<与えられたテーマ> 医療経済学は役に立っているのか? ~医療保険、保健事業について~ ↓ 日本の医療経済学は、なぜ 役に立っていないのか?

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 経済学-第 12 回 年金① 2008 年 6 月 27 日. 2 社会保険における年金 日本の公的年金制度  現行の制度体系  負担と給付の現状 (1) 保険料 ( 率 ) (2) 国庫負担 (3) 給付額 (4) 支給開始年齢.
Advertisements

第 13 章 制度設定の変更が必要な 社会保障制度. 社会保障制度の重要性と それに対する根強い不安感 不景気の一因 不景気の一因 1997 年以降 かつてない不況 原因 ① 消費税率の引き上げ 原因 ① 消費税率の引き上げ ② タイや韓国を中心とした アジアの通 貨危機 アジアの通 貨危機 ③ 山一證券の経営破綻に代表さ.
公共経済学 13. 社会保険( Social Insurance ) 保険市場における政府の役割 情報の非対称性( asymmetry of information ) ⇒ 逆選択( adverse selection )
第7章 高齢者がいきいきと安心して 暮らせる社会の実現 前田唯衣. 介護保険制度運用 介護保険制度の創設( 2000 年 4 月) 介護保険制度の創設( 2000 年 4 月)  持続可能な制度の構築  認知症高齢者や一人暮らし高齢者への 対応  2005 年介護保険法改正.
平成22年度収支決算 (平成23年7月25日) 日本合成化学健康保険組合 <一般勘定> ・収入 922百万円 ・支出 794百万円 収支差額 128百万円 経常収支 123百万円(対予算 +102 、対前年 +257 ) <介護勘定> ・収入 80百万円 ・支出 62百万円 収支差額 18百万円(対予算.
公的年金 (3) 公共政策論 II No.9 麻生良文. 公的年金制度改革 公的年金バランスシートと通時的予算制 約 年金純債務と暗黙の租税 年金制度改革をめぐる誤解 – 積立方式の優位性 – 「二重の負担」 – 財源調達:税と社会保険料の最適な配分? – 賦課方式も積立方式も output をどう分配する.
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一  41 歳 東北大学大学院出身(行動科学専攻分野)  1997 年 10 月 立教大学社会学部に着任  専門分野 政治社会学、計量社会学、社会階層と社会意識  趣味 ドライブ、スキー、水泳、パソコンいじり.
2005/2/23 長野県経営者協会 1 これからの税財政・社会保障 と 企業の対応 2005 年 2 月 23 日 日本経団連 藤原清明.
1 財政-第 22 講 6. 社会保障財政 (3) 2008 年 6 月 24 日 第 2 限. 2 公的年金③  今後の課題-公的年金制度全般に関して-  将来の給付水準見通し  厚生年金と共済年金の一元化  社会保険方式から税方式への移行  制度上の問題点  未納・未加入問題.
1 経済学-第 13 回 年金② 2008 年 7 月 4 日. 2 日本の公的年金制度 ( 続 )  今後の課題-公的年金制度全般に関して-  将来の給付水準見通し  社会保険方式から税方式への移行  制度上の問題点  国民年金保険料未納問題.
経済の仕組みと経済学. 経済学とは 「経世済民」経済 世の中を治め、民の苦しみを救うこと 人々が幸せに暮らすためのしくみでありその活動 = 経済学とは: 「希少な資源を競合する目的のために, 選択・配分 を考える学問」 2.
1 経済学-第 14 回 年金③ 2008 年 7 月 11 日. 2 日本の公的年金制度 ( 続 )  制度上の問題点 ( 続 )  国民年金第 3 号被保険者問題  離婚のリスクと年金分割.
厚生白書 各国の社会保障制度 ~スウェーデン・イギリス・アメ リカ~ 971221 波多野宏美. スウェーデン v 所得保障(年金制度) – 国民基礎年金(FP) 65 歳に達したすべての国民に定額の年金を支給65 歳に達したすべての国民に定額の年金を支給 – 国民付加年金(ATP) 従前の所得(稼得所得の高い.
1 経済学-第 9 回 医療保険① 2008 年 6 月 6 日. 2 日本の公的医療保険  制度の目的  制度体系  給付と負担.
少子高齢化 高橋香央里 加藤裕子 松本結 海老澤優.
急病になって救急車を呼んだら 日本では 救急隊が病院をみつけて運んでくれる 病院ではすぐに診てくれる 受ける医療は差別なく平等
~国民経済的な視点から見た社会保障~ 2000/6/14 木下 良太

ドイツの開業医定員制 このスライドは未発表です。日本では医師の偏在が問題になっていますが、ドイツでは定員制による開業制限があるので偏在を生じません。日本では参考にならないと思いますが、興味がありましたらこのスライドをご利用ください 東京医科歯科大学名誉教授 岡嶋道夫 岡嶋道夫.
インターネット利用と学生の学力  中島 一貴  三国 広希  類家 翼.
医療型入所施設(療養介護、重症心身障害児施設等)の費用負担
ノーマライゼーションかしわプラン策定に向けた基礎調査について
居宅介護支援事業所.
第6章 税金と財政の あり方を考える.
桑 名 市    市議会定例会[6月] 提出議案の概要について.
社会保障論講義 5章「社会保障制度の積立方式への移行」医療、介護編
年金・定年引き上げの是非 否定派 棚倉 彩香 林 和輝 西山 夏穂 水田 大介.
代行機関への健診等費用 の請求について 平成19年10月 社会保険診療報酬支払基金.
経済学特殊講義(医療経済学) ―医療経済学の理論を学ぶ―
平成18年10月1日から 療養病床に入院する高齢者の 入院時の食費の負担額が変わり、 新たに居住費(光熱水費)の 負担が追加されます
6 需要、供給、および政府の政策.
介護ビジネス中国における市場 ー 日本と比較して
企業年金を取り巻く企業・労働者の行動と公共政策のあり方
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 3 支援体制整備④ 資源開拓・創出方法
大阪府高齢者保健福祉計画推進審議会専門部会 委員候補(案)
国保制度改革後の国保財政イメージ 国 大阪府 市町村 一般会計 国保特別会計 一般会計 国保特別会計 一般会計 支払基金 国保連 被保険者
プロジェクトの選択基準 と CBAの役割と限界
第1回家計班 これからの日本の経済成長は 可能であるか
資料2 介護保険制度改革の方向.
プロジェクトの選択基準 と CBAの役割と限界
経済情報入門Ⅱ(三井) 公共事業と社会保障.
政策争点分析プロジェクト 2008年1月13日 G-SEC.
柿原論文へのコメント 東京学芸大学教育学部 鈴木 亘.
お金を使う ①お金はどこからやってくる?.
介護保険財政運営の 今後のあり方について 学習院大学経済学部 鈴木 亘.
特定健診・特定保健指導と 医師会の役割    平成18年12月20日 日本医師会常任理事        内田健夫.
県 1 国保制度改革の概要 国保制度改革の概要(運営の在り方の見直し) 安定的な財政運営等に中心的役割を担う 【現行】 市町村が個別に運営
都道府県も国民健康保険制度を担うことになりました
介護保険請求 居宅療養管理指導費の請求方法
大阪府健康づくり推進条例の概要について (1) 条例制定の背景・必要性 (3) 条例案の概要 (2) 条例制定のポイント
勤務医の労働環境改善と ドクターフィーについて
医療的ケアとは.
慢性期医療の視点から 読売新聞東京本社社会保障部 阿部文彦.
小山健太(総合政策学部4年) 松本健太郎(総合政策学部4年)
財政-第26講 6.社会保障財政(7) 2008年7月8日 第2限.
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 2 計画作成③ 重症心身障害児者等の ニーズ把握事例 ~久留米市のコーディネートの現状~
医師のキャリアパスの観点からみた 医師養成数の考え方
我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
財政-第25講 6.社会保障財政(6) 2008年7月8日 第1限.
レセプトに関連する動向1 レセプトにまつわるトピック 労災レセプト 高齢者の一部負担金問題
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
全国介護保険担当部(局)長会議資料 ~介護保険制度改正の検討状況等について~
各施設の悩みなど 西関東グループ.
地域における医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度(医療機器に係る特別償却の拡充・見直し)
自殺対策基本法(振り返り) 資料4 基本理念(第2条)
NP学会病院(施設名) 国際 太郎(氏名) 本演題の発表に際して筆頭著者に開示すべきCOIはありません.
新医師確保総合対策のポイント 【医師数に関する全体状況】 【 対 策 】 短期的対応 19年度概算要求への反映
ヘルスケアデータ調査:調査するデータカテゴリー
目 次 第1章 大阪府保健医療計画について 1.医療計画とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
~「依存症対策のあり方について(提言)」(平成29年3月)と府の対応~
Presentation transcript:

<与えられたテーマ> 医療経済学は役に立っているのか? ~医療保険、保健事業について~ ↓ 日本の医療経済学は、なぜ 役に立っていないのか? <与えられたテーマ> 医療経済学は役に立っているのか? ~医療保険、保健事業について~ ↓ 日本の医療経済学は、なぜ 役に立っていないのか? 学習院大学経済学部教授 鈴木 亘

日本の医療経済学者の主要な分析・主張とその結果 <規範的経済学からの主張例> ①医療保険・介護保険の積立方式化、高齢化に備えた積立勘定・基金を作る、MSA導入 →× ②リスク構造調整方式の導入、年齢で区切る独立保険への反対(賛否両論あり) ③保険者機能の強化、管理競争の導入(賛否両論あり)

④支払い包括化、IT化を活用した診療の標準化 →△~一部○ ⑤保険への広範な税投入を止め、低所得者への補助に純化(賛否両論あり) →×~△ ④軽費医療費の免責制、終末期医療の適用除外、高齢者医療・介護の自己負担増(賛否両論あり) →×~△、一部○ ⑥混合診療・混合介護の完全解禁(賛否両論あり)

⑦医療法人改革、社会福祉法人改革、医療や施設介護への株式会社参入(賛否両論あり) →×~△、一部○ ⑧病床規制、介護施設総量規制の撤廃(賛否両論あり) →× ⑨家庭医(総合医)によるゲート・キーパー機能の強化(賛否両論あり) →×~△ ⑩病院勤務医と開業医間の収入格差の解消、不足する病院診療科への診療報酬大幅引上げ →△

<実証的経済学からの分析例> ①医療需要の価格弾力性の計測 →×(厚労省は相変わらず長瀬式) ②喫煙行動やダイエット、飲酒行動の価格弾力性、行動経済学的知見 →×~△(結果的にたばこ税引上げ。しかし、Sin taxの観点はゼロ) ③介護労働の価格弾力性 →△(結果的には介護報酬に反映。だが、分析を元にしてはいない)

④各種保健事業の評価、特定健診・特定保健指導の政策効果の評価(午後報告(B-7))等 →×、△(事業見直し、推進にほぼ影響せず) ⑤医療制度改革の効果評価(財政の持続可能性の評価、医師誘発需要による巻き戻し)、介護制度改革の評価(社会的入院は解消せず、家族負担感改善も問題あり、労働力増はあまり起きず) →× ⑥予防行動は医療費を減少させないとする一連の研究 →×(医療費減を前提に政策立案) ⑦健康と所得格差、社会的資本の関係

政策的影響を及ぼさない理由は何か→A1: 需要が無いから ①(会長講演で紹介された改革が進んだにせよ)そもそもエビデンス・ベースの科学的アプローチとは無縁の「政治過程、政治力学」で医療政策が決定されている。 ・医療経済学者の分析が反映されたかに見える施策も、実は、財政的(財政当局の)プレッシャーがあって採用されたものであり、研究結果が参考にされたわけではない。

②「定量的な」政策評価を行い、それを反映した施策見直し、改革を行うという観点が欠如。やりっぱなしで、直ぐ次の事業に。 ・定性的なものはあるが、厳密な定量的な評価、対費用効果分析は、政策責任を伴うことになるので、避けようとするのではないか。 ・また、一つの事業の評価が行われる前に、次の事業が始まり、予算付けされるといった傾向がある。

③厳密な政策評価を行う為のインフラであるデータの未整備、既存データの重要性に対する認識の欠如 ナショナルデータベースで改善がみこまれるものの、医療と介護レセプトが連携できない、後期高齢者と接続ができない、全国の国保連データが2年保存で失われている現実 2011年提案型政策仕分におけるエピソード(病院等における必要医師数実態調査 2010年)

A2. 供給も失われつつある ①若手の医療経済学者が、政策現場の問題意識や政策研究のアイディアを磨く場が失われつつある(厚労省審議会、検討会、規制改革会議等への若手参入が少ない。政策現場と研究者をつなぐ接点が少ない。社人研等の各種研究所のリサーチレジデント事業の廃止等)。 ②医療経済学への参入自体も極めて乏しい(既に35歳未満の医療経済学者はほぼゼロ。第一世代の研究者の高齢化、退職とともに、人材を育てる大学院に医療経済学者が不足)。

→ではどうすればよいのか。シンポジウムの討論で。 ③若手や政府に批判的な研究者が、データを入手して分析することが、まだまだ極めて困難。各県のレセプト、福井県プロジェクトのエピソード。やもっとも、統計法改正とNDBで今後は改善するか。しかし、ノウハウの蓄積と普及は容易ではない。 →ではどうすればよいのか。シンポジウムの討論で。