三重大学・大学院生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境気候学研究室 教授 立花義裕

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三重大学・大学院生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境気候学研究室 教授 立花義裕 温位を直感的に理解する 三重大学・大学院生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境気候学研究室 教授 立花義裕

大気の安定・中立・不安定

戻りもしなければ、それ以上動きもしない。 “バランスする“という表現には穴がある バランス・・・ 不安定 山の頂上のボールを動かすと 斜面を落ちていきつづける 中立 安定 平らな地面の上のボールは動かしても 戻りもしなければ、それ以上動きもしない。 谷底のボールは、動かしても 元の場所に戻ってくる

いま、上昇による断熱膨張による冷却・下降による断熱圧縮による昇温 では、実際の大気を考えてみよう 冷たい                        暖かい                        空気の入った風船を動かしてみる いま、上昇による断熱膨張による冷却・下降による断熱圧縮による昇温 は考えないこととする。 不安定 安定 上空 地面 W C 上空 地面 W C なにかのきっかけで 上昇した時を考えると なにかのきっかけで 下降した時を考えると C C W W 周囲に比べ密度が 大きいから更に下降 周囲に比べ密度が 小さいからさらに上昇 周囲に比べ密度が 小さいから上昇 周囲に比べ密度が 大きいから下降 C W C W どちらも 元の場所へ戻ろうとする。 どちらも 動いて行き続ける。

安定 p (z) p1 実線のような温度分布をラジオゾンデで観測したとしよう 周りより”冷たい” 風船の方が”重い” “下方”へ移動 乾燥断熱線 ある日の大気の温度減率 T

非常に安定 下記のように温度が上昇する場合 p (z) p1 ある時の 大気の温度分布 周りより”めちゃ冷たい” 乾燥断熱線 風船の方が”めちゃ重い” 乾燥断熱線 “下方”へ速く移動 T

不安定 気温減率がすごく大きいとき p (z) p1 周りより”暖かい” 風船の方が”軽い” さらに“上方”へ移動 ある時の大気の 温度減率 乾燥断熱線 T

中立 p (z) p1 観測された温度分布がたまたま乾燥断熱減率と同じとき 周りと同じ気温 重さ同じ p1に停止 乾燥断熱線 ある時の大気の温度減率 T

“温位”(Potential temperature) とい新概念を用いると, なんと、一発で、大気の安定・不安定 大気の鉛直的安定や不安定は、温度と高さの関係図 だけからは判断するには、常に乾燥断熱減率線と 対比しながら、その傾きが乾燥断熱線よりも大きいか? 小さいか?ということから判断しないとならない。 これはすこぶる面倒で、直感的に一発では、安定なのか? 不安定なのかが分からない。 “温位”(Potential temperature) とい新概念を用いると, なんと、一発で、大気の安定・不安定 が直感的に分かってしまう。

温位を用いると・・・ p (z) 不安定 中立 安定 Θ 温位

“温位”を用いて大気の 安定・不安定・中立を考える

安定の場合 Θ T p (z) p (z) p4 p3 p2 p1 乾燥断熱線 1000 (hPa) S4 S3 S2 S1 S0 S0

不安定の場合 Θ T p (z) p (z) 乾燥断熱線 p4 p3 p2 p1 1000 (hPa) S4 S3 S2 S1 S0 S0

(Potential Temperature) のことを”温位”*1と言う 温位を求めてみよう!! *1温位 (Potential Temperature) 1000hPaまで仮想的に, 断熱移動させた時の温度 (実際に移動はしない) *2上空の空気をp0(1000hPa) まで断熱的に移動させた時の 温度をT0とする ⇒T0を求めたい(T0が温位) (p,T)→(p0, T0)*2 温位を求める式

地球の温位分布 図はJRA25から引用

断熱の場合、大気は異なる温位面に移動は出来ない。(大気は等温位面上のみ移動する)←これは、大気にとってかなりきつい束縛条件です。断熱過程であれば、大気は地球上の3次元空間を勝手に自由に動き回ることができないことを意味します。だから、等温位線を図示すると、いろいろなことが視えてきます。等温位面上に、風などの様々な物理量をプロットしてもいろいろなことが視えてきます。

ラジオゾンデ観測データを用いて 大気の鉛直構造の安定不安定を 理解する 三重大学・大学院生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境気候学研究室 教授 立花義裕 Ver. 2014/07/16

高度 空気塊 気温 27℃ 15℃ 湿潤断熱減率 ・気温25℃,露点温度15℃の空気塊を強制的に 上昇させた時を考えてみる. 乾燥断熱  上昇させた時を考えてみる. 乾燥! 乾燥断熱 減率 ・不飽和なので飽和するまで乾燥断熱減率に  従って気温は低下する. ・飽和後は湿潤断熱減率に従って気温が下がり  ながら上昇する. 凝結しながら上昇 ・内部の水蒸気が無くなった後は  乾燥断熱減率に従う. 飽和! 持ち上げ凝結高度 LCL 空気塊の温度低下 高度 空気塊 気温 15℃ 27℃

CAPE CIN 高度 気温 周囲の気温より暖かいため, 浮力を得るため 空気塊は浮力を持つ 自発的に上昇 空気塊の温度が周囲の 周囲より冷くなるため浮力を失う 中立浮力高度 LNB 観測された気温の状態で,下層空気 を断熱的に持ち上げてみると・・・・ 周囲の気温より暖かいため, 空気塊は浮力を持つ 浮力を得るため 自発的に上昇 CAPE 空気塊の温度が周囲の 気温と同じになる 自由対流高度 LFC CIN 強制的に持ち上げる 必要がある 飽和後は湿潤断熱熱減率 で気温減少 持ち上げ凝結高度 LCL 飽和まで乾燥断熱減率 で気温減少 高度 気温

露点温度が高い 凝結高度・自由対流高度の高さが低くなる 高度 気温 同じ気温の状態でも,大気が湿っている場合は各高度はどうなるか? 湿っている=飽和しやすい大気 露点温度が高い 凝結高度・自由対流高度の高さが低くなる 自由対流高度 LFC 持ち上げ凝結高度 LCL 高度 気温

高度 気温 地上気温と露点温度は同じでも,上空の 気温の状態が異なる場合はどうなるか? ・すぐに気温が低くなる様な大気の状態を 考えてみる  考えてみる  =>相対的に地上気温が高い事になる ・地上気温と露点温度が同じ =>凝結高度は変わらない ・しかし,自由対流高度にはすぐに達しやすい状態 自由対流高度 LFC 持ち上げ凝結高度 LCL 飽和まで乾燥断熱減率 で気温減少 高度 気温

温位(θ)と相当温位(θe) 相当温位とは・・・・ ・基本的には「温位の性質」と同じ性質を持つ Lc:凝結による潜熱 qs:飽和混合比 Cp:定圧比熱 ・基本的には「温位の性質」と同じ性質を持つ  e.g. 断熱過程で保存,等温位面に沿って空気が移動 では,温位との違いは? ・温位は乾燥空気の1000hPaでの絶対温度であるが,  相当温位は湿潤空気の1000hPaでの絶対温度を考えている. つまり・・・・ ・空気に含まれている水蒸気の潜熱までを考慮した温度

相当温位の模式図的考え方 この温度が相当温位 高度 空気塊 1000hPa 気温 潜熱の分だけ温度が上昇 27℃ 乾燥! 1.水蒸気を含んだ空気を飽和まで持ち上げる   (乾燥断熱減率に従う) 乾燥断熱 減率 2.凝結し,空気塊の水を落としながら上昇   (凝結による潜熱解放で湿潤断熱線に沿う) 凝結した水は 空気から落ちるとする 3.完全に水蒸気がなくなるまで持ち上げる    (湿潤断熱線と乾燥断熱線が                  ほぼ平行になる) 凝結しながら上昇 4.乾燥した空気を1000hPaまで戻す.   (乾燥断熱減率に従う) 飽和! 持ち上げ凝結高度 LCL この温度が相当温位 空気塊の温度低下 高度 湿潤断熱減率 空気塊 1000hPa 気温 潜熱の分だけ温度が上昇 27℃

空気を上昇させるために必用なエネルギー量 H=CpT+gZ :H:乾燥静的エネルギー Cp: 定圧比熱(1004J/K/kg):T: 気温(絶対温度ー摂氏温度プラス273)  g:重力加速度:9.8m/sec/sec  Z:高度 m 計算例:地上気温が30度で1km上空の気温が24度の場合のそれぞれのHは、 H(地上)=1004*303=304212J/kg H(1km)=1004*297+9.8*1000=298188+9800=307988/kg  ΔH=H(1km)- H(地上)=307988-304212=3776J/kg

空気を上昇させるために必用なエネルギー量 H=CpT+gZ :H:乾燥静的エネルギー  ΔH=H(1km)- H(地上)=3776J/kg=920cal/kg この数値の意味:1kgの空気を1km上空まで持ち上げるのには3776J(920cal)エネルギーが必要であるということ。1kgの空気とはほぼ1m3の空気と考えて差し支えない(空気の密度はおおむね1kg/m3である) ちなみに1calとは、1gの水を1度あげるために必用なエネルギー。

まとめ 気温減率が、乾燥断熱減率程度の時は、空気は簡単に上昇する。それは地上付近の気温が高温で上空の気温が低温の時におこりやすい。日射が強いときで、上空に寒気が来ているときがその条件を満たす。 空気の湿度が高いときほど、持ち上げ凝結高度(雲のできる高さ)が低い。つまり雲が発生しやすい。