メディア社会文化論(第2回) 20154年10月08日
2.マクルーハンのメディア論とそこから発展させた議論 2.1 マーシャル・マクルーハンの略歴 マクルーハン(1911-1980)「カナダの社会学者・文明批評家。「メディアはメッセージである」とするメディア論を展開。著「グーテンベルグの銀河系」「メディアの理解」など」(広辞苑) 主著 『グーテンベルグの銀河系』(1962)邦訳みすず書房 『メディア論(人間拡張の原理)』(1964)邦訳みすず書房 多分、歴史上最も著名で、批判も賛美も含め(毛嫌いする人も多い)最も言及されるメディア論の学者
Marshall McLuhan 左http://jackiebreckenridge. wordpress
マクルーハンの代表的著作の邦訳書 http://ecx. images-amazon. com/images/I/51T62KnzDjL マクルーハンの代表的著作の邦訳書 http://ecx.images-amazon.com/images/I/51T62KnzDjL._SL500_AA240_.jpg及び http://ec3.images-amazon.com/images/I/61AjAEwz0rL._SS500_.jpgより
Marshall McLuhan (みすず書房のウェブによる略歴http://www. msz. co 1911年、カナダのアルバータ州エドモントンに生れる。マニトバ大学で機械工学と文学を学んだ後、英国ケンブリッジ大学のトリニティー・カレッジに留学。F.R.リーヴィス(大衆文化、マルクス主義に対抗したエリート文化を擁護した文芸批評家、ミルトン、シェークスピアの重視)、I.A.リチャーズ(実践批評を唱える)を識る。帰米後1937年、カトリックに改宗、1942年、エリザベス朝の詩人トーマス・ナッシュについての論文で博士号を取得。アメリカのウィスコンシン大学やセントルイス大学をはじめ諸大学で教鞭をとり、1946年にカナダのトロント大学教授となる。「スワニー・レビュー」や「ケニヨン・レビュー」などの諸雑誌に、数多くの文学研究論文を発表。1951年に最初のメディア論『機械の花嫁』を刊行し、この分野での独創的な研究に手を染める。 1962年、西欧文化における活版印刷の影響を扱った大著『グーテンベルクの銀河系』を、ついで1964年に『メディア論』を刊行し、現代文明論・メディア論の先駆者となる。1980年トロントの自宅で死去。
2.2 マクルーハンの 思想的バックグラウンド等 2.2 マクルーハンの 思想的バックグラウンド等 ①カナダ人であること ②元々は英文学者(エリザベス朝の文学研究) ③ 元来、テレビや若者文化が理解できなかった(それらの擁護者として名を売った、以前) ④ プロテスタントからカトリックに改宗 ⑤著名なメディア論者オングやイニスからの影響 ⑥晩年、自己批判の書物を書く。
①カナダ人であること カナダ 1)メディアリテラシー教育の最も盛んな国 隣の大国アメリカの商業主義の影響を嫌う 2)アメリカよりもリベラルな政治文化風土(反戦、国民皆医療制度) 3)英語圏(プロテスタント)と仏語圏(カトリック)双方を抱える国(国民の 59.7%が英語・23.2%が仏語を母語に)
②元々は英文学者(1) (エリザベス朝の文学研究) トーマス・ナッシュ(1567-1601)と共にジョン・ダン(1572-1631)などの形而上詩人やシェイクスピアのソネットを研究 (ダンの肖像はwikipedia日本版より) ダン「イギリスの形而上派 の代表的詩人・神学者。逆説 と奇想に満ちた恋愛詩と宗教 詩はマニエリスム文学の極致 とされる・・・」(広辞苑)
(参考)ナッシュの説明https://kotobank (参考)ナッシュの説明https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%89%8D%E4%BA%BA%E6%B4%BE-1560464 大学才人派 1580~1590年代前半、オックスフォード、ケンブリッジいずれかの大学出身者でロンドンを舞台に活躍した文学者グループの呼称。ジョン・リリー、ジョージ・ピール、ロバート・グリーン、トマス・ナッシュ、トマス・ロッジ、クリストファ・マーローらが主要メンバーで、当時次々と建つ劇場に、セネカ風悲劇、ロマンス風喜劇、歴史劇など多様な戯曲を提供、また散文物語なども数多く出版した。グループとしてとくに主張を掲げてはいないが、古典文学の教養を当時民衆の娯楽とされた演劇に導入した功績は大きい。その放縦(ほうじゅう)な生活ぶりや、大学に行かなかったシェークスピアに対抗意識を燃やしたことでも知られる。
②元々は英文学者(2) ダンら形而上詩人を再評価したのがT.S.エリオット(1888-1965) http://nobelprize.org/nobel_prizes/literature/laureates/1948/eliot-bio.html
②元々は英文学者(3) エリオット「イギリスの詩人・批評家。アメリカ生れ。宗教と伝統を重んじる。・・・詩「荒地」「四つの四重奏」、詩劇「寺院の殺人」、批評集「伝統と個人的才能」など。ノーベル賞。(1888-1965)」(広辞苑) ミュージカル『キャッツ』の原作者でもある。 マクルーハンはエリオットの詩もよく引用する。 エリオットはアメリカからイギリスに帰化し、プロテスタントからアングリカンチャーチに改宗
②元々は英文学者(4) メディアの歴史的展望は、文学史研究の一環として確かなもの。 しかし近未来への展望は、思いつきに過ぎない面もあり、という批判は多く受ける。(広辞苑で社会学者とまず表示されるが、社会科学の専門的訓練は受けていない) もっともそこが評価の高いところでもある。
③元来、テレビや若者文化が 理解できなかった アメリカのウィスコンシン大の若手教員時代 「若者文化、テレビ文化理解不能」と。 それらを批判する論文を多く書く。 →マスコミがそれらの擁護者のようにマクルーハンを祭り上げる →若者文化、テレビ文化の擁護者に自己規定 (ミイラ取りがミイラに)
④プロテスタントからカトリックに改宗 1937年改宗 マクルーハンの活字文化批判にはプロテスタント批判の側面が強いといわれる・・・濱野保樹 エリオットのプロテスタントからアングリカンチャーチへの改宗に対応 マクルーハンの着想にヒントを与えたとされる著名な弟子のオングはカトリック神父
⑤オングやイニスの影響 オング(1) オングWalter Jackson Ong(1912-2003) 「オング神父は米国のイエズス会の宣教師にして、英文学と文化史、宗教史並びに哲学の教授である」 (http://en.wikipedia.org/wiki/Walter_J._Ongより意訳) 「彼はミズーリ州カンサスシティに、プロテスタントの父とローマ・カトリックの母の間の子供として、生をうけた」
オング(2) 「大学卒業後、印刷出版の仕事に携わり、その後1935年イエズス会に入り、46年司祭に叙任される」 「1941年にセントルイス大学に提出した彼の修士論文は、若きマーシャル・マクルーハンの指導を受けた」 →いわば英文学者マクルーハンの正規の教え子であり修道士であった(37-44年マクルーハンはセントルイス大の教員)
オング(3)http://en.wikipedia.org/wiki/File:Walter-ong.jpg
オング(4) オングとの相互引照(師弟が 本質的でないところで相互に言及し合っている) 「ラメ(ラムス)の研究はなかなかなされなかったが、幸いウォルター・オングがついに内容の濃い研究を発表してくれたのである」(マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』邦訳p.221) オング『声の文化と文字の文化』(藤原書店)(1982→1991) (図情図書館801-O65) オングはマクルーハンの「地球村」にも言及する(邦訳 p.280)
⑤オングやイニスの影響 イニス(1) ハロルド・イニス(Harold Adams Innis、1894年11月5日-1952年11月8日)は、カナダの経済学者、社会学者。専門は、経済史、メディア論。 マックマスター大学卒業後、1920年、シカゴ大学で博士号取得。それ以降、トロント大学で教鞭をとる。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%8B%E3%82%B9 代表作『コミュニケーションのバイアス』1951(邦題『メディアの文明史』(新曜社))(図情図書館361.45/I-54)
イニス(2)http://en. wikipedia イニス(2)http://en.wikipedia.org/wiki/File:Harold_Innis_public-domain_library_archives-canada.jpgから
イニス(3) イニス・・・トロント大のマクルーハンの年長の同僚 代表作の著名な『コミュニケーションのバイアス』の影響を、マクルーハンは受ける。 もっとも同書の「序文」はマクルーハンが書いている。 「彼の競争者のマクルーハン同様、イニスはメディアについて深く省察したことで知られている」http://fr.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより意訳
イニス(4) 「イニスの同僚にして知性面での弟子でもあるマーシャル・マクルーハンはイニスが夭逝したことを人間知性の災害的な損失と痛く悲しんだ」 http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより直訳 「イニスはトロント大学経済学部長として、英米の大学出身の、カナダの歴史や文化を知らない人物にあまり頼らなくて済むよう、カナダの研究者の幹部を作ることに奔走した」 http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより大意
→要するに、大学の親しい先輩同僚と教え子双方が、メディア論のマクルーハンに継ぐくらいの世界的権威 学的環境に恵まれていた
⑥晩年、自己批判の書物を書く 彼の有名な「地球村」などの発想を自己批判する著作を晩年に記す。 しかし仏語 紹介されず(濱野保樹による) →大活躍した1950-1960年代のマクルーハンの文章のみがもて囃される
2.3「メディアはメッセージである」①・・・メディア概念の重層性の議論 「メディアはメッセージである」・・・マクルーハンの最も有名な言葉 メディア・・・外側・乗り物、 メッセージ・・・内側・乗せられる物、情報 →「外側は内側で(も)ある」?? 「乗り物は乗せられる物で(も)ある」??
「メディアはメッセージである」② メディアと情報の区分を相対化ないしは無効化 本講義のスライドの前の方での議論と同様。 実体ではなく機能で分ける(中井正一の発想に近い)
「メディアはメッセージである」③ 具体的局面で考えると ラブレターを藁半紙のような再生紙にワープロで印字して渡しても、効果があるか? 情報は無色透明、中立であるか否か 同じ発言でも誰が言うかで、捉えられ方は異なる。 真理性よりも真実性
「メディアはメッセージである」④ 【マクルーハン以前の普通の考え方】 情報と媒体の二元論・・・情報(メッセージ)と媒体(メディア、乗り物)とは、別個のもの、全く切り離されたものという考え方 【マクルーハンの考え方】 メッセージ性のない、無色透明な媒体そのものというものはない。媒体そのものが何であるかということ自体にメッセージ性がある。情報媒体それ自体が情報を発信している。
「メディアはメッセージである」④ 「メディアはメッセージである」・・・メディア概念が無限に広がる →メディア概念の重層性(吉見俊哉)
メディア概念の重層性① メッセージ1VSメディア1 (より小さい単位) ↓ 〔メッセージ2VSメディア2〕(少し大きい単位) ↓ 【〔メッセージ3〕VSメディア3】 ↓ 【メッセージ4】VSメディア4 (より大きい単位)
メディア概念の重層性② 含まれるものと含むものと関係が無限に連鎖する。 「電気の光というのは純粋なインフォメーションである.それがなにか宣伝文句や名前を描き出すのに使われないかぎり,いわば,メッセージをもたないメディアである.この事実はすべてのメディアの特徴であるけれども,その意味するところは,どんなメディアでもその『内容』はつねに別のメディアである,ということだ」(McLuhan 1964=1987 8)
メディア概念の重層性③ メディアと内容とは,関係性のなかで把握される メディアは実体的にメディアであるわけではない。内容も固定的に内容であるのでもない 関係性のなかで相対化される.
メディア概念の重層性④ 「書きことばの内容は話しことばであり,印刷されたことばの内容は書かれたことばであり,印刷は電信の内容である.もし『話しことばの内容はなにか』と問われたら,『実際の思考のプロセスで,それ自体は非言語的なもの』ということにならざるをえない」(McLuhan 1964=1987 8) このマクルーハンの議論を延長すると・・・
メディア概念の重層性⑤ 「印刷は電信の内容である」(上記の引用)→ 《印刷は電信,出版物,新聞といったメディアの内容である》.さらにこれを拡張する.《電信,出版物,新聞は,電話線・電話会社,出版社,新聞社といったメディアの送信される内容である》.さらに《出版物,新聞は図書館というメディアの選別される内容である》.
(参考)メディア概念の重層性のモデル図にマクルーハンの文章を当てはめる (ひらめき(メッセージ1)VS脳神経(メディア1)) ↓ 〔話し言葉(メッセージ2)VS書かれた言葉(メディア2)〕 ↓ 【書かれた言葉〔メッセージ3〕VS印刷された言葉(メディア3)】 ↓ 印刷された言葉【メッセージ4】VS電気通信(メディア4)
(参考)マクルーハンの議論を少し展開させると・・・ 閃き(メッセージ1)VS脳神経(メディア1) ↓ 〔考え・脳内の文章(メッセージ2)VS言語(メディア2)〕 ↓ 【発言・会話〔メッセージ3〕VS音声(メディア3)】 ↓ 書かれた文章【メッセージ4】VS紙・文字(メディア4)
メディアとメッセージの組み合わせが、脳から感覚器官まで通じている (参考)この図の意味するところ メディアとメッセージの組み合わせが、脳から感覚器官まで通じている
メディア概念の重層性⑥ この捉え方のメリット スライド25の以下の矛盾も解消に ①資料⊆メディア(後述) ②資料=メディア 記録されざるメディア(媒体材料)、資料、 マスメディアまでを統合的に見られる
脳中枢なり送り手の脳、受け手の脳を実体視せずに、関係性、相対的に捉える見方に 人間拡張の原理、感覚器官の延長としてのメディアを捉えうる発想 形態書誌学やわら半紙のラブレター、話し手による説得力の違いなどをきちんと説明できる