せん妄の問題点 ●痛みなど症状評価ができない ●危険行動による事故・自殺 ●家族とのコミュニケーションの妨げ、家族のストレス 1 せん妄の問題点 ●痛みなど症状評価ができない ●危険行動による事故・自殺 ●家族とのコミュニケーションの妨げ、家族のストレス ●患者の意思決定と同意の問題 ●医療スタッフの疲弊 ●入院期間の長期化 Litaker et al., Gen Hosp Psychiatry, 2001 Lawlor et al., Arch Intern Med, 2000 Inouye et al., N Engl J Med, 1999 Bruera et al., JPSM, 1992
せん妄とは 種々の身体疾患・薬剤などによる急性の脳機能不全 せん妄は「意識障害」である 症状: 見当識障害(場所や時間がわからない) 2 せん妄とは 種々の身体疾患・薬剤などによる急性の脳機能不全 せん妄は「意識障害」である 症状: 見当識障害(場所や時間がわからない) 幻覚(誰かがそこにいる : 幻視、声がする : 幻聴) 妄想(殺される : 被害念慮) 焦燥(いらいら) 興奮(ベッドから立ち上がる、点滴の自己抜去) 睡眠覚醒リズムの障害(昼うとうと、夜間は不眠) など様々な精神症状がみられる
米国精神医学会の診断基準 (DSM-IV) 3 せん妄の診断 米国精神医学会の診断基準 (DSM-IV) A. 意識障害が存在 認知の変化(記憶欠損、失見当識など) 知覚障害(幻覚など) 短期間(数時間-数日)のうちに出現 1日のうちで変動 身体疾患、物質(薬剤、アルコール)などの原因がある B. C. D.
医療者のせん妄の認識 せん妄の認識率 対象 新規に入院した70歳以上の患者(N=797) 4 医療者のせん妄の認識 対象 新規に入院した70歳以上の患者(N=797) 方法 看護師によりせん妄の有無を臨床的に評価(隔日) せん妄の認識率 観察総数(N=2721) せん妄あり (N=239) せん妄なし (N=2482) 医療者の評価 せん妄あり せん妄なし 19 % 81 % 4 % 96 % Inouye et al., Arch Intern Med 2001
せん妄の スクリーニング Mini Mental State Examination (MMSE) 30点満点 23 点以下でせん妄 を疑う 5 質 問 内 容 得点 せん妄の スクリーニング 今年は平成何年ですか 1 今の季節は何ですか (5 点) 今日は何曜日ですか 今日は何月何日ですか ここは何県ですか Mini Mental State Examination (MMSE) 2 ここは何市ですか (5 点) ここは何病院ですか ここは何階ですか ここは何地方ですか (例:関東地方) 物品名を3個覚えてもらい 3 直後に被験者に繰り返してもらう (3 点) (正解1個につき1点) 4 100 から順に 7 を引く (5 点) (5 回まで:正解1個につき1点) 30点満点 次の図形を書いてください 11 23 点以下でせん妄 (1 点) を疑う
せん妄の有病率 著者、年 対象 N 有病率 Folstein,1991 810 1% Bitondo,1995 術後せん妄 (文献レビュー) 6 せん妄の有病率 著者、年 対象 N 有病率 Folstein,1991 一般人口 (55歳以上) 810 1% Bitondo,1995 術後せん妄 (文献レビュー) 2797 (26研究) 37% Derogatis,1983 Minagawa,1996 Lawlor,2000 がん(入院・外来) 終末期(死亡前約2ヶ月) 215 93 4% 28% PCU(入院時) (累積罹患率) (死亡6時間前) 104 52 42% 68% 88%
Breitbart, Psycho-oncology, 1998 7 がん患者のせん妄の原因 中枢神経系への直接的侵襲 脳転移、脳炎、髄膜炎 臓器不全による代謝性脳症 肝・腎機能障害、呼吸不全 電解質異常 Ca 、Na、Kの異常 薬剤性 モルヒネ、ステロイド、 抗うつ薬、睡眠薬など 感染症 肺炎など 血液学的異常 貧血 栄養障害 全身性栄養障害(悪液質) 腫瘍随伴症候群 ホルモン産性腫瘍 終末期では多要因であることが多い Breitbart, Psycho-oncology, 1998
8 がん患者のせん妄の原因 対象: せん妄により神経内科(MSKCC)に紹介されたがん患者140名 原因 Definite Probable Possible Contributory 割合(%) 薬剤 感染 臓器不全 脳病変 低酸素 電解質異常 環境 放射線の脳照射 化学療法 手術 64 46 54 36 43 20 11 32 4 1 2 15 8 14 26 43 15 24 25 2 11 12 3 4 16 1 35 7 6 3 4 17 11 32 Tuma et al., Arch Neurol, 2000
せん妄の原因 -進行・終末期がん患者- 対象: 緩和ケア病棟入院後、せん妄が出現したがん患者71名 頻度 原因 可逆性 1 オピオイド 高い 9 せん妄の原因 -進行・終末期がん患者- Lawlor et al., Arch Intern Med, 2000 対象: 緩和ケア病棟入院後、せん妄が出現したがん患者71名 頻度 原因 可逆性 1 オピオイド 高い 2 脱水 高い 3 代謝異常 低い 4 低酸素脳症(呼吸器感染症による) 低い 5 その他の感染症 低い 6 薬剤(オピオイド以外) 高い 7 血液学的異常 8 頭蓋内病変 9 低酸素脳症(肺がん、転移性肺がんによる) 低い 10 アルコール等の離脱 ー ー ー 進行・終末期であっても49%は改善可能であった
終末期せん妄の治療可能性 終末期であってもせん妄の20-49%が回復する 対象数 状況 回復率 Lawlor PG et al 94 10 終末期せん妄の治療可能性 対象数 状況 回復率 Lawlor PG et al Arch Intern Med 2000; 160: 786-794 94 3次PCU 49% Bruera E et al J Pain Symptom Manage 1992; 7: 192-195 66 3次 33% Pereira J et al Cancer 1997; 79: 835-842 87 29% Morita T et al J Pain Symptom Manage 2001; 22: 997-1006 245 2+3次 20% 終末期であってもせん妄の20-49%が回復する
せん妄の治療 A. 医学的管理: 1. 原因の同定と治療 理学的所見、臨床検査、投薬内容の検討 身体的原因の治療、原因薬剤の中止・減薬・変薬 11 せん妄の治療 A. 医学的管理: 1. 原因の同定と治療 理学的所見、臨床検査、投薬内容の検討 身体的原因の治療、原因薬剤の中止・減薬・変薬 2. 行動の危険性評価・安全性確保 危険物の撤去、頻回の訪床など 米国精神医学会治療ガイドライン
進行がんのせん妄の原因の治療可能性 治療可能性が高い:薬物、高カルシウム血症 低い:低酸素、感染症、肝腎不全 Lawlor PG 12 進行がんのせん妄の原因の治療可能性 Lawlor PG 回復のOdds比 Morita T 回復率 薬物 6.7 [1.5-30] 37% 脱水 n.s. <10% 低酸素 0.32 [0.15-0.70] 感染症 0.23 [0.08-0.64] 12% 代謝性 0.46 [0.21-1.02] 高カルシウム血症 38% 他 <10% 治療可能性が高い:薬物、高カルシウム血症 低い:低酸素、感染症、肝腎不全
照明の調整(昼夜のめりはり、夜間の薄明かり) 日付・時間の手がかり(カレンダー、時計を置く) 眼鏡、補聴器の使用 親しみやすい環境を整える 13 B. 環境的・支持的介入: 1. 環境的介入 照明の調整(昼夜のめりはり、夜間の薄明かり) 日付・時間の手がかり(カレンダー、時計を置く) 眼鏡、補聴器の使用 親しみやすい環境を整える (家族の面会、自宅で使用していたものを置く) 2. オリエンテーションを繰り返しつける (場所、日付や時間、起きている状況について患者自身が 思い出せるよう手助けをする) 3. 家族への適切な説明 (病態の説明、親しみやすい環境作りをすすめる) 米国精神医学会治療ガイドライン
C. 身体的介入:薬物療法 ● メジャートランキライザー(第一選択):投与前に心電図の確認 14 C. 身体的介入:薬物療法 ● メジャートランキライザー(第一選択):投与前に心電図の確認 1.意識を低下させずに、幻覚、妄想、興奮などを抑える 2.ハロペリドールが循環・呼吸機能に及ぼす影響が比較的少ないので有用 3.治療初日に、少量頻回投与で一日必要量、効果を推定 4.計2-3A使用しても症状の改善がみられない場合は、鎮静の強い クロルプロマジンに変更(血圧低下に注意) 5.リスペリドン、クエチアピン、オランザピンも有用 ● 睡眠剤 (フルニトラゼパム、ミダゾラムなど) 原則的に緊急避難的な使用等に限る(安易に使用しない)
まとめ せん妄は様々な精神症状を随伴した意識障害である さまざまな薬物、身体状態が原因となる 治療は、 A.原因の同定とその治療 15 まとめ せん妄は様々な精神症状を随伴した意識障害である さまざまな薬物、身体状態が原因となる 治療は、 A.原因の同定とその治療 B.環境的・支持的介入 C.薬物療法 第一選択薬剤: メジャートランキライザー 早期発見・治療が重要