発言の内容が理解できない時はどうしますか? 逐次通訳なら 話し手に質問する。かみ砕いて説明してもらえればほとんど問題なく通訳可能。それでも分からなければ話し手と聞き手に通訳者は内容が理解できないことを参与者に告げる。 同時通訳なら しばらく待って後続の情報から推測する 一緒に通訳をしているパートナーに助けてもらう 中立的で影響を与えない表現でとりあえずやり過ごす 訳さない とりあえず字面で訳しておく 発言者の意図が理解できないことを聞き手に伝える
知らない単語や俗語が出てきたらどうしますか? そうならないように事前準備をする 通訳者の用語集については下記をご参照下さい。 http://nikka.3.pro.tok2.com/dic.htm それでも知らない単語が出てきたら、 前ページの方法にくわえ、 起点言語の発音のまま目標原語に取り込む 辞書をひく 俗語はなるべく対応する語を探すか、説明的に訳す 独断や偏見で勝手な創作をしないことが重要
質問:通訳と翻訳はかなり性質の違う仕事のようですが、両方できるのでしょうか? 向き不向きが分かれる仕事なので、どちらか一方しかしない人も多いようです。特に英語の場合は。 現実問題として、企業内では両方の能力を求められますし、フリーランスでも非英語通訳者のほとんどが通訳翻訳兼業で、さらに語学講師もしています。そうしなければ満足のいく収入を得ることができないからです。もし収入を問題にしないのであれば、片方だけを選ぶことができます。 実際の状況を見ると、通訳をやる人は翻訳もやるけれど、翻訳を専業にして通訳をやらない人が多いようです。つまり、翻訳者人口>通訳者人口。
二つの異なる言語体系に橋を架ける方法は? 大量の練習が基本。 常に両国語で何と言うかその違いを意識する。 通訳の方法はどうやって選ぶのか? 話し合いの性質に応じて、主催者や会議請負会社が最も適切であると判断した方法を選ぶ 不適切な方法を用いてコミュニケーションが阻害されることはあり得る
通訳者は現場には何人くらいいるのですか? 半日以内の逐次通訳:一会場に一名 一日の逐次通訳:一会場に二名 半日までの同時通訳:一ブースに二名 一日の同時通訳:一ブースに三名 立食パーティーなど:会場の広さと出席人数に応じて 通訳ガイド:団体の人数に応じて(バス一台に一名) 司法通訳:一法廷に一名(通訳の正確さを検証するためのモニターがつくこともある)、一取り調べ室に一名 二国間外交:各国代表に各一名 VIP付き通訳:VIP一名に専属通訳者一名
近代の通訳の歴史 通訳研究の歩み 通訳のプロセス 通訳翻訳論第六回 近代の通訳の歴史 通訳研究の歩み 通訳のプロセス
通訳の歴史 近現代における通訳の歴史 日本生産性本部の視察団派遣 世界の同時通訳の歴史 日本の同時通訳-アポロ宇宙船の月面着陸
近現代の通訳の歴史 日本では第二次世界大戦後に通訳の需要が飛躍的に伸びてきた 極東国際軍事裁判(東京裁判) 進駐軍との折衝 山崎豊子の『二つの祖国』:米軍将校となった日系人が極東軍事裁判で同時通訳のモニターを担当 進駐軍との折衝 アメリカ進駐軍のために通訳を行う人材が集められた アメリカ大使館勤務にあった西山千氏も 日本生産性本部の代表団派遣随行同時通訳者 村松増美 『私も英語が話せなかった』
日本生産性本部の視察団派遣 1957年、日本はアメリカの産業界視察のために代表団を派遣 日本国内で日英通訳を行なう人材を募集 通訳者はアメリカの国務省で通訳訓練を受けた 当時、日英両国語間では語順が違いすぎるため同時通訳は無理だとの主張 1951年ごろ、西山千氏が進駐軍でウィスパリング形式の同時通訳をしていた 生産性本部で通訳を行なった通訳者が帰国後に日本で初の通訳者養成学校を設立
世界の同時通訳の歴史 同時通訳の始まり 1926年、IBMが同時通訳装置を開発 1927年、ジュネーブの国連会議で初めての同時通訳 1928年から、旧ソ連においてコミンテルン(共産党国際組織)で利用 1935年、当時のレニングラードで開催した国際生理学会でパブロフの演説が英仏伊独語に同時通訳 1945年、ニュールンベルグ裁判、極東国際軍事裁判 現在国連では公用語である英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語、アラビア語の同時通訳
アポロ宇宙飛行の通訳 NHKで7号から17号まで四年間にわたって放送 米国で育った西山千氏が担当 最初は同時通訳は出演者だけに聞こえていた その後、同時通訳者の声をそのまま放送 アポロ8号から通訳者が画面に出るように 視聴者から同時通訳をしている機械翻訳装置はどんなものかという問い合わせがあったため このアポロの同時通訳によって日本国中に通訳者の存在が知られることになった
通訳を研究する 何が研究されているのか
通訳研究 同時通訳のモデル 解釈理論 処理プロセス 努力モデル 通訳研究の展望
同時通訳プロセスに関する研究 同時通訳ではいくつかのタスク(作業)が同時に行なわれている 複数の同時作業はいかにして可能なのか? 起点言語の理解と目標言語への転換と産出が常にオーバーラップ 目標言語の産出が起点言語の聴取に影響を及ぼす 複数の同時作業はいかにして可能なのか? 同時通訳を可能にするためにはどのような条件が必要なのか?
同時通訳を制約する要因 外部的要因 内部的要因 発言の速度 有意義の語彙の密度 発言者のアクセントやイントネーション ノイズ 資料や原稿の有無 内部的要因 通訳者の知識(言語・世界・状況・専門知識) 通訳者の通訳技能
通訳・翻訳の解釈理論 Seleskovitch & Lederer (1989/1995) 意味は言語とは独立に存在しているのか? 解釈理論(意味の理論) 1.言語的意味(meaning)の諸要素を言語外の知識と融合し、「意味」(Sense)を獲得する 2.「意味」が生じると同時にそれを非言語化する 3.「意味」を自発的に目標言語で表現する 言語的形態(起点言語の違い)は制約とならない 意味は言語とは独立に存在しているのか? 起点言語に依存しないことをどのように証明できるか?
同時通訳の情報処理モデル David Gerver(1976) フローチャートで同時通訳のプロセスを説明 記憶と注意の役割に注目 短期記憶→作動記憶→短期出力バッファ→出力 ↑ 長期記憶(語彙・文法) 受容・変換・構成 同時通訳者は正常な状態では注意力を複数のタスクにうまく分割して振り分けている 何らかの通訳阻害要因があると注意力がdecodingかencodingに集中し、入出力に影響を与える
Effort Model Daniel Gile(1989) 三つの非自動的な構成要素を想定 聴取と分析 記憶と検索 談話の生成 聴取と分析 記憶と検索 談話の生成 人間の処理能力にはある程度の容量限界があり、複数のタスクの合計が処理容量を超えない範囲内において同時通訳は可能であるが、いずれかの処理に注意力を大幅にさいてしまうと破綻する 聴取+記憶+生成=努力の合計<処理容量
通訳理論研究の展望 ブラックボックスである通訳の内部プロセスの仮説を作ることで様々な現象を説明 脳波、眼球運動、心拍、血圧といった通訳者の身体的負荷からの研究 通訳者の内言を報告することで問題解決に用いている方略を探る think aloud 通訳の入力と出力を用いて言語学的に研究 通訳者の介在するコミュニケーションの特徴 通訳者の社会的役割とは
通訳のプロセス 理解→転換→表出
用語の説明:言語の種別 SL:起点言語 source language TL:目標言語 target language 話し手の言語、翻訳、通訳の原語 TL:目標言語 target language 聞き手の言語、翻訳、通訳の訳出語 通訳者はSLからTLへの通訳を行う A言語:通訳者にとっての母語 B言語:通訳者にとっての第二言語 パッシブ能力:聞く、読む能力 アクティブ能力:話す、書く能力
用語の説明:通訳の形式 逐次通訳 同時通訳 以上の他にも時差通訳などがある。 センテンス(単文、短文)通訳 長文逐次通訳 通訳装置を使用した同時通訳 ウィスパリング同時通訳 以上の他にも時差通訳などがある。
通訳者の理解を支える知識 世界知識:一般常識、雑学的知識 状況知識:参加者、目的、場所など 言語知識:語彙、語法、語用 専門知識:用語、枠組み、考え方
通訳者の言語理解の特徴 言語の線状性と意味単位ごとのオンライン処理 逐次通訳:記憶保持の補助手段としてノートをとる。 音韻形式の分析によって切り分けをおこなう。 切り分けた意味単位で暫定的に意味表象に投射する。 投射された意味表象は暫定的にTLに変換される。 ある程度のサイズに統合しTLの修正を行う。 逐次通訳:記憶保持の補助手段としてノートをとる。 同時通訳:訳出可能な単位ごとにアウトプットする。 以上のように通訳者は理解と転換を常に同時進行で行っている。
通訳能力の三次元モデル 通訳は言語能力・知識・技術の三つがそろって初めて可能になる。どれか一つがゼロなら全体もゼロ。 ・ 外国語が全くわからない。 ・ そのことを全く知らない。 ・ 情報処理ができない。 ・ 音声表現ができない …etc. このような場合には、左図の体積は ゼロとなる。すなわち、通訳の役割を果たせないことになる。
通訳のプロセス ーまとめー 通訳者は長期記憶として保持されている各種の知識を総合的に運用しながら話し手のメッセージをとらえる。 通訳のプロセス ーまとめー 通訳者は長期記憶として保持されている各種の知識を総合的に運用しながら話し手のメッセージをとらえる。 TL転換の際には通訳スキルを駆使して意味単位ごとのオンライン処理をおこない、言語使用域に もとづき適切な表現方法を選択する。 通訳者は明瞭な発音、発声、豊かな音量と安定した声のトーン、聴き手の情報処理を容易にする速度と間の取り方を工夫し魅力的なパフォーマンスでアウトプットする。