15分で読む「貨幣の複雑性」 HPO:個人的な意見 ひでき
「貨幣の複雑性」 ISBN:4423851016 : 安富歩 著、2000 「複雑系」、「非平衡」、「非線形」な貨幣の研究 「社会はただの一度も行動を起こさない」のか? 生成と崩壊には、法則性があるのか? 今回のレポートでは、貨幣シミュレーションを紹介する。 その後、生物進化のモデルといわれる本書で紹介されたレプリケータモデルと貨幣モデルの比較を行う。
経済学の非線形性 行動は、常に相互作用、時系列変化を生じる。 現実の世界は、無数の相互作用によってできている。 n人のプレーヤーの相互作用 経済活動というMMORPGには、地球上のすべての人間が参加している 時間の経過による因果: 時系列:連続する時間、連続する相互作用、連続するイベント 離散量:Δtとして時間=「t+Δt」 シミュレーションゲームの「ターン制」
非線形問題へのシミュレーションアプローチの有効性 非線形方程式の多くは解を求められない。 時系列的に変化していく、あるいは相互作用のある問題は、線形方程式では解けない。 シミュレーション:とりあえず実験できる! 例:ロジスティック方程式: Xn+1 = Xn * A * (1-Xn) で、A>2の時にカオスが生じる
経済活動の進化 物々交換が原点とする。 「誰もがほしがるもの」が交換の中心としての「貨幣」の機能を果たす。 物々交換ネットワークのハブとしての「貨幣」 物々交換 ハブとしての貨幣
貨幣シミュレーション: エージェント 以下、著者のシミュレーションの概略を説明する。 エージェントを構成するデータ構造体 w : 欲求する財 p : 生産する財 h : 所有商品ベクトル(種類と量) d : 需要ベクトル(種類と量) u : 得点(効用水準)
貨幣シミュレーション: ステップ 1:主体をランダムな順番で呼びだす 2:交換相手を決める 3:それぞれの「需要」を計算する 4:それぞれの「需要」量に応じて、交換を行う 5:効用を計算する。取引コストをひく。消費を行う。生産費を引く。生産を行う。欲求する財を変化させる。 [結果]交換がまれにしか行われない。
貨幣シミュレーション: 進化 財の交換が成立しなければ、他のエージェントが何を「欲求」しているかの知識を交換させる。 v : 皆が受け取るもの m : 閾値 交換の時、自分が欲求する財がなければ、そのエージェントに固有の閾値以上に他のエージェントに欲求されている財を交換する [結果1]「貨幣」としての役割を持つ財が生成される。 [結果2]貨幣の供給者の得点が圧倒的に大きくなる。
貨幣シミュレーション: 進化 市場性の獲得: メンガー: 「最も市場性の高い商品」の誕生と「得点」、「保有」の相関 「一商品が一般通用交換手段となるということは、それの通用性と残りのあらゆる商品の通用性との間の懸隔の増大を生じさせる。」
貨幣シミュレーション: 閾値の進化 得点の低いエージェントは、高いエージェントの閾値を真似るというルールを導入する。 多様性が減少しすぎないように、ノイズを加える [結果]貨幣の生成と崩壊が生じる。
貨幣シミュレーション: 崩壊 「貨幣」となった商品は、しばらくその地位にとどまり、崩壊する。このプロセスを繰り返す 貨幣の「在位」期間は、べき乗分布する。 内在的な、閾値の問題 ポテンシャルの底での移動 「低い壁」を越えて、二番目の底へ落ちる 信用の問題:相手の行動が期待できること。
レプリケータ進化モデル 「レプリケータモデル」による種の多様性のシミュレーションを著者は後半で行っている。 「生態学におけるモデリングの背骨となるロトカ・ヴォルテラ方程式」と「レプリケータモデル」は基本的に同じことを別の形式であらわしている。 らしい...
貨幣シミュレーションとLVモデルの比較 (3章と6章) ・ソシオメトリーのような相互作用テーブル ・有向グラフとしてとらえることができる ・ロジスティック方程式のn個相互作用版 エージェント1[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] エージェント2[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] エージェント3[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] エージェント4[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] エージェント5[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] エージェント6[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] エージェント7[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] ・ エージェントN[所有商品ベクトル 需要商品ベクトル] Anm i j Aij いずれも有向グラフ構造の表現である
貨幣シミュレーションとレプリケータモデルの比較 (3章と6章) 貨幣シミュレーションとレプリケータモデルの比較 (3章と6章) 貨幣シミュレーション LVモデル ネットワーク構造 需要と保有商品による他のエージェントとの有向グラフを形成 相互作用:捕食、共生関係の有向グラフを形成 閾値の意味 欲求と交換の閾値 「滅亡」の閾値 相互作用の機会 ランダム 各ターン全数・必須 ニッチ・餌場 保有商品・得点 標準化されている 個体密度 制限なし(?) その他 リンクは必ずしも固定されていない(閾値モデル) 相互作用項あり。行列の値により強弱のあるネットワークが「進化」する。
安富先生の言葉 「(本書で扱った多様性を扱ったレプリケータモデルと生成・崩壊の貨幣=分業モデル)両者の議論を本章の結果と結合すれば、上のような閉じた相互促進的発展を考察するための手がかりが得られる。(中略)私は、このようなダイナミクスの解明こそが、生命・社会などの複雑なシステムを理解するための鍵であると考える。」
さらなる先へ 絶滅:悪い遺伝子か弱いかカオスか? Models of Extinction: A Review By Ricard V. Sole, Jordi Bascompte and Susanna C. Manrubia (鈴木康生訳) http://www.nul.nagoya-u.ac.jp/~ysuzuki/docs/cas/extinction.html Models of Extinction: A Review M. E. J. Newman and R. G. Palmer http://ideas.repec.org/p/wop/safiwp/99-08-061.html