0.5 0,0 新たに,弱いブタが押しに行き,強いブタがそのままという可能性が生まれた。 弱いブタが強くなったら,逆に利益を失う可能性が生まれた
なぜ弱いブタは強かった? コミットメントの働き 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 4,-1 2,2 5,-1 0,0 弱いブタは強いブタに「自分は絶対に押しに行かない」と信じさせることができた。 自分の行動を束縛する(「行かない」以外を選ばない)ことを,「コミットメントを与える」という。
新しいゲームでのコミットメント こちらのケースでは,弱いブタは「押しに行かない!」にコミットメントを与えることはできない。 押しに行く 2013/5/11 押しに行く 押しに行かない 2.5,0.5 1.5,2.5 3.5,0.5 0,0 こちらのケースでは,弱いブタは「押しに行かない!」にコミットメントを与えることはできない。
ブタの話がどう経済と結びつくの? 身の回りの経済問題を考えるときには,コミットメントを考えるとよく理解できる問題が多々ある。 (1)「10年保証」は,「悪い製品を作らない」ことに関するコミットメント (2)無店舗販売でなく,ちゃんと店を構えることも,「ちゃんとした製品を販売する」ことへのコミットメント (3)企業が大規模な工場を建設したり,大々的に広告をすることで,「本気度」を示すことができる(他の企業の参入を防ぐことができる)。 (4)アベノミクスの「インフレ2%まで金融緩和を続ける」と宣言することで,景気をよくすることができる(?) 等々・・・ 2013/5/11
ゲーム理論のその他の話題 (1)囚人のジレンマとその解決法 - たとえば企業間の協力関係のようなものがどのように生まれるのか (2)契約理論 - プロスポーツ選手の契約,企業同士の契約,ローン契約など,様々な契約を考える基礎 (3)組織の設計 - 皆が力を発揮できる契約,制度はどのように作ったらよいか (4)マッチング(2012年ノーベル賞) - 婚活,学校選択,インターンなど (5) オークション - どのようなオークションのシステムが,売り手の収入を最大にするか (6) 文化・慣習の成立 - 右側通行,エスカレータでどちらに立つか,等 2013/5/11
最後に 今日紹介したのは,数あるゲーム理論の話題の中で,高校生が一番「おおっ!」となってくれるかなと思って選んだ話題です。 もし今日の話を「難しい」「つまらない」と感じたとしても,ゲーム理論にはたくさんの話題がありますので,本屋でゲーム理論と名のつく本を手に取ってみてください。 質問等は大,大,大歓迎です!ぜひメールしてみてください。 2013/5/11