これからの緩和ケア — 諏訪中央病院の新しい緩和ケア —

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これからの緩和ケア — 諏訪中央病院の新しい緩和ケア — これからの緩和ケア   — 諏訪中央病院の新しい緩和ケア —              2007年2月14日 諏訪中央病院緩和ケア科主任医長  平方 眞

今日の話の内容 1 「緩和ケア」とは何でしょう (定義が2002年に変わりました) 2 緩和ケアを受けてもいい人の数  (定義が2002年に変わりました) 2 緩和ケアを受けてもいい人の数 3 緩和ケアのいろいろな形 4 諏訪中央病院の緩和ケアは今、こんなことをやっています

→この定義では、末期がんでないと緩和ケアにはかかれない、かかってはいけないと理解される。 1-1) 緩和ケアの古い定義 旧来の定義(1990年 WHO)  ホスピス・緩和ケアは、治癒不可能な状態にある患者および家族のクオリティーオブライフ(QOL)の向上のために,様々な専門家が協力して作ったチームによって行われるケアを意味する。 →この定義では、末期がんでないと緩和ケアにはかかれない、かかってはいけないと理解される。 去年もした話ですが、緩和ケアの定義が2002年に広がりました。まだ十分に定着していないので、定着するまで毎年話します。

1-2) 緩和ケアの新しい定義 新しい定義(2002年 WHO)  生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より、痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである。

治療をするか緩和ケアを受けるかという二者択一ではなく、両方を同時に受けることも可能である。 1-3) 新しい定義のポイント 新しい緩和ケアの定義では、「残っている命の長さが短くなければいけない」とか、「命の終わりを覚悟していなければ緩和ケアを受けられない」ということはない。 治療をするか緩和ケアを受けるかという二者択一ではなく、両方を同時に受けることも可能である。

諏訪中央病院では、2000年頃より次の定義を使用している。 1-4) 諏訪中央病院の定義 諏訪中央病院では、2000年頃より次の定義を使用している。 「癌などの治るのが難しい病気にかかったときに、その病気があることによって不都合が生じないように、生じたらそれを可能なかぎり取り除くようにするのが緩和ケアである。」 →この定義は新しいWHOの定義と全く同じ WHOの新しい定義が示される前に作った文章で、修正は加えていない。 すごい。先見の明がある。のでしょうか。自画自賛。

日本全体で1年間に新たにがんと診断される人は、60万人くらいと推計される 2-1) 緩和ケア対象者数 日本全体で1年間に新たにがんと診断される人は、60万人くらいと推計される 各種の治療法の進歩により、病気を持って生活している人の数は増加している。 緩和ケア(専門家による緩和ケアだけでなく腫瘍内科医や各科医師などによるものも含めて)は「病気を持っている人が、より良く生きるため」の医療的なお手伝い。

緩和ケアを受けてもいい人の数は、全国で毎年60万人は新たに発生している。 2-2) 緩和ケア対象者数 緩和ケアを受けてもいい人の数は、全国で毎年60万人は新たに発生している。 諏訪中央病院の診療対象人口の中でも、毎年300人ぐらいは「緩和ケアを受ける資格のある人」が発生している計算。 必要な人に必要なだけ緩和ケアが提供されるように、緩和ケア専門家だけでない、医療全体による緩和ケアの提供が必要。

緩和ケアの形には、色々なバリエーションが出てきた。 在宅緩和ケア(家にいて緩和ケアが出前) 緩和ケア外来 3-1) 緩和ケアのいろいろな形  緩和ケアの形には、色々なバリエーションが出てきた。 在宅緩和ケア(家にいて緩和ケアが出前) 緩和ケア外来 一般病棟+緩和ケアチーム(がん診療連携拠点病院に多い) 緩和ケア病棟

3-2) 在宅緩和ケア  困る症状がない人から、高度な緩和ケアが必要な人まで、対象は非常に幅が広い。 「在宅療養支援診療所」という仕組みが平成18年4月からできた(全国で10000くらいの診療所が申請済み)。しかし各診療所の「緩和ケア力(りょく)」を示すデータベースがまだない。 高い緩和ケア力を持つ医療機関はまだ少ない。 諏訪中央病院は比較的高い在宅緩和ケア力を持つが、国の在宅緩和ケア構想には「病院」は組み込まれていてない(仕事しても診療報酬がつかないものが多い)

他の科と同様に、緩和ケアの外来も「どこでも普通に」かかれるようにすべき。 3-3) 緩和ケア外来  他の科と同様に、緩和ケアの外来も「どこでも普通に」かかれるようにすべき。 諏訪中央病院ではかなり以前から不定期(臨時)外来→1998年から定期外来(場所はその都度あいているところ)→2005年から現在の場所(通院治療センターの一角)で外来をおこなっている。 緩和ケアの新しい定義から考えると、他科と合わせて緩和ケアを受けるのは当然で、外来は必須の機能。 しかし厚生労働省は頭が硬く、つい最近まで、緩和ケアチームの中の「緩和ケア専従の医師は、病棟の仕事だけしかしちゃいけなくて、外来なんてやっちゃダメ」と言っていた。2006年10月にようやく、「入院中に診ていた人に限り、外来でも診ていい」ということになった。 こんな風に働き方を制限するのが厚生労働省はお得意。緩和ケアをしている医療従事者が全然足りていないのに、こんな制限をしたら、退院できる人も「外来にかかれないなら退院したくない」というに決まってる。

一般病棟に入院中に、緩和ケアチームによる緩和ケアを受ける形。 3-4) 一般病棟+緩和ケアチーム  一般病棟に入院中に、緩和ケアチームによる緩和ケアを受ける形。 全国に286ある「がん診療連携拠点病院」には、緩和ケアチーム(あるいは緩和ケア病棟)があることになっている。 基本的には「体の症状を診る医師」「心の問題に対応する医師」「緩和ケアの看護師」がチームを組んで、どの病棟にも行く。

緩和ケアを専門におこなう病棟。緩和ケアを受ける人だけが入院する病棟。 全国に163病棟、3,118ベッド(2月1日現在) 3-5) 緩和ケア病棟  緩和ケアを専門におこなう病棟。緩和ケアを受ける人だけが入院する病棟。 全国に163病棟、3,118ベッド(2月1日現在) 旧来の定義では「治療の手がない人」や「命の終わりが見えた人」のための病棟という認識。新しい定義では、緩和ケアが必要な人のうち、より集中的な/高度な緩和ケアを必要とする人が入院する病棟

3-6) 各緩和ケア形態の分布 実際には状態の変化があるし、人と人とのつながりがあるので、このようにきれいに切り分けられるわけではない。また、重なりはもっと大きい(いっぱい重ねてしまうと何が何だかわからなくなるのでこのように描いた)

4-1) 諏訪中央病院の緩和ケア 在宅緩和ケア:さまざまなパターンで在宅緩和ケアをおこなっている ほとんど症状がないが体力も少ない人に2週に1回ぐらい訪問。当院から遠い人は地元の診療所や訪問看護ステーションとも協力しながら 具合が悪いときは入院、落ち着いている時は在宅緩和ケアを行ったり来たり 「家にいたい人」へ高度な緩和ケア 入院していて「最後は家がいい」という人も、可能ならいつでも在宅へ移行している

将来緩和ケアが本格的に必要となった時のための顔合わせ(そのまま定期通院に移行する人も多い) 4-2) 諏訪中央病院の緩和ケア 外来のパターンも、かなり多様化している 緩和ケア入院目的の相談外来 (治療中の人も)症状コントロール外来 (症状なくても)安心のための外来 定期点検のような外来 将来緩和ケアが本格的に必要となった時のための顔合わせ(そのまま定期通院に移行する人も多い)

基礎的な緩和ケアで対応できる問題(複雑でない痛みなど)は、治療をしている主治医がほとんど対応している(これも立派な緩和ケア) 4-3) 諏訪中央病院の緩和ケア 一般病棟でもいろいろな形の緩和ケア 基礎的な緩和ケアで対応できる問題(複雑でない痛みなど)は、治療をしている主治医がほとんど対応している(これも立派な緩和ケア) 複雑な痛みなどには、治療に上乗せして緩和ケア医が症状緩和 緩和ケア病棟が満床の時、可能なら一般病棟に入院して緩和ケア開始

家族が疲れてしまった/疲れ切ってしまわないための入院 緩和ケア病棟が最適な療養場所だから 4-4) 諏訪中央病院の緩和ケア 緩和ケア病棟での緩和ケアもさまざま 高度な緩和ケアを必要とする人の入院 病気が進んで家にいるのが難しい人 治療中体調を崩し、立て直すための入院 在宅緩和ケアに移行するための準備 家族が疲れてしまった/疲れ切ってしまわないための入院 緩和ケア病棟が最適な療養場所だから

まとめ 病気がある人がいるすべての場所には、(場所によってはなくてもそんなに困らないかもしれませんが)、緩和ケアはあってもいい。あれば助かるところはたくさんあります。 入院でも在宅でも外来でも、その場その場の状況に合った緩和ケアを、大きな穴がないように準備していくことが望ましい。 「気がつけば どこにでもある 緩和ケア」を目指したいと考えています。